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SHIFT INNOVATION #50 「オブザベーション2」(観察的アプローチ編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。 

 環境の変化が激しく、不確実性の高い現在においては、デザイン思考に基づく、顧客が望むようなプロダクトやサービスではなく、アート思考に基づく、今までにはない独自性のあるアイデアによるプロダクトやサービスが必要であると言われています。

 SHIFT INNOVATION #49 「オブザベーション1」(「0」→「1」編)において、事実が無視されることなく、そして、比較されることにより、違和感を感じる(気付く)ことができるようにするためには、事象を漫然と眺めるのではなく、眼前にある事実、過去の経験や学習した内容を積極的に収集(想起)するなど、観察力を高めることが重要であると説明しました。

 そこで、今回は、今まで誰も気付くことがなかった「見えないもの(未来)」を見るため、今までとは異なる視点で事象を捉える上で、どのように観察すればよいのかということを、「なぜ脳はアートがわかるのか(現代美術史から学ぶ脳科学入門)」エリック・R・カンデル(2019年)の著書の内容を踏まえ、説明することとします。


【見えないもの(未来)を見るための固定観念の排除】

「(脳におけるトップダウン情報処理には)「目下の文脈において行動面で無関係と認知された詳細は無視される」、「恒常性を求める」、「物体、人、風景の本質的で恒常的な特徴の抽象化を試みる」、そしてとりわけ重要なこととして「たった今与えられたイメージを過去に遭遇したイメージと比較する」という四つの原理に基づいて実行される。」

「なぜ脳はアートがわかるのか(現代美術史から学ぶ脳科学入門)」エリック・R・カンデル(2019年)

 脳機能には、「無関係と認知された事象は無視される」、「恒常性を求める」、「恒常的な特徴を抽象化する」、「特定の事象と学習・経験に基づく事象を比較する」という原理があります。

 知覚的アプローチにおいて、脳機能に基づき、見えないものに気付くためには、発展途上国における現在と過去などの「時間軸」、発展途上国と先進国などの「空間軸」により、現在、見ているものに対して「比較」することが必要となります。

 一方で、脳機能に基づき、無関係と認知された事象は「無視」されるため、スマホに対して無関心である場合、発展途上国の人々の手元に視線が行かないため、「比較」することさえできないこととなります。

 それでは、「スマホ(モバイル通信網)」の事例において、「発展途上国の人々の手元」に視線が行くようにするためには、どうすればよいのでしょうか。

 「発展途上国の人々の手元」に視線が行くケースとしては、「スマホの利便性を享受している」「歩きスマホに悪い印象がある」「モバイル(スマホ)通信業者である」など、顕在意識・潜在意識の中で、「スマホ」に関する学習や経験があることが想定されます。

 そこで、スマホに関心がない場合をはじめ、関心がないもの(見えていないもの)に気付くためには、現在の事象全てに対して、固定観念を持たず、常識を疑い観察することが重要となります。

 発展途上国の光景を漫然と見ている場合、固定観念により、「無関係と認知された事象は無視される」が優先されるため、発展途上国の光景の詳細が見えていないことから、発展途上国の人々がスマホを持っていないことに気付きません。

 そこで、発展途上国の光景に対して、意識的に固定観念を疑い、「特定の事象と学習・経験に基づく事象を比較する」を優先することにより、例えば、「先進国では道路が舗装されているが、発展途上国では道路が舗装されていない」「先進国では人々は靴を履いているが、発展途上国の人々は靴を履いていない」「先進国の人々は歩きスマホをしているが、発展途上国の人々は歩きスマホをしていない」など、絶えず、意識的に比較することによって、見えないもの(未来)が見えるようになります。

 

 そして、意識的に比較するためには、「本当にそうであるのか」、「どうしてそうであるのか」というように、「本質探究の問い」や「原因究明の問い」などを発することにより、固定観念が排除されることによって、見えないもの(未来)が見えるようになります。


【問い続ける観察力】

 例えば、ずらして、ひねって、妄想するDESIGN #19における「検診不要薬」の事例の場合、視覚的に捉えたものではないものの、実際に思考した内容を再現すると、設定したコンセプトである「健康診断が不要となる世界」に対する「健康診断が不要となる世界とはどのような世界であるのか」という方法究明の問いにはじまり、「日本における赤ちゃんの生存率より、そもそも健康診断をする必要があるのか」という本質探究の問い、「発展途上国ではどのように健康管理しているのか」という方法究明の問い、「日本では衛生面に配慮しすぎるため免疫力が低下しているのではないのか」という事実確認の問いなど,絶えず、問い続けることにより、固定観念を排除すことによって、「健康診断」という当初の事象に対して、「常在菌」という見えないものが見えることとなりました。

 また、ずらして、ひねって、妄想するDESIGN #20における「便意感知オムツ」の事例の場合、「社会的価値と人間的価値を共生することができるオムツ」というコンセプトに対する「大人は便を漏らすことはないが、赤ちゃんはどうして便を漏らすのか」という原因究明の問いにはじまり、「赤ちゃんは自分の意思を周りの人に伝えることができないため、便を漏らしているのではないのか」という事実確認の問い、「どうして赤ちゃんは、自分の意思を伝えることができないのか」という原因究明の問い、「赤ちゃんには便意がないのか」という本質探究の問いなど、絶えず、問い続けることにより、固定観念を排除することによって、「オムツ」という当初の事象に対して、「腹部の動き」という見えないものが見えることとなりました。

