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洗濯機を買い替えた話の続き

さて洗濯機だ。
できれば翌日配達してくれるところがいいということで家からいちばん近い家電量販店に行くことにした。

愛妻号が6キロだったのでできればそれより大きなものがいい。なぜなら猫と暮らしているとゲーの被害は避けられないものだから。やつらは布団だろうがラグだろうが場所を選ばない。むしろ洗いにくいものを選んでゲーしてるんじゃないかとたまに思う。愛妻号は一応それも受け止めてはくれたが、実際きちんと洗えていたのか謎だった。布団はまだしも折り畳んで洗濯槽に突っ込んでいた分厚いラグは確実に濡れてもいない箇所もあった。見えないふりでそのまま干していたけれど。

設置場所の問題で縦型一択、予算10マン以内、となると悩むほど種類があるわけでもなく比較的すぐ決まった。特別思い入れがあったわけじゃないけれどなんとなくパナソニックを選んだ。


これの10kgのやつにしました


余談だけど、パナソニックが昔はナショナルだったということを覚えているひとはどれくらいいるんだろう。
そして覚えている人の大体9割がこの話になると「♪あっかるーいナッショーナール、あっかるーいナッショナール♪」と歌い出すのはなんでだろう。
余談終わり。


設置場所や愛妻号の引き取りについてなど細かい打ち合わせを経て、配達は翌日午前中となった。
はーやれやれ。
これで明日からは大手を振って洗濯ができる。大人二人にねこ一匹でそう洗い物が出るわけもなく洗濯なんぞ毎日していたわけでもないのに、できないとなると落ち着かない。


そして翌日。
とうとう愛妻号がドナドナされていき、新しい洗濯機が設置された。
設置担当のお兄さんがテキパキとニュー洗濯機を置き排水ホースを接続しようとした時、一応…という感じでわたしが横から、排水ちょっと心配なんだけど、と自己申告した。
や、一応流れるんだけど気になってて、と言うと、「トラップを外して詰まりを洗浄して、排水を確認して試運転するまでが僕らの仕事なんで」と大船に乗った気持ちでどうぞ的な満面の笑みが帰ってきた。
なので大丈夫です!終わったら呼びます!と晴れやかに彼は言って排水口に手を伸ばしていた。


『おうちクリーニング!愛妻号』というシールが貼られたままドナドナされていったわ

数分後、すみませーん!とわたしを呼ぶ声がした。おそるおそるのぞくと、どうにも排水口のトラップ筒が外れない、と言う。

「めっちゃ頑張ってこれはなんとか外れたんですけど」

この穴の空いてるやつの下にトラップ筒がある

目皿という雫型の穴が空いてるやつ、あれはなんとか外れたようだった。が、その下にあるトラップ筒がどうやっても外れないらしい。
何度も何度も、んがーーー!と力んで回そうとするも無理。
下で待機していた先輩が「どうした?」と様子を見にきて、どれどれと頑張ってくれたのだがやっぱり無理。
さすが20年放置の排水口。

「もうプラスチックがくっついちゃってて外れないですねえ、これ清掃してからじゃないと試運転できないんで、試運転なしで設置しちゃうと何かあった時に保証できないんですけどどうします?」

どうします?と言われても。

「え?どうしたらいいんですか?」
「えっとぉ、リフォーム担当が一度外れるかどうかやってみてそれでもダメならもうパンごと交換で工事ってことになります」
「工事?!」
「もうこれ丸ごと取っ替えですね、大体10マンくらいかな」
「は?!」
「どうします?」
「いやどうしますって言われてもそれしか手がないんですよね?」
「そうですねえ、外れないですからねえ」
「そんなに詰まってるのかー」
「ここ外して排水口の掃除、できれば月イチでやってもらうのがいいんですよね」

せめて三ヶ月に一度かな、じゃリフォーム担当に連絡しときますんでぇ工事の見積り取ってください、と言って設置担当チームは帰って行った。
足元サビサビの愛妻号を乗せて。

できれば月イチ、せめて三ヶ月に一度て。こちとら20年以上しとらんし。こんなあみあみのとこが外れるなんて思いもしなかった。もう少し外れますよ的に見せといてくれよ。そしたら漏れるのかそーかそりゃいかんな。
それにしても10マンて。洗濯機もう一台買えるやんけ。
ああ…わたしが文庫本を置きっぱなしにしたせいで。

ヨヨヨ…と泣き崩れるわけもなく、さてどうしようかと策を練った。

まずは友人くめこちゃんから「これがめちゃくちゃ排水溝掃除に効くらしいよ」という情報を得て早速ピーピースルーという排水溝専用洗浄剤をポチった。

それから、流れが悪かったけれど何度も何度もなんとかフィニッシュを繰り返したら流れるようになった、という口コミを見て、その日は夜まで何度か排水溝になんとかフィニッシュを流し込んだ。

そんなことをしている最中、家電量販店のリフォーム担当から電話がかかってきた。

が、どうも様子がおかしい。
開口一番「洗濯パンの取り付け工事の日程なんですけどー」などと言われて、思わず「は?!」と素っ頓狂な声をあげてしまった。

「いやいや、排水溝のトラップが外れるか一度試してもらってそれがダメならパンの取り替えになるって聞いたんですけど」
「あーそうですそうです、その工事の日程なんですけどね」
「いやいや、工事じゃなくてまず見積もりに来られるんですよね?」
「あーはいはい、そうですそうです」
…って絶対そうですなんて思ってない口調。
え?なに?その業界じゃ見積もりと書いて工事と読むわけ?

