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pixiv百合文芸小説コンテスト大賞作を読み返す

 先月29日からpixivさんにて、第4回百合文芸小説コンテストが開催されています。4回目となった百合文芸小説コンテスト。百合好き界隈では、ちょっとしたお祭りのように扱われているようです。

 私自身、短編を2本ほど出したいと考えているところです。そこで、応募作を書く前に、第1回から3回の大賞作を読み返してみました。

 この記事では、3作品の傾向と、私の感想をまとめてみたいと思います。私の主観が大いに含まれているため、作者さんの思惑とは違うことを書いてしまうかもしれません。また、多少のネタバレがあります。ご容赦ください。

 ※以下、見出し部分の作者さんのPNは敬称略とさせていただきます。

第1回:ラブソングを叫ぶワケ(洲央)

<作品傾向> 一人称視点/JK×JK/軽音部の控えめ女子×スクールカースト上位女子/片想い百合/青春百合

<感 想>
 後述する好きなセリフ、フレーズにも記載しますが、冒頭部分からもはや好き。引き込まれる出だしと、心地良いテンポで紡がれる、片想いする少女たちの物語です。

 作者さんはバンドリの二次創作も投稿されていて、音楽やアイドル系に造詣が深い印象。現在はコミック百合姫でアイドル青春百合を連載されています。余談ですが、百合文芸2の後に開催された、『なっちゃんの夏休み』企画に百合をぶち込んでくるのは最高にシビれました。楽しく拝読いたしました。

 大賞作品は、主人公である黒沼あさぎさんの一人称視点で語られます。黒沼さんはクラスメイトに恋する女子高校生。しかし、彼女は自分に自信がなく、当然片想いの相手にその恋心を伝えるつもりもありませんでした。そんな黒沼さんが、意中の人である愛田さんの失恋に出くわしたところで物語は始まります。

 私自身、自己肯定感の低さには自信のある女なので、黒沼さんへの感情移入はめちゃくちゃ簡単にできました。愛田さんの実直な言葉が心に刺さる刺さる。音楽を作っているわけではありませんが、創作する者の端くれとして黒沼さんの言葉や心情には共感できる部分が多くありました。もしかしたら、黒沼さんの言葉は作者さんの独白なのかも……なんて思ったり。そう考えると余計に心を揺さぶられます。

 自分を守るために、自分に嘘をつく。自分と他人に過度な期待はしない。そんな黒沼さんと、自分を守るために自分にも他人にも嘘をつかない、愚直なほど真っ直ぐな愛田さんのコントラストが眩しかったです。黒沼さんの心の鎧を、愛田さんが少しずつ、けれど確実にはぎ取っていくようすは、ハラハラもしましたが、じんわりと優しい気持ちにもなれました。一見、交わるところのないように見える二人がお互いの似ているところを見つけた場面は、胸がぎゅっと締めつけられるような気持ちになりました。作中では黒沼さんの見た愛田さんの表情しか語られませんでしたが、黒沼さんも愛田さんと同じ表情をしているといいなと思いました。

 二人が感情をぶつけ合うさまは、まさに青春百合。片想い百合ではありますが、読後感はとても爽やかで気持ちがいいです。黒沼さんと愛田さんの未来に幸あれ。

<好きなセリフ、フレーズ>
・片想いをしていた。だから、耳元のロックの音量を上げる。
・愛田さんにとって私、黒沼あさぎは、ちょうどいい具合にどうでもいい存在なのだ。
・「友達と話すより音楽聴く方が好きなんでしょ。いいじゃん、後悔するより好きなことやった方が人生楽しいもん」
・愛田さんの言葉はいつだって正しい。私が目を背けているすべてを白日の下に晒す。
・私たちは届かない「好き」で繋がっている。

第2回:太陽の焼け跡(すが)

※開催当時のPNは『寿鹿』

<作品傾向> 一人称視点/JK→母の友人×母/片想い百合/死人が出る/男が出てくる/ヒューマンドラマ

<感 想>
 母と、母の友人である女性と、三人で暮らす少女の物語。少女の一人称視点で女三人の日常と少女自身の半生が描かれます。

 内気な少女である主人公、月子は、物心つく前に父を亡くし、母とその友人である女性と三人で暮らしていました。月子は同居する女性を『叔母』と呼び慕っていました。ある日、月子は母と叔母がキスするところを目撃してしまいます。結果、月子は叔母に対する恋情を自覚し、叔母に片想いする自分と、愛し合う母と叔母の三人で暮らすことによって生まれる複雑な感情に苦悩することになります。

