SHIFT INNOVATION #52 「マインドセット1」(フェーズ移行編)
新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。
デザイン思考においては、人間中心設計に基づく「課題解決」に有効であると言われており、アート思考においては、アーティスト自身の探究心による独自の解釈に基づく「課題発見」に有効であると言われています。
一般的には、課題のフェーズに関して、「課題発見フェーズ」と「課題解決フェーズ」に区分していますが、シフト・イノベーションにおいては、「課題発見フェーズ」「課題転換フェーズ」「課題解決フェーズ」に区分することとします。
そして、「課題発見フェーズ」は、検討すべき事象における潜在的な課題を発見するフェーズであり、「課題転換フェーズ」は、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を(結果的に)発見するフェーズであることから、特に「課題転換フェーズ」は、潜在的な課題を解決することにより、「枠外」のアイデアを導出する上で、重要なフェーズとなります。
それでは、今回は、「課題発見フェーズ」「課題転換フェーズ」「課題解決フェーズ」の各々のフェーズへ移行させる上で、特に「課題転換フェーズ」の重要性について説明することとします。
【「課題発見フェーズ」「課題転換フェーズ」「課題解決フェーズ」】
「オムツ」に関して、「アラートオムツ」「便意感知オムツ」「簡易検診オムツ」「ビッグデータオムツ」の事例を紹介しましたが、「アラートオムツ」の事例の場合、課題発見フェーズから直接課題解決フェーズへ移行し、検討すべき事象における潜在的な課題を解決したことによって、目的が転換(再定義)しなかったことから、「枠内」のアイデアに留まりました。
また、「便意感知オムツ」の事例の場合、課題発見フェーズから課題転換フェーズへ移行し、オムツの機能は転換したものの、事象が転換(シフト)しなかったことにより、検討すべき事象における潜在的な課題を解決したことによって、目的が転換(再定義)しなかったことから、「枠内」のアイデアに留まりました。
一方で、「簡易検診オムツ」の事例と「ビッグデータオムツ」の事例の場合、課題発見フェーズから課題転換フェーズへ移行し、事象が転換(シフト)したことにより、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を解決したことによって、オムツの機能と共に目的も転換(再定義)したことから、「枠外」のアイデアを導出することができました。
例えば、「簡易検診オムツ」の事例の場合、「課題発見フェーズ」において、夜の間に赤ちゃんが便をした場合、便はオムツの中に入ったままであるので、赤ちゃんは不快であるため、「赤ちゃんは良い睡眠がとれないことで健やかに成長できない」という検討すべき事象における潜在的な課題を発見することとなりました。
この検討すべき事象における潜在的な課題に対して、「課題転換フェーズ」においては、「オムツ」のコンテクストにおける独自の解釈により、赤ちゃんが健やかに成長できるよう、定期的に健康診断を受診させているが、「病院へ定期的に行く必要があることにあわせ、長時間待たされるのは大変である」という検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を(結果として)発見することとなりました。
そして、この検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題に対して、「課題解決フェーズ」において、オムツの中にある便を有効活用することにより、「センサー(デバイス)で便から健康情報を収集することにより、常時健康診断を受けることができるオムツ」という「枠外」のアイデアを導出することとなりました。
一方で、「アラートオムツ」の事例の場合、「課題発見フェーズ」において、「簡易検診オムツ」の事例と同様、「赤ちゃんは良い睡眠がとれないことで健やかに成長できない」という検討すべき事象における潜在的な課題を発見することとなりました。
そして、この検討すべき事象における潜在的な課題に対して、「課題転換フェーズ」へは移行せず、「課題解決フェーズ」へ直接移行したことによって、赤ちゃんが不快に感じないようにするため、オムツの中に便があることを寝ている親に知らせるため、「赤ちゃんが夜中に便をしたとき、センサー(デバイス)が便を感知し、寝ている親のスマートフォンに赤ちゃんが便をしたことを知らせるオムツ」という「枠内」のアイデアを導出することとなりました。
これらのように、シフト・イノベーションにおける「課題発見フェーズ」「課題転換フェーズ」「課題解決フェーズ」のうち、「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行した「簡易検診オムツ」は、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を発見し解決したことにより、目的が転換(再定義)したことによって、「枠外」のアイデアを導出することとなりました。
