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トリテとレンク(7・終?) 〜 トリックと紋章学

この記事はTrick-taking games Advent Calendar 2021の12日目の記事として書かれました。

はい、どうも。
珍ぬと申します。
2年半近く、noteでボードゲームやパズル関連の記事をかれこれ180本くらい書いています。
以上の挨拶は去年の使いまわしですが、よろしくお願いします。

2021年の1月から、トリテ(トリックテイキングゲーム)と連句を交えながら、不定期に書きました「トリテとレンク」。

前回書いたのが7月。
ずっとお留守にしていましたが、ADVENTARに合わせて締めにむけての記事をお届けします。

トリテの「トリック」って何?

トリックテイキングゲーム。
直訳すれば「トリックを取る遊戯」。
いや、待て待て待て「トリック」訳しておらんやないかーい。

この件については、他の国々ではトリテ(Trick Taking Game)をどう呼んでいるのかをnoteに書いて濁しました。

上記のnoteでは、ドイツでのトリテ「スティッヒシュピール(Stichspiele)」に合わせて、

トリックは、1ゲームに行われる複数回のミニゲーム1回分を指す

としました。
とはいえ、なぜそれを「トリック(Trick)」と呼ぶのか、はよくわかりません。

困ったときにはOED

で、調べることにするのですが、たくさんのトランプやボードゲームの文献やサイトにあたるのは疲れる。
じゃあ、なんか楽してほぼど真ん中に辿れる文献ってないの?
「じてん」があるじゃないですか。
ということで、英語ならば、ほら、あれだよ。

「Oxford English Dictionary
(オックスフォード英語辞典:以下OED)」

だよ。
だけど、全部英語だから読むのがこれまた疲れます。
そこで、研究社の「英語語源辞典」「新英和大辞典」にも力を借ります。

「英語語源辞典」を引いてみると、「Trick」をトランプ用語として使われた、いいかえると「そのように使った用例」がみつかったのは、1599年。
「カードの1組」を指しています。


なるほど。
ミニゲームを行ったあとのカードを束ねた1組を指して、その全体を「トリック(Trick)」にしたのか。
一件落着……ではない。

実は「トランプ(Trump)」を調べると面白いことがわかるのだ。
「Trump」は「切り札」を指す言葉だが、その最初の用例は1532年。
何が言いたいかと言うと、

少なくとも1532年にトリテなゲームが存在していて、
50年以上もの間「Trick」という用語を
使っていなかった。

この空白の間は、ほかの言葉をつかっていたと推測できます。
では、なにがきっかけで「Trick」という言葉をトリテに組み入れたのか?

ゲームと全く別ジャンル「Heraldry」

OEDでの単語の意味は、年代順にならんでいる。
「Trick」をトランプ用語として使っているのは、かなりあとからの話。
では、以前はどのような意味で使っているのか。

OED第2版の第18巻の512ページから「Trick」の項目があります。
10以上の小項目(アラビア数字でノンブル)がありますが、4つピックアップ(ローマ数字でノンブル)されている項目がありますので、抜粋引用します。

【抜粋引用】
Ⅰ.1 (初見用例の登場は1472年)
A crafty or fraundulent device of a mean or base kind; an artifice to deceive or cheat; a stratagem, rule, wile;
Ⅱ.7 (初見用例の登場は1576年)
A particular habit, way, or mode of acting; a characteristic quality, trait, plactice, or custum.(Usually, a bad or unpleasant habit)
Ⅲ.11(初見用例の登場は1572年)
Her. A sketch in pen and ink of a coart of arm; in-trick, sketched in pen and ink.
Ⅳ.12(初見用例の登場は1599年)
card-playing. The cards(Usually four) played, and won or 'taken' in one round, collectively; hence to take a or the trick.

それぞれの意味をざっくり訳すと、
Ⅰ.1 … 策略
Ⅱ.7 … (通例は悪い意味で)癖、特徴
Ⅲ.11 … coart of armをかく 
Ⅳ.12 … 1ラウンド分の、カードで遊び、勝ち、集めて取ったカード

気になるのがⅢ.11の意味で、あえて訳さなかった「coart of arm」。
これはなにかというと「紋章」。
実は、太字にしていたHer.は「Heraldry」の略でして、

紋章学です

そう。
日本だと家紋にあたる、西洋での紋章です。
この「紋章学」の用語として「Trick」が使われているのです。
遠回りしながら説明します。
まず、Wikipediaの「紋章学」の説明で「ティンクチャー」があります。

