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DINKsは増えていない

DINKsという言葉を聞いたことがあるだろうか?

Double Income No Kidsの頭文字をとったもので、選択的に子どもを持たない夫婦を指す。

DINKsは、一般的には「増えている」とされている。

これらの記事で一貫して主張されるのは、「価値観が多様化し、子どもをもたない夫婦が増えた」である。

なるほどたしかに、最近は子どもを持たないことを選択している夫婦が、自分のまわりでも増えているように思う。

自由で身軽に、二人で稼いだお金を二人のためだけに使うライフスタイル。令和らしい生き方に思える。

私も政府統計のe-statを開き、国勢調査から「夫婦のみ世帯」の世帯数を調べてみた。 するとこのようになった。

世帯数の推移(2000-2021)

ものすごい勢いで夫婦のみ世帯、つまりDINKsの世帯数が伸びていることがわかる。
子どもを持つことを選択した世帯数と比較すると、その差は一目瞭然だ。時代は変わった・・・

ように思えるが、実はこれは大きな間違いだ。

結論からいおう。
DINKs、つまり「選択的に子どもをもたない夫婦」は一貫して増えていない。むしろ微減である。冒頭で紹介した記事で、さんざん言われていた 「DINKsは増えている」は、嘘だということがわかった。

どういうことか。
ポイントは、高齢者世帯のもはや「異常」ともいえる激的な増加である。

e-statの情報から、高齢者世帯の世帯数をプロットすると、次のようになる。

高齢者世帯における世帯数の推移(2000-2021)

全方位で、とてつもない勢いで世帯数が伸びていることがわかる。総数を見ると、10年で倍以上伸びているのだ。

何が言いたいか。
「全体」の世帯数を追うだけでは、現役世代のトレンドはとらえることができないということだ。このアホみたいに伸びている高齢者世帯を差し引かなければ、明らかにミスリードを招いてしまう。

そして、「DINKsが増えている」はまさしくこの典型であった。

改めて、DINKsとはどのような人たちかというと、「選択的に子どもをもたない夫婦」である。つまり「現役世代の夫婦のみ世帯」がそれにあたる。

高齢者世帯の「子どもをもたない夫婦」がDINKsかと問われれば、そうではないはずだ。子育てを終えてのんびりと過ごしている老夫婦をDINKsとは呼ばないはずだ。

「夫婦のみ世帯」で、全体の世帯数から高齢者世帯の世帯数を引くことで、DINKsの正しい数値を導くことができる。するとこうなる。

夫婦のみ世帯における世帯数の推移(2000-2021)

どうだろう。
緑がDINKs、つまり現役世代の「子どもがいない夫婦」に当たるが、まったく伸びていないことがわかる。それどころか微減だ。

さらには、青とオレンジを見てほしい。
ほぼ同じ傾きをもつこれらのプロットが何を示しているかというと、「夫婦のみ世帯」における世帯数の伸びは、高齢者世帯の伸びによって100%説明されるということだ。

いやまて。結論を出すのは早い。割合はどうだろう。
つまり、結婚しているすべての現役世代に対し、子どもをもたない夫婦が増えているのではないか。計算するとこのようになる。

現役世代における核家族世帯数に対する「夫婦のみ世帯」の割合(2000-2021)

増えていない。

結論を出そう。
DINKs、つまり選択的に子どもを持たない夫婦は増えていない。絶対数も増えていないし、割合も増えていない。子どもが巣立ち、老夫婦のみになった家庭もDINKsにふくめるというなら、そりゃもうめちゃくちゃ増えているが・・・

メディアは、自分たちの主張に都合のよい統計データを「ファクト」として扱う。
「統計」 という言葉をネットで目にしたら、「こいつは嘘つきだから自分で調べるぞ」 と思わなければいけない。ソースに当たり、表計算ソフトを使って意図する情報を自分の手で導かなければいけない。そういったリテラシーがなければ、誤った情報に一喜一憂してしまう。これほど無駄な時間はない。

繰り返す。DINKsは、増えていない。
私のまわりでも 「最近は子どもをもたない夫婦が増えているから」 と言って、 出産と子育てを早々と切り捨ててしまう人が何人かいる。もちろん、どんな選択をしようが個人の自由なのだが、その選択の背景に 「みんなそうだから」があるとするなら、それは残念ながら、色々と間違っている・・・

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