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【アンケート】日本酒蔵の蔵人は、夏の間、何をしているのか?

「日本酒造り」といえば、「寒造り」という言葉に代表されるように、寒い間に1年分仕込むのが一般的です。

では、酒造りに適さない「夏」の間、蔵人たちは何をして過ごしているのでしょうか? 普段は見えない夏の蔵人を知るべく、酒造関係者の皆さんにアンケートを実施しました。回答いただいた内容を一部抜粋し、リアルな「夏の蔵人」の姿をお届けします。みなさん、予想以上に、夏も忙しいです!

質問
Q1:夏の「お仕事」を教えて!
Q2:夏の活動で「大変」なことは?
Q3:夏の活動で「うれしい」ことは?
Q4:蔵人の「夏の思い出」は何?

Q1:夏の「お仕事」を教えて!

蔵の醸造期間(初夏まで造っている蔵が多かったです)や、職務によってさまざまな回答をいただきました!

掃除、片付け…夏は来年にむけた準備期間!

機械等の修繕(オーバーホール)、次回造りに向けての導線の改善、次回造りに向けて酒質向上にかかる勉強、他蔵さん見学、来期販売に向けてのラベル等準備、販売促進イベントなど

<蔵人 匿名希望/醸造期間:10月〜3月>

製造に使った機材の後片付け、屋根のペンキ塗り・雨漏り対策などのメンテナンス、営業、試作品造り、配達

<村井醸造 製造兼営業 臼井卓二さん/醸造期間:10月下旬〜3月上旬>

瓶詰作業、詰め替え(全量瓶貯蔵のため1800ml→720ml,300ml,180mlへの詰め替え)、生酒や長期貯蔵酒の冷蔵庫整理。漬物用酒粕詰め。ラベル貼り、季節商品の出荷、営業

<下村酒造店 リンゴの魔術師さん/醸造期間:10月〜3月>

設備のメンテナンス、蔵内清掃、貯蔵蔵の清掃、呑切り、試飲即売の売り子など

<新潟県の某酒蔵 蔵人 匿名希望/醸造期間:8月後半〜7月頭>

多忙!!お酒を造らないからといってなにもしなくていいわけではなく、修繕やメンテナンスが必要なのですね。

ラベル貼り、蔵の掃除etc

<宮泉銘醸 蔵人・瓶詰め貯蔵班 匿名希望/醸造期間:9月〜7月中旬>

こちらは「ほぼ一年中醸造」している宮泉銘醸の蔵人さん。すみません、愚問でしたね。夏も通常運転で働かれていますよね…。

蔵元や部長、杜氏たちは「何でも屋」になる忙しさ!

蔵人の中でも「蔵元」や「杜氏」など、管理職となるとまた別の活動も入ってくるようです。

製造計画、米の発注の調整、新商品の開発、営業のご挨拶、書類作成です。あと冬場に改良が必要と感じた部分を改善する作業もあります。

<福司酒造 製造部長 梁瀬 一真さん/醸造期間:10月中旬〜5月上旬>

昨季の振り返り、来季の酒造計画、蔵のメンテンス(担当蔵人がメインで手伝い程度)、他蔵見学に行く、勉強会やイベント参加、営業同行、農作業(担当蔵人がメインで手伝い程度)

<土田酒造 杜氏 星野元希さん/醸造期間:9月〜6月>

「働き方改革」で負担がかかるのは管理職だとよくいいますが、本当に大変そうです。

杜氏の働き方は変わってきている!

続いては、季節雇用、通年雇用の両方を経験した職人杜氏の盛川泰敬さんの回答。過去と現在、それぞれの夏を教えてくれました。

冬季と同じ季節雇用として色々なバイト。主に第一次産業の農業と林業。

某酒造 季節雇用 杜氏 盛川泰敬さん/醸造期間:11月〜4月>

仕込作業の片付け、使用具の修繕、工作作業。次期造りへの計画、下準備、及び出荷、営業活動。

<田中酒造店 通年雇用 杜氏 盛川泰敬さん/醸造期間:10月〜5月>

結構がらりと変わります。季節雇用時は当然酒造りとは関係ない仕事を、通年では夏も蔵の仕事。どちらにしても「働いている」のは変わらないのですね。

ちなみに海外の日本酒蔵が夏に造っているものは?