一方で、「課題発見フェーズ」から「課題解決フェーズ」へ移行した「アラートオムツ」は、検討すべき事象における潜在的な課題を解決したことにより、機能は転換(再定義)したものの、目的が転換(再定義)しなかったことから、「枠内」のアイデアを導出することとなりました。
これらのことから、「枠外」のアイデアを導出するためには、「課題転換フェーズ」において、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を発見した上で、「課題解決フェーズ」において、発見した潜在的な課題を解決する必要があると考えます。
【フェーズ移行におけるコンセプトの影響】
「簡易検診オムツ」の事例の場合、「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行したことにより、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を解決したことによって、目的が転換(再定義)したことから、「枠外」のアイデアを導出しましたが、「アラートオムツ」の事例の場合、「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行せず、直接「課題解決フェーズ」へ移行したことにより、検討すべき事象における潜在的な課題を解決したことによって、目的が転換(再定義)しなかったことから、「枠内」のアイデアを導出することとなりました。
それでは、どうすれば「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行でき、どうなると「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行できないのかについて説明することとします。
ここで、SHIFT INNOVATION#46 「レコグニション1」(洞察問題解決編)において説明した「洞察問題解決」における「インパスの発生」、「シフト・イノベーション」における「究極的状況の想起」が重要であり、そして、インパスを発生させる、究極的状況を想起させるためには、「ムーンショット型コンセプトの設定」が重要となります。
これに関して、「課題発見フェーズ」において発見した課題が、容易に解決することができる課題である場合、課題を発見した時点において、課題を解決しようという意思が働くことにより、直ぐに「課題解決フェーズ」に移行してしまうこととなります。
一方で、「課題発見フェーズ」において発見した課題に対して、容易に解決することができない要因がある場合、つまりは、ムーンショット型コンセプトを設定することにより、課題を解決することが困難となることによって、課題を解決しようという意思が働かないことから、「課題解決フェーズ」へは移行せず、「課題転換フェーズ」へ移行することとなります。
例えば、「簡易検診オムツ」の事例の場合、「365日コネクトし社会貢献できるオムツ」というムーンショット型コンセプトを設定したことにより、「課題発見フェーズ」において発見した「赤ちゃんにとって便が気持ち悪く感じないようにする必要がある」という課題に対して、一般的に想定される方法では、課題を解決することはできないという意思が働いたことから、「課題解決フェーズ」には移行しなかったのではないかと考えます。
このことより、一般的には、課題を発見することができた場合、無意識的に課題を解決しようという意思が働くことにより、「課題解決フェーズ」へ移行することとなりますが、ムーンショット型コンセプトを意識し続けたことにより、課題を解決することが困難であるという意思が働いたことから、「課題解決フエーズ」へ移行することなく、「課題転換フェーズ」において、ムーンショット型コンセプトにおける課題を解決できるよう問い続けたのではないかと考えます。
一方で、「アラートオムツ」の事例の場合、特段、コンセプトを設定していなかったこともあり、「課題発見フェーズ」において発見した「赤ちゃんにとって便が気持ち悪く感じないようにする必要がある」という課題に対して、「便をした後、できる限り気持ち悪く感じないようにできないのか」という方法究明の問いを発したことにより、「課題解決フェーズ」に移行したのではないかと考えます。
このことにより、特段、コンセプトを設定せず、解決することが容易な課題である場合、課題を発見することにより、無意識的に課題を解決する方法を問いはじめたことから、「課題解決フェーズ」へ移行したのではないかと考えます。
よって、「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行するためには、ムーンショット型コンセプトを設定することにより、課題を解決することが困難であるという意思が働くことによって,「課題転換フェーズ」において、ムーンショット型コンセプトにおける課題を解決できるよう問い続けることが重要であると考えます。
【「アラートオムツ」「簡易検診オムツ」の事例における思考プロセス】
「アラートオムツ」 ※課題発見・課題解決
「簡易検診オムツ」 ※課題発見・課題転換・課題解決