念の為そのあと2回くらい「見積もりですよね?!」と念押しして次の火曜にきてもらうことになった。

期限はぴったり1週間。この1週間でなんとかならなかったらしょうがない、パン取り替えを受け入れましょうぞ。

だがしかし、それまでは!!と、諦めをしらないわたしたちは、某くらしのマーケット(まんまだけど)で『洗濯機設置』の専門業者さんを見つけて早速お願いすることにした。仕事が休みの日じゃないとだめなので、来てもらうのは工事する気マンマンのリフォーム担当が来る前日の月曜しかなかった。

それまでにわたしたちはわたしたちにできることをやった。

早速届いたピーピースルーを試す。
おおお、すごい。なにやら知らんが流れがぐっとよくなった気がする。
あんまりやりすぎてもパイプに良くないかもしれないが、今はそんなことを言っていられない。
ピーピースルーに継ぐピーピースルー、そしてまたピーピースルー。ピーピーピーピースルー。
その結果、蛇口から直接ホースでジョボジョボと勢いよく水を流しても全くとどまることなくドシャーーーッと流れて行くまでになった。


ピーピースルーのピーはパイプのピーなのだろうかそれともお腹がPのピー?

どう?
どう?
どう思う?
これ絶対大丈夫じゃね?

そして決戦の月曜日。

わたしは、某くらしのマーケットさんがニコニコと洗濯機の設置に入る前に、実はこれこれこうで、とまたしても正直に申告した。
でも問題なく流れるようになってると思うんですよぅ、とすがるように言うわたしにマーケットさんはニコニコしながら「確認しますね」とサクッと答えた。

そしてホースからジョバーと水を流し、うんうん、とうなづき、わたしの方を見上げて「ちょっと流れ悪いですね」と言った。

悪いんかよ!
あんなにピーピースルーしたのに。

「あ、でもトラップ外して清掃すれば大丈夫ですんで」
「外れるかなあ…」
「やってみますねー」

ニコニコしながらマーケットさんが排水口に手を伸ばしフンムッ!とまずは目皿を外した。そしてその下のトラップ筒に取りかかったところで手が止まった。
「…これは…きついですね…」
ガンバレガンバレと祈りのポーズで見守るわたしの目の前で、マーケットさんがドライバーのようなものを取り出し、先にタオルを当ててトラップ筒の目地を静かにコンコン…コンコン…と押し始めた。
回れ回れ…。
コンコン…コンコン…。
回れ…時代とともに回ってくれーー。
コンコン……コン……

「あ!」
「あ!!」
回った!!

「回りましたね、これ外れますよ」
「マジですか!」
ゴリ…ゴリ…

「外れました!」
「やったーー!!!すっごーーい!!」

ばんざーいばんざーい!!
あんなに頑固だったトラップ筒がゆっくり外され、マーケットさんはニコニコしながらパイプの洗浄を始めた。
そして。

「はい、設置と試運転も無事終わりました。問題なくご使用いただけます。安心してお洗濯してください」

神!あんたは神様や!洗面所に後光が差しとる!

「ほとんど詰まりはなかったんですが最後にごぼって大きな塊が剥がれたような音がして、どうやらそれが詰まってたみたいです」
「そーですか。これからは月イチで排水溝掃除するようにします」
「いやーそこまでしなくても大丈夫だと思いますよ、この詰まりも気にされてた本のせいじゃないでしょうし」
「本のせいじゃないと?!」
「紙はバラバラになって流れて行くと思うんで、きっと長年の洗剤とかそっちだと」

やっぱ紙!いや、神!

「気になったらって感じで、そんなに清掃しなきゃ!みたいに考えなくても大丈夫ですよ〜」

神のマーケットさんはそう言ってまたニコニコしながら帰っていった。
10マンかかると言われていたパン工事が、神の技で8000円で済んでしまった。
ありがたいありがたい。

そうして我が家にまた平穏が戻ってきた。
新しい洗濯機はゴンゴン言わないだけじゃなく普通にものすごく静かだった。おまけに表示された残り時間通りに洗濯が終わる。
(喜びのハードルが低いのは重々承知しています)
言わなかったけどうちの愛妻号は残り時間がまったく減らないことでも有名だった。残り18分となってからドラマを見始めて、それが終わってさて干すかと様子を見に行くと堂々と残り15分などとのたまう。
何がどうなってわたしは3分でドラマを一本見終わったんだ。
タイムリープか。
そんなこともあったけど、すぎてみればみなとてもいい思い出(大嘘)。
愛妻号よありがとう。世話になったね。

ところで今度の洗濯機はなんて名前なんだろう。
取説をひっくり返して隅から隅まで見たけれど品番以外載ってなかった。
NA-FA8H2というのかい?贅沢な名だね、今日からお前はせんたっきだ。

いろいろあったけど、せんたっきは今日も静かに順調に洗濯をしている。
これから長いつきあいになると思うけどよろしくね。


警戒MAX。


ちなみにリフォーム担当にはすぐキャンセルの電話をしました。
「大丈夫になったんで」の一言で大丈夫でした。


※某くらしのマーケットさんはうちに来てくれた方は神でしたが、個人差もあると思いますのでそれぞれ自己判断でお願いします。

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