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【第2弾】Black Lives Matter - 今だからこそ聴くべきHipHop

こんにちは。

以前、「Black Lives Matter - 今だからこそ聴くべきHipHop」という記事を書かせていただきました。

この記事は結構好評で、Viewも多いですし、忘れたころにスキが飛んできます。ありがとうございます。
あれから1か月経ち、アメリカにおけるBLM運動は色々な局面を迎えています。そしてその1か月の間にHIP HOP界にも様々な曲が出ましたので、第2弾ということで紹介したいと思います。


Wash Us In The Blood / Kanye West feat. Travis Scott

一番物議を醸したのはこれでしょう。

Kanye Westは15年以上活躍する超大物ラッパーです。
カニエは、トランプ就任時にトランプ支持を表明し、以降もサポートしてきました。

しかし、近年のBLM関連の動向を見て(トランプは反BLM)、トランプ支持をやめ、それどころか自身が大統領選に出馬することを表明します。

イーロン・マスクが全面支持を表明するなど、超カオスな状況になっています。
そんな衝撃的な声明の直後に出されたのがこの曲です。

この曲は、ゲストに現役で一二を争う人気ラッパーであるTravis Scottを招き、ミキシングに説明不要の重鎮Dr.Dre、プロデューサーは稀代の天才Ronny Jという超豪華な布陣でリリースされました。

さてまずタイトル。
キリスト教の教えで、キリストの血は罪を洗い流すという教えがあり、それを受けたものです。
リリック自体は讃美歌っぽいです。

歌詞をいくつか見ていきましょう。

Wash us in the blood (Ooh)
私たちを血で洗ってください(罪を洗い流してください)
Whole life bein' thugs (Hah)
人生ずっとワルであり続けざるを得なかった
No choice, sellin' drugs (Huh)
選択肢は、薬を売る以外なかったんだ
Southside, what it does? (God)
南部ではなにがあったのか?
Rain down on us (Ah)
私たちに雨を降らせてください
Genocide what it does (Huh)
そう、やっていたことは虐殺さ
Slavery what it does (Ooh)
そう、やっていたことは奴隷制さ

奴隷制から端を発し、苦しい中で薬物を売るしか生活の手段がなかった、神様そんな俺らを許してください、ということですね。
南部が言及されているのは、奴隷制の発端が南部だったからです。

Mass incarc' what it does (Huh)
やっていることは大量投獄だ(米国内の黒人の逮捕率は白人の5倍)
Cost a cause what it does (Ooh)
それが悪循環を生むんだ(逮捕歴がつくため)
'Nother life bein' lost (Woah)
また一つの命が失われた
Let it off, set it off
開放しろ、始めるんだ
Execution, thirty states (That's right)
死刑、未だ30の州が
Thirty states still execute (Ah)
30州が未だに死刑を行っているんだ
Thou shall not kill, I shall not spill,
殺しちゃいけないのにさ、俺はゲロれないんだ(死刑があるため仲間の情報を売ることはタブーであり、その結果黙秘したまま投獄されることが多い)
We walk through the glass and the residue (Ooh)
俺らは暴動で荒れた街を歩く
Now look what we headed to (Ah)
俺たちの向かう先を見ててくれ

讃美歌パート(キリスト教に詳しくないので飛ばします)を経て、現在の状況と今後どう進んでいくかを綴っています。
秀逸なのは最後で

They don't want me to Kanye
レーベルは俺にKanyeであってほしくない
They don't want Kanye to be Kanye
レーベルは俺、KanyeにKanyeであってほしくない
They wanna sign a fake Kanye
レーベルは偽物のKanyeと契約をしたいらしい
They tryna sign a calm Ye
レーベルはおとなしいYeと契約をしようとしている
That's right, I call him Calm-Ye
その通りだ、俺はあいつを「おとなしいYe」と呼ぼうか
But don't take me the wrong way (God)
でも俺を間違った道に導くんじゃないよ

Kanye Westという人は言動が物議を醸しまくるので有名な人です。
当然レーベルとしては忌避するわけですが、数年前、Kanyeは自身をYeと名乗り始め、「ヒップホップは悪魔の音楽だ」と宣言し、おとなしくなります。
しかし、レーベルの言いなりになって大人しくあり続けるのはやめ、今後は大統領選を含めKanyeとして、正しい道へ進んでいくと言っているのです。
今後の活躍に期待をせざるを得ませんね。


Time For Change (Black Lives Matter) / Trae Tha Truth feat. TI & More

大御所たちが総出動した、もろBLMについての曲です。

出だしから強烈です。

Arrest the cops
警察を捕まえろ
Charge the cops, charge all the cops
警察の罪を問え
Not just some of them, charge them in every city across America where our people are being murdered
一部じゃなくて全員の罪を問え、人々が惨くも殺されているアメリカ全土のだ
Charge them everywhere, that's the bottom line
全員の罪を問え、それが最低限行うべきことだ