さらに、海外のベトナムで酒造りを行うフエフーズの蔵元・才田善郎さんにも答えていただきました。ベトナムの夏…気になります。

6~7月は芋焼酎、8月米焼酎といった感じで焼酎を造っています。ベトナムでもイベントが多いので営業社員は日越フェスティバルに出展しています。

<フエフーズ 蔵元 才田善郎さん/醸造期間:2月上旬(旧正月明け)〜4月下旬>

焼酎!そうか、南国では焼酎を造っているのですね。ベトナム焼酎飲んでみたいです。

Q2:夏の活動で「大変」なことは?

酒造計画は本当にパワーのいる作業だと思う。
また、冬の休みの日数が少ない分、夏の期間の休みの日数は多く設定してあるから、休まなくてはいけない。出勤日数の少ない中でいかに作業をこなすか。土田酒造の杜氏というポジションに限ってかもしれないけど、意外と夏の方が忙しいとさえ思える。

<土田酒造 杜氏 星野元希さん/醸造期間:9月〜6月>

発注済みの米の数量から必要な酒の数量をどのようにして調整していくのか、そこの仕込みのスケジュールをどう組んでいくのかという製造計画を作るのは頭を悩ませます。

<福司酒造 製造部長 梁瀬 一真さん/醸造期間:10月中旬〜5月上旬>

なんと、夏の方がむしろ忙しい…という声があがりました。

営業の間に、家族サービスや実家の両親の顔を見に行く、体のメンテナンスもしたいので、時間のやりくり体力との戦いが大変。
短すぎる夏、、、

<長州酒造 執行役員杜氏 藤岡美樹さん/醸造期間:9月〜7月>

長州酒造さんは「ほぼ四季醸造(1年中近く造ること)」。造らない時期はわずか2ヶ月とのこと。本当に短い夏です。

(ベトナムは)40度近くまで気温が上がるので、社員は熱中症注意です。もろみも温度が上がりすぎないようにケアする必要があります。

<フエフーズ 蔵元 才田善郎さん/醸造期間:2月上旬(旧正月明け)〜4月下旬>

特殊すぎるのですが、さすがベトナム。酒造りで熱中症…そういう世界があるのですね。本当に労働に感謝しつつ飲ませていただきます。

Q3:夏の活動で「うれしい」ことは?

大変な反面、冬とは違う活動の「うれしさ」も聞いてみました!

夏はやっぱり開放感いっぱい!

醪が無いという安心感。造りの緊張感から解放され、蔵内もリラックスした状態になる。

<新潟県の某酒蔵 蔵人 匿名希望/醸造期間:8月後半〜7月頭>

冬と異なり時間がゆっくり流れます。「暖かい日には外作業を」自分たちで仕事を調整してできるのはいいですね。

<福司酒造 製造部長 梁瀬 一真さん/醸造期間:10月中旬〜5月上旬>

仕込み期間に休めなかった分、休日の割合が増えます。有給休暇を組み合わせて20連休くらい休む人もいます。

<大手メーカー 蔵人 匿名希望/醸造期間:9月〜6月>

回答を見て、改めて酒造り中は休みなしで集中しなければいけないんだなと感じました。夏場は、それから一瞬でも解放されるのですね。

夏は貴重な「学び」の時期

リンゴの魔術師さん提供のイメージイラスト。釣りが楽しそう

酒造りの期間は、蔵に籠る蔵人さん。酒造りのない夏は、重要なインプットの時期になっているようです。

杜氏講習会が毎年の楽しみ!営業を兼ねながら7月下旬の南部(岩手花巻)、8月上旬の山内(秋田横手)、8月中旬の但馬(兵庫湯村)あたりに行きます。

情報交換のため、夜に繰り出すのが冬の酒造りのエネルギーになります。
歴代の名杜氏さんからは学ぶこともたくさんありますし、気さくな先輩など(お酒を)造ってる人と飲む酒は旨いものです。

<下村酒造店 リンゴの魔術師さん/醸造期間:10月〜3月>

研修という名目で遠方へ旅行気分で講習会に行けること。南部杜氏講習会は岩手なので、ほぼ旅行気分で行ってます。

<村井醸造 製造兼営業 臼井卓二さん/醸造期間:10月下旬〜3月上旬>

夏はお客さんとの接点を持てる貴重な時間!

