見出し画像

ボードゲームのメカニズム「ワーカープレースメント」をアブストラクトゲーム方面から再解釈してみる。

しばらくボードゲームの著作権関係のテーマが続きました。
今回は、おもむきを変えて書いていきます。

『ボードゲームメカニクス大全』

2019年6月に発行された洋書『Building Blocks of Tabletop Game Design: An Encyclopedia of Mechanisms』。
この書籍をTableGames in the Worldの小野さんが翻訳して、2021年6月に発売された日本語版が『ゲームメカニクス大全』。

メカニクスは大雑把に言うと、「遊び方の仕組みから分類したもの」で、それぞれに個別に名称をつけています。
なにか似たようなことに置き換えてみると「動物の分類」あたりです。
動物も、身体構造の仕組みによって分類していますので。

『ゲームメカニクス大全』ではゲームとしていますが、原書のタイトルにあるように、ボードゲームに特化しています。

今回はそのなかの1つ「ワーカープレースメント」を取り上げます。

「ワーカープレースメント」を使ったボードゲームの代表格は『アグリコラ』です。

「ワーカープレースメント」と「アクションドラフト」

「ワーカープレースメント」を知らない人に説明するために、類似するメカニクス「アクションドラフト」をあげます。

「アクションドラフト」は熟語で訳すと「行動選抜」。
「行動」は、プレイヤーがゲーム中に何かをすることです。文字通りといえば文字通り。
「選抜」も文字通りで、複数の中から選んで抜き出すことです。

このメカニクスに沿って、ルールの1例を考えてみます。

3人のプレイヤーX・Y・Zがいます。
行動は全部で4つA・B・C・Dができます。
そのゲームでは、プレイヤーは行動を1つ選んで行動ができます。
ただし、行動をすると、その行動は再度選ぶことができません。
しかし、できる行動がなくなると、4つのすべての行動ができるようになります。

……ピンとこない方もいると思いますので、このルールに従ったプレイの例を書いてみます。

1)プレイヤーX :行動Bを行う :残り行動 A・C・D
2)プレイヤーY :行動Cを行う :残り行動 A・D
3)プレイヤーZ :行動Aを行う :残り行動 D
4)プレイヤーX :行動Dを行う :残り行動 なし→A・B・C・D
5)プレイヤーY :行動Dを行う :残り行動 A・B・C
……

こんな感じです。
今回のルールはほんの1例ですので、3人のプレイヤーが1回づつ行動を選んだあとで、すべての行動が選べるようにする【注】など、たくさんの派生が作れます。

【注】上にあったプレイ例との違いは。」、
3)プレイヤーZ :行動Aを行う :残り行動 D
だったものが、
3)プレイヤーZ :行動Aを行う :残り行動 D→A・B・C・D
となる、ということです。

「アクションドラフト」をふまえてみると、「ワーカープレースメント」は、

行動が書かれた場所(マスなど)に、ワーカーと呼ばれる駒(ピース・トークンなど呼び方は様々)を置いて示すメカニクス。

になります。
大雑把に言えば、それだけのことです。
ただし、ワーカーという要素が加わったことで、

行動×ワーカー(の特徴)

と、バリエーションが多彩になります。
ルールの内部デザインを考える上でも、助けになります。
例えば、ワーカーの代わりにダイス(サイコロ)をつかった派生「ダイスプレースメント」がありますが、ダイスの目によって行動×6種類のバリエーションが考えられます。

しかし、それ以上に視覚的な外部デザイン(ワーカーをゲームのテーマに沿ったものにするなど)に貢献します。


『Katarenga』はワーカープレースメント?!

前置きが長くなってしまいましたが、タイトルに書いた内容に踏み込みます。

以前、noteでこんな記事を書きました

『Katarenga』はアブストラクトゲームです。
このゲームのメカニクスは、『ゲームメカニクス大全』に依れば「ムーブメント(移動)」にあたると思います。

しかし、どうも視点を少し変えると「ワーカープレースメント」ともいえなくないのです。
通常のワーカープレースメントと大きく異なる点は3つ。

1)行動ではなく移動である。
2)すでにゲームボード上にワーカーが置かれている。
3)ワーカーを置くマスには位置情報が追加されている。

しかしこれらは、派生系の一種として見ることもできます。

1)は、移動を行動の中の一種としてみれば問題ない
2)は、最初に手に職を持ったワーカー(通常の場合は、ニートからのスタート)としてみれば問題ない
3)は、ワーカーには(ダイスを使うなど)様々なバリエーションを追加したゲームルールが容認されているのだから、行動をあらわすマスにもバリエーションを追加しているとみれば問題ない

