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USMLE不要派が勉強してみて思ったこと

こんにちは、都内で医学生をしているしょうへいです。
(ツイッターアカウント)
ザッと自己紹介をすると、今は医学部6年生。幼少期はアメリカに10年住んでいて、中高大は日本です。帰国子女なので当然のように「海外留学興味あるでしょ?」と聞かれ続けましたが、具体的に長期の海外臨床留学に興味が湧いたのは大学のプログラムで実際に臨床留学に行ってみてから、と割と最近です(2020年2月にワシントン大学医学部付属病院で臨床実習しました。後日詳細に)。それまではと言うもの、自分は海外臨床留学、取り分け米国臨床留学に懐疑的でした。英語が流暢な分、海外の生の医療情報が入ってきます:

・取り沙汰される医師のBurn-out (過労)

・アメリカの資本主義的で搾取的な医療制度

・米国医師の鮮烈な出世競争

・コンシューマリズム化する米国の医師-患者関係

何よりも米国留学で名を馳せた今の第一線で活躍する先生方が留学していた20年前と比較して、米国に臨床留学するメリットが縮小していると考えていました。日本の医療水準は上がり、日本が世界に先駆けている分野、例えば内視鏡治療等、も少なくありません。

要はUSMLEなどいらないと思っていました。

そんな自分が1ヶ月の臨床留学を経て考えが代わり、USMLE Step 1受験に向けて勉強してみて感じた、全ての医学生に共通すると思われるメリットを紹介してみます
(今、ちょうどモチベが落ちているのでお付き合いください笑)

メリット1:英語医学論文がスラスラ読めるようになる

僕はTOEFL iBTだと110点をノー勉で超えてしまう帰国子女です。そんな自分でもはっきり言って、医学論文は読みにくいものでした。

幸か不幸か、日本の医学は日本語での体系が完成されています。

そのため、日本の医学生は日本語でしか解剖用語・病気の名前・医学的な表現を学びません。しかしながら医学的知見の99%は英語で発表されます。ネイティブな英語話者であっても日本語ベースの医学を勉強した自分は医学論文を読む際は辞書を何回も引きながら読んでいました。

しかしUSMLE Step 1の勉強では、解剖用語・薬の英名・医学的な英語表現・臨床所見等々を頭に叩き込まれます。広背筋はLatissimus dorsi、振盪音がFremitus、扁平苔癬がLichen planus等々。

実体験としてStep 1(の模試)で平均点ぐらいを取れるようになると、英語医学論文を読む際に辞書を引かなくても完読・流し読みできるようになりました。イメージとして、今まで1論文に30分かかっていたのが5分ぐらいで流し読みできるような効果があります。

例えば医師人生で10,000本の論文を読むとして 10,000本 x 0.5H=5,000時間かかります。USMLEを勉強すれば、これを4,000時間圧縮できてしまう計算です。(もしくは追加で50,000本の論文が読めます)

これだけでもUSMLE Step 1の勉強時間およそ1600時間(8時間x200日)のお釣りが帰ってきますね。全ては複利です。

2:医学的現象を説明できる生きた知識が手に入る

CBTや国試に向けて勉強している高学年の学生、もしくは病理学や生理学に飽き飽きしている低学年の学生も、嫌でも気がつくと思いますが日本の医学教育は「病理学」「生理学」「薬理学」などの基礎と「循環器」「皮膚科」「腎臓内科」などの臨床が完全に分断されています。

ようは、2・3年で意味も分からず染色体の数や薬の作用機序を覚えさせられて、嫌々勉強した基礎をちょうど忘れた頃に4・5年で縦割りの臨床学問に入る仕組みですよね。そこで「乾癬はAuspitz現象が起こる(覚えろ)」「NSAIDs中毒では肝障害が起こる(暗記)」など全く無関係に思える知識を強引に繋げる勉強法が横行するわけです。

CBTでは基礎はチラホラ問われますが付け焼き刃で対応できます。国試ともなれば病態生理を問われることはほとんどなく「糖尿病→a)糖尿病治療薬!」など反射神経的な問題が目立ちます。

しかし本来は目の前の患者さんのプレゼンテーションから鑑別の仮説を立て、鑑別を絞り込む検査を行い、診断が出来たらその病気が起こる原因と様々な治療オプションの機序の理解に基づき治療や患者説明を行なっていくのが理想の臨床ではないでしょうか?(意識高すぎて昇天)

