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旅の途中で…(ベルリンに行くはずが危うくフランクフルトに漂着しそうになった話)

 旅にハプニングはつきもの。その一つで忘れられない思い出となった出来事を書いておきます。
 

 それは2019年の12月のこと。ベルリンのクリスマスマーケットを巡る予定にしていました。出発地のミュンヘン中央駅に着いて予定の列車がでる15番線に向かうとすでにICE(ドイツの高速列車)が待っていました。出発まではあと1時間ちょっとあったものの、座席予約を入れていなかったので早めに来て正解!と意気揚々と乗り込みました。(確かに電光表示もベルリン行きと出ていたと記憶しています。私の名誉のためにも出ていたと信じたい。。。)


 さて、座ってしばらくたっても誰も乗り込んでこない。おかしいなと思いつつも、まあ大丈夫だろうという根拠のない確信を持ったまま座っていましたのですがもやもやとした不安感は大きくなるばかり。まずは降りて様子をみてみようとドアの開閉ボタンを押すと、なんと開かない!げっ、と思って別のドアのボタンを押してもやっぱり開かない!!

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 げげげっ、と思っているうちに、あれれ、列車がホームから動き出すじゃありませんか。乗客が誰もいない列車でドアをたたく自分と目の前から去っていく中央駅というおまぬけな構図はまるでドラマを見ているかのよう。げげげげげーーーーっ、どうしよう、どうしようと心の中だけでなく口に出さずにはいられなくなっていても走り続ける列車。夢ならさめてくれと思ってもこれは現実。


 見慣れたビルを過ぎてぐいんと列車は左へカーブし、東へ向かっているというのは分かりました。ザルツブルク方面かとがっくりしながら頭の隅をかすったのは格安で買った列車のチケットとホテルの予約。「どちらもおじゃんですか・・・トホホ」


 いや、待てそれどころじゃないのかもと思い始めたのは子供の絵本「きかんしゃやえもん」の話がよぎりだしたから。「今は普通に走っていても、この列車に故障があったとして、点検で暗ーい車庫に入れられて、数日間も放置されたら。。。。ひえええ、どうしようー」

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  だんだん悲観的になる自分の心をなだめて唯一存在しているはずの運転士さんをつかまえようと前に進みました。運転車両に到着してバンバンと力の限りたたく!応答なし。もっとたたく。全く反応なし。(あとで分かったのはこういう高速車の運転台は普通の列車とは違って二重の扉と空間で遮られているということ)

 どうしようもなくなって、ドイツ鉄道(ドイチェバーン)に携帯電話で連絡すると折り返し鉄道警察隊から電話がありました。

「どこにいますか?」                       

「列車の中です。乗客が誰もいないんです。すみません、すみません。警察はほかのことで忙しいのに私のような間抜けのためにお手をわずらわせてしまって。本当にすみませんっ」

ひたすら謝る私に対して応対してくれた若い警官は「大丈夫ですよ。気にしないで。あなたのような人は最初じゃないですし、きっと最後でもありませんからね。とにかく列車から降りちゃいけません、運転士が出てくるのを待っててください」となだめるように言ってくれたので「ありがとうございます。本当に本当にすみません」と再度平謝り。「大丈夫ですよ。もし何かあれば電話してください」と言って会話が終了しました。


 ホッとして気が抜けたようにしていたら列車が止まりました。よかったー。そして運転車両のドアが開いて運転士さんが出てきたのでした。私を見て幽霊に出会ったかのようにぎょっとして「何でここにいるの」と一言。(そりゃ向こうもさぞびっくりしたことでしょう)

 これこれしかじかでとかいつまんで説明すると「そうかい。この列車は回送列車でフランクフルトにこれから向かうんだよ。最寄りの駅で降ろしてあげよう」とのこと。

 そして進行方向を変えるために、最後方に連結されている機関車に向かって2人で列車の中を駆け抜けました。そして私を客車に残すのかと思いきや、運転士さんは「ほら、運転台の横に乗って」と私をいざなってくれたのでした。

             なんたる幸運。

 今までのことがすべて吹き飛んで気分はご機嫌さん。だって実際に走行している高速列車の運転台に乗るチャンスなんて一生あるかないか。人生の数少ない自慢話の一つにできるじゃないですか。

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 鉄道好きの小学生の気分で道すがら運転士さんにもう一度経緯を話すと「そりゃあっちゃならないこと。ドイチェバーンが悪いね」と私の間抜けぶりを責めることなく聞いてくれ、この列車がフランクフルトに回送されて車内清掃した後でまたお客さんを乗せるのだと説明してくれました。

 このままフランクフルトまでいってもいいなあなんて上機嫌なところで列車はストップ。運転士さんが私をおろしてくれました。「転ばないように気を付けて。あそこの階段からプラットホームに上がれるから」。最後にありったけのお礼の言葉を伝えて、運転士さんに手を振りながら線路の砂利道をダッシュして駅に上がり、ベンチに座ったのは列車がくる15分前。無事にベルリンにその日予定通りにたどり着いたのでした。

 旅に出るのは時に億劫になります。家にいたら降りかかってこない面倒なハプニングも時に起きる。でもえいっと日常から飛び出すことで貴重な体験をしたり思いがけない人の優しさに触れることができるー旅にはそんな魔力があって、それを味わうために私はまた次の旅に出てしまうのです。

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