Saas企業のCTOが考える生産性の話(前提編)

はじめに

Saasビジネスの基本と生産性の重要性について点で見るのではなく、Saasモデルが持つサービス性質、顧客のニーズをどのように捉え、生産として何を意識する必要があるのか。
また、それが事業とどういうふうに紐づくのかを考えて行ってみたいと思います。

Saasとサブスクリプション

Software as a Service

受託などの形態でソフトウェアを納品するのではなく、自社運用を前提としてアプリケーションレベルでのサービスを主体とした提供形態です。

2010年代にクラウドサービスという言葉もありましたが、ほぼ同義となります。
歴史的には、受託納品型から自社提供型のスイッチが進み、その段階でSaasという形態が一般認知され始めたました。

Saasとほぼ同質的に扱われている用語として、サブスクリプションというマネタイズ手法が存在します。

Saasとサブスクリプションという言葉に対する理解は以下です。

Saasとサブスクリプションに関しては記載した通りの内容となりますが、なぜこれが同質に扱われるのかを考えてみたいと思います。

同質的に扱われる理由
それは、ズバリ!タッチポイントとキャッシュポイントの相性の良さにあります。

一定の期間で一定の課金が発生する状態を保つためには、継続的なタッチポイントが重要となります。

そういう状態を作りやすいのは、toBビジネスです。
「申請をする、コミュニケーションを取る、ドキュメントを作る」などの定常的な業務をソフトウェアを活用したサービスとして実現することで、タッチポイントを日次・週次・月次発生させることができます。
極端な例だと、労務系のサービスでは「源泉徴収票の作成をする」という年一回の作業にも関わらず月次×年間のサブスクライブが発生しているケースもあり、タッチポイントとそのタッチポイントで実現することが強烈なニーズであればあるほどキャッシュポイントの維持ができることが証明されています。

この為、Saas領域のビジネスはtoBが圧倒的なマーケットを誇り、サブスクリプションでのビジネスが現代の主流となっているのです。

まとめると、Saasによりタッチポイントを高め、バーニングニーズに価値を提供しながら顧客が離れられない状態を維持し、定点でのキャッシュポイントを作る。
これがSaas × サブスクリプションでもビジネス構造です。

事業構造

ここからは、具体的な事業構造について考えたいと思います。
今では主流となっているKPIである、LTVの話とLTVに対する顧客の期待値の話を主体としながら整理します。

主となる事業KPI

Saas × サブスクリプションでの事業形態を取る場合は、定着を軸としながら顧客が離れられない引力となる機能を提供しながら顧客維持と課金維持の両立を図ることが求められます。

LTV

顧客単価 × 購入頻度 × 購入期間 = LTV(!Churn Rate)

LTVはそんなに難しい概念ではなく、数式で捉えても非常にシンプルだということがわかります。
これをもっとシンプルに言葉として表現するなら、「LTV = いくら払うのか?どれくらい使い続けるのか?」ということでしょうか。

では、このLTVを高めていく上で顧客に対するアプローチ面を整理してみましょう。
ここもポイントは非常にシンプルです。
使い始めてくれるか?」
「使い続けてくれるか?」

以下にポイントを整理します。

使い始めてくれるか?
セールス、マーケティングを主体とした興味・関心を顧客ニーズごとに捉える。
同時に、顧客価値となりうるプロダクトの価値を顧客に響く状態でアプローチを行い、初回タッチまでを誘発する。
(CVR、セグメントへのリーチ、簡易プロダクトへのタッチ)

使い続けてくれるか?
プロダクトが本来持つ機能的な価値やその機能を高めるためのCXを行う。
バーニングニーズに苦刺し、コスト観点や相対的な価値向上が可能だという認知を与え、利用継続する状態まで顧客ジャーニーを向上する。
(機能利用率、ログイン率、主体機能のNSM)

