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Kendrick Lamar - To Pimp A Butterfly解説

こんにちは。

以前、Kendrick Lamarの1stアルバムであるgood kid, m.A.A.d cityの解説記事を書きました。

今日は、そのアルバムに次いで出された、そしてそのアルバム以上に評価された、Kendrick Lamar珠玉の2ndアルバム、To Pimp A Butterflyについて解説します。


この記事は7万字を超える超大作です。
先にご了承ください。



はじめに

アルバムの解説に入る前に、このアルバムが出た当時の状況を解説しておきます。

上述のgood kid, m.A.A.d cityは商業的にも批評的にも大成功を収め、ケンドリック・ラマーは瞬く間に世界を代表するラップ・スターになりました。

そこから二年を経て、満を持して発表されたのが今作。
このアルバムをケンドリック・ラマーの最高傑作とする人もかなり多いです。

個人的には、この世で出たアルバムで最も優れたものだと思っています。
主観を入れたAll time best albumを作るとすれば、思い出補正もあってこのアルバムは2位だと思っているんですが(1位はDavid BowieのStation to Staion)、全ての主観を抜いてランキングを作るとするならば絶対に1位、それもかなり群を抜いて1位だと思っています。

それはなぜか?主に二つ理由があります。


一つは音楽性の広さ

基本的に、ヒップホップのアルバムというのは音像的には退屈になりがちです。
ラップという性質上曲の幅を持たせるのが大変難しく、サンプリングでビートを作ることもあるため、目新しさが少なかったりします
そしてやはり歌詞(リリック)が中心となる音楽なので、音楽性については二の次にされることも多いです。

しかし今作、To Pimp A Butterflyでは、ブラック・ミュージックの総決算かというぐらい幅広な音楽性に支えられています。

このアルバムは生演奏がかなり多く、特に様々なジャズ・ミュージシャンを結集して作られたビートが本当に魅力的です。
ジャズは30年代を中心に流行した音楽ジャンルであり、あまり若手のラッパーが取り入れることは少ないのですが、ケンドリック・ラマーが若者の間にジャズを復活させたと言えます。

そしてジャズだけではなく、ソウル、ファンク、R&B、ネオソウルなど多種多様な音楽を背景に抱えており、曲ごとに非常に個性が強くなっています

かと言ってサンプリングがないかと言えばそんなことは全く無く、かなり効果的かつ幅広い使い方をされていると言えます。
ジェームス・ブラウン、アイズレー・ブラザーズ、スライ&ザ・ファミリー・ストーンなどのファンクはもちろん、スーフィアン・スティーヴンス、マイケル・ジャクソン、ボリス・ガーディナーなどもサンプリングしていて、本当に幅が広いです。


もう一つはアルバム全体の歌詞世界の巧妙さ
これがいかに巧みであるか、一曲一曲詳細に解説いたしますので、是非お楽しみください。



1曲目:Wesley’s Theory

この曲は、白人至上主義に支えられた人種差別的なアメリカの組織が、利益のためにいかに黒人のクリエイターを搾取するかを描いた曲です。

最初、ジャマイカ人シンガー、ボリス・ガーディナーの「Every Nigger is a Star」のサンプリングから幕を開けます。

Nigger、いわゆるNワードというのは英語の中でも非常に加虐性の強い差別用語として知られ、絶対に用いてはいけない単語なんですが、ヒップホップを聴くととんでもない頻度で登場します。これを疑問に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実はこの曲こそ、ジャマイカにおける"Nigger"という言葉の認識を変え、黒人のプライドを鼓舞するきっかけになった曲なのです。
ジャマイカはアメリカのすぐ近くで、レゲエ大国であることからアメリカの黒人コミュニティにおける影響はとても大きく、すぐにアメリカの黒人、ひいては世界中の黒人に定着しました。

ジャマイカの伝説的ミュージシャン、Bob Marleyの代表曲


このNワードを使った鼓舞は、このアルバムの最後の方の「i」という曲につながっていきます。

さて、話をWesley’s Theoryに戻しましょう。
タイトルに使われているButterflyは言うまでもなく蝶のことですが、最初ケンドリックをサナギから羽化した蝶と見立ててアルバムが開幕します。

When the four corners of this cocoon collide
この繭の四隅がぶつかるとき
You’ll slip through the cracks hopin’ that you’ll survive
お前は何が何でも生き延びてやるって希望を胸に這い出てくるだろう
Gather your weight, take a deep look inside
知恵をかき集め、深く内部を覗き込むんだ
Are you really who they idolized ?
本当に君は彼らが偶像化するほど優れた人間なのか?
To Pimp A Butterfly
“To Pimp A Butterfly”

