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【01Night】「CVCは財務的リターンも追求すべきか?日本のCVCに足りない視点」【イベントレポート】

こんにちは!01Boosterにインターンとしてこの春からジョインした、王 翔一朗(わん しょういちろう)です!

今回は4月22日 に開催された01Night 「CVCは財務リターンも追及すべきか?日本のCVCに足りない視点」のイベントレポートをお届けします。

ゲストに【Salesforce Ventures】 細村拓也さんをお迎えし、
聞き手は【01Booster】ディレクターの川島健でお送りします!

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細村 拓也さん【Salesforce Ventures】
2020年、Salesforce Venturesにジョイン。
それまでは住友商事にて自動車部門、事業投資・開発部門から楽天にてマーケティング、CVC部門を経験。楽天では海外のベンチャー投資と国内のFinTech領域に投資。

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01booster ディレクター 川島 健
2017年、01Boosterにジョイン。アクセラレータープログラムのマネジメント、海外のアクセラレーターとの連携を推進。2018年アジアのVC・アクセラレーターのコミュニティである”Across Asia Alliance”立ち上げ。 (noteはこちら

1.細村さんのキャリア

>細村さん
私が転職する際に意識していたのは、「自分に何が足りていないか」でした。
住友商事ではCFOの業務を中心に担っていましたが、現場で「マーケティングをどう組むか」というトップラインのあげ方を学ぶ必要があると痛感し、インターネット×マーケティングの楽天に転職しました。

CVCとしての経験はここ4年間、住友商事時代の事業開発も含めてベンチャー投資は15社ほど経験していて、内容としては海外の方が多いです。
楽天時代にもM&Aを一社経験し、住友商事時代に買収しその後のPMIとしてスウェーデンに駐在していた時期もあり、その事業会社の売却にも携わりました。

私の座右の銘は京セラの稲盛氏の「人生と仕事の結果=考え方×熱意×能力」で、考え方だけは絶対に誠実にと心がけています。

2.セールスフォース・ドットコムについて

>細村さん
セールスフォース・ドットコムは2000年に設立、現在は世界でCRM(Customer Relationship Management)、SaaSのリーダー的存在です。

実際には、CRM領域のアプリケーションを複数持っています。例えば、

・営業支援領域 SFA
・コールセンターの効率化
・マーケティングオートメーション
・コマース

といった領域で、プロダクトにお客様が利用しやすい形で先進技術を取り入れています。

セールスフォース・ドットコムは営業支援のソフトウェアを作るというところから始まりましたが、開発・買収を重ね複数のプロダクトを持つようになり、現在ではCRM領域中心のSaaSのエコシステムを形成しています。

3.Salesforce Venturesについて

Salesforce VenturesB2B, SaaSのベンチャーに特化した投資部門です。
現在では北米、欧州、日本・韓国、そしてオセアニアの4拠点を中心に、22カ国400社に投資先をもっています。

私たちはセールスフォース・ドットコムのプロダクトと連携ができるようなスタートアップを選び、その成長を支援しています。SaaSは継続課金型のビジネスであり、経営の仕方が特徴的、かつグローバルで理論が確立している領域です。私たちはその最先端の企業としてノウハウをメンタリングしています。

Salesforce Venturesで早めに投資し、セールスフォース・ドットコムで買収する、というケースもあります。投資領域として、

・System Integrator
→セールスフォース・ドットコムの認定エンジニアを抱えるSIer
・Platform ISV
→セールスフォース・ドットコムのプラットフォーム上でプロダクトを作っているスタートアップ
・Strategic ISV
セールスフォース・ドットコムの製品と連携ができそうな、B2BのSaaSの会社

の三つの領域を明確に持って、活動しています。

>川島さん
お話を聴いていて、面白いと思ったのはCVCでありながらトラックレコード(実績)がしっかりと出ているところです。グローバル、日本問わず投資先からIPOが出ていて、Top10の内7社に投資されています。

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どうしてこれができるのでしょうか?CVCでありながら、その活動はVCに近いのでしょうか?

