SHIFT INNOVATION #53 「マインドセット2」(事象転換・事象反転編)
新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。
SHIFT INNOVATION #52「マインドセット1」(フェーズ移行編)において、「課題発見フェーズ」で課題を発見することができた場合、無意識的に課題を解決しようという意思が働くことにより、「課題解決フェーズ」へ移行することとなりますが、ムーンショット型コンセプトを意識し続けることにより、課題を解決することが困難であるという意思が働くことから、「課題解決フエーズ」へ移行することなく、「課題転換フェーズ」へ移行することを説明しました。
このように、前回は、どうすれば「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行でき、どうなると「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行できないのかを説明しました。
今回は、どうすれば「課題転換フェーズ」において目的を転換(再定義)でき、どうなると「課題転換フェーズ」において目的を転換(再定義)できないのかについて説明することとします。
【解決困難な状況における転換】
「オムツ」に関して、「便意感知オムツ」の事例と「簡易検診オムツ」の事例は共に課題発見フェーズから課題転換フェーズへ移行しましたが、「便意感知オムツ」の事例は、オムツの機能は転換したものの、事象が転換(シフト)しなかったことにより、検討すべき事象における潜在的な課題を解決したことから、目的が転換(再定義)しませんでした。
一方で、「簡易検診オムツ」の場合、課題発見フェーズから課題転換フェーズへ移行し、事象が転換(シフト)したことにより、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を解決したことから、オムツの機能と共に目的も転換(再定義)することができました。
それでは、どうすれば、事象が転換(シフト)することとなり、どうなると、事象が転換(シフト)しないのでしょうか。
例えば、「簡易検診オムツ」の事例の場合、「365日コネクトし社会貢献できるオムツ」というムーンショット型コンセプトを意識し続けたことにより、「夜の間に便をした場合、オムツの中に便は入ったままである」という究極的状況を想起しました。
そして、「オムツ」の機能に関して、解決する方法を模索したものの、一般的に想定される方法では、ムーンショット型コンセプトに基づき想起した「夜の間に便をした場合、オムツの中に便は入ったままである」という究極的状況を解決することは困難であるという意思が働きました。
この結果、困難な状況を乗り切るためには、今までとは異なる新たな解決方法を見出す必要があるため、解決すべき視点が「オムツ」から「便」へ転換(シフト)したと考えます。
一方で、「便意感知オムツ」の事例の場合、「社会的価値と人間的価値を共生することができるオムツ」というコンセプトを意識し続けたことにより、社会性のある大人は、便を漏らすことなく自律的に排便できますが、赤ちゃんの場合は、自律的には排便をすることができないと考えました。
しかし、赤ちゃんであっても、排便をしたいという便意はあり、その便意を伝えることはできるのではないかと考えました。
この結果、「オムツ」の機能に関して、コンセプトにより想起した「実は赤ちゃんは便意があることを意思表示しているが、大人が気付いていないだけである」という状況を解決することができるのではないかという意思が働いたことによって、解決すべき視点は「オムツ」を維持することとなり、事象は転換(シフト)しなかったと考えます。
これらのことから、「課題発見フェーズ」から「課題転換フェーズ」へ移行したのち、事象を転換させるためには、コンセプトを意識し続ける必要があるものの、コンセプトが解決困難であるムーンショット型コンセプトではなく、解決可能であるコンセプトの場合、課題が解決できるという意思が働くことにより、究極的状況を想起することができないことから、解決可能である課題を解決することとなり、解決すべき視点が「オムツ」を維持し転換(シフト)しないこととなると考えます。
よって、事象を転換させるためには、ムーンショット型コンセプトを設定することにより、究極的状況を想起することから、課題を解決することが困難であるという意思が働くことによって、困難な状況を乗り切るためには、今までとは異なる新たな解決方法を見出す必要があるため、解決すべき視点が「オムツ」から「便」へ転換(シフト)することとなると考えます。
