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デザインメモ②ウィル・クロウエル

クロウエルのデザイン

クロウエルのデザインの特徴は初期作品から明確である。60年にわたる彼のキャリアは、その特徴を推し進めていく道程としてとらえることも可能である。

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強いコントラストによる率直さ、力強さ。メインになるモチーフが展覧会の会期や美術館名称などのボディテキストに対して明確に大きくレイアウトされ、強いコントラストが付与されると同時に画面に奥行きをもたらす。メインモチーフはポスターの主題と固く結びつけられており、高い情報伝達能力をもつ。ビジュアルコミュニケーション機能そのものである。

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彼の作品は、文字造形が幾何学的な抽象形態として利用されることが多く、ポスターの主題を表現したキーワードが一種のロゴタイプのようにして表現されている。一貫して明晰さを重んじたが、同時に実験色の強い作品を展開していくといった絶妙なバランス感覚を持っている。

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「ポスターを制作する時、私は常にひとつの単語をとりあげる。その単語が持っているイメージをベースにしてタイポグラフィを展開するんだ。」

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ボディテキストの書体の数、サイズのバリエーションが最小限に抑えられ、テキストの位置関係によって情報の内容を整理する方法が取られている。スイス・タイポグラフィに代表されるモダン・デザインの原則にのっとった方法で、文字列はアシンメトリーに配置される。

そして、彼の主軸となるのが「構造的デザイン」である。アシンメトリーなボディテキストが画面上に格子状のグリッド構造をもたらす。メインモチーフが明快なコントラストをつけてレイアウトされることで、より構造性を強く意識させる。

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「グリッドを基盤として、タイポグラフィのシステムは構成される。レイアウトを行う時のさまざまな疑問はこのシステムの中で読み解かれる。その際、ポイント・システムというサイズ体系は良い助けとなってくる。」

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「私はグリッドなしに仕事をすることはできないだろう。これは今でも同じだ。」

デザインへの意志

クロウエルは独立後、美術館のポスター、カタログ類をデザインする仕事を依頼された。グリッドを定めることにより、デザインワークに論理的でシステマチックな方法を適用する基盤を整えた。彼は、グリッドからの逸脱を決して許さず、厳格に従うべきルールとして設定した。継続的な美術館活動の顔・個性を演出する具体的手段であった。

彼のグラフィックデザインは常に伝えるべきメッセージ、主題を明確にすることでその率直さ力強さを失うことがなかった。しかし、それ以上に、グラフィックデザインに対する機能主義的立場を標榜し、維持していくこと自体が一種の実験として成立するようなデザイナーとしてのあり方を身をもって実現した。

厳格でシステマチックなデザインは、非人間的であると非難する声が上がったのも事実である。もっともこれは、モダン・デザイン全体に対する批判というべきであろう。70年代を境にモダン・デザインは、より個性的な表現の台頭により後退した。しかし、彼の作品にみられる率直さと力強さは、明確な個性を備えている。私たちがそこに見出すのは非人間性ではなく、その豊穣な展開である。常に一貫して展開し続けた彼の仕事を通じて、グラフィックデザインの魅力と可能性を知る。

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