色褪せないバカ色の男
“愛してる”
もう会わなくなって2年も経つのに、そしてこれから会うこともないのに彼が数ヶ月に1度気まぐれに掛けてくる電話の第一声はいつもこれだ。
人生40年生の私は愛してるなんて絶対に言わない。なんか無責任な言葉じゃん。
「なにそれ?」
私は素っ気なく返事をするものの、電話にちゃんと出ている。画面に彼の名前が表示されるのをしっかり確認して、第一声が“愛してる”だって分かっているのに拒んだことがない。
拒めない。
拒めない建前は貸したお金の為なんだけど、お金を返してもらうあてなんて見つかりっこないし、今後もない気がする。
鬼になってプロにお願いすれば全額とまではいかなくても一部は回収できるだろう。
私が一生懸命汗水垂らして働いた大切なお金。回収出来たら顔のたるみを美容医療でやっつけたいし、今の男と温泉に行きたい。2回行きたい。
けれどいつまでも私は鬼になれないまま。
私はサピオセクシャルだと自認している。
彼は何も当てはまっていない。もはや真逆。
「私の顔面偏差値っていくつ?」と聞いたら『200』と返ってきた。彼は偏差値の概念を知らない。100点満点のテストだと思っているらしい。だから200だとモデル級!?ってこと。
それ知らないでどうやって今まで生きてきたの・・・?みたいなことが多いのだ。知性はそこにない。
すっごいバカ。
すっごいバカだからそれを隠したり出来ない。360度どこからみてもバカ。
でもね、私は貴方と離れたあとにすっごいお金持ちだったり、すっごい頭のいい人に沢山出会ったんだよね。経済のこと、お金のこと、世の中のことを教えてもらって楽しかった。
その人たちは決して“愛してる”なんて言わないのよ。
貴方は過去の失敗談や離婚話やモテたくて必死になるバカげた話を平気でするのに、その人たちはその手の話を嫌がった。成功していて女性に不自由してない装いをする。真偽は別として・・・ね。それに合わせて「凄いね」と私は言う。「バカだね」なんて絶対に言えない。
知性は満たされたけど、ガハハと大笑いする回数は随分減ってしまった。
***
私が出会ってきた世間で言うハイスペックの男性たちはスペックを失えば女性から見向きもされなくなると思う。贔屓目で言うことだけどバカな貴方は何も持っていなくてもきっとこの先も女性に困らない。
なんだか底抜けな人なんだもん。
人の心は分からないものだ。
今でも私は貴方のことを憎みきれないし、鮮やかなバカ色がいつまでも色褪せない。
他の人に時々抱かれながらバカな男が愛おしい、バカな女のまま。
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