見出し画像

【検証】杜氏の手はキレイ説。酒造りの最前線で働く人たちの「手」を集めてみた

「杜氏の手はキレイ」という説があります。麹を触るから? 酒粕に保湿効果があるから?  事実、世の中には「日本酒成分の入ったスキンケア商品」が多く存在します。

でも、本当に、本当にきれいなのか?

もし、麹や酒粕を扱うことが手のキレイさに直結するのであれば、杜氏だけでなく酒造りに従事する人はみんなキレイということになるはずです。

手の写真+アンケートで検証

その疑問を解決すべく、実際に酒造りに従事する方を対象にアンケート調査を実施しました。リアルな現場の声から「杜氏の手はキレイ」説を検証します。

アンケート設問
①代表銘柄 ②役職 ③杜氏は手がキレイ説への考察 ④手のスキンケア方法

杜氏の手はきれい、早速検証! まずは説通り「杜氏(または醸造責任者など、醸造全体の業務を行っている人)」の3名の手事情から!

土田酒造さん(群馬県)の手

働く手。あれ…やや荒れている?

①土田、誉国光 ②杜氏(星野元希)
③昔の杜氏/蔵人制度の中では杜氏さんは絶対的な親方であり、あまり現場に出る事が無かったと聞いた事があります。それが本当なら…勝手な想像ですが、杜氏は洗い物等の水仕事などはせず、重要な麹や蒸米のチェックは行う、水仕事なしで麹や蒸米を触れば、確かに綺麗になるかもなーと思います。
 現代では杜氏でも現場の作業をやる方が多いのではないでしょうか。そうなると蒸米や麹に触ってもすぐに水やお湯で手が荒れてしまうように思います。また、衛生意識の高まりによりアルコール消毒をする機会も増えているので、余計に手は荒れやすいのかなと思います。
④洗い物をする時は手袋をして作業をするくらいで、ハンドクリーム等を使用したケアはしていません。

https://tsuchidasake.jp/

ーー微生物や菌との共存を大切にされている土田酒造さん、さぞかしきれいかと思いきや…それは「水仕事をしない」ことが前提でした。現代の杜氏は大変なのですね。

森酒造場さん(長崎県)の手

すらっとした(形状が)美しい手!

① 飛鸞(ひらん) ② 製造全般(小さい蔵なので全部携わってます、とのこと)
③衛生面を考え、お米や醪など多くは直接手を触れないようにしたいという考えから「ゴム手袋」を使ってるため、綺麗かどうかで言うと綺麗だと思います。洗い物も、素手は寒いので極力ゴム手袋使っており、あんまり手は荒れないです。
④何も無いです

森酒造場「飛鸞」

ーーゴム手袋!!そうか、いまは令和の時代。衛生面を考えると「手袋」も当たり前の装備にはいってくるのですね。ちなみに、荒れ具合と関係なくもっとも美しい指をしている杜氏が森酒造場さんでした。

村井醸造さん(茨城県)の手

力強い手

① 真上(しんじょう) ② 醸造責任者(臼井卓二)
③杜氏の手が綺麗なのは、頭など現場を担当する者と、全体を統括する杜氏で役回りが完全に分離している場合に起きることだと思います。でなければ手はあっという間に荒れまくると思います。
④手のケアは「ロコベースリペアクリーム」一択です。薬局の方に激推しされて、昨年から使用してます。なんでも粒子が細かいから、手の表面ではなく中へ浸透するから保湿が長持ちするそうです。

村井醸造「真上」

ーーこちらも土田酒造さんと近い意見です。水仕事の多い酒造り「あっという間」に荒れまくるそうです。薬局の方に激推しされたという「ロコベースリペアクリーム」気になります…。

ここまでは、主に「杜氏」とされる3人の手を紹介しました。ここからは杜氏以外の酒造りの工程を担当されている方々の「手」事情も紹介します。

宮泉銘醸さん(福島県)の手

美白!!

