駅
その日、私は駅で電車を待っていた。1時間に数本しか電車が来ない。ベンチに座っていると、夏の日差しと海からの風が心地いい。
「あの、すみません」
と声をかけられて目を覚ました。寝てしまっていたようだった。あたりは夕方になっている。20歳くらいの若い女性が立っていた。
「もう電車はありませんよ。よかったら今日はうちの民宿に泊まっていきませんか」
聞くと、こうして営業をしているとのことだった。私は泊まることにした。
彼女の運転する軽トラックに揺られながら海を見ると夕陽が沈んでいくところだった。
10分くらいで宿に着いた。民宿と言っていたが立派な旅館だった。大きな露天風呂もあった。混浴だとのことで、私が入っていると彼女も入ってきて身体を洗ってくれた。これも営業だと笑っていた。その後、部屋で豪勢な料理を食べ、布団に入り、眠った。
「なんでこんな山奥で死ぬかね」
「口の中に葉っぱが詰まってます」
「また同じか。もうこれで4人目だな。一体どうなってるんだ」
「安らかな死に顔ですね」
「それも同じだな。気を引き締めてかかるとするか」
「被害者は近くの駅の防犯カメラに映っていました。一人ですが、隣の誰かと話しているようなそぶりをしています」
「囮捜査やってみるか」
若い刑事がベンチに座り、年配の刑事が影から様子を窺っていた。夕方になった。
「あの、すみません」
若い女が刑事に声をかけた。
「何か」年配の刑事が答えた。女を見た瞬間、こいつだと直感が走った。と、女が若い刑事の方に走っていった。訳がわからない。囮捜査は中止だ。「おい、気をつけろ」と年配が叫んだ。若手がぎょっとした顔でこちらを見た。次の瞬間、銃を取り出し、発砲した。
ズドーン。
年配が倒れた。近づいてきた若手が青ざめていく。
「そんなバカな。どうして」
年配はもう喋ることもできない。若手の背後ににたあと嗤う化け物を見た。それが年配の最期だった。
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