 この作品、私が書きました。中山可穂先生の『浮舟』を読んで情緒がぐちゃぐちゃになったので、みんなの情緒もぐちゃぐちゃにしてやろうと思って書きました。結果、私の情緒がまたぐちゃぐちゃになっただけでした。本当にありがとうございました。

 ちょうどその時、中学時代に片想いしていた人とお茶をしました。そこで聞かされたのは、現在の恋人についての惚気です。もともとぐちゃぐちゃだった情緒がさらにめちゃくちゃになりました。心の中でやり切れない感情を抱きつつも、次の日にはいつもどおり出勤しなければいけなくて、寝て起きればそれができてしまう。こうしてなんとか生きていくしかないんだなあと思いました。そんな感情もついでに吐き出してしまおうと思ったのです。仕事の傍ら、夜な夜なその時のことを思い出し、吐きそうになりながら書いた作品がこちらです。pixivisionでガガガ文庫さんから『吐き気を催すほど残酷』と講評をいただいたときは震えあがりました。私の吐き気よ伝染しろ。

 プロットを書く際にテーマとしたのは、『女の恋情と愛情』と『片想いしている相手の幸せを願いつつも、自分を承認してほしいと思ってしまう欲求』です。

 愛情とは何か。それを考えたとき、私は『自分の幸せをかなぐり捨ててでも相手の幸せを願う感情』だと思うのです。自分が相手と結ばれずとも、相手が幸せであるのならばそれでいい。少なくとも、作中に登場する三人の女性は愛情をそういった感情だと考えています。けれど、人はやはり好きな人に自分を見てほしいもの。好きな人の幸せを守るのは自分であってほしいと願わない人などいないのではないでしょうか。自分の中の愛情と恋情の板挟みにあう三人の女の物語を書きたかった。

<好きなセリフ、フレーズ>
・三人で過ごす毎日が幸せであればあるほど、私の身の内を嫉妬が焼いた。
・私がいない二人の幸せが、とても怖いの。
・「どうかしあわせになってね。あなた、私のかわいい子をよろしくお願いします」
・ねえ、母さん。女の未練は、恐ろしいでしょう。
・私はあなたからの愛を終ぞもらえることはなかったけれど、私を拒まないでいてくれることが、あなたが私に与えられる唯一の愛情なのだとわかっています。

第3回:菫の姫を殺すまで(王月よう)

<作品傾向> 一人称視点/オムニバス形式/女学生→女学生/片想い百合/死人が出る/幻想小説

<感 想>
 一人の美しい少女の死から始まる、女学生たちの狂気を綴る物語。女学生たちの一人称視点で語られており、少女故の倒錯的な恋情が流麗な文体で描かれます。

 前述したとおり、物語は『菫の姫』と呼ばれる美少女の死から始まります。『菫の姫』の生前から、その美しさに囚われていた女学生たちは、彼女の死後も『菫の姫』から解放されることはありませんでした。自分が彼女を殺したのだと口々に主張し始め、女学校は集団パニックに陥ります。耐えかねた学校は、警察を巻き込んで女学生たちの取り調べもとい、カウンセリングを行うことに。女学生が如何にして『菫の姫』を殺したのかという供述の記録を、私たち読者が読んでいくという形式で物語は展開されます。

 3万字ちょいの中編ですが、オムニバス形式ということもあり、あっと言う間に読み終えてしまいました。読み終えた瞬間、私は思わず頭を抱えることになります。この作者さん、どういう食べ物を食べて、どういう生活をしたら、こんなとんでもない物を書けるのか。気になった挙句、私は作者さんのツイッターを覗きに行ってしまいました。めちゃくちゃにお洒落で素敵な方でした。

