山本健人『がんと癌は違います』――エロ小説書き、本を読む#2

 ひょんなことから、ガチガチのR18小説を書き始めてしまったアマチュア小説書き。でもだからこそ、本を読まなくちゃ!
 というわけで、中断していた読書感想記事を再開することにしました。相変わらず無節操な行き当たりばったり読書、よろしければどうかお付き合いのほどを。
 過去の読書感想 →https://zsphere.hatenablog.com/


 小説書き、あるいはもっと広く「物語を作る人」というのは、雑学家であらざるを得ないものです。

 たとえば、私がもし数学者だったなら、数学に関する情報だけを徹底的に集めて考え続けることも、あるいは可能かも知れません。
 けれど、「数学者が主人公の物語」を作る作者であったなら、そうはいきません。主人公たる数学者が日常生活をするなら生活に関する知識が必要ですし、彼が殺人事件に遭遇する話なら警察組織に関する知識も必要ですし、彼が別な人物から料理を振る舞ってもらうなら料理に関する知識も必要になるかも知れません。
 「必要」まではいかなくとも、その分野に関する知識があればあるだけ、作中での描き方により臨場感や説得力が出るかも知れない。作中で登場するありとあらゆる要素について、同じことが言えます。
 極論するなら。作家にとっては、無駄な知識も、無駄な読書も存在しないわけです。いい加減な情報や虚偽の情報ですら無駄ではない。もし作品内に登場させる必要があるなら、トンデモ陰謀論だろうが詐欺商品の宣伝だろうが便所の落書きだろうが、それらしい説得力をもって再現できなければいけないわけですから。

 前置きが長くなりましたが。まぁそういうわけで、こんな感じの軽い新書もまた大いに有用というわけです。将来、医者の登場人物を出すかも知れないからネ!

 本書は、一般に流布している医療周辺の言葉の誤解を解いたり、よく耳にはするけど意味はあやふやになりがちな言葉を医師目線で平易に解説したりしてくれる、実用性も高い一冊。非常に面白く読みました。
 重症と重体の違いくらいは聞いた事ありましたけど、タイトルにもなっている「がん」と「癌」の違いは知らなかったし、「ショック症状」「ショック状態」なども医学的に正確な理解というのは全然してなかったので、「え、そんな状態を指してたの!?」と新鮮な気分で驚いたりしました。あやふやだった言葉の正確な意味を知るというのは、ある意味いちばんストレートな「目から鱗が落ちる」体験かもですね。楽しい。

 この記事を書いている現在、Twitter上では、とあるeスポーツの選手であるゲーマーさんが「身長170㎝以下の男性に人権はない」旨の放言をしたということでスポンサーが外れたりといった騒動が起こった件についていろいろな意見が飛び交っています。これに関して、ゲーム界隈では「それが無いとゲームの最新環境において著しく不利になる要素」を「人権」と呼ぶスラングがある点を考慮すべきだ、といった意見も複数出ています。
 私は上記の件について特に追及する気も擁護する気もありません。ただこういう話を見ていて思うのは……つまり同じ言葉でも、その言葉が使われた場、文脈、文化圏において意味やニュアンスが食い違ったり、だからこそ言葉が全然別な場に持ち込まれた時に意図とは全然違う意味に解されてトラブルになることがあり得るわけですね。
 表面的な見た目は同じ言葉なわけですよ、だからこそタチが悪い問題で。意思疎通の場には常に、こうした「文脈事故」の可能性があり得ます。まして医療の場で、医師と患者の間でこうした行き違いがあったら、場合によっては命に関わるようなことも起こりかねない。
 その辺り、現場の医療関係者の方は苦労されているのだろうな、というのが大変しのばれる読書でありました。

 雑学としても、またいずれ自分自身が医療のお世話になる際にも役立つだろう、非常に有用な、新書らしい良書だと思います。気になった方は是非。

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