①冩樂、会津宮泉 ②瓶詰めチーム
③日々手荒れがあるから特にケアしてるからなのかなと思います。
④仕事以外での水仕事(洗濯物を干す、食器洗う)はゴム手袋してます。仕事終わったらハンドクリーム塗って、寝る前にはまたハンドクリーム3種類塗って寝てます。

ーー他の方の話では「杜氏は手作業をしないから」とありましたが、「手作業をする」立場の方からするとまた違った意見。「荒れるからケアする、ゆえにきれい」というパラドックスがうまれました。3種のハンドクリームはさすがです。

下村酒造さん(兵庫県)の手

タンクの上で、おそらく下に見切れている櫂棒をにぎったであろうその手

①奥播磨 ②酛屋、雑用全般
③食品・飲料品を扱う以上、微生物学的にきれいであるべき。ただ、美容的なきれいさは無いかも知れません。
④風呂に入った後にハンドクリームを塗って、傷口には薬を塗り、液体絆創膏でコーティング。爪はできるだけ短くしておくと衛生的です。勤務中はどうしようもないですが、手袋、軍手は面倒がらないというのは大事です。

https://okuharima.jp

ーー「食品・飲食品を扱う以上、(微生物学的に)きれいであるべき」という、硬派な解答をいただきました。美容的な観点でアンケートをとっていた自分が恥ずかしいです。酒造りにおける「きれい」の定義は2つあるのですね。

以外にも、ここまで手がきれいになる要因とされていた「麹」といった言葉はさほど出てきていません。では「麹」を専門に行う「麹屋さん」の手はどうでしょうか?

おかしなこうじやさん(兵庫県)の手

ちょこっとだけ荒れている

①- ②代表(本間速)
③絶対に嘘だと思います笑 (前職の)酒蔵時代も今もですが、道具洗い、こまめな手洗いとアルコール消毒、寒い中での作業と、肌を痛める作業の繰り返しで、業界の中でも手荒れとどうケアするかの話しで盛り上がるほどでした笑
 昔のアルコール消毒のない時代に、道具洗いをしない立場の方はキレイということもあったかもしれませんが……
④とにかくこまめにハンドクリームを塗り込むのを心がけています。麹を触る前はもちろん塗れませんが、それ以外は思いついた時にすぐクリームを塗るようにしています。おかげでリビングにひとつ、PC前にひとつ、車の中にひとつ、カバンにひとつ、とハンドクリームが無限に増えていきます。
保湿して肌の状態を保たないとあかぎれしてしまって食品衛生上も非常に良くないので、とにかく保湿をしまくっています。

ーー絶対嘘!!最後のアンケートにして、企画がゼロになりました。

昔の杜氏は、本当に綺麗だったのかも?

アンケートの結果、水仕事の多い杜氏・酒造関係者は「むしろ手が荒れやすい」傾向が強くみられました。

その一方で、土田酒造さんからは次のような見解もいただきました。

最近、土田酒造では90%精米の米を多く使用していますが、高精白の米には無かった米の油分が蒸米にも多く残っているように感じます。この油分の効果だと思うのですが、低精白の米の蒸米を触るだけで手がしっとりとするような感じがします。精米の技術が現在ほど発達する前は、特に杜氏さんの手は本当に綺麗だったのかもしれませんね。

ここに、「(昔の)杜氏は主に米や麹のチェックを行っていた」という点を考慮すると…「昔の杜氏」は本当に手が綺麗だったのかもしれません。ロマンっぽいものを感じてきました。

また、酒蔵の仕事と聞くと「手作業」のイメージがありますが、実は口に入る商品を扱うという、徹底した衛生管理が必要な環境。見た目のきれいさとは異なる「手がきれい(=清潔)」という点も重要なのですね。美しさ以上に、衛生の観点から手をケアしているという、真摯な姿勢も多く見受けられました。

ご協力いただきましたみなさん、ありがとうございました。

最後に、シンプルにきれいな指先をもつ森酒造場さんの「手の平側」の写真を貼り、検証を終えます。

ピアニストのよう

寒いなか毎日お酒づくりに向き合っている多くの「手」に感謝しつつ、お酒を美味しくいただきます。

もちろん、お酒を飲みます。