”地域 × eスポーツを科学する” file04:石川県 Beta Computing株式会社代表 吉村真幸さん
こんにちは。ZORGE note編集部です。
”地域 × eスポーツを科学する”
今回は、「ゲームアプリ開発者」のお話から「地域×eスポーツ」を科学していきます。取材をさせていただいたのは、石川県にありますBeta Computing株式会社の代表取締役である吉村真幸さんです。
Beta Computing株式会社は、スマートフォンのアプリに特化したソフトウェア開発の会社で、業務向けからコンシューマー向けまで様々なアプリを開発されています。
吉村さんが手がけたゲームアプリ、その名も「競技かるたONLINE」。
※競技かるたONLINE公式HP(https://karuta.betacomputing.co.jp/)
広瀬すずさんが主演で映画化された漫画「ちはやふる」とのコラボも実現するなど競技かるたの業界内では知らない人がいないほどです。
地方にある会社でありながらもゲームを通じて日本中にサービスを展開するBeta Computing株式会社。どのように発展していったのかをお聞きし、「ゲーム業界で活躍する地方企業の在り方」について探っていきたいと思います。
吉村真幸さんのプロフィール
1986年生まれの34歳。石川県出身。元吉本興業所属のお笑い芸人という異色の経歴の持ち主。ゲームアプリ開発の知見を広げるために、格闘ゲームやRPG、FPSなど様々なジャンルをプレイしているそう。最近はスプラトゥーン2にハマっていて、ウデマエXに到達。
世の中にはゲームが溢れている。ニッチを攻めよう。
---ゲームアプリを開発した経緯を教えてください。
ゲームアプリを開発した背景としては、まずアプリ開発会社として営業するために、自社製品を作る必要があると思ったんです。どれだけ自分たちの技術を口頭で伝えていても「実際どうなの?」という部分が示せないので。
そこで、せっかく作るならダウンロードされるコンテンツを作りたいと思い、一般ユーザーにふれてもらえるもので且つ、高い技術力が必要な「ゲームアプリ」を制作することにしました。
何のゲームにするかを考えていた時に、世の中にはゲームが溢れていて大手に対抗する訳にもいかなかったので、ニッチな分野を攻めることにしました。
「競技かるた」にした理由は、技術者が競技かるたを題材とした漫画「ちはやふる」が好きだったという単純なことがきっかけでもあります。調べてみると、競技かるたのアプリはなく、もしアプリを制作したら広まってくれるんじゃないかと思って2018年に開発企画をスタートさせました。
ただ、私たち自身が競技かるたについては素人だったので、ネットや漫画から得た知識を元に、アプリの開発を進めました。
ある程度アプリが完成した段階で津幡町のかるた教室を訪ね、教室の先生に試しにプレイしていただいたのですが、「競技かるたとは別物になっている」と厳しいお言葉をいただきました。
例えば、読み上げの発音や札のフォントが違うだけで、競技者にとっては全く別のものに感じ、普段のように札を取れないようになっ
てしまうとか。競技者にしかわからない専門的な気づきをフィードバックしていただきました。
全日本かるた協会公認の百人一首取札(大石天狗堂製)やA級公認読手による読み上げを採用しているのは、そういった観点からです。
自分達が競技者になる必要性を感じ、そこからかるた教室に1年間通いました。
マイナースポーツの課題「新規参入者の獲得」を解消
---現在(2021年5月時点)のダウンロード数はどれくらいですか?
全日本かるた協会のご厚意で、大会の会場で「競技かるたONLINE」の宣伝をさせてもらったり、「ちはやふる」とのコラボがあった影響も大きく、今では16万ダウンロードまで伸びています。
競技かるたの業界について知るにつれて分かってきたことがありまして、それは参入ハードルが高いことから初心者が増えにくいという問題でした。
競技かるたは、読み手や対戦相手が必要なので自分一人では始められませんし、近所にかるた教室がない限り、気軽に始めるなんてことはまず難しいですよね。
日本の伝統として長く続いている「競技かるた」を将来へ残すためにも、これらは大きな課題です。
私たちはこの課題を解決するために、「競技かるたONLINE」は実際の競技を限りなく100%に近い再現性が必要だと思い、開発を進めていきました。
今ではおかげさまで、競技かるたをやっている人では知らない人がいないほど認知を高めることができました。
オンラインの強みを活かし世界大会を開催!