反トランプを前面に出し、不満を訴えるだけでなく、団結することの重要性を喧伝しています。

They feel like black lives don't matter, we just hopin' it could
やつらにとっては黒人の命は重要じゃないらしいが、俺らは重要だって願ってる
They say racism don't exist, if not, why the fuck we pissed?
やつらは人種差別は存在しないって言っているが、ならなんで俺らがこんな怒っているのか分かっていないのか?
They hate me 'cause my skin, I'm proudly ripping behind this fence
やつらは肌の色で俺を嫌う、俺はフェンスで問い詰める
No more killing our own, that's why we gotta to stick together
もう自分たちを殺すのはやめよう、だから団結しなきゃいけないんだよ
Dear Mr. President, you're fucking us over
大統領様、お前は本当に俺らに対する扱いがひどいよ
Like we a terroristic threat, the ghetto covered in soldiers
俺らをテロリストみたいに扱ってさ、ゲットー地域は今や兵隊だらけだよ

全体的に、問題に無関心である層に向かって、今立ち上がらなければ一生このままである、だから団結して反抗する必要があるということを訴えています。

Look at the news and tell me, what do you see?
ニュースを見てどう思ったか聞かせてくれよ
The cops just killed another black man that look just like me
警察が俺らみたいな黒人を殺してるんだよ
And naw, this ain't the first time, and it won't be the last
しかも最悪なのはこれは初めてのことじゃないし、たぶん最後ってわけでもない
Unless you stand up against it, so get up off your ass
お前が抵抗しない限りはな、だから立ち上がるんだ!


8分近い長大曲で、BLMを理解するならこの曲が最もふさわしいかもしれません。


Rockstar (BLM Remix) / DaBaby feat. Roddy Ricch

全米のトップシーンに君臨するラッパーの一人です。

Remix前の曲も大人気です。

基本的には「俺かっけーし稼いでる」的曲を書く人です。
この曲もワルであることを誇示するような表現が少しあります。

が、そのワルである理由は、この町が相当に危なく、警察も信用できないため、自分を守る必要があるためだと訴えている曲です。
そしてそこの部分はRemixでも変わらず使われ、BLM運動にも繋げられています。

Brand new Lamborghini, fuck a cop car
新品のランボルギーニ、パトカーは死んでくれ
With the pistol on my hip like I'm a cop
ケツに警察みたいに銃を携帯している
Have you ever met a real nigga rockstar? (Yeah)
お前はリアルな黒人ロックスターを見たことあるか?(ロックスターに黒人は少ない)
This ain't no guitar, bitch, this a Glock (Woo)
ギターじゃなくて自衛のためにGlock(銃の名前)を運んでるんだ

これは実体験に基づくものです。
実際、DaBabyは2015年11月に、少年に銃で襲われ、家族の前で自衛のためにその少年を撃ち殺した経験があります。

She know what I do, she know 'fore I run from a nigga, I'ma pull it out and shoot (Boom)
娘は俺のやることを知ってる、俺が逃げる前に引き金を引くことも
PTSD, I'm always waking up in cold sweats like I got the flu
PTSDだよ、インフルエンザにかかったみたいに起きた時に汗だくなんだ
My daughter a G, she saw me kill a nigga in front of her before the age of two
娘は俺が人を殺すのを見たんだぜ、まだ2歳なのに
And I'll kill another nigga too
そして俺はまた誰かを殺すことになるんだよ

そしてオリジナル部分に付け加え、警察に対する反抗姿勢が綴られています。

Cops wanna pull me over, embarrass me
警察が俺の車を路肩に止めさせ、恥をかいた
Abusin' power, you never knew me, thought I was arrogant
権力を不正利用している、俺を傲慢だと思ってるんだろ

さて、DaBabyは何度も警察ともめごとを起こしているのですが、ここで言及されているのはおそらく2019年のクリスマスイブの事件でしょう。
故郷であるノースカロライナ州シャーロットで、車を止めさせられ、大麻所持の疑いで逮捕されるのです。
DaBabyは逮捕前にシャーロットでコンサートをしていたんです。留置所から解放された後、DaBabyはストーリーに警察が令状なしでコンサート中に彼の車を捜索していたと発言し、警察の対応のひどさを訴えました。

その時の発言がこちら。

Dirty fucking police department try to take me to jail every time I got a show in the city
クソゴミ警察が俺が故郷でライブするたびに投獄しようとやけになってんだよ
Unlawfully shining multiple flash lights in my car looking for reasons to support an illegal search by the time I get off stage.
ステージが終わるまでにその不法捜索のこじつけを探すために俺の車を、法を犯してまで探し回ってるんだ