※バーニングニーズ(重要な観点なので記載)
バーニングニーズとは、既に代替え手段を持ち得ている状態のニーズ。
代替え持ち得ている状態であればそこに「コストが発生している状態」だとも言えるので、既に課題と価値は顕在化している。
代替え持ち得ている状態 = アナログ作業、競合プロダクト、etc

LTVを高めるために、あらゆるリソースを投下しながら使いはじめる状態を作り使い続けられるプロダクトを提供するということがSaas事業にとって大きな目的となります。

どこまでいっても価値は消費されるもの

ここまで、Saasによるタッチポイントとサブスクによるキャッシュポイント。事業としてのKPIやそのKPIに対するアプローチを整理してきました。
あれ?ここまで生産性の話がない?と思った方がいるかと思います。
安心してください。はいてますよ。ではなく、これからこれらの前提を元に生産性に対する話をしていきたいと思います。

プロダクトの生産者視点に立つと最も重要となるのは「使い続けてくれるか?」ということです。

これを実現するためには、いくつかのアプローチがあります。

  • 粘ついているか?(粘着性)
    これは、離れられない状態であるということです。
    例えば、企業のHR系プロダクト、労務系プロダクトなどが強めの分野でしょう。一度使い始めると履歴などが蓄積され乗り換えようと思って用意でない状態を指します。

  • バーニングニーズであるか?(価値の強度)
    前述した通り、基本的にはやらなければいけない何かがありそれをアナログ的に実施していたり、他のプロダクトを使っている状態。

  • 期待値を維持できるか?(期待値)
    顧客の期待値を一定以上に保ちながらプロダクトの運用を行なっていくことが必要となります。
    機能を継続的にエンハンスを主体とし、顧客の期待値を維持しながら未来の価値を先取りしながら継続へと繋げます。

継続する方法として上記3つがアプローチとして上げられますが、どれも生産性を維持しながら即時的に顧客へデリバリーまで持っていくことで機会損失、新規顧客の維持どちらも保つことができるようになります。

特にフォーカスしたいので3つ目で、顧客の期待値はいつも上にあるということを忘れてはいけません。

価値リセット理論(オレオレ理論)というものがあります。
これは、一度便利になった場合、そこを価値の0起点として捉えまだ見ぬ価値やそれを提供するソリューションが期待値になるということです。

例えば、スマホ・メッセージングアプリ・ボイス検索など現代においてなくてはならないサービスやツールが使えないという状態に陥ったとします。
そこでネガティブな感情が発生しない人はいないでしょう。
このネガティブな感情が出るということは「失ってしまう」という精神状態に起因します。
つまり今が0状態であるということです。

これが何を指すかというと、顧客の期待値は無限であり何かをバックデートしてしまうということは現代では許されないのです。

例えば、超便利な機能を出すとします。
その時点では、顧客の期待に応え期待値に届く満足を得られます。
「うわーすごい」「便利だー」「さすがxx企業だ」というポジティブな状態にあるでしょう。

ですが、この状態が維持するのは3ヶ月〜半年だと言われています。
段々とその状態が当たり前となり、顧客の期待値は次のソリューションへと向かっています。
この期待値に応え続けるために最先端企業は高い生産性を維持し、高品質なプロダクトのエンハンスに全身全霊をもって取り組んでいるのです。

顧客のニーズに応え続けるということは、顧客の期待値を維持し続けるということでもあります。
この当然、粘着性が高くバーニングニーズに応えたプロダクトであれば一定の支持は獲得できますが、中長期で見た時に真似され代替えされることも考えられます。
テックカンパニーとして、持続的な顧客の支持を得るためには期待値に応え続けることが可能な生産性の高いプロダクト開発チームの存在が不可欠であるということは明白でしょう。

まとめ

今回は、まずは生産性を考える前提としてビジネスモデルと事業構造から整理を行いました。
次回は、「Saasプロダクト開発におけるソフトウェア生産の落とし穴」として記載したいと思っています。
ぜひ、コメントなどもよろしくお願いします。

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