【熱燗とコーヒー】が共存する不思議なカフェ「SUNDAY JAM's CLUB」(東中野)
日本酒の熱燗と、深煎りコーヒーの二刀流のお店がある。そんな噂を耳にしました。
「日本酒(液体)と料理(固体)」であれば、組み合わせはいろいろあると思います。「コーヒー(液体)とお菓子(固体)」も同じく。
しかし、日本酒とコーヒー、液体×液体というのは…はじめて聞きました。その2つ、どうやって楽しむんだろう。
店名は「SUNDAY JAM's CLUB」。とにかく行ってみます。
※関内にある熱燗とスパイスのお店「Spice Drunker やぶや」さんに教えてもらいました。
深煎りコーヒーと熱燗の噂は、本当だった
場所は東京・東中野、駅前の大通りから少し入った路地にあります。古民家を改修した明るいお店で、2席やテラス席もあります。長いカウンターの中で若いスタッフの方々がテキパキと動いています。
コーヒーはこだわりの深煎り。しっかりかつ複雑で、たしかにおいしいです。休日感あふれるというか、午後をのんびり過ごそうと思える一杯。近所にこういうカフェ欲しいです。
お店のメニューにはワインもあるようで、外国籍のお客さんたちが昼から楽しそうにグラスを傾けています。めちゃめちゃいい雰囲気です。
で、恐る恐る「熱燗」を聞いてみると……ありました。
「初亀」静岡の銘酒です。想像の数倍は渋いです。横文字が並ぶカフェのなかで、急に世界観が変わります。そして熱燗はじんわりとおいしい。コーヒーとは全然違うけど。
……一体なぜ、この組み合わせなんだろう?
日本酒の担当者が不在とのことでしたので、改めて、夜に伺うことにしました。
夜は寿司と酒がメインのカフェに変身
改めて「SUNDAY JAM's CLUB」ですが、オープンは2022年4月。カルチャー誌のカフェ特集で取り上げられるなど、すでにこのエリアで注目の存在になっているようです。
昼に訪れた時も感じたのですが「日本酒酒場」に通うおじさんの割合は少なく(でも一定いる)、カフェ好きな人や、ワインバーにいそうな人たちが多いです。カジュアルな”陽”の雰囲気です。
席について、メニューを見ると…
SUNDAY JAM's CLUB、夜の推しは「寿司」でした。え、寿司?
お通しが「寿司」。カツオです。オイルと塩を振っていて、そのままいただきます。
とりあえず日本酒「松嶺の富士」(山形)。ねっとりしたカツオ(お通し寿司)との相性がすごいです。お魚を食べると、日本酒の存在が急にしっくりしはじめます。
改めてメニューをみてみると、夜はお寿司と魚料理が楽しめるようです。飲み物はビール、焼酎、ウイスキー、サワーなど多彩です。日本酒はその日の黒板メニューもあり。
すごい……。日本酒専門店でしか目にしないような文字が並びます。さらに「その他あります」というのが、日本酒好きに力を入れているお店によくある、好きなパターンです。
コーヒー好きと日本酒好きが手を組んだ
「コーヒー×日本酒」という組み合わせについて聞いてみたところ「実は、意図的に組み合わせたものじゃないんです」とのこと。
店長の真美さんはもともと、新宿・ゴールデン街のお店で「カフェ」営業を行なっていた、カフェとコーヒーが大好きな方。尾崎さんがゴールデン街のお店で出会った(近所のお店だった)料理人が、日本酒と魚に精通する鈴木寛夢さんでした。
寛夢さんはゴールデン街のお店で働いたのち、神楽坂で「魚料理と日本酒」を提供するお店を間借営業。尾崎さんが新しいお店を始めようとした時に声をかけ、一緒にやることになったのだそうです。
コーヒー・カフェ好きな尾崎店長と、魚・日本酒好きな鈴木料理人が手を組んだお店が、SUNDAY JAM's CLUB。だから、カフェでお寿司で熱燗、というわけ。なるほど、よくわからないです。
熱燗と寿司とお任せでいただく