詳しくはこちらで語っています。

そんな彼なので、警察に対する抵抗・訴えの説得力が段違いです。
元の曲も含めてぜひ聞いてみてください。


Killing in the Name / Machine Gun Kelly

何回この曲紹介するんだって感じですが、Killing in the Nameです。

この曲はカバーです。
オリジナルは、第1弾でも紹介していますし、和訳の記事も出しているのでそちらを見てください。

Machine Gun Kellyは正直EminemにDisられた人ぐらいのイメージぐらいしかなかったんですが、今回こういう古い曲をかなりの高い精度でカバーしていて、見る目が変わりました。
これだけしっかりした演奏、ラップができるとは、見事です。


A Change is gonna Come / Sam Cooke

ラップでもないし新しい曲でもないんですが、この曲はぜひ紹介させてください。

この曲は公民権運動時に出た、ソウルというジャンルを代表する曲です。
Sam Cooke自身は33歳の時に銃殺されます。その死んだ年に出された、人種差別がない社会へのきたいを込めたメッセージソングです。

音楽史上において超絶に重要な曲の一つとされ、かの有名な「The 500 Greatest Songs of All Time」では12位です。洋楽史上12番目に重要と評価されているってすごいですよね。

公民権運動では、現在のBLMにおけるKendrick LamarのAlrightのように、テーマソングのように扱われていた曲です。

サビの力が一番強いと思うので、そこだけ紹介しようと思います。

It's been a long
とても長いことかかった
A long time comin', but I know
本当に長いことかかっているけど、知ってるんだ
A change gon' come
いつかは変わるって
Oh, yes it will
うん、いつかは変わるんだよ


Black Lives Matter / Dax

タイトルがドストレートな曲です。

出だし、かなり印象的なコーラスから始まります。

I can't breathe
息ができない

皆さんご存知の通り、BLMの発端となったGeorge FloydさんがDerek Chauvinという警察官に絞殺された事件、その際George Floydさんは「I can't breathe」と懸命に命を訴えていたのです。
2014年にもEric Garnerという人が同じような事件で「I can't breathe」と訴えながらも亡くなりました。

以降、「I can't breathe」というフレーズはBLMのキーワードになっています。

この曲は基本的には声をあげて戦うことの重要性を訴えている曲です。

Yeah, this a revolution in our time everybody's fighting
みんなが戦うことで革命は訪れる
Change coming, yes! That's why it's an acronym for riot
いつかは変わる、だからriot(怒り)の頭文字になっているだろ?
(revolution in our timeの頭文字をとるとriotになる)
Everybody has a voice, don't you dare stay silent
みんなが声を上げれる中で、なんで沈黙を保ってられるんだ?
If you say nothing, you are an accessory to violence
もし何も言わないんだったら、お前も暴力を容認しているに等しい

そして白人警官に殺された方々の名前を出して、彼らのために戦えとしています。

This for Sandra Bland, George Floyd, and every single family
これはSandra BlandやGeorge Floyd、そしてその家族のためだ
Police brutality has intervened in and destroyed
警察の残忍性ってのは介入され壊されつつあるんだ

Sandra Blandさんは、2015年にテキサスの独房で首をつっているのが発見された人です。
逮捕されてから3日後のことでした。自殺でしたが、その原因は度重なる人種差別行為でした。

I'm not MLK but, boy, that doesn't mean I can't dream
俺はキング牧師じゃないけど、だからといって夢をみられないわけじゃない
Black lives matter shouldn't anger you or make you scream
BLMってのはお前を怒らせたいわけでも叫ばせたいわけでもない
All lives matter 'cause we aren't treated equally
全員の命が大事だ、俺らは平等に扱われていないんだから
Remember when we were kids and didn't see color
子供の時を思い出してみろ、色なんて気にしてたか?
And when we played in kindergarten and I called you my brother
幼稚園の時は友達だったじゃないか
Equality is the quality we need inside this Earth, man
平等ってのは地球上で保証されるべき質なんだ

Equality is the quality we need inside this Earth, manっていう一節がいいですね。
そして平等な社会の実現の難しさ、アメリカの現状、偏見が克明に描かれています。


The Bigger Picture / Lil Baby

おそらくBLM関連の曲で最も話題になった曲です。

冒頭ではGeorge Floydさんのニュースが引用されています。

Protests and growing national outcry continues over the death of George
Floyd (Section 8 just straight cooked this motherfucker up)
抗議は国全体に広がり、George Floyd氏の死について抗議が続いています
(合衆国憲法8条が警官の刑罰を軽くしたんだ)
Last night, people protesting in Minneapolis escalated
昨夜ミネアポリスでの抗議活動はエスカレートし
As demonstrators were lashed by tear gas and rubber bullets
デモ隊は催涙スプレーやゴム弾により鎮圧されました

