十二国記④『華胥の幽夢』『黄昏の岸 暁の天』『丕緒の鳥』初読時の感想 (ネタバレあり)

以下、ガッッッツリネタバレしているので未読の人は要注意です!!

前回までの感想はこちら。

十二国記①『魔性の子』『月の影 影の海』初読時の感想(ネタバレあり)|Gwen (note.com)

十二国記②『風の海 迷宮の岸』『東の海神 西の滄海』初読時の感想(ネタバレあり)|Gwen (note.com)

十二国記③『風の万里 黎明の空』『図南の翼』初読時の感想(ネタバレあり)|Gwen (note.com)

読んでいる順番は以下の通り。

丸善ジュンク堂書店劇場さんの投稿
(https://x.com/junkudo_net/status/1337557792497020935)に添付されている画像より

『華胥の幽夢』(エピソード7)短編

短編集なので実況は省略して、それぞれのタイトルごとの読了後の感想を載せます。

冬栄

泰麒くんの「はじめてのおつかい」のようで、泰麒のモンペにはたまらない公式スピンオフだった。毎回思うけど泰麒くんもうちょっと自信持って〜〜!!って応援したくなってしまう。なんとなく泰麒のMBTIはIから始まりそうな気がするよ。
廉王(鴨世卓)が気さくすぎてびっくりした。「仕事は自分で選ぶものです。お役目は天が下すものです」(p.50)ほえーなるほど。
「泰麒のお仕事は、大きくなることです」「子どもはそういうものでしょう?」(p.58)に100000%同意!!😭

乗月

月渓(げっけい)が峯王を弑逆した後の芳国の話。祥瓊のその後が気になってたからありがたいです。想像以上に月渓が思ったよりもいい人だった。こういう人が国を仕切るのに向いていると思ったんだけど固辞しちゃってるのは残念。権力に積極的じゃないほどその役職に向いてる的なジレンマがありそう。王が不在の期間のことを「偽朝」ではなく「月陰の朝」というネーミングで月渓がポジティブにとらえて納得してくれてよかった。
最後、供王からの伝言がすごいハッキリしつつも思いやりをみせていて、ここでも正論マンっぷりを発揮していた。さすが12歳で昇山しただけあるわ。

書簡

扉絵の楽俊だけでもう優勝。可愛すぎる。楽俊の大学ライフが垣間見えてわたしは嬉しいよ🥺楽俊の文張ってあだ名は父親と同じだったのね。
陽子が楽俊の母親に会っても王様業の事黙ってたのが面白かった。楽俊は巧国出身だけど、成績優秀だし部下のコーチングもできそう(※『風の万里 黎明の空』の感想参照)だから、雁からも慶からもスカウトされそうだね。

華胥

わたしの感想文の長さから分かるようにこの『華胥の幽夢』でいちばん気に入ったタイトルで、才国の采麟が失道してしまっているのでは……?っていうところからの話。麒麟が失道するってどんな感じか気になってたわ。采麟8歳って泰麒よりも小さいんだね。そんな小さい子が病んじゃってて胸が痛いわ……

砥尚としょうは最初は王としていい感じじゃん✨って思ってたんだけど、だんだんと(んんんんん?実はそうではないのでは??こりゃあ失道やむなし)と思うような言動が増えたり、途中で砥尚の父親が殺されてサスペンス的な展開になるところがスリリングだった。
今まで挫折した事の無い有能な人が考える理想郷にはそうじゃない人の居場所が無いのか……となんだか分かるような気がした。

遺言の「責難は成事にあらず」(人を責め、非難することは、何かを成すことではない/責難するは容易い、けれどもそれは何かを正すことではない)は自分への戒めにもなるし、ダメな左翼ムーブを風刺しているみたいでドキッとした。こんな社会派サスペンスも十二国記で読めるなんて……!

「人を責めることは容易いことなんですよね。特に私たちみたいに、高い理想を掲げて人を責めることは本当に簡単なことです。でも私たちは、その理想が本当に実現可能なのか、真にあるべき姿なのかをゆっくり腰を据えて考えてみたことがなかった気がするんです」

『華胥の幽夢』p.291 青喜のセリフ

キャラクターのなかでは青喜くんが名探偵っぷりを発揮していてファンになった。機転が利くし優しいし賢い。青喜と楽俊を部下にすればきっと安泰だよ。
王である砥尚の叔母の慎思しんしが最後に「黄姑こうこ」って呼ばれてた場面で次の采王が明らかになるという演出もドラマティックで素晴らしかった👏🏻映画か……??
こんなに密度が濃い話を短編にまとめられた作者の構成力がすごい。拍手👏🏻

