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ライター入門、校正入門、ずっと入門。vol.19

「校正・校閲の仕事を専門とするプロフェッショナル集団」聚珍社の中嶋泰と、フリーライターの張江浩司が多種多様なゲストお迎えしつつ、「書くこと、読んでもらうこと」について話していくトークイベントの模様をダイジェストでお届けします。


「誰が読むのか」で文章は変わる

張江 ライターの張江浩司です。本日の司会を担当いたします。

中嶋 このイベントを主催しています、校正の専門会社 株式会社聚珍社の中嶋です。

一色 XOXO EXTREMEの一色萌です。よろしくお願いします!

張江 今回は「インタビューされる側のインタビュー論」ということで。

中嶋 インタビュー記事を読んだことがない人はほとんどいないと思うんですよ。しばらくなくならないコンテンツでもありますし。でも、インタビューを受ける側の話を聞くことはあまりないですよね。元プロ野球選手の清原さんは週刊フライデーで『番長日記』という連載がありまして、その文中での一人称は「ワシ」や「ワイ」なんですけど、実際には本人は自分をそう呼んだことはないと(笑)。そういうギャップが面白そうだなと。

張江 では早速ゲストのお二人に登壇していただきましょう。

寺嶋 みなさんこんばんは。古き良き時代から来ました。まじめなアイドル、まじめにアイドル。ゆっふぃーこと寺嶋由芙です!

土屋 東京の三鷹でHiker's Depotというアウトドアショップをやっています、土屋智哉です。よろしくお願いします。

一色 私、レギュラーで出させていただいてるんですけど、今日はうまく喋れないかもしれないです。ゆっふぃーさん推しなんですよ。推しが隣にいるので、もう……。

張江 会場のみなさんには、一色さんのゆっふぃーさんへのインタビュー記事が配られてますね。

一色 このイベントでもお話ししたこと(vol.0:2021年1月25日)がありますけど、私は学生時代にフリーペーパーを作るサークルに所属していたんです。そのときに、ゆっふぃーさんに取材させていただいた記事のコピーなんです。

寺嶋 当時のものが残ってるなんて、すごい!私は2014年の2月にデビューしたんですけど、その直後くらいですね。

一色 通っていた大学内で配るフリーペーパーで、新入生に向けての春号だったんです。「新しいスタート」みたいなテーマで、それだったらゆっふぃーさんのインタビューがめちゃくちゃいいのではと思って、編集会議で猛烈にプッシュしました。

寺嶋 学生団体の方から連絡が来るのはすごくうれしいことで、レコード会社の当時の担当の方と一緒に盛り上がったのを覚えてます。もちろん音楽雑誌とかプロの方に取材してもらうのもうれしいけど、学生さんは同世代でもありますし、また別の情熱があるじゃないですか。

張江 政治的な思惑がゼロですもんね。

寺嶋 10年くらいを経て、取材していただいた側と取材した側が隣に座って、文章についてのイベントに出演しているのはすごいなあって。

張江 一色さんも今ではインタビューを受ける側になってますし。

一色 これが「エモい」です!

張江 このときのメールインタビューは、一色さんが質問を考えたんですか?

一色 そうですね、質問リストをお送りして、答えてもらいました。

張江 まさにインタビューのお手本のような質問ですよね。まずリリースに紐付いたことを聞いて、その後にテーマである大学生活のアドバイスになるという。

一色 ゆっふぃーさんにいただいた返信が、ほぼそのまま原稿になっています。分量的にもジャスト1ページで。素晴らしいです。

中嶋 空気感もよく伝わってますよね。笑顔で答えている感じというか。

一色 メールで返ってきた文章が、ゆっふぃーさんが喋っている感じと一緒だったんです。メールインタビューって言わないと分からないと思うんですよ。他にも学生同士のインタビュー記事が載っていたりするんですけど、聞く側も答える側も未熟だから、記事として成立させるために手探りなことがすごく多くて。ゆっふぃーさんの記事はすごくスムーズでした。

寺嶋 わあ、うれしいです。

土屋 今日のイベントにあたって、ゆっふぃーさんのアーティストブック『まじめ』を改めて読んできたんですけど、それに載っている対談よりも若々しい感じもありますよね。ご自身も大学を卒業してすぐの頃だから、同世代同士で話している感じというか。