>細村さん
私たちの考え方は、

・CVCは、自社とのシナジー=コアを強化・補強
・M&Aは自社にない新規事業を買う
・PMIは買った新規事業を会社に統合する

という三つが基礎となっています。
組織的な仕組みとして、

・CVC(SFV)スタートアップから資金調達の相談を受ける。
・Salesforceとの連携が良い場合、Partner Allianceに回す。
彼らは「スタートアップのプロダクトをセールスフォース・ドットコムのプロダクトに連携させる」というミッションを持つ。
Account Sales(フロント営業)がお客様にプロダクトを届ける。
その際にいただいた要望から、連携可能なプロダクトを紹介する。

という流れがあります。

先ほど挙げたPartner Allianceは、「SaaSの中でAPIの連携をしながら、エコシステムを広げていく」という考え方に基づいていて、この考え方はセールスフォース・ドットコム以外の企業にも広がっています。

4.細村さんが考える、オープンイノベーションにおけるCVCの立ち位置

>川島さん
M&A、PMI、CVCの役割の定義がしっかり分かれていることが強みだと思いますが、オープンイノベーションの多様な手段の中で、CVCという機能をなぜそこに位置づけているのでしょうか。

>細村さん
CVCはトライアンドエラーで、やると決めたらやるしかないと思います。
私は楽天時代にもCVC部門にいましたが、楽天は小さくベンチャー投資を始めました。その時に明確な絵が描けていたわけではなく、純粋にベンチャー投資して財務リターンが得られたらいいよね、という考えでした。

セールスフォース・ドットコムの場合は、もともとはプロダクトのエコシステムを拡大していくことを目的として、ユーザーに自分たちが作っているプロダクト以外の機能も提供していくにはどういう方法があるのか、と考えた結果だと思います。

>川島さん
CVCやコーポレートアクセラレーターなど、さまざまなアライアンスにつながるような手段を持っている会社もいると思います。
そういった前提の中で、CVCはどういった立ち回りなのでしょうか?
CVCの強みとは何でしょうか?

>細村さん
オープンイノベーションの方法には正解はないと思っています。

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オープンイノベーションやCVCに取り組む際には、以下のことを重要視するべきです。

何のためにやるのか?(目的)
・何を自前で作るのか/コアビジネスは何か?・何を協業するのか?

これらのことを明確に設定しないと、何も動かなくなってしまいます。
具体的な経験として、楽天時代にいろんな会社に投資し、様々な事業部門に「こういう連携ができるのでは?」と持っていくのですが、よく「自分たちでできる!」といわれてしまいました。

当然大企業なのでリソースも既存ビジネスも、エコシステムも存在しています。ですから、何を自前で作り、何を協業するのか、決めないといけませんし、更には戦略リターンか、財務リターンか、と求めるものは何か?を決めなくてはいけません。

次に、誰がやるのか、も重要です。
CVCをやると決めた場合、スタートアップエコシステムの慣習に従わなくてはいけません。ほかのVCさんにとっても、投資は起業家ファースト・ロングタームコミットが必要です。

一度投資をしたら投資家にとってのEXITまでスタートアップの立場で考え、支援し続ける。不況が来ても投資を引き上げない、等の当たり前の考えをもってCVCを運用するべきです。その覚悟がないならCVC運用をするべきではありません。
その前提に立って、誰が意思決定をするのか、プロセスをどうするのか、考える必要があります。

スタートアップはエクイティファイナンス、つまり基本的には借り入れがなかなかできず、赤字でしばらく経営する場合が多く、一度の調達で1,2年しか生きられないといった時間との戦いの中で、2-3か月間投資の意思決定ができないというのは起業家ファーストではありません。

そのあと案件発掘をどうするのか、投資実行後のバリューアップ支援では自社都合の投資のあと、自社とのアライアンス以外に何か支援出来ることはあるのか、ということを考えなくてはいけません。

最後の部分はCVC運営を決めた場合の話です。スタートアップにアンテナを張りたいという程度ではVCにLP出資するという手段もあると思います。
目的にあった手段を選ぶことが当たり前ですが、なかなかできていないケースが多いように思います。

>川島さん
CVCにおける財務的リターンの追及はどう位置付けているのでしょうか?
CVCをやると決めたら起業家ファーストでなければなりませんが、事業会社ではステークホルダーが多く、「うちとシナジーがあるのか、利益が出せるのか」など様々な意見が入ってくると思います。
必ずしもシナジースタートアップの伸びしろや財務的な部分はきれいに紐づかないことも多いと思いますが、その中でどのように意思決定するべきなのでしょうか?