夏の仕事に「営業」がありましたが、それはお客さんと接することができる貴重な時間でもあるようです。

営業同行やイベント参加というお客様と接する機会も与えて頂く事があり、厳しいご意見も含めて直接お客様の声を聞けるというのはやはり嬉しい。
勉強会への参加、他の蔵への見学での新たな視点・知見、新たなご縁、久々の再会。

<土田酒造 杜氏 星野元希さん/醸造期間:9月〜6月>

年一回お客様に会える唯一の機会、新規お取引の開始のご挨拶などもあり、いろんな方に会えて活力を得られる😊

<長州酒造 執行役員杜氏 藤岡美樹さん/醸造期間:9月〜7月>

Q4:蔵人の「夏の思い出」は何?

酸いも甘いも、さまざまな体験がある蔵人の夏。最後に「夏の思い出」を聞いてみました。

家族サービス(子守り、プール、川遊びなど)をする事で冬季とのバランスを取る

<匿名希望 蔵人/醸造期間:10月〜3月>

製造部全員(5名)で渓流釣りに行ったりもしました。北海道の豊かな自然を満喫しながら渓流でヤマメを釣り、それと共に自分の造った酒を飲むのは格別です

<福司酒造 製造部長 梁瀬 一真さん/醸造期間:10月中旬〜5月上旬>

冬季は酒造りに縛られる生活となり、交際相手、家族との時間が無い為に夏季のイベントやレクリエーションに対して貪欲に行動する結果となり沢山の思い出が有り、書ききれません

<田中酒造店 通年雇用 杜氏 盛川泰敬さん/醸造期間:10月〜5月>

冬に仕事が集中するゆえに、思いっきり夏を楽しもうとされている様子がうかがえます。また、夏の期間は「酒造りの勉強」の期間としても大切のようです。

作(清水清三郎商店)さんで完全四季醸造し、真夏の酒造りを体験。
真夏に酒を作る経験をさせてもらい、とても勉強になりました。
忘れられない夏です

<長州酒造 執行役員杜氏 藤岡美樹さん/醸造期間:9月〜7月>

研修の後に実施される同業他社との飲み会やBBQはとても楽しく、有意義な時間となります

<大手メーカー 蔵人 匿名希望/醸造期間:9月〜6月>

今年の夏、2年半ぶりにベトナムに行き、麦焼酎の仕込みを一緒に行いました。行けなかった2年半で習得した片言のベトナム語と勉強したお酒の知識でベトナム人蔵人たちとのコミュニケーションが一層深まり、この2年半は無駄じゃなかったと感慨にふけってました。

<フエフーズ 蔵元 才田善郎さん/醸造期間:2月上旬(旧正月明け)〜4月下旬>


結論、日本酒蔵の蔵人さんは、夏も大忙し!

冬季集中の酒造りは今や昔、みなさんがっつり夏も働かれていました。酒蔵といえど「企業戦士」なのだと改めて実感しました。

また、いち日本酒好きとしては、酒蔵の人が営業に力を入れている夏は「イベントなどで造り手さんとお会いできる絶好の機会」です。お酒を片手に、造り手の方の話を聞きながら飲むと、一層そのお酒を好きになりますよ。


日本酒蔵のみなさま、お忙しい中(本当に夏の多忙な時期に)アンケートにご回答いただき、ありがとうございました!!

酒蔵さん紹介(五十音順)

今回ご協力いただいた酒蔵さん(公開OKな方に限る)を紹介します

下村酒造店(兵庫)

田中酒造店(岩手)

長州酒造(山口)

土田酒造(群馬)

フエフーズ(ベトナム)

福司酒造(北海道)

宮泉銘醸(福島)

村井醸造(茨城)

アンケート記事はこちらも!


もちろん、お酒を飲みます。