地を耕し鹿を獲ったニート(狩猟編)
前回の記事↓を読んでくださった皆様、ありがとうございます。
表題のとおり今回は狩猟編。
狩猟免許(わな)取得、実際に鹿を獲って食べた話、最後に狩猟の意義や所感を述べてみたい。
※終盤はセンシティブな画像を掲載する。苦手な人は注意してほしい。
実際に猟をやるまで
狩猟免許の種類
狩猟免許は主に4種類ある。
・猟銃一種(火薬銃。威力は最強だが弾薬がバカ高い。猪向き)
・猟銃二種(空気銃。コストは少し軽いが低威力。鳥向き)
・わな(コスパや取得しやすさは最高。大体みんなこれ)
・網(おもに小鳥系を捕まえる方法。レア枠)
僕がいた山奥は鹿がメインで(というか鹿ばかり)、アナグマはまだしもイノシシやクマ、キジ、ヤマドリはめったに獲れない。
銃は所持する許可と監査が厳しい。四つ足の獣をある程度の低コスパでハントするためにはわなが一番だ。というわけでカッコ書きのとおり、実際に取得したのはわな免許となった。
※ちなみに、わな免許は"わなを仕掛ける際に必要"。仕掛けた後の見回り/トドメ刺し/解体に至るまでは他の誰かがやっても構わない。
主流となっているわなの基本形は2つある。
・地中に埋め、獣が踏むと起動して脚をくくるワイヤートラップ型
・金網で形成された箱型トラップ。奥まで入ると蓋が閉まる仕組み
大型の箱型わなは中々値段が高く、ワイヤートラップ型のくくりわなを購入した。構成している材料は塩ビ管/ワイヤー/バネであり、やろうと思えばホームセンターで自作できてしまう。
講習から受験、資格取得
結論から言って、わなの狩猟免許はとてつもなく簡単に取得できる。
①市役所にいって狩猟免許の講習/受験を申請。
②夏ごろに開催される講習を受ける。(各地域で時期は異なるかもしれない)
③後日に試験を受ける。
④合格すれば晴れてハンターだ。各地元の猟友会に入ろう。
この②の講習は有料(4000円した)だが、必ず参加することをオススメする。
配られるテキストを猟友会のおじいちゃんが読み上げるのだが、もはや試験内容のネタバレをしてくれるからだ。
獣の足跡、非狩猟鳥獣はどれか、使ってはいけない罠(トラばさみ)はこれだ…等々、「ここテストに出ますよ」と丁寧に教えてくれる。
おかげさまで試験は超簡単、猟師不足の昨今において「ぜひ受かってくれ…!」という圧を感じるレベルである。
※結局、わな狩猟を始めるまでにかかった費用はトータルで4万円くらいだった。講習/受験/わな費用は当然のこと、狩猟者登録/各種保険/狩猟税が中々に痛い…。
地域ごとの猟友会に入れてもらう
免許を取得したら市役所に向かい正式に登録しよう。
市ひとつとっても、猟友会のメンバーは各地域ごとに細分化されていることが多い。
そして何より、わな猟を始めるにあたって一番の手間は"人間同士の縄張り争い"だろう。どれだけ自治体が猟師を増やしたくても、地元の猟友会メンバー(特にわな猟の使い手)はいい気がしない。自分たちの領土を侵す新参者だからだ。地区長に必ず地図を持って挨拶しに行き、自分が猟をしても許される土地はどこなのか必ず確認を取りに行こう。
※「この土地に骨を埋める覚悟があるんか?」くらいのメンチは普通に切られる。といっても態度がデカいばかりの爺さんが、若い我々の死に様を見届けられるはずもない。適当に受け流そう。
鹿の狩猟をする無職
狩猟期間と有害駆除
一口に猟と言っても1年中ハントできるわけではない。法律で狩猟期間というものが定められており、大体は12月~2月の間までだ。
しかし地域によっては"有害駆除"という名目で猟期以外でも狩猟行為が可能になることがある。ありていに言えば「冬以外でも狩ってくれなきゃ困る害獣がいるんです!」ということだ。
これは単に運がいいだけの話だが、僕が狩猟する地域は深刻な"大量発生した鹿被害"に悩まされており、1年目の新米猟師なのに有害駆除の許可はあっさり降りた。はれて年中ハント可能な状態となったのである。
※ふつう猟期以外でもハントできる有害駆除許可とは、最低1年は猟友会に籍を置かないと取得できないものらしい。排他的な村だと新参者はいつまでも認められないこともあるんだとか。
鹿ハント実行の流れ
やっっっとトラップ設置である…。ここまで来たら後は単純だ
①獣の足跡やフンから獣道を見つける。
②木を支点にして「この辺なら踏む」だろうポイントに仕掛ける。
③適度にエサを撒いたら毎朝の見回りを行う。
エサは田舎のコイン精米機からタダでもらえる米ぬかで十分だ。
あとは足跡のながれ、鹿にばれてないか、等々をチェックしながら毎朝見回りをしていくだけだ。
※鹿も猪も夜行性のため、トラップにかかるのも当然夜になる。獲物が暴れて傷つき過ぎないよう毎朝毎朝の見回りは必須になるのだ。
冬のある日のこと
「1年目は獲れないことなんて普通」
鹿がうじゃうじゃいるにしても、そう簡単にトラップに引っ掛かってくれるわけじゃない。12月から仕掛けたわなは雪に埋もれ、月日は過ぎ、雪も解け…段々と期待が薄れてきた頃であった。
来た…!
