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美術館は人を自由にする

緊急事態宣言が明けて、東京都内の美術館も再オープンし始めました。
館内でのソーシャルディスタンシングの観点から予約制の館も多いようです。また状況によって開館時間等変更になる可能性も高いため、おでかけの前に必ず各美術館の公式ホームページで最新情報を確認するのがおすすめです。

美術館に行くのは好きですか?

わたしは美術館に行くのが好きだ。都内で開催される展覧会には、時間が許す限り足を運んで見に行きたい。社会人になって、一般の会社員として東京で働くようになってから、ずっとそう思ってきた。

同じようなことを趣味にしている人は一定数いて、展覧会の感想を記事にまとめたりする熱心な方もいる。アンケート調査で「あなたの趣味はなんですか?」という質問があったら、「美術(芸術)鑑賞」の項目は毎回用意されているし、一つの趣味のジャンルとして広く知られていることは間違いない。

一方、とっつきにくい趣味だと思われているのも事実だ。
たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作《最後の晩餐》のようなキリスト教絵画について知ることは、21世紀の日本の生活とは何も関係ない。ヨーロッパの現地へ旅行ができるような、余裕があるマダムたちの優雅な趣味という見方も根強いだろう。
「現代美術」と呼ばれる分野はより酷くて、何を表現しているのかもわからないわからないグニャグニャの絵画やアニメのフィギュアみたいな作品がもてはやされ、オークションで何億円、何十億円という高値で売り買いされてることがニュースにになる。もっともらしく「現代社会への風刺」と解説されても、傍目には大金持ちの内輪のお遊びとしか思えない。

美術館なんかいかなくてもNetflixで十分じゃないか

だから貴重な休日の時間に「なんでわざわざお金を払って美術館に行こうと思うんだろう?」と思う人もいるに違いない。
もしその質問を投げかけられたら、同じ趣味の人たちはなんて答えるだろう?
今どき、休みの日にできる趣味はいろいろある。映画に行ってもいいしキャンプに行ってもいい。文化系のインドア派なら、家にじっと座ってYouTubeやNetflixを見ているだけで十分楽しいんじゃない?

美術館に行くのは「気軽に豪邸に遊びに行く」感じ

いろいろな意見があると思う。
美術史はめちゃくちゃ面白いぞ、と知識ベースで楽しむ人もいれば、きれいなものを見るのは楽しい、という感性ベースで面白がっている人もいるだろう。

どちらタイプの意見も同意した上で、私が思う美術館の楽しみは「気軽に豪邸に遊びに行く」ようなものだと思う。
入場料だけ払ってしまえば巨大建造物にすんなり入れて、作品を見ながら細かいことを気にせず好きなだけぼーっとできる。
そんなことは美術館でしかできないのだ。

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よく知られていることだが、美術館とはもともとヨーロッパの王侯貴族やお金持ちの市民が、自分の趣味で集めたコレクションを一般公開したものだった。代表的な例としてパリのルーブル美術館が挙げられるが、もともと宮殿として使われていた建物にコレクションを担ぎ込んでゴロゴロ並べたのがはじまりだ。
その他の美術館も既存の大きな建物を利用して開館したものが多いので、美術館はとにかく大きいのだ。
だから日本でも美術館は広くて豪華な建物であることが多い。
上野の国立西洋美術館は世界最高の建築家のル・コルビュジエが手掛けたし、東京都庭園美術館はかつては皇族のお屋敷だった。

わたしたちが日常的に出入りする大きな建物はいくつかある。ショッピングモール、駅、イベントホール、ホテル、オフィスビルなどなど。
その多くが人口密度の高い空間で、騒がしくて落ち着ける場所ではない。静かでゆったりとしたホテルに泊まると数万円かかってしまう。
だが美術館や博物館なら、1000円か2000円ですんなり入って、人口密度の低い館内をフラフラ回ることができるのだ。

チケットを買って展示室に入ると、解説パネルとたくさんの作品が迎えてくれる。美術館のもうひとつのいいところは、展示物をとことんマイペースに見てもいいところだ。
「へー、作家がお金がなくて苦労したときの作品なんだなぁ」などと真面目に鑑賞するのはもちろん、「おなか空いたなぁ」と全然関係ないことを考えてもいいし、「この肖像画、大学のころの先生に似てるな」などと思っても誰も怒らない。真面目と不真面目との間を好きなだけ行ったり来たりしていい。
退屈に感じたらさっさと出てしまっても構わない。映画だと2時間ほど拘束されてしまうし、暗いので途中抜けするのも一苦労だが、美術館ではどんなペースで見ても誰もとがめない。
また美術館は「静かに鑑賞する」ことが推奨されるので、大きな声を出したり走ったりする子どもはあまりいない。周囲から自分のペースを乱されることが少なくてすむ。この点で博物館よりもさらにマイペース度が高い場所だ。

美術のことは脇にのけても、美術館を訪れると人は自由になれる。
そのうえ展示が面白ければ最高だ。
それくらいのつもりで、興味のある展示があれば行ってみてほしい。

おまけ:自由になりたいときにおすすめの東京の美術館

原美術館(品川)

もともと個人の邸宅だった建物を利用した私立の美術館。美術館にしてはこじんまりとしていますが、実際に見て回るととてもおしゃれな豪邸だったことがよくわかります。
館内にはいくつか大きな窓があって、作品鑑賞の合間に箸休め的に庭の景色をぼんやり眺められる点でマイペース度が高いです。
品川駅から徒歩15分ほど、巨大な駅から大きな幹線道路の脇を歩き、教会とマリオットホテルのホテルの向こうに見えてくる高級住宅街の中に原美術館は位置します。美術館への道のり自体が、日常から非日常への移動のようです。
なお、2021年1月に閉館することが決まっています。

東京都現代美術館(清澄白河)

ここはとにかく広い美術館です。企画展は子供向けのポピュラーなものも扱うため混みあうこともありますが、全体的にゆとりを持って設計されています。特に収蔵作品展のスペースは広々として気持ちがいい上に、人もまばらなものだから、ついつい飛んだり跳ねたりしたくなります。

広すぎて疲れてしまっても、収蔵作品展の一番最後の部屋までぜひたどり着いてほしいです。広くて暗い部屋の中で宮島達男の《それは変化をしつづける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》が待っています。
好きなだけ見ていられるけども、飽きたらすぐに離れることができるという点で傑作です。


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