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#2023映画ベスト10

 “これ”やってる時が一番年末を実感します。今年も観た映画の棚卸の回です。選考対象は「私が劇場で鑑賞した」「2023年日本公開の劇場作品」からの10選です。数年前に配信部門を設けた方がいいのでは?と思いついたまま、なんも動いていない。

 そう、2023年は「動いていない」一年だった。人生のライフイベントに大きな変化がなく、病気や怪我にも見舞われなかったが、その代わり何も進歩しなかった。やらなければならないことに目を伏せ言い訳を重ね、こうしてまた一つ年を取る。もしかしたら今年した冒険と言えば、映画だけかもしれない。あらすじも予告編も一切観ないまま、評判だけを頼りに観たら大当たりだった、みたいな。そういう作品が何本か含まれます。当ててみてくださいね。

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10位 『オオカミ狩り』

 “あらすじも予告編も一切観ないまま、評判だけを頼りに観たら大当たりだった”枠その1。評判というか、主演俳優の「顔」目的で観に行ったら、思わぬ拾い物だった件。

 本作が素晴らしいのは、複数のジャンルを行き来するサービス精神。映画の基本技法で言うところの三幕構成に従うのなら、第一幕は囚人たちの脱獄から始まる船上サバイバル、第二幕はその囚人たちが追いかけられる側に転じるスプラッタホラー、そして最終幕は思いがけぬヒーローのビギンズものへと展開がシフトしていく、その娯楽性の高さ。ソ・インググが悪逆非道の限りを尽くしたと思いきや『犯罪都市』のチョン・イルマン班長がムキムキのターミネーターになって襲ってきて、ラストは序盤からただならぬ雰囲気を醸し出していたチャン・ドンユンの美青年が実は……という、サプライズにサプライズを重ねた映画のオモシロ幕の内弁当。

 振り切ったゴア描写も鮮烈で、劇場の重低音でなければ魅力半減間違いなしのドスの効いた足音にひぃひぃ言わされながら観た『オオカミ狩り』は、上半期一番のダークホースだった。韓国映画、マジで隙がない。

9位 『BLUE GIANT』

 ジャズには明るくないし、ぶっちゃけ専門外で、この映画についてどうこう言うのも憚られるけれど、私にとって本作は“2023年のレヴュースタァライト”だった。二度とは巻き戻せないステージ、その場一回限りの演奏で、己の全てを出し切るような青い炎。建前も見栄も全て取っ払って、それこそ「客の前で死ぬ」ようなプレイにこそ演奏者の魂が宿り、観客の心は震える。野生であれ、と言わんばかりに煽り立てられ、それに全力で応えてくる沢辺雪祈の力強い打鍵は、忘れがたい感動を覚えた。これがもう劇場で観られないというのは、とても寂しい。

8位 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 映画の醍醐味と言えば「一体どこに連れて行かれるのだろう」という未知への期待があると思うが、その意味では本作がダントツナンバーワンだ。映画史に残る奇作『スイス・アーミー・マン』の監督とA24が贈る、カンフー・マルチバース・エヴァンゲリオンをミキサーにぶち込んで作ったスムージーのような、信じられない一作。マジで、これ以外の本作を形容する語彙は自分にはない。とんでもなくドラッキーで、気が触れそうだったし、でも気づけば『BLUE GIANT』と同じくらい泣いていた。

 見た目こそ奇抜だけれど、中身はとにかくミニマムで愛おしい。思い通りにならない社会と思い通りにならない家族、そんなモヤモヤを蹴散らしたり、時に抱きしめたりしながら、拳を交え相互理解を深めていく。人間は愚かな生き物だが、誰かを愛し、その愛を受け取ることができる。生きるって、多分そういうことなんじゃないかな、知らんけど。当時の自分がなんかイイこと言ってたので、その言葉で締めておこう。

そもそも、マルチバースを幻視せずとも、私たちの日常はカオス(混沌)で不条理なのだ。領収書と請求書はどれだけ整理しても机は片付かないし、納税の手続きは煩雑だし、人間関係や仕事は上手くいかない。そんな現実に嫌気が差して、何もかも(Everythingを)投げ出してしまいたくなることもある。ただ、混沌の中にも嬉しかったことや喜びの時間が確かにあって、それらが全て「他者を愛する」という気持ちに紐付いているんだよ、というメッセージはその広大な世界観とはチグハグなほどに小さく普遍的で、しかしそれが難しいということを真正面から描いている。難しいからこそ、相互理解に向けて一歩踏み出そうとする人間の姿が、愚かしくとも愛おしい。私がこの映画を『エヴァンゲリオン』と絡めて語らずにはいられないのは、心を傷だらけにしながらも他者の温もりを求め続けた、第3新東京市に生きる彼らの姿を思い出してしまうからだ。