帰山

雁国の利広が主人公。
風漢って尚隆(延王)の別名じゃん!(『東の海神 西の滄海』参照)
奏国も雁国も自分で現地に行って傾きかけてる国を調査するんですね。奏600年、雁500年はハンパないっす!
利広と風漢がお互いの国の終末を想像してるのがエモかった。というか不死の存在が何百年ものあいだ色んな場所で偶然会ううちに気の置けない顔見知りのようになったという設定はグッドオーメンズと同様に萌える要素しかないのよ。

「俺は碁が弱くてな。だがたまに勝つこともある。勝つと必ず碁石を一つ掠め取っておくんだ。それを溜め込んだのが八十と少しある」
利広はその場で立ち竦んだ。
「……それで?」
「それだけだ。たしか八十三まで数えたのだったか。それで――阿呆らしくなった」
利広は噴き出した。
「それは、いま?」
「さあ。捨てた覚えはないから、誰ぞが始末していなければ、ねぐらのどこかにあるだろう」
「いつの話だい、それは」
「二百年ほど前だ」

『華胥の幽夢』p.322 風漢の囲碁エピソード

っていうのは何かの伏線なのかな?わたしが読み落としちゃってるだけ???

載に偽王が立ったという噂で泰麒と驍宗が心配😭「冬栄」ではあんなに楽しそうだったのに……
景王の初勅の話が出てきたり、備蓄を割いてまで芳を援助する気満々の供王の話が出てきたり、今まで登場した色んな国の様子を知ることができて面白かった。

『黄昏の岸 暁の天』(エピソード8)

実況

・泰麒😭角~~~~!!😭冒頭からつらすぎる😭
・白汕子も異界に行っちゃった……ハッ、これが『魔性の子』に繋がるわけか!
・劉李斎は『風の海 迷宮の岸』に出てきた女性の将軍だ!
・驍宗6年もどこ行ったんすか……
・李斎に花束をあげる10歳の泰麒くんキャワワキャワワ
・「台輔は景台輔のことをもても慕っていらっしゃるふうで」って李斎にいわれて困惑する景麒ワロス
・ここで登場人物の整理
巌趙がんちょう禁軍左軍の将軍 巨躯
英章えいしょう禁軍中軍の将軍 巌趙と同じく驍宗軍の師帥(しすい) 若手
霜元そうげん瑞州師左軍将軍
阿選あせん禁軍右軍将軍
驍宗、王師将軍の頃から頼もしいわ~~~
・盾に羊の白い綿を貼るってそんな発想普通湧かないっしょ そりゃ「轍囲(白綿)の盾」ってことわざうまれるわ
・鈴と祥瓊が仲良いのなごむ☺
・えー泰麒が漣に行ってた「冬栄」の間に粛清してたのか……怖……
・李斎の不吉な予感、当たってそう(p.121)
・花影と李斎って若干百合っぽくない?
・驍宗が3年くらい黄海で黄朱の徒弟(弟子)になってたとか初耳!(驚)
・完璧にみえる驍宗のやり方だけどなんか不穏
・泰麒が「魔性の子」の世界に入っていったかが書かれてる。高里くん!
麒麟が肉を食べたら治り悪くなるのか…「治癒を決定的に損なう」なんて。
・陽子が早まる前に「覿面の罪」を延王から教えてもらえて良かった(p.164)
・えーん、王も台輔も同時にいなくなったから載国が大混乱だよ〜〜
ひとりで二声宮に行って白雉の足を持ってきた阿選が怪しくない?阿選が御璽を隠してるんじゃないの〜?(疑いの眼差し)
・やっぱ汕子がいちばんのモンペだった😇(p.231)
陽子の「王がいなくても民が救われるような道を敷いておきたい」(p.263)、もしかして十二国記ワールドに国連を作ろうとしている……?
・恭と範と才と漣と奏の協力が得られていざ泰麒捜索だ!!(p.277)
・覿面の罪の描写がひどすぎてドン引きした(p.285)
・「天の定めた摂理」ってなんかのプログラムなのかな・「天の条理に背けば、あらかじめ定められた報いが発動するよう、身体の中に仕組まれている」(p.288) やっぱりプログラムっぽい
・天の条理の隙をついてどうにかできないか試行錯誤してるのは法解釈してるみたいだし、玉葉は条理の解釈と前例集が載ってる判例集的なのを一夜漬けで読んだですんか?
・新キャラの範国氾王(呉藍滌ごらんじょう)が出てきた👑
氾王って女装子なの?美意識高すぎ&ハイセンスでキャラ濃いし尚隆の天敵とか癖強w 氾麟は「外見は飾っておきたいような美少女だが、その中身は延麒」らしいwwwやんちゃなのかなwww
現パロの氾王はウエスト細すぎてレディースのデニム履いてる中性的なタイプになりそう。
・十二国記システム、明らかになんかおかしいよね(p.388)
・李斎、玉葉にガチ切れである
泰麒おかえり😭😭😭初めて陽子にあったんだね(意識ないけど)
・西王母ほんとにいるんだ……
・リトル泰麒くんがいきなり青年泰麒(高里くん)になってたらそりゃ困惑するわな。わたしも困惑してるもん。
陽子は国連じゃなくて大使館を作ろうとしていた――!!
・からの突然の謀反!!!
「――抵抗ぐらい、なさって下さい!」って言った景麒は今まででいちばん慌ててた説(p.436)
・浩瀚がブチ切れて謀反人をめちゃくちゃ許せない理由を列挙してるのワロタ。超早口で言ってそう(p.445~p.446)

