見出し画像

舞台を創る

舞台を創るって楽しい。
自分が立つのも楽しい。
客として見るのも楽しい。
舞台の魔物に取り憑かれて、まもなく30年になる。

最初はダンスで舞台に立った。
下手くそな上に上級生にいじめられてたので、幕の中とか集団の後ろとか客席からはおよそ見えない位置で一生懸命踊った。
それでも、舞台に出るのってなんて楽しいんだろうと思っていた。なんだってよかったのだ、舞台に立てれば。

そのあと、演劇に手を出した。
ダンスよりよっぽど才能があった。人の機微がよくわかるこまっしゃくれたガキにはとても向いていた。舞台でやるってなんて楽しいんだろうと思っていた。なんだってよかったのだ、演じることができれば。

いつしか、ダンスも演劇も教える側になっていた。
なってみて痛感する。ああ!私って舞台に立つよりも出るよりも遥かに創る方が、育てる方が好きじゃないか!
そこからはもう一直線。自分ができるだけ舞台上に出なくて済ませたかった。まあ所属していたスタジオ的にそれは許されなかったのでなんでもかんでもやる羽目になり、一カ月連勤の1日20時間勤務状態だったけど。

何度か創ったあと、経営者とこれでもかというほどモメてやめた。
最後の舞台が終わった時、開放感で泣いた。生徒との別れも、もうこの舞台に携われないことも確かに悲しかったけれど、そんなことより地獄のような制作現場から逃れたい一心だった。

そして今、結局舞台を創っている。
まあ正確には舞台演劇を動画編集した動画作品なわけだけど。だって舞台借りると高いんだよ。役者は皆こぞって貧乏だし。
この間何度目かの本番を撮り終わった。出演していない他の生徒が何人か見に来てくれた。
客は少ない、舞台も狭い、照明も音響も無い。しょぼくてなんの凄みも無い。開演ブザーも鳴らない。響くのは私の「よーい、はい!」だけ。

それでもすごく楽しい。生徒を育てることも、舞台を創ることも。全然、全くもってこれで食っていけるわけではないけれども。一人、また一人と、ある生徒は事務所に所属したり、ある生徒は舞台に受かって巣立っていく。作品に出てくれる役者がいなくなって困る反面、嬉しいことでもあるから心境的には複雑だけど。

まあ、結局やめられないのだ。
舞台の魔物ってやつは、一度捕まえたやつをずっとずーっと放さない。どれだけ遠くに逃げようと、ある時首に巻かれた鎖がぐんとひっぱられて、気がつくともんどりうって戻ってきている。
苦しい、でもやめられない。怖いやつだよ、お前はさ。

ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?