ホントに唐突だった。茶色い毛皮がうずくまっている。
角がない。メスの個体だ。
わな免許しか持っていないのでトドメ刺しの方法は限られる。
頭を棒でぶん殴って気絶させ、心臓か動脈にナイフを刺す。
この日の為に免許を取り、罠を買い、毎日のように見回りをしてきたのだ。
覚悟はとうの昔に決まっていて、ためらうことはなかった。
※ここから先センシティブ画像が多くなる。苦手な方はブラウザバックだ。
ナイフの傷口から大量の血が流れ落ちる。この後は腹を裂いて内臓を抜き、皮を剝いでいく。その後はモモ/肩/ロースなどの各部位にバラしていく…。
市役所にハント実績を認めてもらうための証拠、耳/前歯/尻尾も忘れずに冷凍保存した。
なんてことはない。現代社会の分業制が我々から遠ざけてきた屠殺の作業、毎日のように世界中で行われている営みを自分も体験しただけに過ぎない。
ある無職にとっての"狩猟"
捕食者としての覚悟
なぜおれは鹿を殺したのだろう?
答えは明白で、食うためである。そこはぶれなかった。
ライオンがシマウマを捕食する際に躊躇うわけがないのと同じだ。
そもそも動物がかわいそう、という主観的感情論だけで肉食を止められるわけがない。鹿に憐憫するくらいならスーパーの肉売り場でも号泣しなくてはその人の態度は一貫性がなくなるだろう。
そして自給自足よろしく狩猟をしたとて、厳密にいえば対等な"命のやり取り"をしたとは厳密に言い難い。
爪も牙も膂力も乏しい人間は、道具というテクノロジーで身体機能を拡張させて地球上の天下をとった。己の身体能力から外れた何か(罠/ナイフ/銃/車/スマホ等)を主力にし、なるべく「卑怯に、自分は怪我することなく、獲物を仕留める。」これこそ人間だ。
もう被捕食者側の目線で物事を考えるなど出来やしない。それは人間の環世界から薄れてしまった。
そんな我々人間に喰らわれる"いのち"に、いったい何ができるだろうか
答えは簡単、『食うために殺したのだから食え』。これだけである。
自慢にもならないが、出された食事は絶対に残さず食べ切るようにしている。食わなければその"食材だったいのち"が無駄死にとなるからだ。
趣味の領域、コスパの視点。
長々と語ってきたがここはニートマガジン、結局のところ狩猟で生計は建てられるのか?ニートでもやれるべきものなのだろうか?が重要だ。
結論から言うと…狩猟は趣味の領域を出なかった。少なくとも自分は続けるつもりはない。ここまで読んでくれた方はうっすらと気づいているだろう、狩猟のデメリットを羅列しておこう。
・狩猟にかかるコストは安くない(取得/登録/税/消耗する罠代など)
・猟友会との人付き合いは基本煩わしい(悪い言い方だが老害が多い)
・毎朝の見回り、屠殺→解体の手間(1頭獲れたらその日は潰れる)
・マダニによる被害(あの恐ろしい奴は山中にも獣自体にも沢山いる)
・はっきり言って鹿肉は必死になってまで追うほど美味いものではない
獲れようが獲れまいが毎年2万程度の税金と登録料、たくさんの手間…それを承知の上で苦労して得たジビエより、品種改良の結果生み出された牛/豚/鶏のほうがよほど美味なのだ。正直バイトして買う肉のほうが圧倒的に便利で、清潔で、安全で、美味である。そんな常識を改めて思い知らされた。
集落には鹿のわな狩猟で生計を建てる爺さんがいるにはいた。しかし他の村人にも見回りを指示し、大量に獲った鹿から証拠を採っては重機で埋める…。有害駆除の報奨金は1~2万円だが、狩猟オンリーで稼ぐには相応の規模と権力が必要らしい。
さいごに
もと狩猟免許持ちだった、そんな人をちらほら知っている。
べつに珍しいことでもないのだろう、自分もその一人だ。
一定のニート、あるいは田舎暮らしに憧れを持つ一般人、こういった人たちが自給自足に羨望のまなざしを向ける理由の一つに「人間同士の煩わしいやり取りをスキップして」日々の食料を得られる、というのがあるだろう。
実際にやってみた感想としては、「野草や虫だけでは満腹にならず、自家菜園や狩猟も人間同士のコミュニティ域を出ない」というのが現実である。
しかし狩猟それ自体はやってみてよかった。やらない後悔よりやる後悔をモットーとし、せっかく山奥に住んでみたのだ。
この経験、生命あるものを自ら仕留めて喰らう体験はまぎれもなく己の人生に特異点として刻まれた。悪い気はしない。
現代には似つかわしくなくなった狩猟採集、山奥ならではの暮らし。
丸2年ほどの滞在によりだいたい体験させてもらった。
しかし自分の根幹はやはり旅にあるようだ。早くも次の未開放ステージに興味が移っている自分がいる…山の次といえばもちろん、海だろう。
残り少ない20代を新天地の開拓に当てたがる自分がいる。
読者の皆様、更新は遅いが今後の展開にも期待していてほしい。
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