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SHIFT INNOVATION #51 「オブザベーション3」(体系的アプローチ編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。

 SHIFT INNOVATION #50 「オブザベーション2」(観察的アプローチ編)において、問いを発し続ける、特に「本質探究の問い」を発することにより、脳機能に基づき「比較」することによって、今までとは異なる新たな視点により事象を捉えた結果、見えないもの(未来)が見えるようになると説明しました。

 そこで、新たな気付きを得る上で、問いを発し続けることによって、今までとは異なる新たな視点により事象を捉えるアプローチを「観察的アプローチ」と言うこととします。

 一方で、新たな気付きを得る上で、「時間軸」「空間軸」「意味軸」などの視点に基づき、体系的に新たな視点により事象を捉えるアプローチを「体系的アプローチ」と言うこととします。

 今回は、「時間軸」「空間軸」「意味軸」(フレームワーク)の視点に基づき事象を捉える「体系的アプローチ」について説明することとします。


【「時間軸」「空間軸」「意味軸」の視点】

 はじめに、「時間軸」「空間軸」「意味軸」の視点に関して、現在見ている事象全てに対して、問い続けることによって、見えないもの(未来)が見えるようになると説明しましたが、何も関係ないものがいきなり見えるのではなく、また、過去の経験や学習した内容がいきなり見えるのでもなく、見ている事象に対して過去の経験や学習した内容と比較することにより、見えないもの(未来)が見えることとなります。

 それらと比較する視点として、事象に対して問い続けることによって、「時間軸」「空間軸」「意味軸」の視点に基づき、見ている事象に対して過去の経験や学習した内容を「比較」「転換」することによって、今までとは異なる視点により、見えないもの(未来)が見えるようになると考えます。

 「時間軸」とは、「現在」「過去」「未来」や「短期」「中期」「長期」など、時間的視点に基づくものであり、「空間軸」とは、「国」「地域」「場所」や「現実(リアル)」「仮想(バーチャル)」など、空間的視点に基づくものとなります。そして、「意味軸」とは、実際の物事の抽象度を上げた、「機能」や「価値」「目的」など、意味(意義)的視点に基づくものとなります。

 例えば、「検診不要薬」の事例の場合、「日本における赤ちゃんの生存率より、そもそも健康診断をする必要があるのか」という本質探究の問いに対して、「発展途上国では定期的に健康診断を受診していない(できない)」というように、「日本(先進国)」と「発展途上国」というように、「空間軸」に基づき比較しています。

 また、「便意感知オムツ」の事例の場合、「赤ちゃんは自律的に排便をし、処理することはできないのか」という本質探究の問いに対して、「大人は、便を漏らすことはないが、赤ちゃんはどうして便を漏らすのか」というように、「赤ちゃん」と「大人」というように、「時間軸」に基づき比較しています。

 そして、「サーフィンテック」の事例の場合、「本当に完全自動化することにより快適な生活環境にすることができるのか」という本質探究の問いに対して、「厳しいトレーニングをすることにより健康な体を作ることができる」というように、「自動化(簡単)」から「厳しいトレーニング」へ「意味軸」に基づき転換しています。

 これらのように、「時間軸」「空間軸」「意味軸」の視点に基づき、事象を「比較」「転換」することによって、今までとは異なる視点により、見えないもの(未来)が見えるようになるなど、発想を広げることができることとなります。


【「時間軸」「空間軸」「意味軸」の事例】

「検診不要薬」における「時間軸」「空間軸」「意味軸」

《課題転換フェーズ》 ※「日本」と「発展途上国」
コンセプト設定
「健康診断が不要となる世界」
究極的状況想起
「健康診断が不要となる世界とはどのような世界であるのか」
固定観念(推察)
「日本では健康診断を受診するものである」
本質探究の問い
「日本における赤ちゃんの生存率より、そもそも健康診断をする必要があるのか」
アブダクション事例
発展途上国では健康診断を受診していない」 ※空間的比較
アブダクション仮説(究極的状況想起)
「発展途上国では不衛生な中でも健康診断をすることなく健康に育っている」
類似事例(推察)
「発展途上国では不衛生であることもあり免疫力が高い」 ※意味的転換
アブダクション事象 (固定観念)
「日本では衛生面に配慮しすぎるため免疫力が低下している」
本質探究の問い
「日本においても発展途上国と同様の環境を作ることはできないのか」