張江 『まじめ』にはトミヤマユキコ先生、大森靖子さん、ふなっしーとの対談が収録されてますけど、それぞれとの関係性は文章のディテールに反映されているように思いました。

寺嶋 対談を原稿化してくれたライターさんが違うのもあると思います。あと、この本は基本的に私のヲタクが読むことを念頭に置いているんです。なので、初対面みたいな雰囲気が出ないように、親しみを持って読んでもらえるような内容と文体を意識してます。

張江 若干踏み込んでいる感じですね。

寺嶋 新曲プロモーションのためのインタビューだと、私をはじめて知る人にも読んでほしいので少し変わってくるんですね。

中嶋 一色さんの記事は、ゆっふぃーさんのことを知らない人が読むことが前提になっていますよね。

一色 そうですね。みんなにゆっふぃーさんを知ってほしいという気持ちが前面にでてますね。新入生に布教してやるぞと(笑)。でも、ゆっふぃーさんは、普通の質問をすればちゃんと響く答えを返してくれるだろうという信頼があったので、突飛なことは聞いてないです。

張江 普通の質問に対して、それをちょっと上回る面白い答えが返ってくるのはありがたいですよね。

一色 とってもうれしかったです。

一人でぶつぶつ、インタビューの練習

張江 一方、土屋さんはアウトドアのお店をやってらっしゃいます。

土屋 20坪くらいの小さな店で、今年で15年になります。アウトドアや登山の中でも、ウルトラライトハイキングとかロングディスタンスハイキングと呼ばれるものがあって、アメリカだったらメキシコ国境からカナダ国境までの4000kmを春から秋にかけて歩くような人たちがいるんですよ。

一色 ええー!すごい!そんなものがあることをまず知らなかったです。

土屋 日本でもお遍路とか街道歩きとかありましたよね。あと、自転車が好きな人なら、自転車で北海道一周とか。そういうものの延長線上にあると理解してもらえればいいのかなと。アメリカでも若者の自分探しや、仕事をリタイアした人がセカンドステージに向かっての区切りのためにやることが多いんですね。多いといってもニッチな世界ではありますが。毎日テントを担いで歩いて、3、4日に一度街に降りて補給するようなサイクルを6カ月くらい続けていると、山の中にいる方が日常になるんです。

張江 なるほど、旅が非日常じゃなくなるんですね。

土屋 最初のうちは装備が多いんですけど、そういう生活をしているとどんどん軽量化していくんですね。みなさんの仕事でもそうだと思うんです。はじめは「これもあると便利だな」といろいろ使ってみるけど、慣れてくると最小限になってきますよね。「出張にはこれだけ持って行けばいい」という感じで。ハイキングの場合は荷物を担がないといけないので、体への負担を軽減することにもなる。そういった軽量化を極端なまでに推し進めるスタイルが1990年代に生まれたんですね。ミニマリズムというか。それがウルトラライトハイキングで、うちはそれに特化した店なんです。

張江 この説明は、何十回とインタビューとかで話してきたことを思わせますね。ものすごくスムーズでわかりやすいです。

土屋 お店をやっていると、ありがたいことに取材していただくこともけっこうあるんです。そのときも、「誰が読むのか」ということは意識するんですね。今回はウルトラライトハイキングを知らない人が多いだろうからこういう説明になりましたけど、アウトドア専門誌だったらもっとディープな内容にすると思います。

張江 ゆっふぃーさんや一色さんのようなアイドルだと、自分語りをする機会も多いと思うんですが、土屋さんのような立場だとウルトラライトハイキングそのものの説明や、「こういう新しい道具があります」といった話題が多いですよね。

土屋 そうですね。解説員というか。まれに自分自身の話をすることもあるんですけど、めちゃくちゃ緊張します。店をやってるといっても、芸能人でもないただのおじさんだから「どこに需要があるんだ?」と思っちゃうので(笑)。上がってきた原稿に赤を入れるのも、どこまでやっていいのか分からなくて迷います。一人称をどうすればいいのかも、考え出したらわからないですよね。仲間内で話してるときは「おれ」になるけど、活字になったら印象が違うし、漢字で「俺」になったらまた印象が変わりますよね。寺嶋さんのインタビューを読むと、迷いがないなと思いました。人物像がわかりやすく伝わるなと。