実写版エヴァンゲリオン、あるいは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

7位 『SISU 不死身の男』

 作品を評価する時に「格調高い」という言葉を使う機会はあるだろうか。意味を調べてみると、“気品に満ちているさま、品格のあるさま”とのことだが、なるほど、この映画を形容するのにピッタリだ。

 第二次大戦末期、フィンランドで金脈を探す老兵アアタミ・コルピは、金塊を運ぶ最中ナチスの軍隊に襲われ返り討ちにするが、ナチスの追手は止まらない。本作の物語は、それだけだ。シンプルイズベスト。めちゃくちゃに屈強な男がツルハシでナチスと闘い、金塊を換金するまでのお話。それなのに、この映画からは硝煙と血の匂いだけでなく、気品と誇り高さが感じられる。

 思うに、この映画は「伝説」なのだ。アアタミ・コルピなる一人の男が死地を巡り、不遜な者には鉄槌を、奪われし者には救済をもたらしていく。劇中わずか一つしか台詞のないアアタミに代わって、その偉業を見たものが彼の生き様を伝えていく。我々はそれを見て、語り部の一人となる。SISUとは何か。その言葉の意味を知るための旅に、私はひどく興奮し、とあるチャプタータイトルで思わずガッツポーズした。

 この映画を観た際の感動をお伝えするのはひどく困難だが、公式サイトに載せられているレビューやあらすじの様子がおかしいことからも、本作が只事ではないことが伝わるはずだ。あの伝説的傑作『マッドマックス 怒りのデスロード』の親戚とも呼ぶべき神話を、ぜひお見逃し無く。

6位 『ゴジラ−1.0』

 平成VSシリーズをVHSで観て憧れ、ミレニアムシリーズを全て劇場で追ってきた身として、「ゴジラは銀幕スタァである」という持論に取り憑かれているのだけれど、山崎貴監督は近い思想をお持ちだったらしい。銀座での一大スペクタクルシーン、物語的にも必要のない「日劇を執拗に破壊するゴジラ」なんて好事家しか喜ばないアクションをわざわざ入れてくるような作品を、どうして嫌いと言えようか!そしてトドメと言わんばかりに「進撃する船と共に『ゴジラ追撃せよ』が流れる」のだから、他の欠点を補って余りある𝑩𝑰𝑮 𝑳𝑶𝑽𝑬……に涙腺をドバドバ破壊されたのでぼくの負けです。

5位 『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』

 阪元裕吾監督の手掛ける会話劇や間の作り方にメロメロなわけだけれど、一作目ですでに完成した趣さえある“ちさまひ”に対して、それに見劣りしないどころか瞬間では勝ってる新規の関係性を見せつけられるとは、予想外だった。「非正規の殺し屋」という世知辛い立場の中で、なんとか這い上がろうとお互いを鼓舞しながら主人公二人に迫る神村兄弟。この二人が愛おしくて、本当に死なないでほしいと祈りながら観ていた。叶うことなら、ずっとこの兄弟が定食屋で毎日お腹いっぱい食べられるような世界になってほしい。貧困によって殺された二人の男の、切なくもいじらしいドラマに、胸が締め付けられている。

4位 『アイカツ! 10th STORY 未来へのSTARWAY』

 時折、好きだったコンテンツに人生を肯定される瞬間、というものがある。ずっと待ち望んでいた続編がめちゃくちゃ面白かった、もそれに当たるかもしれないが、時に映画がこちらに話しかけてくるタイプも存在する。例えば、『映画 HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』『平成ジェネレーションズFOREVER』がその代表格なのだが、その最新作が『アイカツ! 10th STORY 未来へのSTARWAY』である。

 私個人としても2021年から後追いでシリーズ作品を観始めて、その集大成となる本作(と2月のライブ)に立ち会うことが出来たのだが、木村隆一監督曰く「かつてアイカツ!が好きだった子どもたち」に向けられた作品は、そんな自分にも深く深く刺さった。同じく10年の成長を経たアイドルたちが、青春時代へと別れを告げそれぞれの道へと進み、大人になった姿として映画館で再会する。そこで投げかけられた言葉は、これまで生きてきたこと、その道中の喜びも悲しみも全部抱きしめてくれているようで、アイカツ!と出会えてここまで来られた全てを肯定してくれる、凄まじい感動が待ち受けていた。

 シリーズ愛ありきの感動である以上、他の作品と同じ土台でお薦めすることは難しいけれど、「自分の人生に1秒でもアイカツ!があった人」ならば、何よりも優先してみるべき作品。いちごちゃんたちにまた会える喜びを、どうか受け取って欲しい。

3位 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』

 涙をカツアゲされた、という意味では『アイカツ!』をギリギリ…ほんのわずか……数ml上回ったのが銀河のガーディアンズとのお別れだった。家族を失った者同士が寄せ集まって、血の繋がりがなくとも新たな家族となり、離れていてもズッ友だょ……がなんでこんなに泣けて泣けてしかたがないんだろう。

