IBMの特許分析



US No1の称号を、外国企業へ渡さないということでしょうか?

US以外への出願はそれほどでもないので世界規模のファミリー特許数では、

今回2位のサムスン電子にダブルスコア近く少なめだった記憶もありますが、

IBMのアメリカでの出願は今年もトップでした。

昨年度のアメリカ特許出願

1.International Business Machines Corp 9262

2.Samsung Electronics Co Ltd 6469

3.Canon Inc(キヤノン) 3548

4.Microsoft Technology Licensing LLC 3081

5.Intel Corp 3020

6.LG Electronics Inc 2805

7.Apple Inc 2490

8.Ford Global Technologies LLC 2468

9.Amazon Technologies Inc 2427

10.Huawei Technologies Co Ltd 2418

この結果にたいしてのコメント

出典:IBMのHP

https://www-03.ibm.com/press/jp/ja/pressrelease/55741.wss

IBM、2019年の年間米国特許取得件数で首位に

IBMの発明者は2019年、9,262件という記録的な数の米国特許を取得し、米国企業が取得した年間特許件数としては過去最高記録を樹立しました。これにより、IBMは年間米国特許取得件数において27年連続首位となりました。

引用終わり

ちなみに2019年には、米国特許商標庁によって認可された特許の件数は、33万3530件という最高記録を達成したそうな。

そうなので、登録/出願と分子分母の母集団が異なりますがIBMが概算では2.8%を占めることになります。

ナンバーワンの狙い

ここまでUS1位になるようにするのは広報的な役目もあり、

イノベーション・リーダとしての存在感を果たすために出願しているそうです。


IBMの講演会に行ったときのメモを基に

No1を取り続ける理由を書き示しておきます。


前述のHP上でも

「IBMは2019年、AI、ブロックチェーン、クラウド・コンピューティング、量子コンピューティング、セキュリティーなどの主要な技術領域にわたって米国特許取得件数で業界をリードしました。」

また、防衛側についても検討されています。

事業活動の自由確保

競合他社からの訴訟の脅威及び支払いリスクを回避

防御のためライセンスのない競合他社との関係において不可欠と言っています。

そこでアメリカでの訴訟を確認すると、

目立つところではIT企業をIBMが原告として訴えた14件に対し

Amazon.com, Inc(9:06cv242)

Groupon, Inc. (1:16cv122)

Expedia, Inc.、Hotels.com, LP、Hotwire, Inc.、Orbitz LLC(2:19cv2296)など

逆にIBMが訴えられた方は72件ありました(2020年1月現在IPRなど除く)

あまり名前を聞いたことも無いNPEも多く、

防御のために出願件数No1が効いているかどうかは不明です。

但し、少なくとも総合電機メーカーや日系企業は訴えていないので

大手のオペレーションカンパニーに対する抑止力にはなっているようです。

IP収入

ライセンス及び特許売却からの知財収入

2018年のアニュアルレポートによるとロイヤリティを含む知的財産のライセンス額は

2018年に723M$

2017年に1193M$

2016年に1390M$

と徐々に減少傾向となっています。

ちなみにかかった費用は同じ年度の並び順で行くと

Intellectual property and custom development income (1,026) (1,466) (1,631)

M$となっています。マイナスには違い無いですが、単純なコストセンターでも無さそうです。


政治

政策 世界の知財政策に対しての発言力

標準 世界的な技術動向に対しての影響力

という副次的な意味もあるそうです。



2019年のアメリカ出願件数

IBM以外も簡単にさらうと、

日系企業の出願件数としては

キャノンが3位、以下14位にソニー2142

16位にトヨタ自動車 2034、21位にパナソニック 1387

23位にセイコーエプソン 1345、27位に三菱電機 1244

28位に東芝 1170と続きます。

GAFAは、ダブルAが上述の通り7位にApple Inc 2490、9位にAmazon Technologies Inc 2427となっており、

15位にGoogle LLC 2102、36位にFacebook Inc 989

と続きます。


IBMの知財の変遷

IBMの知財の中興の祖と言える

マーシャル・フェルプスはアジア太平洋本社の東京での設立にも関わるなど

日本との関係も深い方です。

1992年に知財トップについて以来、出願件数はNo1を継続しているので、基本この方の戦略を踏襲していると言えそうです。

ちなみに2000年に定年退職後には、マイクロソフトのコーポレート・バイス・プレジデントとなり、3年後には知的財産担当デピュティ・ジェネラル・カウンセル(法務責任者代行)に就任するなど、IBMの戦略はMSに伝わっていると言えそうなのでいつかMSの知財についても書いてみたいと思います。

さてIBMというと「屋根裏のレンブラントたち:特許の隠れた価値の解放」の共著者ケビン・リベットがいます。 下記出典によるとIBM知財戦略担当バイス・プレジデント(2005~2007年)だったようです。