張江 一貫性があるというか。

土屋 10年前の自分のインタビューを読み返したら、ブレブレでした(笑)。10年前と今とじゃ、店の雰囲気も自分自身も変化してるんですよね。

寺嶋 そういう意味では、萌ちゃんにインタビューしてもらった記事を読んで、今の自分でも言いそうなことを言ってるなと思いました。

一色 あの時点でゆっふぃーさんが完成されていたんですね。

寺嶋 成長がないともいえる(笑)。

土屋 作られたキャラクターではなくて、本当に自分の中から出てくるものを喋っているというのが文章からでも伝わりますよね。やっぱり表現することを生業としてらっしゃるから、そこは解説する役割の僕とは違うんだなと思いました。

張江 ゆっふぃーさんは数え切れないくらいの取材を受けてきたと思うんですけど、そうやって話したり書いたりすることによって自分の考えが確立していくこともあると思うんです。

寺嶋 人に聞いてもらうことで気付くこともたくさんありますし、喋っているうちに自分の考えが分かってくることもよくあります。プロモーションの機会だと、新曲に関して同じ質問をしていただくことで「こういう気持ちで自分はこの曲にのぞんでいたんだな」ということが見えてきたりもします。

張江 アイドルとしての寺嶋由芙の輪郭がはっきりしてくるというか。

一色 自分で自分のことを話す機会は貴重ですよね。

寺嶋 それを普段からやるようにしていて。頭の中が整理できなくなってきたときに、自分にインタビューしてみるんですよ。お風呂とかで、「これについてはどう思いますか?」、「私はこういう風に思ってます」みたいに一人で声を出して。

張江 親御さんが聞いたら心配しちゃいそうですね(笑)。

寺嶋 だから、内緒だったんです(笑)。実際にインタビューを受けるときにも、事前に自分でやってみるんですよ。トークイベントに出演するときもそうで、今日もここに来る前に何回か一人で話してみました。気持ち悪がられるかなと思ってあまり言ってこなかったんですけど、2021年にコピーライターの橋口幸生さんとトークしたときに、橋口さんも同じようなことをされてると伺って。自分にインタビューすることで、考えを言語化して外に出すというか。書くことでそれをやっている方もいると思うんですけど、私は職業柄喋れるようになっておいた方がいいなと思って、練習してから現場にのぞむようにしてます。

土屋 僕は喋るのも書くのもやりますね。商品の紹介をSNSに書いたりする場合は、事前に書いて自分で校正もやることで整理できますし。お店での接客も、広い意味ではインタビューをしたり受けたりすることに近いので、毎日繰り返すことで思考が明確になっていきますね。

寺嶋 私の場合は、書いて整理しようとすると箇条書きになって、自分だけがわかる図面みたいになるんですけど、喋ることによって言葉遣いや語尾まで気をつけることができるんです。

張江 なるほど、一人称と同じように語尾をどうするかも自分のキャラクターを表現する上で非常に重要ですもんね。でも、そこまで練習していくと、想定してない質問が来たら焦っちゃいません?

寺嶋 想定外の質問に対しては、すぐ喋り出さないように気をつけてます。練習してる分、口が動くようになっているというか、それっぽいことは言えちゃうんですね。そうなっちゃうと後悔するので、いったん間を置いてちゃんと考えてから話すようにしてます。それっぽいこと言うの、本当にうまいんですよ(笑)。

キャラクターが立ち上がらなければならない

中嶋 事前に質問事項をもらうことはないんですか?