読了後

これは『魔性の子』B面ですな。魔性の子を先に読んでおいて良かったし、これを読んだ後すぐに『魔性の子』と『華胥の幽夢』「冬栄」を読み返した。あと様々な国の麒麟が泰麒発見の為に集まる麒麟アベンジャーズ感があった。『魔性の子』で「キを知らない?」って必死に泰麒を探し回っていた廉麟や氾麟が蓬莱(日本)で怪談みたいになってたのね。なるほど。
蓬莱国に麒麟はいないから「高里くんを知らない?」って言わないと伝わらなかったよね💦(←マジレスのクソバイス)

李斎が玉葉にガチ切れしてたところら辺など、この巻ではよくよく考えると何でそんな民に苦労させるの?っていう不合理な十二国記システムに、登場人物たちがうっすら疑問の不信感を持つようになっていてメタっぽかった。(←小説内の人物がこれは物語だと自覚するような感じ)
天の条理から抜け穴をみつけてうまく覿面の罪を回避して事を進めようとしていて、天の条理ってゲーム内のキャラクターに指定された役割外の行動を厳しく規制するようなプログラムみたいだね。
十二国記の世界が実は天帝のプログラムした箱庭だったらどうしよう!
この世界で神に近いような存在(?)の西王母も出てきたことだし、十二国記の世界の謎も深まってきた。

泰麒が戻ってきたのは良かったけど、西王母に清めてもらったとはいえ角は無いままだろうし、驍宗は相変わらず行方不明だし、載はこれからどうなっちゃうの~~~~~???😭😭😭
なんで急に裏切ったのか阿選サイドの心理描写や泰麒と李斎が載に戻った続きは他の巻で書かれるのかな?
わたしの好きなリトル泰麒くんが陰のある高里青年になってて、その成長っぷりに寂しくなったから、ちょっと蓬山保育園きりん組の卒アル眺めてくるね……(幻覚)

『丕緒の鳥』(エピソード5)短編

丕緒ひしょの鳥

大射たいしゃという王宮イベントで使われる陶鵲とうしゃく(弓で射抜かれることが目的として使われる陶器でできた鳥)の描写がただただエレガントで雅だった。

それ自体が鑑賞に耐え、さらには美しく複雑に飛び、美しく飛んで射抜かれれば美しい音を立てて華やかに砕けて楽を奏でるよう技巧の限りを尽くした。果ては砕ける音を使って楽を奏でることまでがなされる。

『丕緒の鳥』p.18

すごい。超美麗。(突然だけどこういうエピソードが好きな人は、大小さまざまな数え切れないほどの楽器で500年に一度の曲を国をあげて演奏するというドでかスケールの壮大なSF『零號琴』も好きだと思う)

あと、陶鵲を作ったり過去の作品を研究したり新しくデザインを考えるような仕事がかなりわたしの理想的な職業だった。こういう仕事に就きたい。
人とあまり関わらないで黙々と自分のペースでできる職人仕事いいなぁ……

えーと何の話だっけ。
そうそう、わたしはこのエピソードのキーパーソンを蕭蘭しょうらんだと思っていて。

「決して現実に正面から向き合う方ではありませんでした。背を向けて、自分の両手とだけ向き合ってこられた方です。ただ、だからと言って現実を拒んでおられたわけではないと思います」
(中略)
現実を拒む、とは丕緒のような閉塞の仕方を言うのだろう。官邸に籠って無為に時を数えるような。世界に背を向け閉じこもっていたのは蕭欄も同じだったが、蕭蘭は陶鵲を作ること、両手を動かしてそこに喜びを見出すことをやめなかった。いまになってそれこそが蕭蘭なりの、世界と対峙する、ということだったのかもしれない、と思う。

『丕緒の鳥』p.64

こういった姿勢はともすると「ていねいな暮らし」として戦時下や非常事態下のプロパガンダにも利用されそうな危険性があるものの、一方では世界との向き合い方は人それぞれであってそのことについて発言していないからといって必ずしも全く考えていないわけではないということだと感じた。

落照の獄

現代にも通じるような、死刑廃止論についての短編だった。内容がヘビーだし後味が苦い。
「実は殺刑には、犯罪を防ぐ効果などないのだ。残念ながら、刑罰を厳しくすれば犯罪がやむというものではない」(p.86)という瑛庚えいこうの発言があったけど、あまりに残虐な事件の場合は死刑にしないと司法への不信のもとになるのでは……?

