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演奏活動再開

2月に最後の本番で歌ってから半年以上、ついに演奏活動の再開第一歩を踏み出します。明日9月12日(土)13時半から和光市文化センターサンアゼリア大ホールにて「和光3.11を忘れない」チャリティーコンサートに出演させていただきます。これまでも何かと縁が深かった和光市のこのホールで活動再開できることを本当に嬉しく、実現へ向けてご尽力された皆様に感謝申し上げます。この公演は本来3月に予定されていたコンサートで3.11震災へのチャリティとして毎年アマチュアの合唱団、オーケストラによって続けられてきた公演です。今年は残念ながら本来の形で開催することが出来ず、合唱団はマスク着用でプログラムを縮小、分散しての参加。そしてこれまで縁のあった声楽家によるソロステージが加わることになりました。

今回この演奏会にお声がけいただき、個人的に活動再開の選曲はやはり自分のライフワークであるトスティの歌曲を歌いたいとおもい次の二曲を選ばせていただきました。当日のMCは時間が限られている関係で曲について詳しく述べることは難しそうなのでここに記しておきたいと思います。

♪C.Errico作詩 「理想の女(ひと)」 Ideale

トスティ歌曲の代表作としてよく知られている曲の一つです。日本の出版社の楽譜では「理想」と訳されているものがほとんどですが石塚が歌う時はこの「理想の女(ひと)」というタイトルを使わせていただいています。「女」と書いて「ひと」と読むのには理由があって、これは歌詞を訳すと去って行った女性を想って歌う曲なのですが、この「去っていった女性」というのは昨日とか先週とかに別れたのではなくずっと昔に別れた、もうほとんど幻のような記憶をずっと引きずって、それでも忘れられないという歌です。個人的にはもしかすると彼女との想い出そのものが幻なのかもしれないという気すらします。「愛しい理想のひとよ、一度で良いのでもう一度戻ってきておくれ」と歌いますが、それはきっと叶わぬ夢でしょう。そういう意味で「女」をあまり現実味の無い「ひと」という読み方で使用しています。
今回まずこの曲を選んだのには、毎日のように稽古に明け暮れ、多くの本番でお客様の前に立っていたほんの半年ほど前の出来事がまるで幻のように感じられる今の状況に想いを重ねたというのもあります。再び舞台に立てる理想の日が幻とならないように願って歌いたいと思います。

♪G.ダンヌンツィオ作詩《四つのアマランタの歌》
 2.暁は光から闇を隔て 
 L'alba separa dalla luce l'ombra 
 "Quattro canzoni d'Amaranta"

この曲も良く知られていますが、多くのテノール歌手が単体で取り上げているため忘れられがちですが4曲からなる組曲の第2曲です。ダンヌンツィオの詩は比喩や裏の意味が多く含まれていて大変難解なのですがトスティとダンヌンツィオがコンビを組んで残した作品の中でも極めて完成度の高い名作です。ちなみに石塚は東京藝術大学大学院でトスティ研究を専門として修士演奏でこの組曲を取り上げました。歌詞の表の意味としては夜明けを歌う歌ですのでコロナ禍以降の音楽が再び人の心に潤いを与える夜明けとして相応しい劇的な曲ですが、この曲では「光」と「闇」、「昼」と「夜」、「死」と「生(愛)」、など多くの対比が歌われています。世の中が新型ウイルスというひとつの大きな脅威に見舞われている今だからこそ二つの相対するものの存在が人間の生きる上で欠かせないものだという事も考えさせられます。なお、この曲は特にある時代において最後のクライマックスで本来の音よりも高い音に上げて歌う事が慣例としてよく行われていましたが、トスティ研究の立場からはこの音変更は歌詞と作曲家の意に沿ったものではないという意見も多く、自分も現在はこの部分を楽譜通り歌うようにしています。トスティが残した楽譜の音によって曲本来の魅力が表現できるようにしっかり歌いたいと思います。

今回は他に出演者も多く、事前ピアノ合わせの時間も限られているためこの二曲に絞って選曲させていただきましたが、やは自分にとってトスティは演奏家として研究家としてのライフワークであるというのを改めて実感しています。トスティは1846年生まれのイタリアの作曲家でイタリア歌曲を芸術歌曲としてひとつの高みへと導いた作曲家の一人です。現在わかっているだけでも500曲近くの作品を残していますが、まだまだ紹介したい曲もたくさんありますのでこれからも積極的に取り上げていきたいと思います。まずは明日選んだ二曲が明日の演奏会の成功の一助となりますよう頑張りたいと思います。

演奏会は明日12日の13時半開演で和光市のサンアゼリア大ホールで行われます。客席は一階席のみ、定員の50%制限ですが、まだ残席ありますので、もしお運びいただけるという方がいらっしゃいましたらお知らせください。チケットを確保させていただきます。

また「演奏会にはいけないけれども応援したい」と言う方はこの下の「サポートする」からご支援可能ですのでご検討頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

石塚幹信

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