 作中では、十人程度の女学生が『菫の姫』を如何にしてその手にかけたのかを供述していきます。殺害のしかたにそれぞれの性癖が深く絡んでいて、もはや性癖展示会のようでした。いろんな趣味の方がいらっしゃいますのね。お勉強になりましたわ。ちなみに、私が特に好きだったのは『少女番号・四八の証言』です。どれもこれもやべえ女しかいないのですが、少女番号・四八さんは私の性癖にばちばちに刺さりました。女体を魚に例えるのはいい文化です。

 性癖展示会のラインナップもなかなかに楽しいのですが、この作品のさらに楽しいところは、読めば読むほど新しい発見があるところです。作中には『鋏』や『ピアス』、『蝶』といったいくつかのキーワードが出てきます。それらを踏まえて読み返すと、この女学生は『菫の姫』のこういった行動を見ていて、そのアイテムを殺害に用いたのではないか、という考察ができます。

 例えば、作中には女学生Aが、『菫の姫』は『鋏』を使って百合の花を摘んでいた、と語る場面があります。女学生Bは『鋏』を殺害に用いたと主張するのですが、特にそういった場面を見たとは語っていません。女学生Bは、作中に語られないところで『菫の姫』が百合を『鋏』で摘むところを目撃していて、『菫の姫』を自分自身に、百合の花を『菫の姫』に置き換えてそのように語ったのではないか、というように考察できます。(※私の勝手な妄想です。)

 何度読んでも面白い、というのは本当にすごいことです。ぜひプロットを拝見したい。FANBOXとかで有料でもいいから公開してくんないかな。

 終盤に開示される二人分の証言については、女ならだいたい刺さるんじゃないかなと思えるくらいのクソデカ感情が渦巻いています。ここをめちゃくちゃに語りたいのですが、初見の方にはぜひまっさらな状態でここを読んでほしい。そして頭を抱えてほしい。心をぐちゃぐちゃにしてほしい。渦巻くクソデカ感情に巻き込まれてほしい。

 とにかく仄暗い美しさが静かに沈んでいるようで、けれど激しい感情がド派手に渦巻いているようでもある作品。結局死人に口はなく、真実は闇の中。ただそこには『菫の姫』は死んだという事実のみが落ちているのです。

<好きなセリフ、フレーズ>
・「菫の姫が一番愛していたのは私であるのに、私より彼女に愛されなかった女風情が菫の姫に手をかけたかもしれないのが許せない」
・驚きを凌駕する怒り、あるいは嫉妬、もしくは焦りだったのかもしれません。
・あれほどに美しい金魚を私は知りません。
・私にとって、視線とは蜘蛛の糸のようなものでした。
・あなたがたの目にはいま狂乱した女生徒の姿が映っているでしょう。

終わりに

 3作品を読んでの感想ですが、大賞に選ばれた作品はどれもが『女同士の関係で生まれる強い感情』を丹念に描いているように思いました。それも、美しい感情ではなく、どちらかというと仄暗い方の感情です。羨望、嫉妬、後悔、崇拝、劣等感、そしてそれらを内包しても決して揺らぐことのない愛。美しい部分だけを見せるのではなく、汚い部分も曝け出す、そんな物語だと思いました。

 また、タイトルの秀逸さにも驚きました。3作のタイトル回収シーンには胸を熱くさせられました。タイトル回収といえば、第2回でpixiv賞に選ばれていた『凍てつく焔の花園にて(作:橘こっとん さん)』もタイトル回収シーンで「強い!!」となったのを覚えています。

 正直、私は自作が大賞に選ばれた時、何かの間違いなんじゃないの? と思いました。一次選考通過作品をいくつか読んでいて、そのどれもが私の書いたものよりも、物語としての完成度が高かったからです。一次選考結果が発表された際、pixiv賞くらい取りてえなあと友人に漏らしていました。それでも、審査員のどなたかの心に刺さったのでしょう。その方(方々かもしれません)のおかげで、このような素晴らしい賞をいただくことができたのでしょう。感謝しかありません。

 さて、これから応募作を書くわけですが、とにかく曝け出すこと、変に気取らないことを意識したいです。読んだ人にも吐き気を催してもらえるくらい、自分も吐きそうになりながら書いていきたいと思います。

 第4回百合文芸小説コンテストには、本日現在ですでに200作品(シリーズ単位だと130作品)以上が投稿されています。今年も盛り上がりますように。

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