寺嶋 たまにありますね。そのときは読み込んでいきます。

中嶋 タレントさんの中にはNG項目が多い人もいそうだなと。

寺嶋 私の場合、話した後に「あそこはここだけの話にしてください」とお願いすることはありますけど、NGは基本的にないです。

一色 ゆっふぃーさんみたいに発言した内容に責任を持っている方だと、読む側も安心なんですよね。この文章はゆっふぃーさん自身も納得しているものなんだとわかるので。

寺嶋 基本的には全部自分でチェックしてます。自分がアイドルになる前、当時好きだったモーニング娘。さんとかORANGE RANGEさんとかのインタビューを、どこに何が書いてあるか暗記するくらい読み込んでたんですね。オタクってそういう人種じゃないですか。自分が一回限りだと思って発した言葉を、何十回と読み込む人がいるかもしれないと思ってるので、自分の言いたかったこととズレている文章が世に残るのがいやなんです。

一色 みんな一生懸命やってるとは思うんですけど、ここまで丁寧にインタビューに向き合ってるアイドルさんは貴重だと思うんですよ。メンバーが多いと運営さんの確認だけになることもあるでしょうし。

寺嶋 ソロだということもあって、私は恵まれてるんだと思います。

張江 メンバー間で、インタビューに対する意識の違いもありますもんね。

土屋 普段からテキストを読んでいる人と、読み慣れてない人の差もあるんじゃないですか。最近は動画しか見ない人も多いでしょうし。

張江 「インタビューを修正してください」と言われても、どうすればいいか分からない人も多そうですよね。

中嶋 一言変えることで全体的にバランスが崩れることもありますから。

土屋 例えばグループアイドルだと、メンバーによって言葉遣いのニュアンスは違うだろうから、オタクからしたら自分の推しのキャラクターが立ち上がってくるような文章じゃないとダメですよね。そう考えると、書くのもチェックするのも大変だなと。

一色 アイドルは特に、人間であると同時にキャラクターでもあるので、そのキャラクターを守りながら思ったことを伝えるというのは難しいですよね。喋るほうも気を遣うし、書くほうもキャラ性にまで気を遣うとなるとすごく迷うだろうなと。XOXO EXTREMEに普段はあまり喋らないクールな感じのメンバーがいるんです。でも、インタビューになるとすごく喋るんですよ。事前に調べてきてくれたライターさんほど「こんなに喋る子なんだ」ってびっくりすると思うんです。テキストにしたときに、その子の発言には!とか(笑)とかがいっぱいついてたんですけど、オタクにとってはクールなキャラだから違和感があったかもしれないと思って。

張江 その原稿だけ見ればおかしなところはなく成立してるけど、ライブやSNSでのキャラクターと照らし合わせるとつじつまが合わなくなるという。「実はこんなに喋る方なんですね」みたいな一文を入れられればいいんでしょうけど、なかなか難しいことではあります。

一色 特殊な例かもしれないですけど、気を遣うことが多いなと改めて思いました。

張江 キャリアの長いアーティストだと、全ての媒体で同じライターがインタビューを担当していたりするのですよ。やはり気心知れた書き手じゃないとブランディングまでコントロールできないんでしょうね。

悪気のない言い換えには要注意

土屋 アウトドアや山岳系専門誌の取材だと、けっこう同じライターさんが来てくれるんでだんだんツーカーになっていくんですよね。知識もあるからすごくやりやすい一方で、ファッション誌みたいな畑違いの媒体からの依頼だと、たいてい編集者さんがすごく興味と熱意を持って話を聞きに来てくれるんです。思ってもない角度からの予定調和じゃない質問があったりして、基礎知識がなくても面白い記事になることも多いんですよね。

一色 自分の専門分野以外からの取材は緊張しちゃいます。ゆっふぃーさんはアイドルでありながら、ゆるキャラだったりいろいろな媒体で取材されてますよね。緊張することはありますか?

寺嶋 インタビューじゃないんですけど、「胎動短歌Collective」という文芸誌に短歌を載せていただいたときは緊張しましたね。プロの歌人の方も載ってらっしゃるし、短歌への感度が高い読者ばかりなので。あと、日本語検定のフリーペーパーに「なぜアイドルが日本語検定を受検するのか」というテーマで寄稿させてもらったんです。アイドルが何なのかわからない方々も読むものなので、もしかしたらアイドルが書く文章に初めて接するかもしれない。その人にとって、アイドルの入り口になる可能性もあるので、緊張感と責任感がありました。

張江 アイドルの代表になるわけですもんね。その職業全体を背負うことになるから、覚悟が必要になってしまう。

寺嶋 私自身は全然そんなつもりで活動してないし、ソロアイドルはスキマ産業だと思ってるんですけど、アイドルを知らない方にとっては「アイドルって、ああなんだ」と思われるかもしれないですし。私が何かすることで「アイドルって嫌だな」と思われないようにはしたいとは、いつも考えてます。

