見出し画像

信頼が全て!売り込まずに売れる高確率セールス

それは、16年前の秋のことだった。空は高く、木々は色づき始めていた。その光景を覚えているのは、神田昌典氏監修の『売りこまなくても売れる!説得いらずの高確率セールス』という本を読んだからだ。セールスに関する本なのに、ページをめくる手は忘れかけていた夢を思い出すように、止まらなかった。そしてふと、恍惚感に似たひらめきを得て、天を仰いだのだ。だから、季節が秋口であることを今でも覚えている。

その本は、ただの営業指南書ではなかった。時を超え、セールスに革命を起こす魔法の書だった。神田氏は言う「この本は、生涯の宝物だ。収入を増やしたければ、七回は読むべきだ」と。

書かれているのは、高確率セールスの秘密。「待つ」商売ではなく、お客さんを引き寄せる術だった。飲食店がその良い例だ。「待つ」だけでは、100年続かない。何かしら、仕掛けが必要だ。そのひとつが、セールスであることはいうまでもない。一度訪れたお客さんにもう一度、来てもらうために、その概念は欠かせない。

書籍では、20秒で自己紹介、商品やサービスの説明、そして同意を求めろという。なぜなら、その短さが、相手の心を開く鍵だからだ。長々と話されるよりも、短く、そしてポイントを押さえた話の方が、人は耳を傾けやすい。この技術は、テクニックを超える。相手の時間を尊重し、彼らが本当に必要としている情報を、最も効率的な方法で届けるという哲学だ。

この20秒という限られた時間の中で、僕たちは何を伝えるべきか。まず、誰であるか。そして、何を提供しているのか。最後に、その提案が相手にとってどのような価値をもたらすのか。この3つの質問に答える。それが、相手の心を捉え、信頼関係を築き上げる第一歩となる。

ただし、信頼と尊敬に値しない顧客は早期に「付き合わない」と決める。話が進んでも「いつでもノーと言って構わない」という姿勢を貫く。これはとても勇気のいる行動だ。話が進んでいて商談は成立しそうなところで、相手にノーと言われたら、それまでにかけた時間も労力もすべて無駄になる。それよりも信頼と尊敬が大事なのだ。

だから、商談がまとまりかけた時にも、顧客に尋ねる。「ほんとうによろしいのですか?」あるいは「そう思われる理由は?」と。そうすることで、顧客は自分自身が商品を買う理由を再確認し、納得する。信頼関係が出来上がっていればますます強固なものになる。顧客と、売り手の立ち位置は平等だ。買い手がえらいわけでも、売り手が偉いわけでもない。対等だ。顧客にも、敬意をもってもらわなければいけないのである。

このプロセスを突き詰めていくと、相手に尊敬の念を抱かせる。なぜなら、彼らの時間を大切にし、彼らが真に求めているものに焦点を当てているからだ。僕たちは、相手を尊重し、彼らのニーズに対して真摯に応えようとする。それが、「信頼関係」と「尊敬」、そして高確率セールスを成立させる根底にあるものだ。

高確率セールスでは脈のない顧客とダラダラ付き合わないことの重要性を伝えている。すぐにその場から立ち去れ、という。一見、冷たく見えるかもしれない。だがたしかに、言われてみればそうだ。もっと必要としてくれている顧客にこそ、時間を割くべきだ。本当に相手を思いやる心、相手の期待を超えるために何をすべきか。ある意味、哲学的なセールスだ。表向きのやさしさや、曖昧さではない。社交辞令でもない。信頼と尊敬。これらがなければ、真のセールスは成立しない。

そのために顧客と小さなコミットメントを得ること。これが極めて重要だ。商談を取り付ける。5分間、話す時間をもらう。Yesを引き出す。ちょっとした気遣いをみせる。こうした小さなコミットメントの積み重ねが、単なる口約束を超えた、関係性の深化を意味する。

コミットメントを取り交わすときは、できるだけ具体的でポジティブな方が良い。商談が終わったら、すぐにメールをして、お礼を伝える。商談の中で相手が気になっていた情報があれば、送ってあげる。それがどれほど小さなことであっても、コミットメントを重ねることで、相手との間に強固な絆が築かれる。

しかし、頭ではわかっていても、なかなかうまくいかないのが人生というものだ。顧客の心をつかもうと思えば、普通ではいけない。意外性が必要だ。セールスの場面で意外な行動を取ることで、相手の注意を引き、記憶に残る。顧客との商談30分後に、顧客の課題を解決するレポートを書いて、受付の人に渡す。手書きでバースデーカードを書いて送付する。そういえば、僕がレストランで働いていた時、ソムリエの格好をしながらギターでハッピーバースデーを弾いた。こうしたサプライズは、相手に新鮮な驚きを与え、顧客の枠組みを打ち破る。意外な提案や行動は、相手の心を動かし、その後の関係構築に大きな影響を与えるのだ。

これらは、もはやセールステクニックではない。相手と深い関係を築くための、微妙で複雑なダンスのようなもの。沢山の事例を学び、抽象化して、さらに自分のケースに置き換えて工夫する必要がある。セールスとは、相手を幸せにし、その報酬として対価が返ってくるものだ。この本を読んで、僕はセールスに対する考え方が根本から変わった。

つまるところ、信頼関係さえ築ければ、売り込まなくても売れる。そういう状況を創り出すことに全力を注ぐべきだ、と思った。