ちなみに、『Katarenga』の作者であるDavid Parlettさんが、このゲームのアイデアの元となったボードゲームとして『Take The Brain』(別名:All The King's Men)をあげています。

『Take The Brain』はParker Brothers社が1970年に発表しています。


「ワーカープレースメント」と「移動」

ちょっと待ってくれよ。
『ゲームメカニクス大全』では、ワーカープレースメントのはしりのゲームは1998年の『Keydom』ではないか、と書かれているのにさらに20年も遡るのかよ、となります。

そりゃうろたえる人がいてもおかしくない。
でも、本書通り『Keydom』でいいと思います。

なにせ、『ゲームメカニクス大全』では、「ワーカープレースメント」と「移動」と大きくメカニクスを区切っています。
ただし、章立ての順序は注目です。
「ワーカープレースメント」はChapter9、「移動」はChapter10と隣り合っています。
2つのメカニクスは近しい関係と見たほうがいいでしょう。
それゆえに、2つのメカニクスの融合は比較的容易なのかも知れません。


「ワーカー」の転職と職務経歴

話をいったん『Katarenga』にもどします。

『Katarenga』の駒……いいかえるとワーカーですが、マスに記されたルールによって4種類(キング・ナイト・ビショップ・ルーク)として働きます。
移動すると、マスによっては転職となります。
そう考えると、通常のチェスの駒は

足にマスを貼ったまま移動している
「定職ワーカー」

ですね。

画像2

左が通常のワーカー(ポーン)を置いた状態
右がマスに合わせたチェスの駒を置いた状態


これを逆転したイメージのアブストラクトゲームがあります

2020年に発表された『Thrive』です。
下の写真は、このゲームで使う駒です。

画像1

5×5の穴があって、中央のペグが駒自身を表していて、その他の穴に刺しているペグは、駒が移動できるマスの位置をあらわしています。
なので、ペグを追加すれば追加するほど、移動できる場所がふえます。
駒の上にさされたこれらペグは駒の…ワーカーの「職務経歴」をあらわしています。

ワーカーが成長するルールのボードゲームを知らないので、ご存じの方はコメントしていただけるとありがたいです。

ワーカーではなくプレイヤーの持つ能力などが蓄積していくメカニクスはおそらく「エンジンビルディング」になるかも知れません。

「エンジンビルディング」を使ったボードゲームの代表格は『ウイングスパン』です。
ただし、『ゲームメカニクス大全』には「エンジンビルディング」は記載されていないようにみえました。
まだまだ未知のメカニクスを掘り起こせそうです。

「ワーカープレースメント」と「すごろく」

またまた話が飛んでいきます。
といっても、「移動」のメカニクスはまだ軸になります。

みんな大好き大嫌いなボードゲームの代表格『Monopoly(モノポリー)』です。

これを「ワーカープレースメント」としてみれるのか、です。
確かに、駒の止まったマスの行動を行うのはらしさがある……といえばある。
しかし、どうにも大きく異なる点があります。

(1)サイコロに依存しなくてはならないので、プレイヤーが自由に移動できない。
(2)それゆえに、プレイヤーが自由に行動を選ぶことができない。

まとめると、「俺任せ無視の運任せ」です。とすると、運任せでなければぶっちゃけ「ワーカープレースメント」として考えてもいい、かも知れません。

うん、暴論

と、言いつつ本当に暴論なのか?とちょっと立ち止まります。
例えば最古ではないが伝統「すごろく」の雄である『バックギャモン』。

このゲームルールを

マスに移動のルールを追加して、
ダイスなどを使用しない運任せを排除

に変革するとどうでしょうか。
「ワーカープレースメント」とは言えないまでも、新機軸のゲームが作れそうですね。

……と、思いましたが類似する既存のボードゲームがあります。
『八十日間世界一周』です。

前進移動はお金(カード)を使用しますが、プレイヤー自身が制限内で自由に決定できます。
後退移動も制限内で自由です。

で、このボードゲームはとあるボードゲームのリメイクでして、オリジナルは『ウサギとハリネズミ』。

作者はDavid Partlettさん。

ごめーん。
以前書いたnoteと似たような終わり方です。


では。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?