《課題解決フェーズ》
アブダクション事例
「(発展途上国のように)ある一定のレベルまで衛生面のレベルを低下させることにより免疫力を高めることができる」
アブダクション仮説
予防接種的な発想を活用できる」 ※意味的転換
虚構的機能
「赤ちゃんに対してあえて菌(常在菌)を投与することにより免疫力を高めることができるのではないのか」 ※意味的転換

「便意感知オムツ」における「時間軸」「空間軸」「意味軸」

《課題転換フェーズ》 ※「赤ちゃん」と「大人」
コンセプト設定
「社会的価値と人間的価値を共生することができるオムツ」
究極的状況想起
大人は、便を漏らすことはないが、赤ちゃんはどうして便を漏らすのか」 ※時間的転換
固定観念
「赤ちゃんは、自分の意思を伝えることができない」
本質探究の問い
「赤ちゃんは、便意を伝えることができないのか」

《課題解決フェーズ》
アブダクション事象
「実は赤ちゃんは、便意があることを意思表示しているが、大人が気付いていないだけである」 ※意味的転換
アブダクション事象の抽象化
「意思表示している」
アブダクション事例
「デジタルを活用し、赤ちゃんの便意の予兆を意思表示する」 ※意味的転換
アブダクション仮説
「オムツと赤ちゃんのお腹が接している箇所に便意の予兆となる動きある」
虚構的機能
「便意を事前に感知するセンサーをデバイス化することにより、大人に知らせることができる」

「サーフィンテック」における「時間軸」「空間軸」「意味軸」

《課題転換フェーズ》 ※「自動(簡単)」から「厳しいトレーニング」
コンセプト設定
「快適な生活環境を作る完全自動化のサーモスタット」
アブダクション事象
「完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる」
本質探究の問い
「本当に完全自動化することにより快適な生活環境にすることができるのか」
アブダクション事象の抽象化
「厳しいけれども、より良くなる」
アブダクション事例
「厳しいトレーニングをすることにより健康な体を作ることができる」 ※意味的転換
アブダクション仮説
「厳しい温度設定により地球環境をより良くする」
アブダクション事象
「厳しい温度設定するのは大変である」
本質探究の問い
 「本当に厳しい温度設定するのは大変であるのか」

《課題解決フェーズ》
アブダクション事象の抽象化
「厳しいけれども、楽しい」
アブダクション事例
「難しい(厳しい)ゲームをするのは楽しい」 ※意味的転換
アブダクション事例
eスポーツは、厳しい試合に勝ち抜けば賞金がもらえる」 ※意味的転換
アブダクション仮説
「地球環境へ配慮した温度設定することにより、節約した電気料金貯金に回す」 ※意味的転換
虚構的機能
「快適な温度と設定した温度の差異により節約した電気料金を、フィンテックを活用することにより、目的口座(節約)に移管する」


【「観察的アプローチ」と「体系的アプローチ」】

 以前紹介した二つの「モバイル通信網構築」の事例に関して、思考したプロセスは異なるものの、同じ「モバイル通信網構築」というアイデアになりました。
 
 観察的アプローチにより導出した事例として、ずらして、ひねって、妄想するDESIGN #2 「アイディエーション1」(観察力・想像力・批判力)において紹介した「モバイル通信網構築」の事例があります。

 一方で、体系的アプローチにより導出した事例として、ずらして、ひねって、妄想するDESIGN#18「コンセプト2」(経済的価値・社会的価値編)において紹介した「モバイル通信網構築(発展途上国における貧困解消)」の事例があります。

 なお、「モバイル通信網構築(発展途上国における貧困解消)」の事例は、「繁栄のパラドクス」クレイトン・M・クリステンセン(2016年)の著書における事例を参考として作成した事例となります。


【「体系的アプローチ」を活用した「時間軸」「空間軸」の事例】

 それでは、体系的アプローチにより導出した事例である「モバイル通信網構築(発展途上国における貧困解消)」の事例について説明することとします。

 はじめに、発展途上国を訪れたとき、まず目に付くのは、劣悪な環境の中でも特に水道設備がないような不衛生な環境で生活している人々の光景を目の当たりにすることとなります。