いよいよ、自慢のお寿司と熱燗をいただきます。
熱燗は半合から。少量ずつ楽しめるのはうれしいです。(スタッフの方「だって一合で飲んでたらベロベロに酔っちゃうじゃん」とのこと)
うん、お酒と合います。お寿司は基本的に味けがされていて、お酒に合うようにチューニングされています。
寛夢さん「寿司と日本酒って、実は合わせるのが難しいんですよ。一貫ごとに素材が違いますし、基本的に要素を削ぎ落とした”引き算”の料理だと考えています。
そこに、うちでは寿司に塩やオイルを振ったりと、お酒に合うように手を加えています。これをどのくらい突き詰めるか、やりすぎないか、そこが難しい。まだまだ勉強中です」
寿司屋さんの寿司とは違う、「酒仕様」の寿司。おもしろいです。
次の熱燗は、土田酒造の「シン・ツチダ」(群馬)。食事の進み具合を見つつ選んでくれるのがうれしいです。
ちなみに、寛夢さんの熱燗の技術は、プロの御燗番として活動する熱燗DJつけたろうさん直伝。錫と銅、2種類の道具を使いわけて温めてくれます。
カフェとは「自由に過ごせる」の場所のこと
「SUNDAY JAM's CLUB」には、スタッフ間の裏コンセプトはあるとのこと。聞くとそれは「日々の小さな幸せに気づけるお店」(真美店長)だそうです。
真美店長「でも『小さな幸せ』って人によって違うじゃないですか。
『ごはんがおいしい』人もいれば『会話が楽しい』人も、『ひとりで静かに過ごす』人だっています。そんないろいろな人たちが思い思いに過ごすことができる場所が、私は『カフェ』という空間だと思っています」
真美店長「うちのお店では、きてくれた人に好きに過ごして欲しいんです。夜ごはんを食べても、好きなお酒を飲んでも、2階の静かなスペースで仕事や読書をしても、私たちとおしゃべりしてくれてもいい。
もちろん、私はコーヒーが大好きですし、寛夢くんの料理や日本酒にも絶対の自信がありますよ」
メニューありきのお店ではなく、「自由な空間」があって、そこで2人の特技を持ち寄った、ということなのですね。
真美店長「あ、実はうちには、ナチュールワインの専門家もいますよ」
ワイン×日本酒×コーヒーの三刀流だった
こちらは、最近まで姉妹店のバー勤務がメインだったという、是平美久さん。ナチュールワインのプロフェッショナルです。
いただいたのは、フランス・アルザスの白ワイン。ラベルの絵は「テーブルの下」つまり「とっておき」の意味だそう。
美久さん「生産者のカトリーヌさんは、幼いころにワインの製造機に腕がはさまって片腕になったんですね。それでも前向きにナチュラルワインに取り組んでいるところが、私はとても素敵だと思うんです」
こんなふうに、お酒ストーリーを教えてもらいながら飲むのは、純粋に楽しいです。すごいぞこのお店、3つどれも楽しいです。
さらに、料理長・寛夢さんが以前「黒糖焼酎のお店」に勤めていた経験があるため、焼酎もあります。すごい本当に。
「いろいろなメニューがある」というと、チェーン店のような「全員に向けた、広く薄い内容」と見えてしまうことがあります。
だけど、SUNDAY JAM's CLUBの印象はむしろ逆。コーヒーも日本酒もワインも、さらに寿司もドーナツもあるのに、その理由は「私が好きだから」。
それが関係しているのかどうかはわかりませんが、「好き」を持ち寄って働くカウンターの中の人たちが、とにかくワイワイ楽しそうなのです。
そんないい雰囲気の中でお酒を飲むと、日本酒もワインも焼酎も、どんどんおいしくなります。銘柄も温度も、お酒の種類も軽く超えていきます。
コーヒーと熱燗とナチュール、そして寿司とお菓子が同居する場所
SUNDAY JAM's CLUB、おもしろかったです。
プロが集まれば、楽しさの幅は広がるんですね。
また、おじゃまします。
もちろん、お酒を飲みます。