中秋の名月、都会の「宙」に輝く美しい月を見た。

アクアヴィーテ!!の時以来の日比谷に降り立つ。

コロナ禍になる前は目を瞑ってても日比谷の地理が分かるぐらいには通っていた。神戸より銀座の方が詳しい兵庫県民で名を馳せていた←?

こう言ったご時世なので、いかに導線を短く最低限に移動するか?と言う事も熟考しての遠征を決めた。新幹線からも飛行機からもアクセスがいいが、更に自宅からの導線と移動時間を考えると飛行機一択。羽田空港から出来るだけ乗り降りしなくていいのは、京急線経由で東銀座駅~徒歩で大体10分程度だが今回はその導線さえも惜しいので浜松町から有楽町ルートを選んだ。(私にとっては東銀座の方が慣れているが新橋駅からでも良いかと)

これだけの事を乗換案内などを介さずに、自分の頭でイメージできるぐらいには土地勘がある。人は私を銀座の兵庫県民と呼ぶ(パリのアメリカ人みたいなノリで)。嘘です。今思いついた。

観劇のみに的を絞り、初めて「レム日比谷」に泊まる。

こぎれいな内装にはスタイリッシュで最低限の設備。洗面所が透けてるのがちょっと嫌だったけど(梅田のレムもそうなんだけど落ち着かない)(カーテンがあるけど透けてるのは嫌いだ)アメニティが良かった。ボディソープの香りが気に入ったので何処のメーカーかな?と思ったら売店で売っている。大人気の「はちみつ紅茶」だって自由に飲める。それも売店に売ってる。至れり尽くせり。本当にいい香りのソープなんだぜ!(めっちゃ褒めながらも買ってないけど)

宝塚ホテル以上にドアtoドアの距離感。混みあう幕間を抜け出して部屋に戻ってトイレを済ませて一服なんて事も出来る。シンプルに観劇を主体とするならば悪くはない。小さいながらにマッサージチェアも備わっている。観劇で凝り固まった背中をゴリゴリとほぐしスッキリ出来るのも良き。(1泊の滞在中4回ぐらい使った)

「中秋の名月なので、舞台上の美しい月を眺めて来るわ!」

出会い頭にバッタリ会った知り合いにそんな軽口を叩いて入った。1階席後方のどセンターと言う席での「お月見」は想像以上に最高の風景だった。

時々はセンターブロック・センター席付近には座るが、ほぼ0番と言っても差支えが無いぐらいのセンター。これはもうオペラグラスで真正面を受け止めるしかない。腹をくくった。当たり前だけど視界の先には大体トップスターが居た。当たり前だけど「選ばれし者の0番」で0番を基軸に作品が作られている。常に真ん中に居るのはトップスター。全ての空間を包み込む王者の風格。2000人以上の観客を一手に惹き付けるオーラ。中詰めのギンギラ&オレンジ大羽根を「トンチキ衣装www」と笑っていたが、あれすらも神々しくて拝みたくなった。

そんな貴重な0番に立たせてもらう事がどんなに凄い事なのか。

単純に真ん中に立っている訳じゃない。選ばれて真ん中に立たせて貰えているのだ。その重みと愛情を痛い位に感じられて、タップダンス中に視界が滲んだ。今この瞬間、宝塚大劇場/東京宝塚劇場のお客さんの視線を一手に引き受けている。どんな気持ちなのかな。気持ちいいだろうな、幸せだろうな。数多くの宝塚のOGさんの中で「0番に立った事がある」人って多くは無いだろう。退団の挨拶くらいじゃなかろうか。長年キャリアを積まれてもその機会なく退団される方も多いだろう中、自分の得意なタップダンスで0番に立つ。贔屓にとって掛け替えのない経験。そして、男役の終わりまであと数日と言う所で、0番のセンターを真正面から受け止める事が出来た事は、退団公演の中でも忘れられないハイライトだった。

中秋の名月だからではないけど「最後のその日まで男役として成長し続ける」と大劇場で挨拶をした美月悠さんの有言実行ぶりは目を見張るものがあった。まだまだかっこよくなっている。もっと気の利いた言葉が出ればいいのに!とじれったくなるぐらい、あの日見た男役・美月悠に「かっこいい」以外の何が当てはまるのだろうかと思った。後光が差しているかのようなオーラに自然と惹き付けられる。何度か目が合った気がしたのはそれだけ見ていた事か。贔屓と同じ誕生日で、同期で、芸名が「月」で、退団も同じで。贔屓に出会わなければ、この美しい月の王子様を知る事も無かったのかもしれない。「月」が巡り合わせてくれたと言う事にしておこう。

終演後、日比谷の街を行き交う人々が立ち止まって上を向いていた。

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都会のビルの隙間から、それはそれは見事なまでのまん丸い満月が上がっていた。こんなに近くクッキリと明るい光を放つ満月を久々に見た。煌めくビルの照明に負けない位に強く光っていた。舞台の上の美しい月を愛でた後、地上でまた美しい月を見られるとは思わなかった。この日の昼頃は雲が分厚くて「中秋の名月だけど雲が厚いですね」「中で美しい星と月を愛でて参ろうじゃないか」なんて言葉を交わした事を思い出した。今夜はどっちの月も光り輝いているし、その両方をこの目で見られたのだ。

♪Fly me to the moon~のメロディが頭の中によぎる。今日この日に私をこの場所に連れて来てくれた贔屓にありがとうと思ったし「月が綺麗ですね」って言いたくなった。今はその言葉を交わす場は無いけれど、同じ都会の空の下でこの満月を見ているだろう。なんてロマンティックな中秋の名月なんだろう。

2021年、星と月に導かれてやってきた日比谷の地で、この夜の月の美しさを一生忘れないと思う。