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演奏家集団「石塚組」定例公演~オペラハイライト特集~を終えて②

なんとか一週間開かずに更新が出来ました。全何回になるか書いている本人もわからない演奏家集団「石塚組」の振り返り連載二回目は「石塚組」活動における合唱の位置づけについて書きたいと思います。

演奏家集団としての企画意図

発足のお披露目演奏会から7回目の公演まで、サブタイトルには「プロ声楽家による」という言葉を入れてきました。これは正直に言うと一部からはあまり評判の良い表現ではなく、「プロ」をアマチュアと隔てて差別化しているとか奢っているというようなご意見をいただいたのも確かです。あえてタイトルに「我々はプロ声楽家です」と入れるのは冷静に考えると確かに少し恥ずかしい事でもあります。しかし自分があえてこのタイトルを採用してきたのには、参加するメンバーに「プロとしての自覚をもって取り組んでほしい」という意味合いがあったからです。七回の公演を経てその意識が少しずつ根付いてきたことと、前述のような「プロ」という言葉に対するネガティヴな反応も考慮し、第八回において初めて「プロ声楽家」を取って「オペラハイライト特集」という副題をつけました。
今回のハイライトでは「こうもり」の第二幕に若干のアンサンブル(合唱)を入れましたが、これはあくまでもメインではなく、今回の企画で作ろうとしているオペラハイライトシリーズは基本的に合唱無しで出来るように考えています。そういう意味で今回の公演に「合唱」の要素は多くないのですが、「石塚組」企画では初回から一貫してアンサンブルと合唱は重要な要素の一つとして考えています。第一回から第三回までと第四回は国内外の合唱の名曲とオペラを両方取り上げたプログラミングで、初めのころは「いつもはオペラを歌うような声楽家たちが合唱曲に取り組んでいる」というのもこの企画シリーズの特徴でした。
それはひとえに自分が考えている「演奏家として活動していくにあたってアンサンブル力は重要である」という理由によるものでした。

プロ声楽家の仕事における合唱

現在この国で「声楽」を仕事とするのに避けて通れない要素のひとつが「合唱」です。もちろん「まったく合唱はやらない」というソリスト専門の方もいらっしゃいますが数としては少数派、多くの声楽家が仕事をしていく中で「合唱」に取り組むのは必須とも言えます。ただ、国内でプロ声楽家のみによって構成された合唱団体はそう多くはなく、しかもそれぞれに専属のメンバーは少なく公演毎に人選されて構成されるため、違う団体に同じ人が載っていることも珍しくなく(かくいう石塚も数多くの団体に「メンバー」として乗った経験があります)、必然的にそこに入るための門は狭いものになっています。
一方で現在はコロナ禍の影響で停止しているところも多いのですが、日本で大変活発なアマチュア合唱団、市民オペラの活動において不足する声を補う意味でのプロエキストラの役割も重要で、この部分の需要は今後ますます増えていくと考えています。ただ、これはプロ合唱団で歌うのはまた別のスキルを求められる難しい仕事でもあります(簡単に言うと「ただうまく歌えばいいというものではない)。もちろんエキストラの単価はプロの合唱団に比べれは高くはないのですが、その分件数があるので結果として仕事として重要な位置にあると思っています。
自分が「石塚組」活動を始めたきっかけの一つが東日本大震災以降の全業界的な需要の低下によって演奏家を生業とする人が減ってしまうのをなんとか防ぎたいという想いが有ったのですが、そのためにはもっと「プロの合唱団で仕事が出来る人」とともに「アマチュアのコーラスにエキストラに入れる人」の人材を確保しなければならないと思っていました。そのために毎回の企画に(比較的)歌い手が歌いたいと思っているオペラの名曲と、実はあまり興味はないかもしれないがやっておけばきっと役に立つはずの「合唱曲」の双方取り上げてメンバー一人一人の地力をあげていきたいという考えがありました。
また一方でアマチュア合唱団の皆さんには「プロの声楽家にも高いアンサンブル力を有してエキストラに入れる人材はたくさんいますよ」という事を知って欲しいという目的もありました。なにしろあまり大きな声では言えませんがただ声が大きいだけで全くアンサンブルが出来ない「自称声楽家」が本番直前のアマチュアの合唱団にエキストラに入り、長い期間かけて団員さんたちが作り上げてきた音楽をぶち壊し位にするという残念な事例も少なからずあり、おかげで(プロアマ問わず)合唱界の皆さんに「これだからオペラ歌いは、、、」と言われてしまうことに歯がゆい思いもしていました。

