SHIFT INNOVATION #49 「オブザベーション1」(「0」→「1」編)
新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。
SHIFT INNOVATION #48 「レコグニション3」(アート思考編)において、アーティスト(抽象芸術)が独創的な作品を創作する上で、抽象化(還元主義的)アプローチを活用するのと同様、ビジネスにおいても、独自性のあるアイデアを導出する上で、抽象化(概念化)アプローチを活用していることから、アートとビジネスとは類似する関係性にあると説明しました。
そして、アーティストが用いる抽象化(還元主義的)アプローチの中でも、独創的な作品を創造する上で、事例(技法)フェーズが重要なフェーズであるのと同様、ビジネスにおいても、事例フェーズと仮説フェーズが重要なフェーズであることから、独自性のある事例や仮説を抽出する上で、『情報力』『批判力』『抽象力』『連想力』『収束力』を活用する必要があると説明しました。
そこで、前回は、課題を解決する上で、独自性のあるアイデアを導出するための抽象化(概念化)アプローチに関して、独自性のある事例や仮説を抽出する上で、『情報力』『批判力』『抽象力』『連想力』『収束力』を活用する必要があると説明しました。
今回は、課題を発見する上で、独自性のあるアイデアを導出するためのアプローチに関して、「観察力を磨く(名画読解)」エイミー・E・ハーマン(2016年)、「なぜ脳はアートがわかるのか(現代美術史から学ぶ脳科学入門)」エリック・R・カンデル(2019年)の著書の内容を踏まえ、『観察力』について説明することとします。
なお、『観察力』に関して、「観察」とは、物事の状態や変化を客観的に注意深く見ることをいい、「観察力」とは、細かく観察して、細かな物事によく気付く様子、観察の結果を多く得られる様子をいいます(デジタル大辞泉)。
これらに基づき、「観察力」を「細かな物事によく気付く」と捉えた場合、知覚的(視覚的)アプローチだけではなく、思考的アプローチによっても、細かな物事によく気付くことができますので、両方のアプローチを踏まえることとします。
【アート思考における「0」→「1」】
「観察力を磨く(名画読解)」の著書にある事例において、アメリカではかつて、ホテルで一度使用された石鹸は、不衛生ということもあり、当然のこととして廃棄されていましたが、ウガンダ出身のカヨンゴは、毎年、200万人以上が、石鹸で手を洗えば防ぐことができる下痢性疾患で命を落とすという現実から、廃棄される石鹸を、命を救うためリサイクルするという、異なる結論に至ったことにより、ビジネスチャンスを得ることができました。
これには、ウガンダにおいて、石鹸のない不衛生な難民キャンプの生活を経験したという背景も要因ではありますが、身の回りで起きることに、目を開き、頭を使い、感覚をとぎすまして、注意を払うことにより、観察したことが大きな要因であると考えます。
また、ずらして、ひねって、妄想するDESIGN #2「アイディエーション1」(観察力・想像力・批判力)においては、全体を俯瞰し意識しながら観察力を高めることにより、先進国の人々や街並みとは異なると違和感を感じる場合があり、観察力を働かせることによって、貧困地域の人々は、先進国の人々のように、スマホを持っていないことに気付き、貧困地域の人々にとって生活が不便ではないかと知覚することによって、目には見えていないスマホ(モバイル通信網)というアイデアが導出されたという事例を紹介しました。
これらの事例の相違点として、「石鹸のリサイクル」の事例の場合は、ホテルの部屋にある石鹸を、使用していないにも関わらず、翌日には新しい石鹸に取り替えられていたことから、石鹸の存在を知っている中で、過去の経験も踏まえ、今まで誰も考えなかった石鹸をリサイクルするというアイデアを導出しました。
一方で、「スマホ(モバイル通信網)」の事例の場合、発展途上国における光景において、目の前にはスマホなど見えていないにも関わらず、先進国でよく見られる光景と発展途上国では見ることができない光景を、脳内で比較し想像したことにより、目には見えていないスマホをイメージしたことによって、モバイル通信網を構築するというアイデアを導出しました。
これらのことより、アート思考は、全く何もないところから、新たなアイデアを生み出すこと、つまりは、「0」→「1」と言われることがありますが、この課題発見フェーズにおける「観察力」に関して、眼前にあるものを他者とは異なる視点により捉える(「石鹸のリサイクル」)、または、眼前にないものを過去の経験や学習した内容と比較する(「スマホ(モバイル通信網)」)など、誰も気付かなかった課題を発見することを「0」→「1」と捉えることとします。