あと、ある程度以上の罪を犯すたびに、1回目と2回目(再犯)は髪を伸ばせば隠れる頭の部分に、3回目(再々犯)からは左右のこめかみとか目の下などの目立つところに刺青を入れるという刑罰(=黥面げいめん) p.96 があった。
だんだんと薄くなって10年くらいで消える墨(沮墨そぼく)を用いるので、罪人が真摯に反省して行いに気をつければだんだん刺青が消えていくけれど、10年経たないうちに再犯すると刺青が描き足されて消えるまでに必要な時間がどんどん長くなるという設定の刑罰はなかなかいいアイディアだと思った。
性犯罪者にはそのシステムを導入してバンバン顔に刺青入れて欲しい。見ればすぐ分かるから危険を避けられるし。

「ここで殺刑を復活させることは、傾いた国に民の生殺与奪の権を与えることにほかならない。前例があれば、国は自らの都合でいくらでも殺刑を濫発できる」だからこそ、殺刑は避けたい。(p.101)と瑛庚が殺刑を躊躇う理由はなんだか分かるような気がする。
わたしは死刑廃止論についてそこまで深掘りして考えたことがないので、まだ自分の意見がふんわりとしていて定まらない……

青条の蘭

石のように固くなって枯れてしまう山毛欅ぶなの薬になる植物を集めるプラントハンター・標仲ひょうちゅうさんが仲間とともにめちゃくちゃ頑張る話。
枯れそうな山毛欅の薬になる、蘭のような植物の群生を見つけてから、それを枯らさないよう持ち帰る試行錯誤してるうちに2年も経っていたなんて……!!自分なら心折れるわ。

よくある話だ。里府を維持する税収がない。税を取立てても上に吸い上げられて里には実入りが残らない。里府の役人は食い詰めて離散し、府第やくしょは機能を停止する。そのくせ納税の時期になると、上のほうから小役人がきちんと派遣されてくる。本来ならばそういう里にこそ上から補助が下されるはずだが、下に降りてくる金は流れのどこかで消えてしまう。

『丕緒の鳥』p.196

あれ、これは現代日本かな……???という描写もあった。

蘭の苗を育てて研究してた仲間もすごいけど、標仲さん、なにがなんでもその成果を王宮に持っていくという責任感がすごすぎる。
(かかった手間や時間の膨大さともし間に合わなかったときの絶望感を思うとプレッシャーになるのもわかる)

終盤は善意のリレーになってて胸熱🔥走れメロスみたい🔥
「とりあえず王様に届ければいいんでしょ?!」ってノリでみんな真面目に急いで届けてくれるの優しい。脳内BGMで「サライ」が流れてたよ……

最後、枯れそうだった里木に新しい実がなっている場面
=王が新しい実がなるように祈りを捧げた
=つまり丸太についた苗が枯れる前に間に合ったということ!!&祈りが届いたなら国中に実が生って枯れそうな山毛欅が助かることになる🌳
と分かる遠回しな描写が粋(?)だった。
(※わたしの解釈なので異論は認めます)

風信

「すべての女は国から出なければ行けない」という無茶苦茶なお触れで母と妹を殺された主人公の蓮花れんかが、その王が亡くなってから自然を観察して暦をつくる役人たちの手伝いをするうちに希望を見出していく話。
仕事柄セミの抜け殻とか花粉を数えるのに夢中で浮世離れしてるおじさんキャラが多め。地味にみえる仕事でもそういう人たちのおかげで作られた暦が無ければ農家の人は困っちゃうよね。

以上です!
『丕緒の鳥』は全体的に歴史小説のような雰囲気の渋い話が多かった。

十二国記を順調に履修していって、残りがあと『白銀の墟 玄の月』1・2・3・4(エピソード9)だけなので読み終わってしまうのが寂しい🥺
リアルタイムで追ってた人は『白銀の墟 玄の月』が出るまで十何年も待ってたことを考えると、一月から読み始めたポッと出のニワカがこんなにあっさり『白銀~』に手を出していいんでしょうか……?🥺

いよいよ次の『白銀の墟 玄の月』でラストです!!


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