プロ声楽家として合唱に取り組む意味

前述の国内にいくつかあるプロ合唱にしても数多くあるアマチュア合唱団にしてもそこで歌うときに一番大事なのは「その合唱団の中で求められている適切な声で歌う」という事だと自分は思っています。しかし多くの声楽家にとってまずここが一つ目の難関になります。なにしろ多くの声楽家たちは勉強を重ねてきた中で「常に自分の一番いい声を追求する」という姿勢で勉強してきたからです。特に若い人においてこの傾向は顕著ですが、これは確かにソリストを目指すならば必要な要素でもあります。しかし合唱の一員として歌う場合はそこで求められている声が必ずしも自分の一番いい声とは限らないというのは大変重要です。もちろん場合によっては「細かいことはいいからとにかく声と音量が欲しい」という場合もあるでしょうし、あえて実名は出しませんがこの国にはひとつだけ「アンサンブルとかややこしいことは置いておいて一人一人が一番いい声で歌うことによって成立する」という稀な合唱団も存在します。いずれにしても自分は合唱として演奏に参加するという事はある意味においてソリストとして歌うのよりも難しい要素がたくさんあると思っています。そしてその技術を持った人々が現在限られたプロの現場において活動しています。(余談ですがソリストだって本当はいつもすべてが自分の一番いい声だけで歌っているわけではありません…)
現在のコロナ禍でも感じているのですが、とにかく合唱の経験は合唱しないと身につきません。一人一人の発声や音楽表現は個人練習でも磨くことが出来てもアンサンブル力、合唱力についてはそうはいきません。自分が「若手」と言われていたかつての頃ならそれをたくさんの現場に出ることで経験を積むことが出来たかもしれませんが、様々な理由でそれが叶わない現在の世の中、それならば合唱を勉強する場面をつくらなければならないというのが「石塚組」活動の基本方針となりました。初回にはヴィヴァルディの「グローリア」と源田俊一郎さんの「ふるさとの四季」、第二回はモーツァルトの「レクイエム」、その後もフォーレやラターの「レクイエム」、「ハレルヤ」や「大地讃頌」などの小品として取り上げられることも多い名曲も選択してきました。これらはアマチュア合唱団からエキストラ依頼を受けたときにしっかり歌える状態でなければならない曲ばかりです。メンバーの中にはこの企画によって「初めてうたった」という人も多かったようですが、アマチュアのエキストラ依頼は直前にやってきたり予算の関係で参加稽古回数が大変少ないこともあるのでこれらの曲に取り組んでおくことは決して無駄ではないはずです。

新設合唱団の発足と「石塚組」における合唱の変化

「石塚組」としての活動の中で合唱を取り上げていく中で多くの成果も感じられる一方で問題も多くなってきました。特に毎回オペラと合唱の両方を取り上げることでプログラム構成も練習計画も難しくなり、十分に時間が取れないジレンマも抱えるようになってきました。一方でもう一つ石塚のライフワークとして2019年に発足した「ペルテ混声合唱団」ではアマチュアの団員とプロの助演が演奏会直前だけでなく普段の練習から一緒に歌うというコンセプトの合唱団で、これは石塚の合唱指揮者としてのキャリア形成のほかにアマチュア合唱団のエキストラを育てるという目的も兼ねるようになり、この活動が並行し始めたことで「石塚組」の定例公演は2019年5月の第六回よりプログラムに「合唱曲」が入らない構成でプログラミングしています。
もちろん定例公演で全く合唱が入らなくなったわけではなく、第六回のミュージカル特集では「ウェストサイドストーリー」や「キャンディード」の合唱付きシーンをやっていますし第7回のガラ・コンサート特集でもオープニングとアンコールで合唱入りの曲をとりあげ、ペルテ混声合唱団のメンバーにも賛助出演してもらいました。本格的な合唱曲を練習する場はペルテ混声合唱団へ移行し、「石塚組」定例公演では合唱の練習には時間を割かないという方向で現在は取り組んでいます。この「少ない回数で仕上げる」能力は特に近年は現場で求められるスキルの一つです。

次回公演へ向けて

一部アンサンブルを加えたとはいえソロ・重唱中心のオペラハイライト特集を終えて、次回2022年5月の定例公演は久しぶりにオペラから離れて純粋に「合唱曲」を取り上げようと考えています。もともと「石塚組」企画は毎回テーマが変わりますので、いつもすべてに同じメンバーが参加しなければならないとは思っていません。そういう意味で今回のオペラハイライト特集とは真逆のテーマである次回の公演にどんな人がどのくらい参加してくれるかは全く未知数ですが、しばらく離れていた合唱曲に正面から取り組んで、いまこの時代だから出来るプロ声楽家による合唱ステージを作りたいと思っています。
奇しくも昨年来のコロナ禍でプロ声楽家の仕事における合唱の役割と難易度は増しています。どこも多くの人数を舞台に載せられない制限の中で練習環境も制限され、さらに本来アマチュアが担っていた公演までもが長期間の練習を組めないという理由でプロに回ってきて結果を出すことが求められています。これまでよりも合唱歌いとしてのスキルを求められる一方で歌う場が減っていることで影響を受けているのはプロも同じです。今しっかり合唱やアンサンブルの力を磨いていかなければ収束後にまたアマチュア合唱団が活動を再開した時に本当に居場所がなくなってしまうのではないかと危惧しています。もともと合唱を好んで歌う声楽家もこれを機に取り組んでみようという声楽家も多くのメンバーに参加してもらいたいと思っています。(その前にまず安心して合唱が練習できる環境が整うよう願うばかりですが…)

今日は少し長くなってしまいましたが「石塚組」活動における合唱の位置づけについて書かせてもらいました。次回は「石塚組」活動における練習の進め方について書きたいと思います。

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5/5に無観客開催した定例公演、オペラハイライト特集の様子は以下のチャンネルで無料配信中です。またさらに高音質高画質で編集したディレクターズカット版の作成も進めていてこちらはDVD化も予定しています。是非ご覧になっていただければ幸いです。
https://www.youtube.com/channel/UC-bgoxkLhQiNG6d56tKb6Yg

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