傷ついた魂が身を寄せ合い、手を取り合って生きていく姿は、分断と不理解が悲劇を生み続けるこの現実社会に対するメッセージを含んだものかもしれない。ジェームズ・ガンの映画はいつだって、「人生はやり直せる」と肩を叩いてくれるような優しさに満ちている。過去の失言に対する反省の意も込めて、恐ろしく普遍的で真っ直ぐな人間讃歌に落とし込まれていく本作の結末は、MCUにおいても『エンドゲーム』に匹敵する、あるいはそれ以上の感動をもたらしてくれる。別れの寂しさこそあれど、多幸感がそれを上回ってくれた、宝物のように大切にしたくなる一作だった。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』笑顔でサヨナラさせてくれて、ありがとう。

 思っていた以上にガーディアンズたちのことが大好きで、離れがたく感じていたことに涙するけれど、『アイカツ!』風に言うのなら“この道の先ならきっと大丈夫”だという確信と共にお別れさせてくれたVol.3を、この順位に。今のところ、MCUが本当に楽しいと思えた、最後の作品になっちゃったナ……。

2位 『映画プリキュアオールスターズF』

 映画という名の走馬灯。今後、オールスターやクロスオーバーといったジャンルは、全てこの映画が基準点になるのでは?というレベルの打点を叩き出してしまった、歴史的一作。

 わずか70分強にして『インフィニティウォー』と『エンドゲーム』をやりきってしまう驚異の密度、満遍なく散りばめられたファンサービスと作り手の「解釈」の暴走気味な勢いに涙する他、シリーズ20周年の節目に「プリキュアって何?」をそのまま台詞として語るアンチプリキュアを登場させる、その大胆さ!思いがけぬダークな展開に面食らいつつ、今の子どもたちに伝えたいメッセージと大人世代への思い出ボム連発のクライマックスは、シリーズ全てを追わずとも号泣させられた次第。プリキュアって、本当にいいものですよね。

1位 『北極百貨店のコンシェルジュさん』

 今年最大級のダークホース枠にして、ぶっちぎりで1位をもぎ取られてしまった。暖かい色彩かつ活き活きと躍動するキャラクターを描くアニメーションの気持ちよさ、北極百貨店の成り立ちの通底にある「人間」という生き物の傲慢さに目を向けられつつ、最後は「共生」という結論に着地させる。と同時に、本作は大河ドラマやシャニマス、『長ぐつをはいたネコと9つの命』のウルフを差し置いて津田健次郎ベストアクト・オブ・ザ・イヤーであったことも忘れてはならない。あんなわずか一つの台詞で決壊させられること、あるんだ。

 なぜ本作を1位に選んだのか。それは、「映画館で見知らぬ映画を観る喜び」を思い出させてくれたからであった。SNSをやっていれば、気になっている映画の予告編やスタッフ・キャストのインタビュー、あるいはアーリーレビューなんかも目にしてしまい、ある程度「こういうものだろう」という予測を立てたまま、劇場に足を運ぶことがほとんどだ。それはそれでタメになるのだけれど、どこか映画鑑賞が「答え合わせ」になっているような気がして、自分の感想でも誰かの借り物の言葉の羅列になっていないかと、気になりだしていた。

 そんな折、周囲のただならぬ絶賛の「気配」だけを受け、わざわざ電車に乗って朝一の回を観た時に、何の予備知識もなく丸腰で映画を観るワクワクと、それが自分の琴線に触れる大好きな作品であった偶然に、心から感謝したくなってしまった。自分の携帯電話を持たず、インターネットに触れる機会なんてなかった幼少期、親に連れられて観た映画に一目惚れしてずっとそのことばかりを考えていた頃のような、そういうプリミティブな気持ちが蘇ってきた。

 故に今年は、“あらすじも予告編も一切観ないまま、評判だけを頼りに観たら大当たりだった”枠その2の『北極百貨店』が第1位。暴力と怪獣とアイドルという、実にボクらしいラインナップになりました。

未来へ

 アウトロが終わるとイントロが流れてくる。つまりは2024年が来る。来年は「ゴジラとコングは……ズッ友だょ!!!!」とか、惑星なのか王国なのかどっちかにしてほしい『猿の惑星』新作とか、「アンナチュラルとMIU404の世界線と交差するシェアードユニバース」とか、アフターライフのアフターのゴーストバスターズとか、マジでやるの!?枠で『ジョーカー』と『仮面ライダー555』の続編があるそうです。あと、『ワルプルギスの廻天』は、来年こそ観られるのでしょうか。怖いですね。お互い健康でいましょう。それでは、またどこかで。

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