>細村さん
財務リターンがない場合、特に環境が悪化した場合その組織の存在意義はどうしても問われます。財務リターンを無視できるほどの戦略リターンに関するアラインが経営陣とないと難しいです。

Salesforce Venturesの場合は、財務リターン戦略リターンの双方を取っています。SansanさんもIPOされ、財務リターンも出ていますし、SFAのプロダクトとも連携し、セールスフォース・ドットコムの顧客に売りそこから収益も上がっています。freeeさんも同様です。

Sansan×Salesforce AppExchangeの事例

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freee×Salesforce AppExchangeの事例

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戦略リターン、財務リターンの両方を追うことが理想の形です。

5.Salesforce VenturesのCVCに対する具体的な考え方

>視聴者さん
プロダクトがあまりできていない状態だが、将来的にSalesforceとデータ連携の部分でシナジーがあると思われるシードのスタートアップの場合、投資の意思決定はどうしていますか?

>細村さん
ミニマムな投資基準をいくつか持っています。
財務リターンを求めるにはやはりよい会社に投資をする必要があります。
定量的にはMRR(Monthly Recurring Revenue)500万円を超えているか、が重要です。
ほかにも投資基準としてSalesforceのプロダクトの連携可能性、既存のプロダクトや投資している企業のプロダクトとバッティングしないか等を持っています。

>視聴者さん
投資の際、細村さんはキャピタリストとしてどこを重視しているのでしょうか?
事業シナジーはどこまで具体、定量化できるのでしょうか?

>細村さん
投資の判断基準はよく言われるところを気にしていますが、特にTAM(そのプロダクトがどれだけのマーケットをとれるのか?)を見ています。

ステージが早めの投資をしているので、SaaSのお客さんにとって、ROI(Return on investment)が可視化されそうなのかを重要視しています。
導入される企業様はコストがどの程度下がり、レベニューがインクリメンタルに増加し、それに対してSaaSにいくら支払うのかという経済計算は当然されます。

6.CVC運営で大切なこと

>川島さん
日系企業と米国企業を経験した中で、CVCやスタートアップの協業活動のなかで違うハードルがあると思いますが、日本のCVCはこうしたほうが良い、という応援コメントをいただきたいです。

>細村さん
日本のCVCだからこう、というのはありませんが、一番大切なのは「自社都合をスタートアップに押し付けない」ということです。

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「スタートアップ目線」の重要さを熱く語る細村さん

自社都合を押し付けるのであればCVCはやらないほうが良い、起業家に寄り添うことを大前提に考えましょう。
KDDIの事例は新規事業を作ると割り切っていて、非常に参考になります。

>視聴者さん
日産などはCVCからの撤退を宣言していますが、コロナの前と後でSFVのスタイルに変化はありますか?

>細村さん
CVCを運用する時、ロングタームコミットでなければ起業家に迷惑がかかってしまいます。アフターコロナで議論していることはほかのVCと同じですが、

・既存の投資家に注力する
新規投資は止めないバリエーションセンシティブで運営する

の二点を話しています。
アフターコロナでは飲食店、リテイラー向けのソフトを提供する会社の厳しさであったり、テレワークの普及によってインサイドセールスをSaaSでという波が来るのでは、という話はしています。

7.最後に

最後までお読みいただきありがとうございました。
ライブ配信ではSlidoを通じてたくさんのご質問をいただき、(実はこの記事には載せきれないほど!)視聴者さんと共にCVCの本当に大切なことに迫ることができました。

CVC運営において大切なことは、

CVCで実現したいことは何か?を突き詰める
・戦略リターンだけでなく、財務リターンも追うこと
常にスタートアップ目線で考え、自社都合を押し付けない

ということが今回何度も強調されていました。

細村さん、大変多くの学びある会をありがとうございました!

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以上をもちまして01Night「CVCは財務リターンも追及すべきか?日本のCVCに足りない視点」のイベントレポートとさせていただきます。

01Boosterではこのようなスタートアップ・新規事業のためのイベント【01Night】を定期的に開催しています。次回の配信でお会いできることを楽しみにしています!


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Writer: 01Booster intern 王 翔一朗(Shoichiro Wang)

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