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『グレイス・イヤー』感想

めちゃめちゃ面白かった!まごうことなきフェミニスト・ディストピア小説。読み終わるのが名残惜しくて最後のほうはチビチビ読んだほど。

女同士が連帯しないよう制度がシステム化され、いがみ合うように仕向けられているなかで、グレイス・イヤーを終えたあとの女の子たちの変化や、ティアニーの見えている光景が変わっていくところが胸熱。

『侍女の物語』『蝿の王』『ハンガーゲーム』が引き合いに出されているけど、わたしは『蝿の王』『ハンガーゲーム』を読んだことがないので、フェミニズム版『バトル・ロワイヤル』(高見広春)じゃん……!と思った。

この本は「フェミニスト・ディストピア小説」と宣伝されているが、どのようなところが女にとって「ディストピア」なのか?
(あまりネタバレになるのも面白さを減じてしまうので電子書籍の試し読みできる範囲で)明らかになるのは次のようなしきたりや禁忌だ。

・舞台はガーナー郡という架空の場所。
・女の子たちには特殊な能力があって、寝ている大人の男を誘惑したり、若い男の子の理性を失わせたり、妻たちを嫉妬に狂わせたりすることができると言われている。
・魔力を使い果たして「清らかな女性」になるために、16歳のすべての少女たちは通過儀礼として森の奥のキャンプに一年間追放されて生活することになる。この一年をグレイス・イヤーという。なぜか、すべての少女が無事で帰ってこられるとは限らない。
・女は<より弱い性>と呼ばれ、発言権がない。
・グレイス・イヤーを迎える16歳の少女たちは街を練り歩かされ、それを求婚資格のある男性(地位や身分のしっかりした家に生まれた男の子、“魔力”のある妻に先立たれた高齢男性も含む)たちが品定めしたあと、本人の同意なく家畜のように取引される。選ばれた女の子は自分の父親からヴェールをかぶせられ、翌日になってヴェールが相手にめくられ、初めて自分を選んだ男性を知り、それが結婚の約束になる。選ばれなかった女の子はいてもいなくても変わらない存在として労働所送りになる。
・女は全員同じ髪形をしなければならない。顔にかからないように髪を後ろでまとめて、三つ編みにして、背中に垂らす。そうすれば隠し事ができなくなると男たちは信じている。結ばれるリボンの色は属性によって変えられる。白は幼い女の子(純潔)、赤はグレイス・イヤーを迎えた女の子(血)、黒は妻(死)を意味する。
・グレイス・イヤーで行方不明になった場合にはその妹がアウトスカーツ(場末)に追放され、娼婦として生きることになる。
・夢を見ることは許されていない。夢の内容によっては絞首刑に処される。
・女たちが集まっていっせいになにかをすることは禁じられている。

読み進めるにしたがって、いかに女たちにとって自由がない状況なのかがどんどん明らかになっていき、こういう社会システムでどういうふうに女性たちが扱われて順応し、またグレイス・イヤーの少女たちがいがみ合っていくのか、人間関係がつぶさに描かれていく。

わたしたちが女の子たちにしていること。ただ引きずり下ろすために祀りあげるのであれ、部品や穴として利用するのであれ、わたしたちはみんなそこに加担している。けれどもあらゆるものがほかのあらゆるものに通じているのだから、わたしはこうした破壊からきっとなんらかの善意が生まれると信じたい。

p.446

本書における、ガーナー郡のしきたりや禁忌、そして女同士の対立は露悪的に誇張されているものかもしれないが、たしかにミソジニーが根付いている現代社会や家父長制の延長線上にあるもので、まったく他人事とは思えなかった。
中盤までは割とつらい描写も多く、楽しい気持ちだけで読み進められるような内容ではないとは思う。それでも続きが気になってページが止められないほど面白い物語に落とし込めた作者の力量に感服した。YA小説のようだが、大人もじゅうぶんに楽しめる作品だと思う。ユニバーサル・ピクチャーズで映像化されることも決定しているらしいので楽しみ。★5です!

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