トリテとレンク(3)~BriscolaのBriscolaであるBriscolaでのBriscolaはBriscola
今回は、トリテがメインとなります。
前回、「トリテとレンク」の一連のnoteを書く動機を晒しました。
ただ、それは「連句」サイドの動機で「トリテ」側にもあります。
それが、
「トリテ」の「トリック(trick)」って、
なんでそもそも「トリック」と呼ばれるの?
です。
これが意外とわからない。
未だに、その件についての決定的・核心的な情報・資料が探しきれていません(自分の探し方が下手なんじゃないか、と思いますけど)。
もっと準備してからでないと、この辺についての記事を書くのはちょっと怖いので、後回しにしております。
とはいえ、あれこれ探していくうちに思わぬ面白副産物の情報が掘り出されます。
その1つがADVENTERに参加した時の記事だったりします。
「トリックテイキングゲーム(Trick Taking Game)」をドイツ語では「スティッヒシュピール(Stichshpiel)」と言います。
「トリックテイキングゲーム」と呼ぶのは、英語と日本人だけ?
当たり前に事を書きますが、「トリックテイキングゲーム(Trick Taking Game)」は英語です。
そして、日本でも同じように呼びます。
さらにいえば、
「トリテ」は日本でしか使いません。
そういった意味では、日本は特殊かも知れません。
なにせ、英語以外の言語では違う呼び方をしています。
いくつか調べてみました。
まずは、ドイツ語「スティッヒシュピール(Stichshpiel)」
「スティッヒ(Stich)」は、ほぼ「トリック(Trick)」と同じように使われています。
ドイツ版ウィキペディア「Stich(Kartenspiel)」から引用
Den Stich gewinnt (erzielt, macht) derjenige Spieler, der die höchste Karte gespielt hat; er erhält die ausgespielten Karten, legt sie verdeckt vor sich ab und spielt zum nächsten Stich aus. Welche Karte als höchste gilt, ist von den individuellen Spielregeln abhängig.
【翻訳】
トリックは、最高のカードをプレイしたプレーヤーが勝ちます(得点、トリック数となる)。プレーヤーはプレイされたカードを受け取り、それらを裏向きに彼の前に置き、次のトリックに導きます。どのカードが最も高いかは、ゲームの個々のルールによって異なります。
英語・ドイツ語双方の「トリテ」の呼称の共通点は、
(トリックと呼んでいる)ミニゲームの1単位を
あらわす用語を含んでいる
と言えます。
……すごい当たり前な結論ですが、様々な言語を調べてみると、まあ面白かったりします。
フランス語だと「トリテ」は?
フランス語版ウィキペディアの「トリテ」にあたる項目は、
「ジューデレビー(Jeu de levées)」です。
「ジュー(Jeu)」は、「ゲーム(Game)」のことです。
「トリック」に相当するのが「レビー(levée)」になりますが、言葉の意味は「リフト(rift、持ち上げること)」です。
名詞である「levée」は、動詞「lever」から変化したものです。
「lever」の意味には、徴税・(郵便物などの)集配などがあります。
ひとまとめにして獲得する、という意味でもしっくりきます。
フランス語では、もう1つ「トリック」に相当する言葉に「プリ(pli)」があります。
意味は「fold(フォールド、折りたたむこと)」です。
これも「ひとまとめにする」という意味でしっくりきます。
ロシア語での「トリテ」がすごい
ロシア語版ウィキペディアの「トリテ」にあたる項目は、
「Карточные игры со взятками 」。
……えーっと、なんて読むんだろ(フランス語よりも分からない)。
ロシア語の読み方のサイトの力を借ります。
……多分「カルトヴィレ イルヴィレ ソ ヴァカミ 」?
