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ロマンスの神様に見る世相

とんでもない曲だと思う。いくら90年代の歌だとしても、あまりにもパッパラパー(いい意味で)すぎるんだ。今の時代、こんな曲が地上波でかかることは滅多なものではない。私が産まれる前の曲なので、この曲をリアルタイムで聴いたことは無い。しかし90年代前半という時代、それは日本のロストジェネレーションであったのではないか。そんな時代だからこそ生まれた曲ではないのか。そう思ったので少し考えてみました。

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ロマンスの神様自体は私が産まれる前にリリースされた曲だが、歌番組の特番などで何度も映像が流れたり、本人が繰り出してきて歌ったりと、なんだかんだで30年前の曲という感じがしなくなった。ゲレンデが溶けるほどほにゃららなど、「冬の女王」の異名を持つ広瀬香美だけあって、未だに冬の定番曲として根強く、ゲレンデ(死語)に行くとかかってたりする。

 ロマンスの神様の曲の内容としては、したたかでやり手の女性が合コンで男をオトす...というシンプルなストーリー。そういえば最近こんなド直球な曲あまり見なくなったな。現代も変わらず合コンとかはあるけど、今は出会い系アプリとかそういうの便利なものが台頭してきて、わざわざ出向いて異性と会う合コンなんてものがあまりメジャーじゃなくなっている感じはする。時間と金と労力をかけて異性と会うコトが当たり前だった時代。

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「勇気と愛が世界を救う」というとんでもないフレーズから始まるのがこのロマンスの神様。相席食堂ならばすかさず「ちょっと待った!」が押されるレベルだ。

2020年、少子高齢化だの人口減少だの対外政策だの、社会問題だけでもかなり深刻化しており、とても勇気と愛だけじゃ救えない世の中になってきているのが現状。ここまで来るとどうしても綺麗事だけではやってけない。
対して1993年頃。このときの日本はどんな状況であったのか。こんな曲が世に出てさらに売れたのであるから、さぞ華やかでイイ時代だったのだろうと思わざるを得ない。勇気と愛があれば、ノストラダムスの大予言さえ跳ね返せる、そう思っていたのかもしれない。

1993年を中心に90年代の日本を見てみる。
90年代の日本経済を象徴する出来事として挙げられるのが、「バブル景気の崩壊」である。80年代後半頃から沸き起こった空前の好景気、雇用も収入も大幅に増え、日本全体を陽の雰囲気が包み込んだ時代だった、と私の周りの大人は言う。ボーナスの袋が直立しただとか、そもそもほとんど仕事をしていなかっただとか、本当にそうだったとしたら羨ましい話だ。生まれてこの方20数年、日本全体がお祭り騒ぎになるほど朗らかな時代なんてものを経験したことがないから。若者のバブル・コンプレックスだ。
しかし、そのバブル経済の終わり、俗に言うバブル崩壊が起きたのがこの90年代だ。定説では、91年から93年の間が、経済の後退期だったとされている。

ん、ちょ待てよ。ロマンスの神様の発売日は1993年12月。まさに経済後退の尻切れあたりに出た曲ってことになる。言うなればまさにドン底の状態ではなかったのか。バブルがはじけ、今の人材不足に繋がっている大量リストラや、物価の上昇、世間的にも陰の雰囲気漂う時代だったと思われる。はて...。

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 今と比べても、社会的な情勢はとても勇気と愛が世界を救うなんてものじゃない気がする。この頃の日本人は底抜けに前向きでポジティブだったということか?バブルボケ...なんて言ったらミラーボールでシバかれそうだが、少なくとも今の後ろ向きな若者たちと比べて考え方や気概は違ったのかもしれない。

とりあえず出だしは、独身女性が「絶対いつか出会えるはずなの」と、未だ見ぬ王子様に夢を抱く模様が描かれている。恐らくは玉の輿か何かを夢見ている上記か。沈む夕日に寂しく1人、拳握りしめる私。少女漫画みたいな情景。

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週休二日、しかもフレックス。この週休二日は「完全週休二日」なのかわからない、まあ語呂の関係でこう言っているのだと思うが。
フレックスタイム制というのは、労働者が1日の労働時間や配置を決定できるという制度のことであり、日本では1988年から導入された。余談だが、90年代頭に完全週休二日制度の導入や祝日の増加も相まって、日本のGDP成長率は0になったらしい。労働時間も10%減ったそう。
週休二日でしかもフレックス勤務ができるということは、かなりイイ会社にいることが伺える。当時の労働環境はよくわからないが、今ほどブラック企業やパワハラなんてものが取り沙汰されることは少なかったと思う。いや恐らくは今よりあったのだと思うけれど、世間もそれが当たり前のものだとしていて、特に誰もツッこまなかった、と私の父が言っていた。ある意味幸せなんだろうか。赤信号みんなで渡れば怖くない精神。

