バットウ 第1話

あらすじ
小学卒業式の日、抜刀(バットウ)は幼馴染のアッキーが中学生の不良に絡まれているのを見つけ、助けに入るが何もできずに返り討ちにあってしまう。絶体絶命のピンチに偶然現れた謎の少年「山本海」が不良を撃退。
海の強さに憧れた抜刀とアッキーは、海がMMA(総合格闘技)を習っている道場への入門に覚悟を決める。
中学校を仕切る2年生の山下や、隣の中学の番長などとの激闘を通じて必殺技を身に着け大きく成長していく抜刀。
高校生になってMMAに打ち込む日々を送る抜刀の元に、U18の格闘技世界大会が開催されるとの情報が飛び込んでくる。抜刀たちは世界の強豪と戦うために日本代表決定トーナメントに出場することを決意する。

(補足)主なキャラクター
抜刀(バットウ):主人公。負けず嫌いで人一倍強くなりたい気持ちが強い
アッキー:抜刀の幼馴染。臆病だがコツコツ努力するタイプ
海:中学1年にしてMMA歴10年。無口だが義理人情に厚い
白木師範:最強。趣味筋トレ。かなり抜けている天然キャラ。
     道を間違えたり、一般人に怒られたりしてよく謝っている
モモちゃん:クラスのマドンナ的存在
山下:中学の番長。ボクシングでは地域敵なし
高木:隣の中学の番長。柔道の強豪校から特待生の誘いあり
川崎:高木が進学した高校の柔道部キャプテン。高木を再起不能に。
徳山:キックボクサー。過去の高校格闘頂上トーナメントで川崎に勝利する
   も竹内師範に秒殺される
桜井:中学の1学年下の後輩。空手の達人ながら弱みを握られており、
   不良の用心棒として利用されている
空:海の5つ上の兄。優しく柔術を教えてくれる道場の先輩。
  川崎からも一目置かれている。
どすこい:隣の中学に通う180cmで120kgのちびっこ相撲日本チャンピオ   
     ン。喧嘩はしないが最強。日本代表中堅。
クマ:高校の修学旅行のスキー場で共闘することになる怪物。
   小さいころから大自然で鍛えたフィジカルとクマを素手で倒す野生の  
   勘を武器に日本代表の副将に
ガイヤーン:タイからの転校生。タイの小学生ムエタイベスト16。日本では
      無敵の強さ。抜刀がタイ修行に行くきっかけに。タイ代表。
DJ2:アメリカ代表。伝説のMMAチャンピオンの息子。

第1話 はじまりの卒業式

小学校卒業式の日。校庭は幸せな雰囲気に包まれている。
児童たちはそれぞれの一番品の良さそうな真新しい服をまとい、校庭の見慣れたステージの前で優しく微笑む校長先生や先生達との最後の別れを惜しんでいた。
校庭の一角の立派な桜の木から美しい花びらが風に舞い、幸せな空気を演出している中で、抜刀(バットウ)たちは親や地域の方々の喜びや感動の表情に見守られながら、6年間の年月を一緒に過ごした友達とこの特別な時間を楽しんでいる。
「また中学で会おうぜ!」
と告げ、抜刀は、卒業証書を手に入れるという喜びと、ここで過ごした日々や大切な仲間たちとの記憶を思い出しながら帰路につく。
小学校最後の通学路を歩く抜刀。心の中にさまざまな感情が渦巻き、卒業の喜びと別れの寂しさ、そして新たな未来への期待が入り混じり、彼の胸は締め付けられていた。

いつもの見慣れた公園の一角にかかった時、
「やめてください」
「誰か助けてください」
悲痛な声が聞こえてきた。
抜刀にはその声が幼馴染のアッキーであることがすぐに分かり、鼓動が高鳴る。
アッキーとは家が近くてよく遊ぶ仲で、どちらかというと少しだけ生まれが早く、体の大きい抜刀が兄貴分のような関係であった。
そのアッキーが中学生らしき不良2人に絡まれているのをすぐに察知した抜刀は勇気を振り絞り、
「やめろ!何やってるんだよ」
と近づいていく。
が、これまで1度も本気の喧嘩などしたことのない抜刀は、今にも心臓が爆発しそうなくらいの緊張で足は震え、体もガチガチになっていて、不良中学生の1人がその緊張を見透かしたように有無を言わさず、そして冷笑しながら抜刀に向かって2、3歩近づき、慣れた感じで1発2発と顔面を容赦なく殴りつけた。
「うぐっ」
生まれてから1度も本気で殴られた経験がない抜刀は声にならないうめき声を上げ、何が起こったのか理解が追い付かず戸惑い混乱している。
「ケンジ、こいつ財布持ってるかもしれないから念のため調べとけ!」
もう1人の不良が少し離れた所から声を掛けると、ケンジは抜刀の財布や持ち物を奪おうとしてくる。
両頬がジンジン痛み、すでに涙を流している抜刀は必死で持ち物を奪われないよう抵抗するが、ケンジの暴力は容赦なく、
「さっさと出せよ」
言い終わらないうちに、さらにボコボコに殴られ抜刀は痛みに耐えることができず、地面に倒れ込む。
「くっ...やめろよ!」
言っても言わなくても大勢に影響のないセリフを絞り出し、痛みと絶望の中で早くこの状況から逃げ出したいという思いだけに支配され、涙でぐちゃぐちゃになりながら震え、それでも決してこいつらには許しを請いたくないという僅かばかりのプライドでただ耐え忍んでいた。
アッキーは声も出せず泣き、その場で震えながらただ立ち尽くすだけ。抜刀には限界が近づき、呼吸も苦しくなり、気も遠くなってきている。

そのとき、突然、体の小さな男の子が向かってくる姿が抜刀の目に映った。
その男の子は、抜刀を何発も殴り蹴って財布を奪ったケンジに片足タックルをお見舞いし、その場に倒した刹那、華麗なステップでサイドに回り相手の顎に容赦ない掌底を見舞い、動けなくしたと思ったら、間髪入れずに、残った1人に向かって走り、右手を大きく振りかぶり殴りかかると見せかけて相手が顔面をガードしたところに両足タックル。
倒す勢いでそのままマウントポジションを取り、相手の顔の方にせり上がって、決して力任せではない鋭くて速いパンチを右左とお見舞いしてあっという間に2人を制圧したのだ。
抜刀が少年の姿を確認してからわずか10秒くらいの出来事であった。

目の前には完全に伸びきった不良中学生が2人。
抜刀は驚きと混乱の中でその光景を見つめながら、地獄の時間が終わったという安堵の涙を、痛みと恐怖で流した量と同じ量だけ流し、その少年に聞こえるか聞こえないかの声で
「ありがとう。あの・・」
声を絞り出したが、謎の少年は振り向くこともなく抜刀とアッキーの前から風のように消えていったのだった。
取られた財布を拾い、アッキーと足早に公園を後にして、お互いの無事を喜びながらも、大きな心の傷になってしまった忌まわしい出来事になるべく触れないように、
「あぶなかったね」
「助かったね」
とだけ会話をして2人は小学生最後のバイバイをする。
1人で残りの家路に着く抜刀は、先ほどの少年に対する興味と、彼の持つ力の謎について考えずにはいられなかった。

第2話 バットウ 第2話|かいのすけ (note.com)
第3話 バットウ 第3話|かいのすけ (note.com)

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