真・相撲最強決定戦

「今日で何度目だ。もう来ないでくれ。私たちも暇じゃないんだ。あなたもいい大人なんだから、これ以上からかうのはやめてもらえないか。あなたみたいな華奢な女性が力士に勝てるわけないだろう」
「お願いします親方。一度でいいんです。この相撲部屋で一番強い力士と相撲を取らせてください。勝負が決まったらすぐ帰りますから」
「はぁー、困ったな。どうしてもというなら、今稽古場の入り口を塞いでいる私を押し出してみなさい。稽古場に入れたら一番強い力士と相撲を取らせてあげよう。時間は1分。それでいいね?」
「お願いがあります。ちゃんと踏ん張れる体勢をとってください」
「ハハハ、わかりましたよ。それじゃあ始め!」
バーン!
稽古場に聞いたことのないような大きな音が鳴り響いた。
女性が触れた途端、親方は一瞬で稽古場の奥まで吹き飛び、壁に打ちつけられたのだ。
「ごめんなさい、力加減間違えました。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ、なんとか。あなたは一体何者なんだ?あまりにも強い、強すぎる」
「ただの一般人です。目立つのが嫌いでこの力は隠してひっそりと生きてきました。ただどうしても自分の限界を知りたくて・・・巷の力自慢では話にならないので、強い力士に自分の力を試したいんです。だから最強と名高いこの相撲部屋に来ました。お願いします。この相撲部屋で一番強い力士と相撲を取らせてください」
「すまない、この相撲部屋であなたにかなう人はいない。日本にもいないだろう。あなたは強すぎる。だが、来月に開催される真・相撲最強決定戦に来日する最強関なら満足に相撲を取れるかもしれない。最強関は今まで圧勝しかしたことのない無敗の最強力士。強すぎてつまらないからもう相撲を取りたくないと言っている。今回の真・相撲最強決定戦で引退する予定だ。これが最後のチャンスかもしれない。あなたはこれに参戦するといい」
「女性も参加できるんですか?女性は土俵に上がれないんじゃあ・・・」
「この大会は普通の相撲の大会ではない。参加条件を全て取っ払った上で真の最強は誰かを決める大会だ。誰でも参加できるよ」
「やったー!こんな大会があるなんて。ありがとうございます、参加します」

10日後。
親方は再び稽古場へ呼び出した。
「親方、話ってなんでしょう?」
「すまない。真・相撲最強決定戦での君の出場が取りやめになった」
「え!?誰でも参加できるって言ったじゃないですか!」
「やはり日本で開催する以上、女性は土俵に上げることはできないとのことだ。そういうものを全て取っ払うというのがコンセプトだったはずなのに・・・今回の大会は世界中から注目されている相撲界最大の興行。世界から尊敬される日本として伝統をおろそかにできないらしい。スポンサーの強い意向だ。だけどまだ私は諦めてない。掛け合ってみるつもりだ」
「ありがとうございます。信じて待ちます」
「この前電話で君のことを最強関に話したら、なんとしてでも君を出場させてくれと言われたよ。彼はとにかく勝ち負け関係なく全力で戦える相手が欲しいんだ。彼の引退を止められるのは君だけだよ」
「本当ですか!?私も全力で戦える相手がずっと欲しかった。親方、私にできることはありますか?」
「スポンサーにアピールするために君の強さをカメラに収めたい。私をもう一度吹き飛ばしてくれ。怪我しない程度に」
「わかりました」
バーン!
「イタタタタ、やはり君は強すぎる!私は絶対に君を出場させる」

真・相撲最強決定戦当日。
親方は叫んでいた。
「大会委員長!なぜダメなんですか?許可してくれたじゃないですか!」
「親方、申し訳ない。彼女の強さは十分わかっているし、私としても出場させたいと思っている。しかしスポンサーに手のひら返しされてしまってね。やはり出場を認めることはできないと」
「なんとかならないんですか!?」
「開始時刻までまだ時間はある。粘ってみるつもりだ。親方も協力してくれ」
「はい!」
「スポンサー会社の社長たちがもうすぐやってくる。そこで最後の説得をする。どう見ても強いやつをこの大会に出場させないなんて間違っていると全力士が言っている。彼女の出場は全ての力士の願いでもあるんだ。大会委員長の私としては諦めるわけにはいかないんだよ」

大会委員長はスポンサー会社の社長たちに熱弁した。
「委員長、君の言い分もわかる。しかし、女性を土俵に上げることはできないんだよ。昔からの伝統なんだ。伝統は何があっても守らなければならない、常識として」
「これは最強を決める大会じゃないんですか!?大会の趣旨と違うじゃないですか!」
「いや、正しい。伝統を守った上で最強を決めるんだ。伝統は絶対に動かせないんだよ。もうこの話は終わりだ。申し訳ないが彼女を出場させることはできない」
「失礼します!!!」
まわし姿をした最強関が突然現れた。
「な、なんだね!?」
「女性の出場を認めてください!お願いします!」
「もうその話は終わった。控え室に戻りたまえ」
「どうしても認めてくれないんですか!?」
「認めん」
「わかりました、これを見てください」
最強関が突然まわしを脱ぎ始めた。
「な、なにをしてるんだ君!やめたまえ!」
「これでも認めないというんですか!?」
「な、なにがだね?」
「ちゃんと俺の体を見てください」
「え?・・・な、ない!」
「俺は女性でしょうか?男性でしょうか?今から詳細に調査しますか?大会開始までもう時間はありませんよ。これでも女性の出場を認めませんか?」
「何!?君がここまでやるとは・・・君が出場しないと興行が成り立たない。出場を認めざるをえない」
泣き崩れる親方。
「伝統に勝った!今日は歴史的な日だ」

今、真・相撲最強決定戦が始まる。