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実はまだ業界No1じゃない?ラクスルのビジネスモデルと今後について考察します

みなさん、こんにちは林です。

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今回はCMでもおなじみの「ラクスル」を取り上げます。
有名な会社ですので、ベンチャー界隈でこの会社を知らないという人はいないと思います。

もしかしたらビジネスモデルも知っている人も多いかもしれませんね。

しかしながら、同社の競合とか、今後の成長性について語れる人はそこまで多くないと思いますのでこのnoteではその点まで深ぼってみようと思います。

会社概要

印刷、広告、物流といった デジタル化が進んでいない 伝統的な産業に、インター ネットを持ち込み産業構造 を変えることで、より良い 世界を実現する”

をモットーに、印刷業界を対象とする「ラクスル」を展開するラクスル社。

「ラクスル」はぱっと見、オンラインで発注が可能な印刷サービスです。

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が普通の印刷会社と違い、
発注を受けた後に自社の工場でなく、提携しネットワーク化している全国の印刷会社に印刷をお願いし、印刷会社からユーザーの手元に仕上がった印刷物が届きます。

つまりオンライン印刷の受注を獲得する部分に特化した役割を持つ、いわゆる「ファブレス」というモデルですね。

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沿革

2009/9:会社設立
2010/4:印刷通販の価格比較サービスサイト『印刷比較.com』の運営を開始
2010/9:『印刷比較.com』を『ラクスル』に名前変更
2013/3:印刷のシェアリングプラットフォーム『ラクスル』を開始
2015/12:物流のシェアリングプラットフォーム『ハコベル』を開始
2018/5:東京証券取引所マザーズに上場
2020/4:広告のプラットフォーム『ノバセル』を開始
https://corp.raksul.com/about/history/

上場までに80億円近くを調達した実績があります。
ノバセルは2020/4に開始とありますが、実態としては2015年ごろからラクスルの付加価値(オプション)として提供していたようなので、正確にいうと2020年に「独立させた」という感じでしょうか。

とすると、ハコベルもノバセルも2015年から開始していることになりますので、意外ともう展開開始してから時間が経っています。

市場からの評価

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2018年の上場以降、上下はしつつも、2021年8月現在で約1500億。
特に2020年後半からの伸びが堅調です。

創業者と起業の背景

▽創業者プロフィール

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松本恭攝(まつもと・やすかね)氏
ラクスル社長CEO(最高経営責任者)1984年生まれ。
慶応義塾大学商学部卒業後、2008年にA.T.カーニー入社。09年9月にラクスル創業。

松本社長のプロフィールに関しては日経BP社の取材記事に詳しく書かれていました。

もともと学生時代にビジネスプランコンテストを主催しちゃうほど学生時代からビジネスマインドの高いタイプだったようです。

”大学時代に経験した中で1つ大きかったのは、(国際ビジネスコンテストを運営する)学生団体「OVAL」を立ち上げたことです。日本・韓国・中国を巻き込んだ大規模なイベントを成功させたことが、「ゼロイチ」(ゼロからイチを生む)の経験になりました。”

とはいえ、最初は起業というものに対して消極的だったようです。

”当時は「ライブドア事件」もあり、スタートアップに対していいイメージがありませんでしたね。私自身も起業は選択肢にすらなかった。”

しかし、コンサル会社であるATカーニーに新卒で就職後すぐに訪れたリーマンショックで、売上を拡大するのでなく、コストを削って利益を出す提案が増える中で、印刷業界の非効率さに気づきラクスルを起業するに至ったようです。

・最初は印刷屋さんの比較サイトとして産声をあげる

元々起業時に「印刷業界でビジネスを展開する」ということは決まっていたものの、ビジネスモデルが先に決まってたわけでなく

・印刷屋さんの比較サイト
・印刷屋さんが使うシステムの提供
・印刷屋さんをネットワーク化させたプラットフォームビジネス(←これが今のラクスル)

3つのモデルを並行して進めていたが、もともと資金が潤沢だったわけでもなく、一番最初にお金になった比較サイトから始めました。
そして順調に事業を拡大していき、資金調達を実施。
もともとやりたかったプラットフォームビジネスを展開するに至ります。

参考:同社リクルートサイト


ラクスルの売上・利益

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同社決算説明資料より

売上210億。売上成長率は2019→2020で25%。
まだまだ堅調な伸びです。
一方営業利益に関しては、まだほぼなかったり、少しマイナスな状況です。

▼事業別に見た四半期単位の売上の推移

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ノバセルは3Qが1月ー3月と企業の予算消化時期と重なり、CMニーズがあがることから直近好調だったのかなと推測します。ハコベルはまだまだ全体に占める割合は大きくありません。

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ラクスルはセグメント別でみると15億弱の利益があります。(2020年7月期。)2021年7月期は3四半期で16億のセグメント利益。