張江 特に新聞のような媒体だと、不特定多数の人が読むことを前提にしているから、一から説明しないといけないじゃないですか。

寺嶋 そうです!「『まじめなアイドル』とはどこらへんが真面目なんですか?」って真面目に聞かれたことあります(笑)。

張江 そうなると、個人というよりも何かの象徴としてのインタビューを求められますよね。

寺嶋 新聞だと原稿チェックできない場合が多いですし。

土屋 何度か新聞の取材を受けたことがありますけど、修正できないこともあって、とにかく「軽装」という表現を使わないでくれということだけは事前に念を押してます。ウルトラライトハイキングは確かに荷物を少なくすることなんですけど、詳しくない人だと悪気なく「軽装」の二文字に置き換えちゃうんですよね。

一色 必要なものも持ってなさそうなイメージになっちゃいますね。

寺嶋 Tシャツとサンダルで登山しちゃうような。

土屋 まさにそういうニュアンスになっちゃう。僕らがやってることは必要なものしか持って行かない、道具のシンプル化と軽量化なので、真逆なんです。新聞の影響力は強いから、誤解が広まらないように丁寧に説明してます。それこそ登山者の代表にもなってしまう可能性があるので。「軽装で登山して迷惑かけてるんだろ」と言われてしまうかもしれない。

寺嶋 仲間内からも批判されるかもしれませんよね。

土屋 寺嶋さんが「ソロアイドルはスキマ産業」とおっしゃってましたけど、ウルトラライトハイキングもかなりニッチなんです。僕が店を出したときもなかなか取引先がみつからなかった状態からスタートしてるので、怖いですよ。ニッチなものの代表扱いされても誤解されるだけなので。

一色 XOXO EXTREMEもプログレアイドルを名乗ってますけど、アイドルを知らない方はそれがニッチなのかどうかもわからない場合がありますもんね。

寺嶋 卑下してるわけじゃなく、自分がやってることがニッチだと分かってもらうことは大切だと思います。

張江 自分の仕事や、やっていることのイメージを正確に表現してもらうことが、自分がいるシーン全体を守ることにつながるということですね。ライターはそこをちゃんとやれよということだと思うと、身が引き締まります。

中嶋 校正は、そういったことを守るためにあるんです。何気なく話した日付や固有名詞が間違っていないか、よかれと思って話を盛ってしまう人もいるのでどの程度正しいのか、そういったことの裏を取る必要があるので。

寺嶋 すごく心強いです。具体的な情報が間違っていたりすると「アイドルは適当だ」というレッテルを貼られてしまうかもしれないですから。

誤解されないように、丁寧に

張江 インタビューを受けた原稿をチェックするときは、どこに注目するんですか?

寺嶋 まずはまるっと読んで誤字を確認します。取材中につい口に出てしまったけど、文字で見たらあまり上品でない表現もチェックしますね。あとは事実関係が間違ってないかも確認します。引っかかった箇所に赤字を入れて、修正してほしい理由も書き添えますね。ただ気に入らないだけだと思われたら、ライターさんにも悪いので。数カ所の修正ですむこともあれば、悲しいことに「寺嶋」の文字が間違ってることもあります(笑)。私が間違ったことになるので、よく確認してよく直すようにはしてます。

中嶋 世間的には発言した人の責任になっちゃいますよね。

寺嶋 言ったことが自分の意図と違って要約されることもあるので。細かいほうだから、ライターさんには嫌がられてるかもしれないです。修正が多いと嫌ですか?