ちなみに日本人の労働時間は、完全週休二日制が導入された90年代ごろから減り始め、93年からはほぼ横ばいになっている。単純に200時間も年単位で労働時間が減ったのは素直にすごいというか、働きすぎというか。てことは週休二日しかもフレックス、というのは当時としては新しい働き方であり、それを導入していた企業となれば、それは大企業に限られるだろう。

「相手はどこにでもいるんだから!今夜の飲み会期待している。友達の友達に」
バブルがはじけ不景気、それでも週休二日でフレックス勤務もできて、さらに「相手はどこにでもいる」と言えるメンタル。恐らくかなりのやり手だと思われる。高学歴高収入おまけに美人(?)、どうしてもイメージ像に広瀬香美が出てきてしまうが。
友達の友達に期待しているということは、かなりの大規模なのだろう。あるいは全く顔見知りのいない飲み会?まあこんな女性が行く飲み会なんだから、参加者も男女ともに同じような高スペック人間が集まっているのだろうと推測できる。

友達に期待するならまだしも、友達の友達に...とは。そうか、「期待する」というのは、友達の紹介に期待するのではなくて、友達が連れてくる友達”そのもの”に期待しているということか!もう既に虎視眈々と淡々とである。この主人公は完全にオトコを落とす目的で来ている。経済は大変なことになっているというのに呑気なものである、のんきか!みやすのんきか!

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合コンなんてとりあえず目立ってしまえばオトコから何かしらのアプローチがあるはずである。かくいう私は合コンの類に行ったことがありませんけども。主人公たちはバブルを経験した猛者である。そのため、目立つことなどお手の物だと思われる。お立ち台ギャル?ジュリアナ東京?いや、流行りのディスコで踊り明かすうちに覚えた魔術でしょうか。

「性格良ければいい、そんなの嘘ッだ↑と↓思いませんか〜?」
正体現したね。結局これである。顔が良ければいいのである。この主人公の一番言いたいことをサビ前に高らかに歌えるロマンスの神様は本当にすごい。こんなに気持ちよくサビへと入れるんだから。そうである。性格がイイブサイクだったら、選ばれるのは性格の悪いイケメンである。

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ちなみに1993年のヒット曲ランキング(ロマンスの神様は12月の発売なので集計外)。後世に語り継がれる名曲ばかりである。

翌年のヒットチャート。ロマンスの神様はしっかり2位にくい込んでいる。こんなしたたかな曲に打ち勝つ曲が「Innocent World(無垢な世界)」とはまた皮肉である。ミスチル最初の全盛期、間違いなくJPOPの全盛期だ。avexグループの音楽とユーミンなどのJPOPがしのぎを削る、まさに黄金期。

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BOY MEETS GIRLS♪ いやTRFではない、ロマンスの神様のほう。何故かここで男が主観になっている。まあこれも語呂の関係だろうけども。「幸せの予感、きっとあなたも感じてる」。立派な押し付けである。男性側も一目ぼれしたのだろうか。「ロマンスの神様、この人でしょうか」。ロマンスの神様とかいう不確定な人物は何、ともかくもうこの人でしょうかと言っちゃってる。

一目ぼれによる結婚は上手くいくのか。少し調べてみると、男女ともに一目ぼれしたパターンは上手く行かないそうだ(当社比)。この曲の後ろのほうに「今日会う人と結ばれる」という歌詞が出てくるが、このパターンは上手くいかないのである。ちなみに広瀬香美本人は1999年に俳優の大沢たかおと結婚するものの2006年には離婚している。どちらかの一目ぼれだったかまでは定かでない。この人ではなかったみたいだ。

ここから怒涛の二番に突入する。二番はもう完全に女性が男性をオトすまでの一部始終である。

「ノリと恥じらい、必要なのよ」「年齢、住所、趣味に、職業さりげなくチェック」。よくわからんけど田中みな実みたいなのを想像した。要するにあざとい。飲み会で女性にとって恥じらいが必要な場面って何なのだろうか・・・。下ネタやセクハラ、はノリに入る気がするし、イッキとかしてマーライオンになるのは多くは男性の役目な気が。

そんな状況をかいくぐりながらも、男性へのアプローチは欠かさない。さりげなく必要事項を聞き出す。ここはもう解釈とかする必要もないくらい直球な歌詞。にしても住所を聞くというのが現在の感覚だと微妙にしっくり来ない。そりゃ昔はSNSもないし、聞くにこしたことはないけど。まぁ住所って言うのはちょっと大げさだね、住んでる所、くらいの解釈かな。

昔は待ち合わせという作業も大がかりだったそうだ。家を出る前に電話などで確認して、定刻に待ち合わせ場所へ。もしどちらかが何かトラブルに巻き込まれて遅れてしまっても、もう一方はそれを知る術もなくまた成す術もない。相手が来るまで延々と待つか、帰るか、の二択しかない。「今どこ?」なんてLINEひとつで済む時代じゃないのだ。そう考えると住所を知っておくのも悪くないだろう。話を戻そう。