最初のヴァースでは、金銭に惑わされる若きケンドリックが描かれています。

When I get signed, homie, I'ma act a fool
契約したらアホになって
Hit the dance floor, strobe lights in the room
ストロボライトの部屋で踊り
Snatch your little secretary bitch for the homies
仲間のために小さな秘書の女をさらって
Blue-eyed devil with a fat-ass monkey
白人女たちのマンコを堪能し
(Blue-eyed devilは白人の蔑称、monkeyは女性器を指すスラング。ダメダメになっていることを表すため、あえてしょうもないスラング・差別語を使っている)
I'ma buy a brand new Caddy on vogues
ヴォーグで新車のキャデラックを買おう
Trunk the hood up, two times, deuce-four
地元を盛り上げるんだ、2倍も4倍も。
(hoodはボンネットという意味と地元という意味があり、ボンネットをあげてエンジンをふかすのと、地元を盛り上げるというのをかけている)

一旦メジャーレーベルと契約すると、多くの黒人アーティストはかつての目標や願望を見失い、富や名声を追い求めるようになります。レーベルのオーナーにポン引きされ、女性をあてがわれるなどして快楽に溺れていくのです。
ケンドリックの例で言うと、彼が育ったようなゲットー(貧民街)で声をあげる手段さえない人たちの代弁者であることを諦め、貧しい人々のために戦うというよりも、自分が貧困から抜けたことをただ楽しんでいるように見えます。


2番目のヴァースでは、Uncle Samの視点からKendrickが描かれます。
Uncle Samは、アメリカ合衆国政府を擬人化したキャラクターで、ここではケンドリックら黒人アーティストを快楽漬けにして搾取しようとする白人のことです。

Uncle Sam

Uncle Samは、ケンドリックに対しあの手この手で甘やかし、いろんなものを買わせようとして沼に落とそうとしてきます。

What you want you? A house or a car?
何が欲しい?家か?車か?
Forty acres and a mule, a piano, a guitar?
40エーカーの土地にラバか?ピアノか?ギターか?
Anythin', see, my name is Uncle Sam, I'm your dog
なんでも買えよ。俺の名前はアンクル・サム。俺はお前の下僕さ。
Motherfucker, you can live at the mall
お前はショッピングモールにいるようなもんさ

この中でも、特にForty acres and a mule(40エーカーの土地にラバ)は非常に象徴的です。
40エーカーの土地にラバとは、南北戦争後に解放された黒人奴隷に対して約束された補償のことです。

しかし実際にはこの補償は実現せず、アメリカの黒人にとって破られた約束の代名詞とも言えるものです。
ヒップホップでもしばしば引用されます。

例えばKanye Westは、ヒット曲であるAll Falls Downで「We tryin' to buy back our 40 acres」というラインをラップしています。


つまり、ケンドリックはここで、解放奴隷にされた嘘の約束と、急に金を手にした"選ばれし"黒人"が白人から与えられる富の誘惑をアナロジー的に描いているわけです。
実際、黒人社会はコストと税金をよく考えずに高価なブランドや製品を買わされる傾向があることはずっと問題視されていて、人口に対し消費金額が明らかに多いことが知られています。

I know your kind (That's why I'm kind)
俺は、お前みたいな奴をよく知っているんだ。だから優しくしてるんだぜ
Don't have receipts (Oh, man, that's fine)
レシートがない?全然構わないよ
Pay me later, wear those gators
あとで払えばいいさ(=クレカで買えばいいさ)。このワニ革の服を着なよ
Cliché? Then say, "Fuck your haters"
決まり文句?それならこう言え。「Fuck you haters」

なぜ富の誘惑をふっかけるのか?それは借金漬けにして仕事をさせるためです。
ワニ革の靴は典型的なブランド品ですが、それをクレカで買うように薦め、領収書がないと言えば別に構わないと言う(税金への意識を弱くさせる)。そんな黒人はUncle Samにとってカモであり、kindな存在なのです。


2曲目:For Free? (Interlude)

