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千の焦点を揺らして・第2章:落下する教室(坂口安吾全集リミックス)

 草穂修は教室にいる「男」を見つめる。「男」はドテラを着込んでいる。その服装は明らかに場違いである。教室にいる全員が制服なのに。だから、浮いている、その「男」が。メガネが大きな二つの丸で出来ており、顔立ちが屈強で、目が少し、蒼い。「男」は真剣な眼差しで、窓の外を凝視する。教室の誰も、この「男」の存在に対して困惑していない様子。気に掛かっていないというより、見えていない方が妥当な言い方かもしれない。  修は理解している。「男」は恐らく死んでいる。半世紀以上、亡くなっていた人。

    • 千の焦点を揺らして・第1章:青と桜の手引き(坂口安吾全集リミックス)

       アンは気づいた、その括弧に。名前には括弧がある。つまり「坂、口、アン」に、括弧がある。坂を登れば、坂を意識しない。誰が坂は登るものだと断定した? だから、坂に用はない。口とアン、「くちアン」を残して。つまり「く」と「ン」は「<>」を形成することに気付く。括弧のプリズム、二個できた。そこに映し出されたものに、更に、その後で気付く。  雪の国を離れて、都会で炳の抹消を綴りはじめてから、時間の経過に対する感覚が鈍くなった。ほぼ鈍器。何年経ったか。何千年経ったかもしれない。綴られ

      • 千の焦点を揺らして・序章:フルサトは語ることなし(坂口安吾全集リミックス)

         炳は雪しかない国で生まれた。生誕の座標は、サカグチ家。意識なるものが暴発する日以来、彼は太陽に郷愁を抱き、南国の空を気候のゆりかごにした。だから、炳。(辞書を引く)その名前に光があった。名前が、光そのものだった。親が名付けたというより、自分自身が付けた名前であったと、そう決めていた。だが、炳の歴史はここで終わる。ある(封鎖された)教室で、ある教師によって。それ以降、彼の人生は「アン」として銘記される。そのように銘記されるべきだと、彼は決定を下した。下した瞬間、はじめて「腑に

        • 恣作・零聴の泉

          最後の一行が出来上がった 回溯の寸法 ローファイヒップホップを巻き戻し 考古学 虚しく 2010年 名前の明かされてない フロントガラスを叩く ウィンドウワイパーの上下 (地球儀をめくって  ユーチューブ大陸発見  宿題少女を輸入して  漢字表記もど忘れ) タバコを啜り 頼りないともし火 にしても鳴り止まない 鼓動の乱痴気騒ぎ 何かが引っかかる 撒き散らし コーヒー 吐き気 片手に「頭脳の塔」 片手に『ボディ・アンド・ソウー』 隙

        千の焦点を揺らして・第2章:落下する教室(坂口安吾全集リミックス)

        • 千の焦点を揺らして・第1章:青と桜の手引き(坂口安吾全集リミックス)

        • 千の焦点を揺らして・序章:フルサトは語ることなし(坂口安吾全集リミックス)

        • 恣作・零聴の泉

          恣作・〔AA〕阿加の泉

          阿加!阿嘉! 「パーカ…  ション!」 ソナタはローリングベア ソナタはローリングギア ありもしない螺旋の鼻 生かされたハイハットのトリア ただ美しく落ちていくだけか 阿嘉!阿加! ジャマイカカルビア カリブ海はニューオリンズの南か 否、否、否 それは音響地理のディアスポラ 拾い集められたレジスタの分からず屋 阿嘉!阿賀! もう誠実ぶるのをやめようか 調性打破のいさぎよさ 全部を飲み込んで注入されなければ なんの話にもならないや 阿嘉!阿

          恣作・〔AA〕阿加の泉

          恣作・西の泉

          線に千切り わたしが風 埋没させられた天井の民 三壇映月 蒼生に代わり ねじ巻きの絵 盤上にあるのは 永久の息吹 断章残雪 ようやく産み落とされた 水に相応しい桟橋 ラヴェルよりも遥か以前に! 岸しぶき 雲気にある竹藪の道 たむろう祭囃子 多様性を侵蝕するのは 差異の波じゃない 同語反復 我、ロジックの崩し手 鏡像を突き抜き 平面なき所に 底流の湿り 南錨晩抄 内在、内在 ひるがえして道化のふり 十里鐘塔 葉ばたきある傾斜に

          恣作・西の泉