張江 私は申し訳ないと思いますね。インタビュイーの意向を正しく汲み取れなかったということなので。言葉遣いのディテールの部分は、個々のセンスの違いなので修正されても思うところはないですね。ベッド・インさんをインタビューしたときは、発言が全てバブリーな言葉に変換されましたけど、それはもう私にはどうしようもないというか(笑)。
※ベッド・イン:益子寺かおりさん、中尊寺まいさんによる、地下セクシーアイドルユニット。発言には、バブル時代に流行した業界用語や当時の世相を反映した言葉を多用している。
 
寺嶋 『まじめ』でも、ふなっしーとの対談を担当したライターさんは大変だったとおっしゃってました。こっちの語尾は「○○なっしー」だけど、あっちは「○○なっし」だったり(笑)。

張江 修正の理由をちゃんと伝えてもらえるのはライターとしてもありがたいですよ。

寺嶋 文章には人となりが出るので、それを修正してもらうからにはこちらも誠実でいたいなと思ってます。

張江 取材を受けた日から原稿をチェックするまで、だいたい1~2週間くらい空くと思うんですが、自分が話した内容は覚えてますか?

寺嶋 覚えてる方だと思いますね。以前、喋った記憶がない言葉が書かれいたことがあって。全然悪いことじゃないんですけど、文をつなぐために野球に関するギャグをライターさんが追記したんですね。それに対して私が「そうですね」と言ったことになっていたんです。インタビューの流れとしては必要なのかもしれないけれど、言った覚えはないので消してもらいました。

張江 野球ギャグで笑ったことはないぞと。

寺嶋 それがあることで私の印象が悪くなったりはしないですけど、やっぱり私は言わない言葉なので。

一色 それを読んで「ゆっふぃーは野球が好きなんだ」と思ったオタクが野球グッズを持ってきちゃうかもしれないですしね。

張江 うっかり野球関連の仕事がきちゃうかもしれないし。

土屋 僕も商品紹介のような取材はほぼ100%覚えてますね。そういう場合は取材の前に内容と構成を先回りして考えていることが多いので。原稿チェックも事実関係の確認をすればOKという感じです。まれにある自分語りのようなインタビューだと、丁寧に話そうと思いつつ調子に乗っちゃってる自分もいるので、寺嶋さんほど自分の発言に自信を持てないです。「こんなこと言ったっけな?」って(笑)。

寺嶋 私は調子に乗ったことすらも覚えてるので、「あの日は余計なこと言ったんだよな」と思って原稿を確認するとやっぱり言ってるんですよ(笑)。「すみません、調子に乗ってました」と伝えて修正してもらいます。

土屋 すごいな、プロアイドルだ。

一色 ゆっふぃーさんが調子に乗ってるインタビィーも読みたいです(笑)。

張江 「載せていいかどうか」という基準は最初からあったんですか?

寺嶋 どうだろう、最初のころはどこまで話していいかもわからなかったです。今だったらもっと整理するところも全部喋っていたので、ライターさんは大変だったと思います。

土屋 僕はやっぱり「ウルトラライトハイキングってなんなの?」ということを聞かれるところからはじまっているので、さっきの「軽装」の件じゃないですけど、誤解されないようにというのがアウトとセーフの基準でしたね。そこだけをかなり慎重に今でも気をつけてます。

寺嶋 私もそこは大事にしてます。「ゆっふぃーを誤解されないように」という。誤解なく受け取ってもらったものが好きじゃなかった場合は、もうしょうがない。でも、誤解されて嫌われたり恨まれたりするのはすごく悔しいんですよ。「そういうこと言いたかったんじゃないもん!」みたいな(笑)。インタビューに限らず、全発信において誤解されるのが一番嫌ですね。ちゃんと伝えたい。

土屋 そこまで気をつけてても、誤解されることはあるじゃないですか。

寺嶋 ありますね。

土屋 寺嶋さんの場合は、ファンの方も悲しむでしょうし。

寺嶋 「うちのゆっふぃーはこんなじゃないんだよ!」って(笑)。

土屋 だからこそ、アウトプットするものは丁寧に話したりチェックしたりすることにつきるのかなと思いますね。

中嶋 お二人の話を聞いて反省しました。「校正ってどんな仕事?」と聞かれて、めんどくさいときは「間違い探しですよ」と答えてたんですよ。誤解されてもいいやと。このイベント19回目にして、ちゃんと説明していこうと心を入れ替えました(笑)。

次回は1月24日!

今回は校正者の高信一さんをお招きし、そもそも校正会社ってどんなところなのか、そしてフリーランスにつきものの「見積もり」についても深掘りしていきます。

配信チケット等詳細
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/heaven/273087

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