USMLE Step 1は、米国の鮮烈な医師キャリア競争の賜物だけあって、この思想に基づいた深い医学の理解と基礎・臨床を橋渡しする医学知識の有機的なネットワークに基づく実践的な知識活用を問われる問題で構成されています

例えば糖尿病について問う、一見簡単に見える問題でもStep 1ではまず詳細な模擬ケース(clinical vignette)を与えられ:

「ケースの所見と検査値から糖尿病を診断できるか」
(↑CBTレベル)
「患者が腎不全を合併していることを見抜き、加味できるか」
(↑国試レベル)
「腎不全を加味してGFRを下げない糖尿病治療薬を選択できるか」
(↑国試難レベル)
「ではそこまで分かった君に:選択された薬の副作用はどれ?
(↑USMLE普通レベル)
「ちなみに、その薬がターゲットにしている酵素の働きは?
(↑USMLEちょいむずレベル)

と1問で2段階も3段階も掘り下げた有機的な知識の活用が問われるのです。

こう言った問題を何千問も解いていれば流石に勉強になっていることを実感しています。はー、もっと早く勉強してればよかった(6年生の嘆き)

3:臨床(実習)で役に立つ

メリット2の通り、日本の医学教育では得られない基礎と臨床が融合した生きた医学知識体系を持っているともちろん臨床実習でも役に立ちます。きっと。

以下、活用具体例:

・「〜〜の意味わかる?」医学英語でかまして来る指導医
→ワンパン

・「NF2って何の遺伝子が原因?」と聞いてくる希少疾患オタク先生
→染色体22番のNF2がん抑制遺伝子です、ドヤ顔

・「アミノグリコシド系のスペクトラムは?」抗菌薬大好き感染症先生
→主に好気性グラム陰性菌です、ちなみにグラム陰性桿菌の緑膿菌にも効きます。キメ顔

などなど。臨床実習の先生は日本の医学教育では重点的に教えられないようなことを聞いてくるのが大好きですが、経験上大体はUSMLE step 1の知識で回答可能な内容です。

先生方は専門領域であればその領域の医学英語、薬の作用機序等、病気の病態生理などなどには極めて精通しているものです。しかし、同じ日本の医学教育を受けてきた先輩方なので専門領域を出ると途端に医学英語を始め、薬や病気について国試以上の内容が分からなくなるという不都合な現実があると感じます。

4: 満遍のない基礎を身につけられる

Step 1の合格のためには特定の領域が苦手のようなことは許されません。希少疾患や遺伝的疾患など一生目にかからない病気から、感染症、Common diseaseまで満遍なく深く理解することが求められます(自戒)。

しかもこれらの基礎は付け焼き刃ではなく、前述の通り有機的で結合しあった知識ネットワークになるような勉強です。

今苦しんでいる分の基礎は将来複利で帰って来ると信じています。

補足:デメリット

USMLEの勉強にはいくつかのデメリットがあるとも感じました。

国試に出る内容がカバーされないケースもある。Step 1は例えるなら難しいCBTなので病態生理など基礎医学は詳しいのですが、具体的な疾患の治療・検査はそこまで出ません。国試の勉強も補強的に必要になります。

・Rocky Mountain Spotted Feverなどの風土病、HIV、白人・黒人に多い遺伝病など米国特有の疾患、HMO/PPOなど米国の医療制度に関する質問などがある。これらの勉強は日本の臨床ではそこまで役に立ちません。

・お金(QBと受験費用等10万円強)と時間(目安1,000~2,000時間)がかかる。

全ての投資には機会損失が付き物であるように、勉強時間の投資にも機会損失があります。日本の国試とUSMLEとその他の活動でバランスを取る難しさを今まさに体感してます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
極論暴論チラホラあったかもしれませんが、USMLEを2ヶ月ちょっと勉強して思ったことをまとめて見ました。

もともとUSMLEは不要と思っていましたが、留学する気があってもなくても上記の通り結構得られるものが多いと思います。

自分も米国留学で米国でトップクラスの医学部のトップクラスの医学教育を体験できましたが、医学教育の一点だけに関しても、本当に素晴らしい環境でした。前書きの通り、汚い側面も嫌という程見ましたが。

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この記事を読んでUSMLEにちょっとでも興味がわきますように。終




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