1曲目に引き続き、ケンドリックがレコード業界のポン引きの犠牲になり続けていることを描いている曲です。

この曲では、Uncle Samと黒人の関係を、女と男になぞらえて描いています。
女は男を完全にATM扱いしており、とにかく稼いで私に貢げ!と叫びまわっています。

Fuck you, motherfucker, you a ho-ass nigga
クソが、クソ野郎、情けない男が
I don't know why you trying to go big, nigga, you ain't shit
何をそんなに大物ぶってんだよ、何でもないくせに
Walking around like you God's gift to Earth, nigga, you ain't shit
地上に降り立った神からの贈り物って顔をして歩き回ってる、何でもないくせに
You ain't even buy me no outfit for the Fourth
4周年記念の服ぐらいさっさと買えよ
I need that Brazilian, wavy, twenty-eight inch, you playin'
28インチのブラジルの女の子みたいなエクステが欲しいのよ
I shouldn't be fuckin' with you anyway
お前は私に相応しくない
I need a baller-ass, boss-ass nigga
私に必要なのはもっと金持ちで陽キャな男
You's a off-brand-ass nigga, everybody know it
お前はダサい陰キャなんだよ、みんな知ってる
Your homies know it, everybody fuckin' know
お前の友達もね。みんなクソ知ってる
Fuck you, nigga, don't call me no more
あーもういや。もう電話なんてしてこないで
You won't know, you gonna lose on a good bitch
お前は知らないだろうけど、良い女に見合ってないんだよ
My other nigga is on, you off
私は他の男がいるからお前は用無しだわ

日本でもあるような、典型的な男をATMとしか見ていない女の暴言という感じですが、Uncle Samが黒人に対して行っている仕打ちはこれと同じだと言っているわけです。この女は、男が大金を稼がなければ満足せず、男が彼女の物質主義的なやり方に屈するのを拒むと、「こんな良い女いないよ」と言うわけです。

Oh America, you bad bitch, I picked cotton and made you rich
ああ、アメリカよ、お前はクソ女だ。俺が金の種を摘んで、おまえを金持ちにしてやったのに
Now my dick ain't free
俺のチンコはタダじゃねえ

“pussy cost money, but dick is free."という言葉があります。
要は、女性器は金がかかるが男性器はタダだということです。

何となく意味は分かると思いますが、男が女性とセックスするためには金がかかる一方、女が男を手に入れるには大した苦労をしないということです。
ケンドリックはこれに大きく反発し、俺のチンコはタダではない、成功の誘惑には屈せず、誰も俺を利用することはできないと言っているわけですね。

ケンドリックは、このような男と女の関係を、アメリカが黒人を奴隷にしてきたことのメタファーとして使っています。
この関係はまるで三角貿易のようだと。アフリカから黒人奴隷をアメリカに運び、そこからイギリスに綿花などを運び、イギリスは巨大な富を得た、この関係は上で言ったような男女にそっくりだし、現在はフィールドを変えて音楽業界でこれが行われていると言っているわけですね。


3曲目:King Kunta

メジャーデビュー作の『good kid, m.A.A.d. city』をリリースして以来、ケンドリックは様々な賞を受賞しましたが、グラミー賞(最優秀アルバム賞)だけは取れませんでした。
グラミー賞はヒップホップについて冷遇していることで知られており、現在でもまだグラミー賞を受賞したことがあるラッパーはいません。
まずはこれに対するメッセージから幕を開けます。

I got a bone to pick
言いたいことがある
I don't want you monkey-mouth motherfuckers
Sittin' in my throne again
猿みたいなうっせえやつらが俺の王座に二度と座るな
I'm mad (He mad!), but I ain't stressin'
俺はキレてるが、そこまでマジではない
True friends, one question
真の友よ、一つ聞くぜ

"I'm mad "はジェームス・ブラウンの "The Payback"のサンプリングです。

ここまで見てきたように、現在のアメリカの音楽シーンは、有望な黒人アーティストに対して様々な誘惑を吹っ掛け、借金漬けにして仕事をさせようとさせているわけですが、グラミーの件からも分かるように、これは王座に座っているように見えてその王冠は掴ませず、実際は奴隷のように抑圧されているような状態だということです。
この曲では、それをKuntaになぞらえて描いています。

Bitch, where you when I was walkin'?
ビッチ、俺が下積みの時にはどこにいたんだよ
Now I run the game, got the whole world talkin'
今や俺が支配者でこの世界はみんな俺の話をしている
King Kunta, everybody wanna cut the legs off him
Kunta、みんな俺の足を切ろうとしている
Kunta, black man taking no losses, oh yeah
Kunta、黒人男性に失うものなどない

Kuntaというのは何ぞや?という話なんですが、これはKunta Kinteという人のことで、アレックス・ヘイリーの小説『Roots: The Saga of an American Family』の主人公です。
Kunta Kinteは、白人である奴隷の主人がつけようとした"Toby"という名前を受け入れようとせず、奴隷農園から逃げ出そうとして右足を切り落とされたという設定になっています。


偽りの富・権力を持たされたものがどうなるかは、ヤムになぞらえて描かれています。

When you got the yams—(What's the yams?)
ヤムを手に入れた瞬間さ(ヤムって何よ?)
The yam is the power that be
ヤムは権力そのものさ
You can smell it when I'm walkin' down the street
俺がストリートを歩いているときだって嗅げたはずだぜ