 そして、子供たちが朝早く、遠くの川まで水汲みに行き、重たい水を何度も往復している光景を見たとき、この子供たちが、このような苦労をせず、いつでも水を飲むことができるよう、村の近くに井戸を開発することとなります。

 このような井戸の開発は、発展途上国において重要なことではありますが、目に見えるものであり、表層的な問題であることが多いため、いくら表層的な問題をたくさん解決した場合であっても、貧困という根本的な課題を解決しない限り、発展途上国におけるこれらの課題を根本的に解決することはできないと考えます。

 そして、根本的な課題は、「頻繁に起こらない」「関心がない」「お金がない」など、人々に気づかれず、または、気付いている場合であっても、代替的に解決しているため、目に見えず隠れている場合があると考えられます。

 そこで、頻繁に起こらないという視点より、「時間軸」と「空間軸」に基づき、見えないものを見えるようにすることによって、根本的な課題を発見し解決することとします。


【「目に見えるコンテクスト」と「目に見えないコンテクスト」】

 発展途上国における不便益を「時間軸」と「空間軸」で捉えた場合、短期的視点の場合、発生する頻度が高いことから、「目に見えるもの」となる一方で、長期的視点の場合、発生する頻度が低いことから、「目に見えないもの」となります。

 そこで、現地の光景より、短期的視点による目に見える不便益のコンテクストとしては、「毎日、朝早くから水を汲むため、子供たちは遠くの川まで歩いて行く。」となり、子供たちが、このような苦労をせず、いつでも水を飲むことができるようにする上で、村の近くに井戸を開発するというアイデアを想像することとなります。

 一方で、長期的視点による目に見えない不便益のコンテクストは、実際に現地の光景を見ただけでは、気付くことができないため、どのようなコンテクストであるか、目に見えない不便益のコンテクストを想像する必要があります。

 例えば、「目に見えないもの」の中で、長期的視点の中でも、中期的に発生する不便益のコンテクストを想像した場合、「毎月1回、家族にお金を送金するため、出稼ぎに出ている父親が銀行までバスで行く。」となり、短時間で銀行まで行くことができるようにする上で、銀行へ行くまでの道路を舗装するというアイデアを想像することとなります。

 また、長期的に発生する不便益のコンテクストを想像した場合、「年に一度、家族と直接会うため、出稼ぎに出ている父親は7日間かけて自宅まで帰る。」となり、いつも家族と会話を楽しむことができるようにする上で、モバイル通信網を構築するというアイデアを想像することとなります。


【目に見えないものを見つけるための視点】

 発展途上国において、光景を漫然と見ている場合、「スマホを購入する費用がない」「利用料金を支払うための銀行口座がない」というような固定観念を持っていることにより、目には見えない「スマホ」から「モバイル通信網構築」というアイデアを導出することは困難であると考えます。

 このため、「モバイル通信網構築」の事例の場合のように、「観察的アプローチ」により、発展途上国の光景と先進国の歩きスマホをしている人々の記憶(経験)と比較し、発展途上国の人々が「スマホ」を持っていないことに気付いたことによって、「時間軸(空間軸)」に基づき「モバイル通信網構築」というアイデアを導出することができたと考えます。

 一方で、今回紹介した「体系的アプローチ」の場合、目には見えない不便益のコンテクストを「時間軸(空間軸)」の視点に基づき、「短期的視点」「中期的視点」「長期的視点」により見ることによって、「井戸の開発」「道路の舗装」「モバイル通信網の構築」というアイデアを導出することができたと考えます。

 なお、目に見えないものを見つけるための視点に関して、コンテクストより不便益を発見する必要がありますが、不便益を発見した場合であっても対処していない理由としては、「関心(お金・時間・手段)がないので何もしていない」「関心(お金・時間・手段)があるが、頻繁に起こらないため何もしていない」「関心(お金・時間・手段)があるが、頻繁に起こらないため代替のもので妥協している」などがあります。

 これらの中でも、特に、「時間軸」により、頻繁に起こらないため代替のもので妥協(解決)している場合は、不便益を解決しているという意識があるため、根本的な不便益を発見し解決することが困難であることから、「時間軸(空間軸)」に基づく「体系的アプローチ」によって、不便益を発見することができれば、見えないものが見えるようになると考えます。

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