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『ブラック・ジャック創作秘話』感想


手塚治虫が好きです。いわずと知れた「漫画の神様」で、子供のころに『ブラック・ジャック』を読み、学生時代には彼の数えきれない作品を片っ端から購入して読みふけっていました。『奇子』『どろろ』『アドルフに告ぐ』『きりひと讃歌』『MW』…そのどれもが天才的なストーリーテリングとインスピレーションに満ちており、本当に驚いたものです。昨今、初期SF3部作のうちの一つ、『ロストワールド』をようやく読みましたが、これもすごかった。

そんな中自分が最近ハマって、何度も何度も読み直しているのがこの『ブラック・ジャック創作秘話』です。かれこれ1巻あたり10回以上は読み直してる。自分が個人的に、漫画家や編集者の話が大好きというのもありますが、それ以上に手塚治虫という人間の常軌の逸してるっぷりと、周りの人間の常軌の逸してるっぷりと、そしてそれが許されていた(許されてなかったのかもですが)この時代が、ただただ魅力的で、何度も読む強度のある作品になっています。ということで何となくこちらから紹介してみます。

・週刊・月刊合わせて10本以上の漫画を同時連載する
・アシスタントの寺沢武一いわく「1年間つとめて1日も休日がなかった」
・ブラック・ジャックは毎回3本話を作ったうえで1本を選ぶ
・アメリカから電話1本でアシスタントに作画の指示出しで原稿を仕上げる
・↑の指示出しはすべて自分の記憶(自作の何巻何コマ目に何を描いたかをすべて記憶している)
・下北沢の「赤いきつね」が食べたいといい、下北沢まで買いに行かせる

と、手塚治虫の常軌の逸しっぷりがとにかくすさまじく、とにかく面白い。ていうか現代において、週刊連載1本でも耐えきれずにつぶれたり休載が相次ぐ作家が多い中、完全アナログで10本以上の連載を抱えるって全く想像がつきません。そしてそんな中で、ほぼ毎回読み切りをやってるに等しいブラック・ジャックや、天才的な伏線回収を行うアドルフに告ぐを描いていたというのがやばいです。でも最後の一文のこだわりはまったく意味が分かりません。(他にもユニ、は秋田のユニ、じゃないとダメだとか深夜に国会議事堂の写真を撮りにいかせたりとか、まあ天才にありがちな異常な癖が沢山あったようですね)

そしてこの漫画、手塚治虫はもちろんなのですが周りの人間もやばくて面白いんですね。

・手塚治虫を寝させないため、10日間仕事場から帰らずに張り付く
・包丁をもって作家を追いかけまわす。
・原稿が上がる直前で全部やり直しになり壁を殴って穴をあける。
・完成前の原稿(背景が真白のコマがある)を盗んで掲載する。
・手塚治虫を拉致して行方をくらませ原稿をあげる。
・原稿を無理やり印刷させるため、輪転機に砂を入れて止めるぞ!と脅す

まあすべては手塚治虫の気が狂ったスケジュールの中無理やりにでも原稿を獲得しようという編集の葛藤からきているわけですが、現代に置き換えると普通に犯罪すれすれのものが何個か混じってたり、とにかくめちゃくちゃな時代だったんだなあということがよくわかりますね。漫画家も編集者も、体力と根性のないとダメだった世界なんでしょう。当然のごとく、家に帰ったり帰らなかったりで仕事に100%没頭してるような世界線ですし。そういう文字通りの命がけの状況下から生まれた作品だからこその熱量と強度。めちゃくちゃですが、ちょっとうらやましいとか思わなくもない。


なんか久々にnote書いたら字だけの記事になってしまいました。手塚治虫の作品も今後折を見て、一つ一つレビューしていければと思います。

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