【解決困難な状況における反転】
それでは、「簡易検診オムツ」の事例の場合、事象が転換(シフト)したことにより、検討すべき事象とは異なる事象における潜在的な課題を解決したことによって、オムツの機能と共に目的も転換(再定義)することとなりました。
一方で、「便意感知オムツ」の事例の場合、事象が転換(シフト)しなかったことにより、検討すべき事象における潜在的な課題を解決したことによって、機能は転換したものの、目的は転換(再定義)しませんでした。
例えば、「簡易検診オムツ」の事例の場合、解決すべき視点が「オムツ」から「便」へ事象が転換(シフト)したことにより、「便」自体が不便益であることから、「オムツの中にある便は、不快なものであり、どうすることもできない」という固定観念を抽出することができました。
そして、通常であれば、固定観念を排除することは困難であるという意思が働くことにより、課題を解決することができないという意思が働くこととなります。
そこで、固定観念に対して、「本当にオムツの中にある便はどうすることもできないのか」という本質探究の問いを発したことにより、「便は大腸がん検査に使っている」という新たな機会を抽出したことから、「便は不快なものであり、どうしようもない」という不便益から「便は役立つものである」という便益に意識が反転しました。
この結果、当初の事象である「オムツ」の機能は、「便を保存する」であり、目的は「便を漏らさない」となりますが、新たな事象である「便」の機能は、「健康情報を保持する」となり、目的は「健康情報を活用する」となることから、機能と共に目的も転換(再定義)することとなりました。
一方で、「便意感知オムツ」の事例の場合、解決すべき視点は転換せず、「オムツ」に関連する事象を維持することとなり、便の漏れを防ぐことができる「オムツ」は便益であることから、「オムツ」の不便益に対する固定観念を抽出することができませんでした。
そして、便の漏れを防ぐことができる「オムツ」は便益であることから、便の漏れを防ぐことができる「オムツ」の機能を、さらによくするという視点ではなく、赤ちゃんが便をする前に気付いてあげることができれば、「オムツ」自体が必要となくなり、より良く解決できるという視点へ転換しました。
そこで、比較的解が容易な「オムツ」に関連する事象に対して、「赤ちゃんは便意を伝えることができないのか」という事実確認の問いを発したことにより、「実は赤ちゃんは便意があることを意思表示しているが、大人が気付いていないだけである」という状況に気付いたことによって、「便意を伝えることができない」という不便益から「便意を伝えることができる」という便益に意識が反転しました。
しかし、この場合、固定観念に対して、本質探究の問いを発することにより、固定観念を排除したことによって、事象が反転したものではなく、比較的解が容易な事象に対して、事実確認の問いを発することにより、事象が反転したものであり、反転した事象は、想定内の事象であることから、新たな機会を抽出するまでには至りませんでした。
この結果、当初の事象である「オムツ」の機能は、「便を保存する」であり、目的は「便を漏らさない」ですが、新たな事象である「便意」の機能は、「便意を伝える」ですが、目的は「便を漏らさない」となることから、機能は転換したものの、目的は転換(再定義)しませんでした。
これらのことから、解決すべき視点が転換(シフト)せず、固定観念を抽出することができない場合、比較的解が容易な事象に対して、事実確認の問いを発することによって、事象は反転するものの、反転した事象は想定内の事象であり、新たな機会を抽出するまでには至らないことから、目的も転換(再定義)するまでには至らないこととなると考えます。
よって、目的を転換(再定義)させるためには、解決すべき視点が転換(シフト)したのち、排除することが困難である固定観念に対して、本質探究の問いを発することにより、想定外の新たな機会を抽出することによって、不便益から便益に反転させることができることから、目的も転換(再定義)させることができることとなると考えます。
【「簡易検診オムツ」「便意感知オムツ」の事例における思考プロセス】
「簡易検診オムツ」 ※課題発見・課題転換・課題解決
「便意感知オムツ」 ※課題発見・課題転換・課題解決
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