デザインメモ③水野学
美意識を伴うブランディング
ブランディングデザインとは、企業の潜在的価値を探り出し、デザインの力で視覚的にターゲットに伝えることである。そのデザインに課せられた使命とは、企業や商品の成長に貢献し、一定の成果をもたらすこと。一方で、その表現に於ける情趣に富んだ成り立ちは、生活者の心や記憶に根ざし、相応しい「美」が寄り添っていること。
アート&カルチャーをデザインする
美術展や舞台作品のフライヤー・CDジャケットのデザインなど、文化・エンターテイメント関連の仕事も数多く手掛けてきた。水野にとって企業における消費者も、ミュージシャンにおけるファンも、同じエンドユーザーであり大きな差はない。いかに、エンドユーザーまでメッセージを届けるかというのは、あらゆる仕事に於いて最も大切な思考だという。
商品にとって機能や価格が売り上げの重要なファクターになるのに対して、ここでは作家や作品に対するパーソナルな感情に左右される面が大きいのが特徴である。美術展や舞台作品のフライヤーは、作品という商品を取り巻いているもので、そのパッケージが悪ければ商品も悪く見えてしまう。この公演を観に行くと自分を肯定できたり、このミュージシャンのファンであることに自信を持ってもらえるようなデザインが大切で、それはパッケージデザインの考え方と同じである。
ポスター・フライヤ―
グラフィック表現の可能性を追求し続ける新国立劇場のポスター。
「あなたに一瞬見られるために、数百時間を費やしてきました。」
CDジャケット
アーティストの望みを最大限表現することに徹底している。
「デザインは時々、あなたに旅をさせる。」
企業のブランディングをデザインする
企業そのものの方向性を、経営者とのやりとりを通して思考し、立体的に統合的に組み立てていく。その仕事たちはどれも鮮やかで核心をついている。
問題を発見する能力を養う
マーケティングに基づいたものがすべて売れているわけではないように、市場調査のデータは参考にするだけで頼ってはいけない。日常のすべてのものに目を向け、「なぜこのようになっているのか?」「なぜこう見えるのか?」と観察することで養う問題発見能力。
似合わない洋服は着せない
変えるべきところを最低限変えて、足りないところを補充するのがリブランディング。既存のブランドが築いてきた伝統や歴史を守る必要がある。クライアントに似合わない洋服を無理やり着せてしまうと必ず弊害が起こる。余程困窮している企業でない限り、大きく変えるべきではない。
あらゆる質問を事前に予測する
プレゼンテーションでは、クライアントが疑問で思うであろうことを事前に予測し、説明の中に組み込んでおく。シンプルに磨き抜かれた言葉で相手が分からなかったことをシンプルに伝える。ディテールの話ではなく大きな方向性を伝え、「確かにそうだな」となるような聞けば誰でも分かることしか言わない。
デザインには優先順位がある
お客さんが店頭で商品と出会った時に、それをどこから見ていくかには順位がある。デザインするものにもよるが、基本的に「シズル」「機能」「装飾」の順であり、デザインを考える際の優先順位にも大きく関わる。人は見たことがないものをいきなり買おうとは思わない。今まで自分が見たものや経験した感覚で何かをそこに見つけた時に初めて欲しいと感じる。
「シズル」はそのものらしさ。類似パッケージが増えることを避けると同時に、商品の品質とイメージをより明快に伝えるデザインになる。
「もっと考えよう。自分の仕事が正しいかなんどでも検証しよう。些細なことを見つけよう。細部にこだわり、全体にこだわろう。小さなデザインの積み重ねが大きなブランドを形づくっていくはずだから。」
拡張するデザイン
プロダクトデザイン、スペースデザイン、ブランド開発、キャラクターなどデザインの領域を次々に広げている。そのひとつひとつがチャーミングに、人の心を「!」とさせてくれる。
CI・VI・ロゴデザイン
企業やプロジェクトのアイデンティティを凝縮させ、ミニマムに落とし込み図像化する。
NTTドコモが打ち出したケータイクレジットサービスのiD。このブランディングの成否は、消費者に信頼感を与えられるかどうかにかかっていると水野は考えた。新しいけれど、昔からあったように感じるもの。実直な佇まいの中に、どこか依拠性をもち生活の一部になるような要素を組み込んだ。
空間デザイン
機能と装飾のバランスを意識した空間づくり。店舗や旅館、オフィスなどの空間ディレクションやサイン計画など、メディアは違えど水野の一貫した美意識が感じられる。
プロダクトデザイン
商品のニーズを見極めた上で的確なターゲット設定を行い、それを広めていくコミュニケーションを設計する。売るための仕掛けをつくる、ディレクション能力が光る。
キャラクターデザイン
世界のアイドルに駆け上がる、熊本の広告塔「くまモン」
「デザインは、世界中で必要とされている最先端の学問。こんなにおもしろい仕事はない。」
グラフィックデザイン哲学
デザインをする上では、大きな方向性をどう決めていくかが大事。まず、消費者の五感に訴えて購買意欲をそそるものである「シズル」を発見する。シズルをつかめれば表現手法やトーンも決まる。的確なシズルを見つけるには、「~っぽい分類」で絞り込んでいく。
イメージを鮮明に伝えるには「色」の力が欠かせない。消費者とスムーズなコミュニケーションを図るために、色に情報を集約し、色でブランドのメッセージを伝える。このように色を記号化することは、単純明快だからこそ見る人の記憶に残り、イメージを喚起させることができる。さらに、運用がしやすく、統一感が生まれる。
自分の中に基準を持つ。上手いデザインの裏には必ず豊富な知識がある。センスは知識の集積に他ならない。タブーを冒すのであれば、まずセオリー通りのものを頭の中に描き、それを踏まえて崩していくべきである。
わずか数秒で思いついたアイデアが、時間をかけて丹念に調べたものと同じだったということがある。センスは和訳すると感覚。感覚的にいいと思うものも実は知識の集積。アイデアが出る瞬間の1秒という時間は、消費者が広告を見る1秒でもあり、裏を返せば見ている人と同じ時間で考えてることにもなり、そこに重要な意味がある。
基本なくして応用なし。文字組やレイアウトにおいて基本形がつくれて初めて外しのテクニックが使える。基本と外しは表裏一体である。
「私にとってデザインとは、世の中をよくするための手法です。」
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