さて「待っていました合格ライン」、オイ!なんで女性優勢なんだよ!と思わざるを得ない。実にしたたかである。男性のスペックを合格不合格で判断するなんて。合コンにサングラス着けたまま来るな。

この曲はBメロで本音が漏れがちである。「幸せになれるものならば、友情より愛情」。友情が意味するところはおそらく、誘ってくれた同性の友達か誰かだろう。おそらくその子も同じ男性を狙っていたのだが、やはり優先すべきは「愛」である。最終的に愛は勝つ。

ちなみに余談だが、日本では1990年ごろを境に、男性と女性の生涯未婚率が入れ替わる。女性に優しい社会が作られ始め、男女雇用機会均等法などが1985年に制定されたころからそのような動きが高まったのだと推測。90年代前後はまさに、女性の権利や立場が男性により近づいた時代でもあった。ロマンスの神様のような結婚を前提にお付き合いみたいなのが多かったのだろうか。

さてラスサビ前のCメロ。

「よく当たる星占いにそういえば書いてあった、”今日会う人と結ばれる”、今週も来週も再来週もずっと...」
星占いというのは12つの星座で運勢を占うアレ。前述したが、一目惚れによる結婚は上手く行かないことが多いそうだ。と、サンプルとして芸能人の夫婦を調べてみたが、意外とスピード結婚の方が上手くいっているようにも見える。パッと思いついたのは遠野なぎことかだろうか。彼女は一時期、スピード結婚だのスピード離婚だので世間を賑わせていた覚えがある。
今週来週再来週ってスパン短くないか?結ばれるという結論ありきなら、今年来年再来年とか、この先何年もずっと、とかもっと規模が大きくても良かったんじゃ...?

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さてラスサビ。「土曜日遊園地、1年経ったらハネムーン」
何故土曜日なのか。

当然ながら(?)昔は今のように週休二日制度なんてものはなく、土曜日も学校だの会社だのがあった。学校制度に土曜日休みが取り入れられたのは1992年が初だが、それは会社においても同時期である。日本で初めに週休二日制度を導入した企業は松下電工の1965年が初であり、その後他の企業が導入し始めたのは1980年頃と、かなり開きがあったようだ。一般に浸透したのは、学校教育と同じ1992年。
つまりロマンスの神様が1992年以前に発表されていた場合、遊園地に行くのは日曜日になっていた可能性が高い。あるいは有給である。「有給で遊園地〜♪」とは何とも現実味溢れる世知辛い歌詞。てことは、これがしっかり世相を反映した歌詞であるということが再確認された。


1年経ったらハネムーンというが、そんなにすぐに行けるものだったのか。平成初期はモータリゼーションや円高の後押しもあり、新婚旅行そのものがバリエーション豊富になり、より大仰なものになった時代だったそうだ。
飛行機でハワイだけじゃなくて、船や鉄道など、時間を贅沢に使う旅行も見られるようになったそうだ。これも完全週休二日制の導入だからこそ成せたものなのだろうか。働きすぎとされる日本人だが、80-90年代では有給取得率は50-60%を推移していた。2012年時点で47%を記録していることから、今よりは有給取得率が高かったようだ。新婚旅行に使う休暇も余裕があったのだろう。時計に追われるシンデレラハネムーンのような時代ではなくなった。

仮に、合コンの当日に交際をスタートさせ、その1ヶ月後に籍を入れた場合、その1年後にハネムーンとなると、とりわけ早いということでもない...?平成ハネムーン。

ノリで入籍してみてから半年以内の挙式を例に取ってみる。一般的にスピード結婚のイメージとされる期間の第1位が「3ヶ月以内」だそう。計算してみよう。
合コン▶入籍(3ヶ月以内)▶挙式(半年以内)▶ハネムーン(1ヶ月以内)。すべての段階でたっぷり時間を使ったとしても10ヶ月。まあざっと約一年なので、1年経ったらハネムーンは至極真っ当だと言える。
会社勤めの女性がハネムーンに行くために休みを取ることは今より容易だったのだろうか。いや、この場合はもう寿退社してるのかな。玉の輿に乗ることが最終目標なら寿退社してるわな。

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結局ロマンスの神様が人間なのか、それとも運命の神様的な信仰上のものなのか、明らかにはならない。イメージ図としては↑こんなやつか。そろそろロマンスどうにかしなくちゃ。

ロマンスの神様は確かにしたたかな女性の合コンでの狡猾さを描いたものだったが、歌詞の裏を見てみると、平成初期という激動の時代や当時の社会の動きをよく反映した曲なのである。リリースからそろそろ30年が経とうとしているが、今の若者がこの時代がどのような時代だったか知るにはとてもいいサンプルなのではないだろうか。化石でいうなら示準化石ってやつである。

勇気と愛じゃ世界は救えない。

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