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センチメンタル、じゃあね

  夕暮れの新御堂は、ビルに阻まれて地上の隅々にまで夕日は差さないけれど、その脇に並ぶ植え込みの葉は鬱蒼としていて、しかし青々としている。都会のど真ん中の植物は本当にたくましい。排気ガスをばら撒く鉄の塊が24時間365日、傍を走り回っているのに、くたびれることなくそこにある。

  そういうものなのだろうか。清流にしか適応できない魚と、ドブ川にしか適応できない魚がいる。"そこに生まれたからにはそこで生きるしかない"というのは、万物の運命なのだろうか。きっと何者にもなれない、デスティニー!

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 そんな新御堂の脇の植え込みに、アジサイが3輪、咲いていた。陽も当たらない植込みのかなり下のほう、萎れてこそはいなかったが、あまりにも下にあるものだから、歩道のレンガに接してしまいそうなほどだった。植込みの中には、猫除けだろうか、水の詰まった2Lのペットボトルが数本置いてあった。アジサイはその上に、健気に咲いていた。

 大阪の最後のアジサイがここにあるような気がした。大袈裟かもしれないけど、コンクリートジャングルで見る凛としたアジサイには、そう思わせる何かがあった。実際、アジサイの見ごろは6月上旬から7月にかけてとのことなので、まさに今各地で、もちろんここ大阪でも咲き誇っていることであろう。なんてことない、ただの3輪のアジサイが、汚い街にたくましく咲いていただけのことなんだけど。

 唸る新御堂筋の陰、黒々とした植込みと、白雪のように咲くアジサイが、なんとも綺麗なコントラストで、思わず足を止めて写真を撮った。最近考え事ばかりしていた自分のぼやけた視界の解像度が、少しクリアになったような気がした。

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