 これらのように、絶えず、問い続けているように、アートの場合であれば、絵画などにおける構成要素に対して問い続ける、ビジネスの場合であれば、現場における顧客の動きや設備との関係性、モバイルにおけるユーザーの目の動きやインターフェースの配置などに対して問い続けるなど、現在の事象全てに対して、問い続けることによって、見えないもの(未来)が見えるようになるのではないかと考えます。

 よって、「観察力」とは、現在の事象を全体的に捉えることではなく、また、事象の詳細であっても、漫然と捉えることでもなく、事象の詳細に対して「本当にその事象は事実であるのか」「どうしてそのような事象となっているのか」「どうすればその事象を変えることができるのか」など、絶えず、問い続けることであると考えます。


【問い続ける観察力(思考事例)】

「検診不要薬」の事例と「便意感知オムツ」の事例の思考プロセスにおいて、実際に問い続けている内容について紹介することとします。

「検診不要薬(#19)」 コンセプト「健康診断が不要となる世界」

健康診断が不要となる世界とはどのような世界であるのか
日本における赤ちゃんの生存率より、そもそも健康診断をする必要があるのか
「発展途上国では定期的に健康診断を受診していない(できない)」
発展途上国ではどのように健康管理しているのか
「発展途上国では不衛生な中でも健康診断をすることなく健康に育っている場合がある」
日本では衛生面に配慮しすぎるため免疫力が低下しているのではないのか
「日本においても発展途上国と同様の環境を作ること、つまりは、ある一定のレベルまで衛生面のレベルを低下させることにより免疫力を高める」
出生時に無菌室で赤ちゃんを管理するのではなく、衛生レベルを低下させることにより、免疫力を高めることができるのではないか
これは予防接種的な発想を活用できるのではないか
赤ちゃんに対してあえて菌(常在菌)を投与することにより、免疫力を高めることができるのではないのか

「便意感知オムツ(#20)」 コンセプト「社会的価値と人間的価値を共生することができるオムツ」

赤ちゃんは自律的に排便をし、処理することはできないのか
大人は便を漏らすことはないが、赤ちゃんはどうして便を漏らすのか
赤ちゃんは自分の意思を周りの人に伝えることができないため、便を漏らしているのではないのか
どうして赤ちゃんは、自分の意思を伝えることができないのか
赤ちゃんには便意がないのか
実は赤ちゃんは便意があることを意思表示しているが、大人が気付いていないだけではないのか
「赤ちゃんは、便をしたあと、便が気持ち悪いこともあり意思表示するが、それでは遅すぎる」
「赤ちゃんが、便意に対して意思表示することができれば、事前に対処することができる」
どうすれば赤ちゃんが事前に便意を意思表示することができるのか」(一部省略)
デジタルを活用し、赤ちゃんの便意の予兆を大人が把握する方法はないのか
「オムツと赤ちゃんのお腹が接している箇所に便意の予兆がある」
腹部に動きがあるのであれば、それを感知し大人に知らせるという方法はできないのか
便意の予兆となる動きはあるのか
便意の予兆となる動きがある場合、その動きを活用すれば、赤ちゃんの便意を事前に感知し、デバイスを活用することにより、大人に知らせることができる


【「本質探究の問い」による新たな視点】

 脳機能には、「無関係と認知された事象は無視される」「恒常性を求める」「恒常的な特徴を抽象化する」「特定の事象と学習・経験に基づく事象を比較する」という原理がある中で、見えないものに気付くためには、「時間軸」「空間軸」により、現在、見ているものに対して「比較」することが必要となることを説明しました。

 例えば、「検診不要薬」の事例の場合、「日本における赤ちゃんの生存率より、そもそも健康診断をする必要があるのか」という本質探究の問いに対して、「発展途上国では定期的に健康診断を受診していない(できない)」というように、「日本(先進国)」と「発展途上国」を「空間軸」に基づき比較しています。

 そして、今までの「日本」とは異なる視点により、「比較」により抽出された「発展途上国」において、どのように課題を解決しているのかということを検討することによって、今までとは異なる独自性のあるアイデアを導出することができました。

 また、「便意感知オムツ」の事例の場合も、「赤ちゃんは自律的に排便をし、処理することはできないのか」という本質探究の問いに対して、「大人は便を漏らすことはないが、赤ちゃんはどうして便を漏らすのか」というように、「赤ちゃん」と「大人」を「時間軸」に基づき比較しています。

 そして、今までの「赤ちゃん」とは異なる視点により、「比較」により抽出された「大人」において、どのように課題を解決しているのかということを検討することによって、今までとは異なる独自性のあるアイデアを導出することができます。

 これらのように、「検診不要薬」の事例の場合、「日本」という同じ視点の中で検討するだけでは、今までとは変わらないアイデアしか導出されず、また、「便意感知オムツ」の事例の場合も、「赤ちゃん」という同じ視点の中で検討するだけでは、今までとは変わらないアイデアしか導出されないと考えます。

 これらのことより、問い続ける、特に「本質探究の問い」を発することにより、脳機能に基づき「比較」することによって、今までとは異なる新たな視点により捉えた結果、見えないもの(未来)が見えるようになると考えます。

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