それでは、どうすれば「0」→「1」という独自の視点により、誰も気付かなかった課題を発見することができるのでしょうか。
【脳科学の視点による「0」→「1」】
前段の「石鹸のリサイクル」の事例の場合、アメリカにおける常識では考えられなかったこと、また、「スマホ(モバイル通信網)」の事例の場合、先進国の常識では考えられなかったことに気付いたこと関して、それらに関与する脳における機能として、トップダウン処理があり、トップダウン処理は、四つの原理に基づき処理されます。
脳におけるトップダウン情報処理の四つの原理に関して、例えば、「石鹸のリサイクル」の事例の場合、「たった今与えられたイメージを過去に遭遇したイメージと比較する」という原理に基づき処理されると、ウガンダの難民キャンプの経験とアメリカのホテルの経験を比較することにより、違和感を感じる(気付く)こととなります。
また、「目下の文脈において行動面で無関係と認知された詳細は無視される」という原理に基づくと、ウガンダの難民キャンプにおける経験は、人生における大きな経験であり、「石鹸」は大きく関与するため、無視されることなく処理されることから、違和感を感じる(気付く)こととなります。
一方で、「スマホ(モバイル通信網)」の事例の場合、「たった今与えられたイメージを過去に遭遇したイメージと比較する」という原理に基づき処理されると、モバイル通信業界に関わる事業に携わっている人である場合、先進国と発展途上国の様子を比較することにより、違和感を感じる(気付く)こととなります。
また、「目下の文脈において行動面で無関係と認知された詳細は無視される」という原理に基づき処理されると、モバイル通信業界に関わる事業に携わっていない人である場合、また、発展途上国の人々は、スマホを購入するお金がなく、また、使用料金を引き落とすための銀行口座がないという固定観念が潜在的にあった場合、「発展途上国の人々の手元」には視線が行かず、無関係と認知された詳細は無視されることから、違和感を感じない(気付かない)こととなります。
これらのように、過去に経験したことや学習したこと、また、常識であると考えていることや固定観念によって、眼前にあるものを他者とは異なる視点により捉えることができる場合もあれば、捉えることができない(無視される)場合もあります。また、眼前にないものを過去の経験や学習した内容と比較することができる場合もあれば、比較することができない場合もあります。
よって、脳におけるトップダウン情報処理の四つの原理に基づき、事実が無視されることなく、そして、比較されることにより、違和感を感じる(気付く)ことができるようにするためには、事象を漫然と眺めるのではなく、眼前にある事実、過去の経験や学習した内容を積極的に収集(想起)するなど、「観察力」を高めることが重要となります。
【「知覚的アプローチ」と「思考的アプローチ」】
そこで、事実が無視されることなく、そして、比較されることにより、違和感を感じる(気付く)瞬間として、脳内で知覚(無意識的)した瞬間に想起する場合もあれば、脳内で思考(意識的)することにより想起する場合もあります。
観察のためのアプローチの方法として、脳内で知覚(無意識的)した瞬間に想起した場合を「知覚的アプローチ」とし、脳内で思考(意識的)することにより想起した場合を「思考的アプローチ」とした場合、知覚的アプローチとは、メンタル・イメージ的発想により、見えないもの(未来)を捉えたものであり、思考的アプローチとは、システム・デザイン的発想により、見えないもの(未来)を捉えたものであると考えます。
「知覚的アプローチ」
①能動的知覚 → 「簡易検診オムツ(#4)」「検診不要薬(#19)」
②受動的知覚 → 「石鹸のリサイクル(#49)」「モバイル通信網の構築(#2)」
「思考的アプローチ」
①能動的思考
②受動的思考 → 「モバイル通信網の構築(#21)」
これらのように、事実が無視されることなく、そして、比較されることにより、違和感を感じる(気付く)瞬間を、「知覚」「思考」、「能動的」「受動的」に区分しましたが、事実が無視されることなく、そして、比較されることにより、違和感を感じる(気付く)ためには、特に、「能動的知覚」「受動的思考」のように、「実現可能性の低い困難な課題(コンセプト)を強く意識する」、「『枠内』の情報を思考し尽く、さらに新たな情報がないか思考を繰り返す」など、眼前にある事実に対して、積極的に関与(知覚・思考)しようとする意思・行為が重要であると考えます。
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