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学べる小説「見て見ぬフリをする大人たち」


プシュッ。
ビール缶を開ける音は気持ちがいい。
キンキンに冷えたビールを子供が寝静まった後に一杯。
ゴクッゴクッ。
「あー。しみる。うまっ。」
仕事でへとへとに疲れた身体にお酒が行き渡るのを実感しながら机の上に用意されたおつまみを片手に酒を飲み干し、ため息を一息つき薄暗い寝室に入り浅い眠りについた。


今年27歳になる男。
彼はこの生活を5年続けていた。


『あー今日も仕事か・・・』
『なんかいいことないかな』


こんなことを考える毎日。
いつからだろうか。この生活に慣れたのは。。。
昔はあんなにイキイキしていたのに。。。


ピッピッピッピッピ!!!
朝6時になるアラーム。
布団から出ずに右手を伸ばしアラームを止める。
もうこんな時間か。
あと5分。
起きてから急げばあと5分寝れる。
「ヘイ Siri、5分後に起こして。」
「アラームを6時5分にセットしました。」

浅い眠りに再びついた・・・





男は学生時代、本気でプロサッカー選手を夢を見ていたサッカー少年だった。

上手くなるために毎日朝早くから5キロランニングをし、筋トレを欠かすことなく、好きなサッカーに没頭した。

試合に出れば活躍を繰り返し、チームの中でも中心的存在にまで成長した。

よし。このまま試合に出続けて活躍すればプロになれるぞ。俺は絶対にプロになる。

この思いで学生時代を走り抜けようと考えていた。

しかし現実は厳しかった。
シーズン途中で怪我をしてしまい、大事なラスト一年をリハビリ生活で終わり、プロになることを諦めた。

彼は絶望感に駆られた。
なんでこのタイミングで俺なんだよ。
俺本当ならプロになれた。こんなところで怪我してなければ。


そんなことを思いながらシーズン終わりを迎えた。

時間は過ぎる一方。
現実を受け入れることができないまま、彼は現実と戦い続けた。就職活動。

サッカーしかしてこなかった彼に就職活動という言葉は存在していなかった。しかし、怪我をしたことで頭にあるのは就職をどうするかということだけ。


『俺別にサッカー以外やりたいことないんだよな。』
そんなことを考えながらパソコンの企業説明会の案内を見ていた。

その瞬間、彼はびっくりするかのようにパソコンに釘付けになった。

画面には新卒募集。
月給25万円!!!

今まで見ていたところは多くても23万円。それが2万円も高い25万円。

えっこの会社給料めちゃめちゃいいじゃん!
よしこの会社の話を聞いてみよう。

彼はこの会社の説明会に向かった。
『仕事はどうせしんどいんだし、やりたいこともねーし、残業もそんなにないって言ってたし、とりあえず給料良ければいいだろ!!』

説明会が終わってから彼はこの会社の面接を申し込んだ。

結果は合格。

就職活動を12月に終えた彼。

1月〜3月までサッカーもなければ、授業もない。
彼はバイトを始め、バイト代を遊びに使いこんだ。居酒屋で友達と騒ぎ、クラブでどんちゃん騒ぎをする毎日。

そうして月日が経ち、
そして彼は4月を迎えた。
ネクタイを締め、親に卒業祝いで買ってもらった新品の時計を巻き、家を出た。

「初めまして!今日からよろしくお願いします!」
勢いは大事だ。第一印象で上司に気に入られるために彼は猛烈にアピールし、仕事をこなしていった。1年目から休みなしで働き続けた結果、上司に気に入られることに成功。

さらに大学時代から付き合っていた彼女と結婚。最高のスタートダッシュを切った。


『よし!これで気楽に仕事できるぜ!多少サボっても許してもらえるだろうし、最低限の仕事すればあとはサボって楽して給料貰えば最高だな。』
男は上司のオキニになった。それから1年・・・


「明日までにこれは絶対にやっておいてくれ。お前ならできるよな?」
「まだできてないの?早く終わらせないと間に合わないぞ」
「最初の勢いはどうした?慣れてきて適当にやってんじゃねーの?」

男は作戦は完全に裏目に出た。
できる人間だと思いこませてきたが故に、サボると目立つ。
彼は腹が立った。
『たかが10年早く生まれてだけで偉そうに。。。』
『別にこんな仕事やりたくてやってるわけじゃねんだよ。金がいいからやってんだよ。』

1日8時間労働。
残業もある。
上司の機嫌取りや職場の空気に合わせるのが当たり前。


『したくないことをするのが社会人じゃ当たり前だからな。甘えるな。』
これが世間一般の声だ。


そこから4年がたった現在。
彼は仕事をこなすだけになった。自分のできる最低限の仕事しかせず、なるべくサボってお金もらえることを考えた。残業がある日には苛立ちが込み上げてくる。
「あーめんどくせ」
家に帰ると疲れて何もする気にならない。
『あー早くYouTube見ながら横になって寝よう。』
男は自分の中で気づいていた。
『こんな生活望んでなかったのに。けどもう挑戦する元気もない。この生活ができるだけ幸せと思おう。』

彼はビールを片手に
プシュッ。
ビール缶を開け、
キンキンに冷えたビールを子供が寝静まった後に一杯。
ゴクッゴクッ。
「あー。しみる。うまっ。」
仕事でへとへとに疲れた身体にお酒が行き渡るのを実感しながら、机の上に用意されたおつまみを片手に酒を飲み干し、ため息を一息つき薄暗い寝室に入り浅い眠りについた。

これを世間一般で『安定した生活』と呼ぶ。
『あーなんかいいことないかな?』
『好きなこと毎日できたらな。』
『毎日子供と遊べれたらな、奥さん、彼女とデートに行けたら。。。』
この思考が当たり前で安定した生活という。


みんな言う。それができたらみんな苦労してないよ。
『したくないことをするのが社会人じゃ当たり前だからな。甘えるな。』


果たしてこれは本当に当たり前なのか?
苦労はする。しかしその苦労の目的を間違えてないか?
したいことをするための苦労。
生きるためだけの苦労。
苦労の仕方を間違えるな。
背を向けたい内容だろう。否定したい気持ちでいっぱいだろう。
なぜなら、それは自分が諦めてしまった理想なのだから。

安定という言葉を良いように使うな。
本当の生きる価値は自分自身が決める。

さぁみんな考えろ。







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