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1月23日だと知ってたら『THE FIRST SLAM DUNK』なんて観なかったのに

※この記事には、一部で映画『THE FIRST SLAM DUNK』のネタバレが含まれます。


華の女子高生。
最強で最高な時代。
学校帰りに友達や彼氏とマックでお茶して帰る。

そんな都会の高校生に憧れていた。

現実は、汗とサムライアクアマリンの入り混じった部室で
先輩たちの脱ぎ捨てたジャージを拾い集めていた。

高校時代、男子バスケットボール部のマネージャーだった。

ジャージカビてる…
こんなところに放置してどうなるか想像つかないのかよ。。

ゴミ箱があるのにゴミを床に投げ捨てるのはなぜ?

文句は湧き出るが、上級生でおまけにちょっとやんちゃな選手たちには
とても言えそうにない。

とにかくさっさと掃除を終えなければ、
外の走り込みを終えてやつらが部室に戻って来る。

バッシュは大事にしろよ…

散らばったバスケットシューズを並べながら、
思わず独り言が漏れた。

気配を感じて振り返ると、
気まずそうに立ち尽くす先輩。

やってしまった…

上級生の中でも一際恐れられている先輩。
ほんとか嘘かわからない恐ろしい噂話もあり、
私たちマネージャーにとって最も関わりたくない選手だった。

あ、、すみません…と謝った私に
先輩はニヤッと意地悪に笑いかけてきた。

お前、良い子ちゃんなだけじゃねーのな。

ポジションはポイントガード。
全身真っ黒で目つきは悪く、
癖毛がカールした短髪。

初めて会った時、
実写版宮城リョータじゃん…と思った。


先輩に独り言を聞かれてしまったその日から、
ジャ~マネ〜と、けだるい声で私を指名して
やたらと声をかけてくるようになった。

厄介な人に目をつけられたもんだ。

知らない間に携帯に先輩の番号が入っていて、
深夜になると「ちょっと話そうぜ」って掛かってきた。

チームやバスケの話、
さっき見てたテレビの話、
ゆで卵が食べたいんだけど何分茹でたら良いの?

本当にくだらない事。

一度かけてくると、一時間は話す。

最初こそ緊張していたが、
だんだんこっちも慣れてきて、
冗談や軽口を叩けるようになってきた。

ある時、先輩って宮城リョータみたいですよね!って言ったら、
よく言われるわー俺はミッチーになりたかったのにな!
って言うからアホほど笑った。
めちゃくちゃ怒られた。

理不尽。

だから今回スラムダンクの映画が
宮城リョータを中心に描かれると聞いた時には
咄嗟に先輩を思い出した。


映画では山王工業戦を中心に話が展開する。

アニメでは描かれなかったコミック最後で最大の山場。
スラムダンク既読者ならば、
ほとんど会話のない後半数分の描写を、
息を呑む試合展開を、
夢中で読み進めた経験があるだろう。

宮城リョータには3つ年上の兄がいた。
彼が兄を亡くしてから、
バスケットボール、家族とどう向き合ってきたのか。

現在軸で描かれる山王戦と、
宮城リョータを含む湘北メンバーの回想とが入り混じる。

回想と試合展開の切り替えがあまりにも見事。
その都度こちらの感情も緩急をつけて動かされた。

個人的に好きなシーンは山ほどあるけれど、
あまりネタバレしたくないので控えよう。

しかし、これだけは言わせてほしい。

3DCGの技術により、
あの時あの場所に湘北高校は確実に存在したものになっていた。

動いているんですよ。

本来は静止画である画面の後ろで、
花道が相手をおちょくるような動きをしたり、
ディフェンスに入るリョータがコートを叩いたり。

そういう何でもないけど
バスケットボールの試合で普通に行われる
細かい動きがちゃんと動いてる。
(動きが動いてるって言葉としてはおかしいけれど)

これには感激を覚えて、
神様仏様井上様と心の中で何度唱えたか。

とにかく、
映画『THE FIRST SLAM DUNK』は
スラムダンクを好きな人はもちろん、
全く知らない人にも観てほしい。

スポーツアニメの伝説となる映画だと思う。


さて、またここで先輩との思い出に戻る。

ある時、先輩が「お前の家族って、どんななの?」と聞いてきた。
正直自分の家族のことを人に話すのは苦手だった。

「普通ですよ~」とかわすこともできたと思う。
でもなんでか、その時は先輩に家族の話をした。

先輩は「ふーん、へ~」とか、
聞いてるんか聞いてないんかわからないような
適当な相槌をしていた。
それが凄く心地よかった。

だから、ついつい話過ぎてしまった。

我に返った私は、引いてるかな~と思って謝った。

なんで謝るんだよ。普通にしてろよ。
誰かに遠慮するもんじゃねえだろ。

先輩はやっぱり宮城リョータだ。
映画のセリフを聞いてあの時言われた言葉を思い出した。

キツくても…心臓バクバクでも…めいっぱい平気なフリをする

映画『THE FIRST SLAM DUNK』

先輩との思い出、亡くなった姉のこと
いろんな記憶が交錯した。

先輩に会いたいな。
お姉ちゃんと話がしたいな。
そんなことを思って泣けてきた。

ひとしきり泣いて、やっとのことで劇場を出た。

その時にこの看板を見つけた。

あ、今日お姉ちゃんの誕生日じゃん

愚かで恩知らずの妹は、
鬼軍曹でロマンチストで私の絶対的な味方だった
お姉ちゃんの誕生日を忘れていた。

わすれてんじゃねーぞ!

映画の中のリョータと兄の誕生日の描写を思い出し、
最後の最後に看板から動けなくなるほど泣いた。

今日が1月23日だって知っていたら、
『THE FIRST SLAM DUNK』なんて観なかったのに。

私が忘れてそうだから、
姉ちゃんが何らかの力で映画観に行こうとさせたんだ。

きっとそうに違いない。


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