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ピノキオの鼻

夜更けの酒場で、二人の若者が与太話に興じている。閉店時間はとっくに過ぎている。店じまいができず、ウェイトレスはイライラする。金にならない残業ほど下らないものはない。おまけに与太話といっても、街一番のジゴロに対する、半ばやっかみだ。胸糞悪いったらありゃしない。

若者の一人が言うには、ジゴロの男根はピノキオの鼻で出来ている。嘘をつけばつくほど大きくなるのだ。手当たり次第、道行く女に声をかけてベッドインすれば、必ず女は首ったけになる。歯の浮いた、誰が聞いても嘘だとわかる言い回しこそ、ジゴロのレーゾンデートル。愛の言葉は、真実の光を宿さないかぎり、彼の性器を、太く、逞しく、反り返らせる。さんざん笑い転げると、もう一人が急に真顔になってこぼす。

「で、そいつは幸せなのか? もし本当に好きな女ができれば?」

「真実の愛を告白しても、一物は反応しないんだろ?」

まるでブリキの玩具箱の、錆びついた蓋を開けたような物言いだ。言われたほうは小さく咳払いをして、教訓めいた色を添える。

「そうさ、世の中は公平にできてる、ってことかもな」

「ハハハ、バチが当たったようなものだ」

これにて一件落着、と思いきや、二人の若者はさらに興が乗る。ジゴロにたふらかされた、つまり幸福なベッドタイムを共にした、街中の女たちの名前をたがいに挙げ始めるのだ。さも見てきたかのように、自慢げに。ウェイトレスはモップをバケツに突っ込み、ジャブジャブ苛立ちを募らせる。いい加減にしろよ、その言葉を態度に変える。年頃の娘たちの名前が一巡した頃合で、泥酔客はなにか忘れものをしているような気になる。

ジゴロの不条理、結ばれない真実の愛。だが、もっとも悲劇なのは、そのジゴロを愛してしまった女かもしれない。と、我慢の限界に達したウェイトレスが、「嫌ァ—」と大声で泣き喚く。髪を乱して泣きじゃくりながら、ビアジョッキを、カクテル瓶を、手に触れるあらゆるものをやたらめったに投げつけてくる。煉獄の苦悶に引き裂かれるように。閉店作業ができない理由とは、およそ別の剣幕で。




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