ラクスルのビジネスモデル

「ラクスル」のビジネスモデルは結局何が画期的だったかというと、従来印刷会社が「販売」と「製造」の機能をセットで持つことが当たり前だったのを、「販売」部分に特化したサービスをつくりあげたことです。

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同社はコーポレートサイト内で下記のように、彼らがどのようなビジネス領域を展開するかを説明しています。

ラクスルがビジネスを手がける印刷業界や物流業界には大きく2つの特徴が存在しています。
ひとつは、企業が装置(印刷機、トラック)を購入し、営業がそのキャパシティを販売するという「製販一体」であること。そして大企業が外注を多用し、大企業を頂点としたピラミッド型の「多重下請け構造」であることです。その結果、大企業の維持費や付加価値の低い中間業者の存在により取引コスト(払い手と受け手の差額)が高くなっています。
私たちは、現在の大企業を中心とした産業構造から、シェアリングプラットフォームを中心に据え換えることにより、お金を払う企業と製品やサービスを提供する企業を直接プラットフォームを通じて結びつけ、取引コストが低いより効率的な産業構造にアップデートできると信じています。
シェアリングプラットフォームをBtoB領域で作ることで、日本の産業の生産性向上に寄与していきます。

▽その他特徴

1.印刷だけでなく、デザインや印刷物の配布などその前後フローも含めて一気通貫にサービス提供しています。

2.社内に製造機能を持たない分マーケティングとユーザーサポートに強みを持ちます。このマーケティング機能がもととなり発展したのが「ノバセル」ですね。

今後ラクスルはどのように成長するだろうか?

売上200億を超え、会社としても各種メディアに登場することで益々プレゼンスを増しているラクスルですが、オンライン印刷ラクスル、そして会社全体としてはどのように今後成長を目指すのでしょうか。

勝手ながら同社の今後について考える上で重要そうな

「オンライン印刷ラクスルはどこまで伸びるか」

について考察してみます。

ノバセル、ハコベルの今後については本noteでは割愛します。

実はラクスルは業界No1ではない!?上場当時はNo1と売上4倍近い差があった

同社の1の部をみると、どうやら日本のオンライン印刷市場は920億とのことです。2018年の資料です。

上場当時発表されていた、ラクスル社の売上76億に対して、実は先行する競合他社の売上ははるかに多かったです。
1位のプリントパックが276億と3-4倍の差がついていました。

しかしながら上場から数年が経ち、ラクスルと先行する競合の差はかなり僅差というところまで縮んでいます。

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※ラクスル社の決算報告資料、プリントパック社、グラフィック社に関してはHP会社概要に記載の数値を利用。

ラクスルすごいなー、という話なのですが、こうしてみると上位3社の売上を足すと約800億なので、市場シェアの9割を上位3社が占める超寡占状態です。

市場自体が成長しているが・・・

同社の決算書の中に日本のオンライン印刷市場についてすごくきれいに図解されています。

曰く、日本のオンライン印刷市場は、印刷市場全体の3兆円に対して3%程度にすぎず、ドイツの30%と比べて大きくオンライン化に遅れている状況である。とのことです。

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そしてオンライン印刷市場は成長を続けていて、
2015年頃から平均で10%の年成長をしている。
つまり年に100億ほど市場規模が伸びているわけです。

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ラクスル社の現在の市場シェアは 210/1000 で約20%なのでシェアが変化しないとしたら年に売上が約20億ずつ伸びるわけです。(正確には複利なのでもっとでしょうが。)

年に売上が20億伸びる、というのは規模の小さなベンチャー企業から見るともちろんすごいことです。

しかし、ラクスル社の成長を支えるに十分かというと、
同社の売上成長が2019→2020年で+25%、+40億であることを考えると そうとはいえません。

そのように考えると、
「ラクスル」でTOP2社のシェアをさらに獲得する必要があります。

とはいえ、すでにNo1のプリントパックとの差も120億。
ここ数年の成長が続くとあと3-5年以内に追い越すかな、というペースです。

そのように考えるとその間に「ノバセル」「ハコベル」が同社の売上成長を支える規模に成長してほしいな(させなきゃ)、というのが正直なところかなと。

非常に優秀な経営陣を擁するラクスル社ですからもちろんそんなことは百も承知、ということでしょうからそれが実現しうる努力をしているのだろうと思います。


いかがでしたか?

僕は個人的に上場当時そこまでプリントパックと大きな売上差があったんだな、というのが驚きでした。

最近では「市場規模○兆円です」と風呂敷を大きく広げるのが当たり前な中で同社の市場規模の示し方は非常に全うで、好感が持てました。
(※これ以上広げようもない、という状況だったのかもしれませんが)

既存事業をさらに伸ばして業界TOPを目指しつつ、同時にその他事業を年売上3桁億水準まで成長させる、という非常にエキサイティングなシチュエーションが続くと思うと今後の同社の動きには注目ですね。


それでは今回はこのへんで失礼します。
また次回お会いしましょう!

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