さて、冒頭では、抗議活動の際「Hands up, don't shoot」ポーズを取ったりしているのに容赦なく攻撃してくる警察をDisっています。

I find it crazy the police'll shoot you and know that you dead, but still tell you to freeze
警察が狂っていると思うのは、死んでいるってわかっているのに撃ちつづけることだ
Fucked up, I seen what I seen
くそったれが
I guess that mean hold him down if he say he can't breathe
ようは彼が息ができないといったとしても抑え続けることだ
It's too many mothers that's grieving
悼んでいる母親が大勢いるよ
They killing us for no reason
警察が理由もなく俺らを殺すもんだから
When I heard all that time that they gave to Taleeb
黒人たちがTaleeb Starkesに伝えた現実を俺が聞いていた時
(Taleeb Starkesは2016年にBlack Lives Matterという本を書いたジャーナリスト)
He got a life sentence plus
俺のダチは終身刑を食らった
We just some products of our environment
俺たちは環境の副産物なんだよ、悪いことをすることでしか生き残れないんだ
How the fuck they gon' blame us?
なんで俺らを責めるんだよ、くそ野郎

Lil Babyが偉いのは、黒人だけでなく他の有色人種にも言及していることと、全ての白人を責めるというのは違うとはっきり書いていることです。
そして見た目、肌なんかで個々人の性格なんか判断しようがないとしています。

Every colored person ain't dumb and all whites not racist
全ての有色人種が無能なわけでも全ての白人が人種差別者なわけでもない
I be judging by the mind and heart, I ain't really into faces
俺は考え方や心で判断するし、見た目では判断しない

そしてそれが悪循環をうみ、治安が悪いからこそ銃を携帯する必要があるものの、警察が常に黒人を捕まえようとしているため、車では常にミラーを確認すること、および標識に気を付ける(交通違反で捕まるため)ことを言っています。

Crazy, I had to tell all of my loved ones to carry a gun when they going outside
愛する人に銃を携帯するように言わなきゃいけないなんて狂っているよ
Stare in the mirror whenever you drive
運転中は常にミラーを見ておけ
Overprotective, go crazy for mine
過保護だが、銃が気になるんだ
You gotta pay attention to the signs
標識にも気を付けるんだ
I see blue lights, I get scared and start runnin'
パトランプを見ると恐れをなして逃げるんだ
That shit be crazy, they 'posed to protect us
それっておかしいよな、俺らを守る存在なんじゃないのか?

また、BLMトレンドは異常な同調圧力をうみ、突然敏感になり始めたセレブなんかも多いんですが、Lil Babyはそうではなくずっと戦ってきた身だから故にわかることがある、と言っています。
これ結構大事ですね。

I ain't do this for the trend, I don't follow them
トレンドにのってるわけじゃない
Altercations with the law, had a lot of them
今までなんども法律と戦ってきたんだ

そして、Lil Babyもご多分に漏れず生活のために悪事に手を出していたわけですが、決してそれらを奨励せず、代わりに若者に選挙の投票を訴えています。

I can't lie like I don't rap about killing and dope, but I'm telling my youngins to vote
俺は噓をつけないから人殺しがカッコイイなんてラップはしない、でも若者に投票するようには伝えていくぜ
I did what I did 'cause I didn't have no choice or no hope, I was forced to just jump in and go
俺は悪事をした、それは選択肢がなかった、希望もなかった、やらざるを得なかったんだ
This bullshit is all that we know, but it's time for a change
今まではそうだったが、今こそが変わるときなんだ
Got time to be serious, no time for no games
真剣になるべきで、もう遊びじゃないんだ

そしてコロナとも交えています。
コロナの際、強制的に他者との交流が断たれ、人々は改めてFace-to-Faceの重要性を学びました。

それをもう忘れちゃってるんじゃないの?ということです。

They trainin' officers to kill us, then shootin' protestors with these rubber bullets
警察は警官に俺らを殺すためのトレーニングをしている、抗議者をゴム弾で撃って
They regular people, I know that they feel it
彼らは普通の人たちだぞ、どうなってんだ
These scars too deep to heal us
傷跡は治癒するには深すぎる
What happened to COVID? Nobody remember
コロナのときになにを学んだんだ?覚えてないのか?
It ain't makin' sense, I'm just here to vent
それじゃ意味ないだろ、変えていかないと
(コロナのときに人々の交流の重要性を学んだのに人種差別してどうするんだよ?という意味)


まとめ

以上、いかがだったでしょうか。
毎日のようにBLM関連の曲は出ているのでチェックしてみてください。

今までに紹介した曲を含むBLM関連曲のプレイリストをApple Musicで公開したので、興味ある方はそちらもどうぞ。




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