ティンクチャーとは「紋章の色」を指します。
紋章は、数色の色で描き、その描き方にも規則があります。
さらに、紋章の図面ですが、いちいち色を塗ったものが少なく、たいていは白黒です。
なので、縦線とか点々とかの模様を色に置き換えて指示する方法をあみだします。
Wikipedeiaでは、ペトラサンクタの方法(一番流布したもの)をあげています。

で、この方法は「ハッチング(Hatching)」とも呼ばれます。

wikipediaの日本版にはない項目です。
「Trick」じゃないじゃないか。
そうなんです。
別の方法として「トリッキング(Tricking)」があるのです。

「トリッキング」は、白黒の図面での色指定を文字で示します
つまり、

ここの領域は「赤」って書いているから
「赤」で描いてくださいね。

ということです。
で、Trickingすることは動詞なので「trick」です。


ミニゲームの最後ではなくて最初

さて、紋章学での「Trick」。
この方法はトリテでは、どのような行動にあたるのか。
それは、

ミニゲーム最初のリードするスートの指定

です。
最初にカードを出したプレイヤーのスートにあわせて、ほかのプレイヤーは手札からカードを出します。
その最初のカードによるスートの指定が「トリック(Trick)」なのです。

この仮説だと、ミニゲームの最初(スートの指定)の行為から転じて、ミニゲームの最後(ミニゲームので使われたカード1組)を意味することになったのでは、と解釈できます。

そうすると、このような解釈もできなくはないです。

1スート(スートのない)のトリテは、厳密にはトリテではない
(なぜならスートの指定をしていないから)。

あれ、なにか見覚えのある文章だなとおもったら、黒宮公彦さんが「Trick-taking games Advent Calendar 2018」の9日目の記事で触れていました。

【引用】
ですから例えば「キュウリはトリテに含めるべきか」という問題に対して私はトリテはやはりスートのあるカードを使うものに限定した方がいいと考えます。要するに私にとって「トリテ」は単なるカードゲームの1ジャンルでしかなく、カードゲームの分類のために便利な用語という以上のものではないので、「キュウリをトリテに含めても構わないけれど、その場合さらなるトリテの下位区分が必要になるので、結局何も変わらない」と考えます。
【引用】
となると我々が求めるべきはトリテの「明確にして完全な定義」よりはむしろ「中核的・最も典型的な特徴」なのではないでしょうか。そしてそこから外れる個々のゲームについては典型的なトリテと何が合致し何が違っているかを認識した上で、トリテに含まれるかどうかは個人が判断すればいいのではないかと私は考えます。

「中核的・最も典型的な特徴」とはなにか。
黒宮さんの記事の最初にある「伝統的なトリテ、つまりトランプやタロットでプレイするトリテ」の8つの項目になります。

【引用】
(1) スートは4つ(トランプ)か5つ(タロット)で、各スートのランク数は同じか切り札スートだけ長い
(2) 全員同じ枚数の手札が配られ、フォローできなくてもパスできない
(3) 台札は1枚(複数枚リードなし)
(4) 1人ずつ順番に場に1枚カードを出し、全員1枚ずつ出した時点でトリックの勝者を決める
(5) マストフォロー
(6) カードにはあらかじめ決められた強弱があり、切り札が出されていれば最も強い切り札、出されていなければ台札スートの最も強いカードがトリックに勝つ
(7) トリックの勝者は場に出されたカードをすべて獲得し次のトリックで台札を出す
(8) 山札から手札の補充をすることはあっても手札が配られた時点での枚数より増えることはなく、獲得したカードも手札には加えない(一度場に出されたカードが再びプレイされることはない)

この特徴からはみ出す(広義的にみた)トリテも少なくありませんが、逸脱具合を判断する指標として、多大な役割を持っていると思います。


せっかくだから、Trumpも

OEDを持ち出して「Trick」を引いてみたのですから、「Trump」も調べてみましょう。
OED第2版第18巻の610ページから項目があります。

【抜粋引用】
Ⅰ.a. (初見用例の登場は1529年)
A playing-card of that suit which for the time being rank above the other three, so that any one such card can 'take' any catd of aother suit;

興味をひいたのは「rank above the other three」です。
明らかに他の3つと明記しているので「スートは4つが基本だよ」とプンプン匂わせています。

さらにこのあと、大変興味深いことが書かれていました。

【抜粋引用】
b. (初見用例の登場は1529年)
An obsolete card-game, also as ruff.

訳すと「時代遅れのカードゲーム、ruffも同様。」

なに?どういうこと?

To be continued...

【追記】
ということで、この続きの記事は下になります。



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