……そんな感じ(詳しい方のヘルプ、お待ちしています)。
単語の意味を1つづつ追っていくと、
・「Карточные」は「card(カード)」
・「игры」は「game(ゲーム)」
・「со」は助詞なので割愛。
・「взятками」は「賄賂」。
「Карточные игры со взятками 」とは、
賄賂のカードゲーム
という意味です。
なんというか、社会主義的視点から見るとそういうことなのかと、目からウロコ。
他の国での「トリック」の呼び方をみると、オランダ語だと「Slag」、エストニア語だと「Tihi」、ポルトガル語だと「Vaza」、などなどあります。
イタリア語は、簡潔にして複雑
上は日本語版ウィキペディアの「ブリスコラ」。
下はイタリア語版ウィキペディアの「Briscola」。
カードゲームの起源として、タロットカードがあげられる説があります。
そのタロットカードはイタリア発祥と言われています。
ところが、ちょっと変態的なことになっていたのです。
どうやら、「ブリスコラ(Briscola)」は、19世紀にイタリアへ逆輸入したカードゲームなのです。
「Briscola」の語源は明確ではなく、様々な説があります。
・「Briscola」の元となったゲーム「ブリュスカンビーユ(Brusquembille)」からきている
・同様に、元となったゲーム「べジーク(Bezique)」からきている
・フランス語の「brisque」からの派生。日本語だと瀟洒(しょうしゃ※意味は、すっきりとあか抜けしているさま)
。
「ブリスコラ(Briscola)」は、イタリアで人気のカードゲームとして定着しました。
しかも、単なる定着ではないのです。
今回の「トリテとレンク」のサブタイトルは、
BriscolaのBriscolaであるBriscolaでのBriscolaはBriscola
1つ1つ追いながら説明すると、
(カードゲーム1組のコンポーネントを指す)Briscolaの
(トリックテイキングゲームというジャンルをさす)Briscolaである
(カードゲームの名称である)Briscolaでの
(「切り札」という意味である)Briscolaは
Briscola
です。
「Briscola」1語で、何でも言えてしまえるのです。
さらに念押しすると、
日本での「トランプの呼び方」は、イタリアではBriscola
日本での「トリテの呼び方」は、イタリアではBriscola
日本での「ブリスコラというゲーム」は、イタリアでもBriscola
日本での「切り札の呼び方」は、イタリアではBriscola
だから結局Briscola
なのです。
この際なので、もっと突き詰めてイタリアにならうと、
「TrickTaking Game」の日本語訳は、
いっそ「トランプ」でいいじゃないの?
なんで日本では「トランプ」なのか?
また、当たり前なことを書きます。
「トリテ」を遊ぶカードの1組を、英語では「Playing Card」です。
日本では「トランプ」と呼んでいます。
この「トランプ」の語源でよく言われるのが
「カンガルーと同じく、勘違いでつけられた」
という説です。
大体の説明が以下のような感じ。
(明治期に)外国人が遊んでいた際、しばしば「トランプ」と言葉を発したことから、これに使うカードや遊戯そのものの名前だと日本人が勘違いしたため、日本では、トランプと呼ばれるようになったそうです。
明治期と時期を特定したり、しなかったりしますが。
しかし、どうにも気になることがあります。
そもそも、プレイ中に
「トランプ」としょっちゅう叫ぶゲームって、
何なの?
「UNO」?!
と、突っ込みたくなります。
念の為に書きますが、『UNO』ではないはずです。
『UNO』は多分、明治時代にはありません(いや、ないって。2021年で50周年だし)。
もし、その説が真実だとするならば、一体どんなゲームをしていたのか、気になります。
その候補として、ブリスコラ(Briscola)があがってもおかしくはありません。
ちょっと妄想します。
イタリア系移民のアメリカ人が遊んでいるところで、質問をします。
Q:「What is this?(これ、なに?)」
A:「Briscola.(ブリスコラだよ)」
Q:「What is Briscola?(ブリスコラって、なに?)」
ゲームの最中なので、プレイ中の人は、いくつかあるBriscolaの意味からシンプルにこらえるものをチョイスします。
A:「Trump.(切り札だよ)」
Q:「What is Trump?(トランプって、なに?)」
A::(ああもうしつこいなあ、こっちは真剣なのに……と思いつつも、イライラは抑えて)「切り札」のカードを指差します。
Q:ああ、なるほど。このカードゲームのことを「トランプ」と呼ぶんだ、と勘違いします。
とまあ、これだと「何度も質問をして勘違いをした」となりますが。
真実は未だわからないので、諸説あり状態を存分に遊んでおきましょう。
締め
今回も、長々と書いてしまいました。
次回は、連句のターンとなりますが、すこしトリテとも絡めてみたいかなと考えています。
では。
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