---コロナによる変化はありましたか?
学校関連から、文化祭で大会を開きたいなどといった要望を受けることが多くなりました。もちろん快諾させていただき、サポートもさせていただいています。
その他にも、世界各国にはかるたの普及活動をしている方々が現地におりまして、その方たちのご協力もあり、「おおつ光ルくん杯」という大会で「競技かるたONLINE」による世界大会が先日開催されたんです。
参加チーム一覧(国/チーム名)
1.ブラジル(Magriai)
2.カナダ(もみじの会)
3.中国(あまのふね)
4.インドネシア(OKAKURA Indonesia)
5. イタリア・スウェーデン(AKI)
6. メキシコ(Mexico)
7. モンゴル(Team Mongolia)
8.フィリピン(Karuta Pilipinas)
9. 韓国(韓国かるた会)
10.ロシア(カRUタ)
11. シンガポール(Singapore Okinoishi Karuta Club)
12.タイ(クルンテープかるた会)
13.チャイニーズ タイペイ(かるたいわん)
14.アメリカ(割れても我々は割れないUSA)
15. 日本(結びつくかるた会)
16. 日本(大津あきのた会)
大変多くの国からの参加に、率直に驚きました。全員が真剣に取り組み、勝ちにこだわる姿勢に国境は関係なく、勝っても負けても称え合う姿に感動させていただきました。
「競技かるたONLINE」が世界の懸け橋となって、皆様のお役に立てていることに誇りを感じると同時にさらに精進する必要があると改めて身の引き締まる思いとなりました。
また、開会式の選手挨拶で、海外選手が日本語で「よろしくお願いします」と言っていたことが印象的でした。競技かるたで教える礼儀の学びを見て取れ、競技かるたの素晴らしさを改めて実感しました。
”地域 × eスポーツを科学する” file04:石川県 Beta Computing株式会社代表 吉村真幸さん
僕たちも含めeスポーツという文脈で話をする人っていうのは「ゲームを使って何をするか」という視点での活動が多いですが、地方でもある石川県に拠点を構えてゲームを作っている吉村さんのお話は新鮮で面白かったです。
僕ら自身も「競技かるた ONLINE」を使って、社内交流イベントや一般の方たち向けのイベントをこれまで何度か開催させていただきましたけれども、「eスポーツ」と聞くとハードルを感じるような世代の方たちも「かるたはやってた」ということで大会を楽しんでいただくことができたゲームでもありました。
やっぱり最近は、「eスポーツ(ゲーム)=対戦する」という見られ方が増えていることから、この「競技かるた ONLINE」にも観戦モードが実装されていたり、実際に海外では今回お話にあったような国際試合としてアプリが使われていたりと、新型コロナウイルスによってリアルに集まって競技かるたができないという状況下にあるなかで、競技かるた界隈におけるアプリケーションとしての役割やポジションを確立されていることにゲームの可能性を感じました。
今はゲームを活用して地域課題を解決するという動きが全国で広がっている訳ではありますが、今回「ゲームを作る」という視点でお話を伺った中で、ゲームアプリで「このマイナースポーツの新規参入者をどうやって獲得していくか」という一歩踏み込んだところでの課題解決であったり、僕らとは違った視点での課題に対して、大変刺激を受けました。
僕たちは普段、イベントでゲームを使わせていただいている立場ではありますけれども、それぞれにゲームの制作者たちの想いや目的があると思うので、今後はそういった部分を少しでも汲み取った形で、地域で開催するイベントを取り組んでいけたらと思います。
吉村さん、ありがとうございました。
//関連リンク
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・Twitter - 競技かるた ONLINE公式
(ZORGE note 編集部 http://zorge.jp/)