しかし何と言っても、

デビッド・カッポス元米国特許商標庁長官がクライマックスです。 IBM知財担当バイス・プレジデント兼アシスタント・ジェネラル・カウンセル(2003~2009年)を務め後、USPTOの大物長官でした。現在はクラバス、スウェイン&ムーア法律事務所パートナーになっています。

年に1回は来日して講演して頂いているような感触です。

巨像は踊るで有名なルイス・ガースナー以後、

知財部門がコストセンターからプロフィットセンターとして活動するようになったのは

大きなIBMによる変化だと思います。

なおCEOはジョン·エイカーズが招いた混乱を回復させるために外部から招集された
1993年4月ルイスVガースナーJr.
 弟が上級役員だったディック·ガースナー
2002年4月サミュエルJパルサミーノ
2012年1月バージニアMロメッティ
になります。今の時代に対しての影響が大きく

ガースナーCEOはIBM最初の解雇を行って十万人の人材流動化に手を貸し、アメリカのベンチャービジネスへ舵を切る。大手にいても首を切られるならいっちょビジネスを立ち上げますか?という動きと、シーズを越えたベンチャーへの中堅クラスの社員の供給に役立つ。
IBMの仕事も回らず、オフショアという海外への委託を行う。主な委託先に選ばれたインドにはインフォシスやタタと言った有名なIT請け負い業者が生まれ大きな競合として戻ってくる。
不採算事業としてネットワーク事業をAT&Tに売却してIBMのサービス低下に拍車をかけて競合他社に流れる。ネットワークベンダーに違いが無いという流れでHUAWEIなどの通信規格ベンダーが席巻する。

1994年8月から1995年2月まで世界初のスマホ、サイモン パーソナル コミューニケーターを発売する。
中国のLenovoにパーソナルパソコンを売却して中国の製造業にお墨付きを与える。


LOT

この同盟に入るとNPEに売却してもその特許で同盟会社を訴える事が出来ない連合です。

以前には知財ライセンスが19億ドルもの純利益をあげる売買上手ですから影響が大きい。

ちなみに2010年から2014年の間に57回の取引で合計6,111件の資産を売却しています。

やっとIBMがLOTに入ったので、以後のNPEへの権利譲渡は

加盟企業にとって問題なしになります。

別DBから出願国について簡単に見ていきます。

2010年以降の出願国

US(44308)

CN(5731)

WO(4506)

JP(2948)

GB(2664)

DE(2207)

TW(1337)

KR(968)

EP(954)

CA(553)

IN(388)

BR(158)

SG(148)

IL(120)

AT(104)

MX(104)

RU(80)

ES(61)

PL(48)

DK(41)

SI(40)

PT(39)

FR(19)

CY(16)

CH(2)

同じ2010年以降でサムスンを検索すると

134865件あり、うち韓国(KR)の出願106828件では無い、外国での開発状況を見ると

US(18429)

CN(9421)

WO(4554)

EP(4037)

JP(3399)

IN(2143)

DE(1081)

AU(1008)

TW(846)

BR(455)

CA(429)

RU(309)

GB(254)

VN(174)

MX(146)

ES(96)

SG(65)

TH(60)

PL(32)

AT(30)

となります。母国以外でUSに出願している件数も多く

ちなみにKR⇒USまで含めると87005件となり、同じ時期のIBMの44835件に比べて大きく上回る結果となっています。

サムスン電子以外にケミカル、SDIなどグループ会社が多数あるためサムスンと検索すると追い抜くようです。

今年に入って公開された特許を見ると

(とは言っても1月2日公開の195件を見ているだけですが、)

自動運転

AI(ニューラルネットワーク含み等)

AR

ブロックチェーン

量子コンピュータ

などが目立ちますが、ナノレベルの小ささのナノシートを使った

センサなど従来からの技術を革新する出願も出ています。

AIについては

dority-manningという事務所が調べた2014年以降の資料を見せて頂くと

IBMが3400件あまりを出しており(うち1700件強を内製し、)

2位のマイクロソフト、3位のインテルより1000件は多く出願しています。

US弁護士が141名も所属しているのでこの件数も納得です(2020年1月現在)


以下、グーグル、フェースブック、サムスン、アマゾンと続くのが500件以上の出願件数を誇る企業です。

母集団が5万件超えのUS公開特許なので妥当性はありそうです。

マイクロソフトも900件内製し、シーメンスは300件、

事務所としてはFish&Richardsonが1500件でトップでした。

何より登録率が85%、OA回数が平均1.23回と少ないので

出願すべき領域と言えそうです。

IBMなんて最近聞かないと思っていた私を含め、先進的な取り組みに注視が必要なものなのかもしれません。



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