The yam brought it out of Richard Pryor
ヤムがリチャード・プライヤーにあんなことをさせたんだよ
※リチャード・プライヤーはコメディアン。成功した後コカイン中毒になり、自らの身体に75度のラム酒をかけて火を点け、全身火傷になるなど奇行に走った
Manipulated Bill Clinton with desires
ビル・クリントンを欲望に忠実にさせたんだよ
※ビル・クリントンは元大統領。ホワイトハウス内でセックスをしたのがバレるという特大スキャンダルを食らったので有名で、性欲に支配された哀れな人物としてしばしば皮肉的に用いられる人物(例:EminemのRap Godなど)

ヤムはアフリカ料理の主要食材の一つで、ラルフ・エリソンの『見えない人間』という小説ではヤムの匂いが故郷の記憶を呼び起こすトリガーであり、信頼性の象徴として扱われています。一方でチヌア・アチェベの小説『Things Fall Apart』では男の価値(=金)をヤムの収穫量になぞらえており、ヤムは信頼性の象徴としてだけでなく、短期的な富や権力にも転がりうるとしているのです。


音楽業界が腐っているのはこれだけではありません。
ゲットーを代弁するという大義名分が消え去ったことで、ついぞ自分で曲を書かない、ゴーストライターが蔓延していると主張し、これを徹底的にdisります。

I can dig rappin', but a rapper with a ghostwriter?
俺はラップってもんを分かってるが、ゴーストライター付きのラッパーがいるんだってな?
What the fuck happened? (Oh no!)
イカれてんのか?
I swore I wouldn't tell, but most of y'all sharing bars
俺は言わねえけど、お前らの殆どがゴーストライターとリリックを共有してるよな
Like you got the bottom bunk in a two-man cell (A two-man cell)
2人部屋の二段ベッドで下に追いやられているみたいだな

"I can dig rapping"もまた、ジェームス・ブラウンの "The Payback"のサンプリングです。

ここではbarsというのが象徴的に扱われています。barsというのは二つ意味があり、曲の小節刑務所です。
ラッパーはゴーストライターと曲の小節を共有しているし、どちらも共犯として刑務所にいる。そして刑務所の二段ベッドでラッパーが下の段(つまり、ラッパーの方が下の立場)で寝ている。と揶揄しているのです。

ゴーストライター問題は長年ヒップホップ界で議論されていることであり、何を隠そうケンドリック自身もあまりの歌詞の卓越性からEminemにゴーストライターを疑われたことがあります(目の前でリリックを書いたことで秒で疑惑を解消させました


特にゴーストライター疑惑が強い大物ラッパーとして有名なのがDrakeです。
Meek MillがTwitterでDrakeを糾弾したのが代表的です。

当該ツイート。現在は削除済み

実際ケンドリックは、「The Late Show with Stephen Colbert」という番組でこの部分をDrake風にラップしています。

Something's in the water (Something's in the water)
何かがおかしい
And if I gotta brown-nose for some gold
もし俺が金のために成功者のケツにキスしなきゃいけないんだとしたら
Then I'd rather be a bum than a motherfuckin' baller (Oh yeah!)
クソみてえな成り上がりは捨てて浮浪者になってやるさ

「Something's in the water(水の中に何かがいる)」とは、たくさんの人が変な行動をしているときによく使われる言い回しです。
この場合、業界におけるゴーストライターの蔓延は常識をはるかに超えていることの暗示でしょう。

ケンドリックは、そういった変な行為、すなわち成功するために成功者のケツにキスするようなタイプではなく、自身の主義主張を妥協するくらいなら、何も持たずに故郷に戻ることを選ぶという決意の表れなのです。

1曲目からのストーリーに照らし合わせると、ケンドリックは業界がポン引きしたい蝶であるが、ケンドリックはそれを拒否し、大義を貫くということです。


I was gonna kill a couple rappers, but they did it to themselves
Everybody's suicidal, they ain't even need my help

「I was gonna kill a couple rappers, but they did it to themselves」はJay-Zの "Thank You"のサンプリングです。

2013年にBig Seanに客演したControlという曲で、ケンドリックはドレイクなどたくさんのラッパーを滅茶苦茶にDisったのですが、Jay-Zはこの曲のラインを引用して、ラッパーが自分たちのレコードの売り上げに殺されることを暗示したんです。ケンドリックはそのリスペクトに返すように、Jay-Zのラインを引用し返しています。

曲の最後には、以下の読詩が入っています。

I remember you was conflicted, misusing your influence

この意味はまた後程。


4曲目:Institutionalized

King Kuntaでは音楽業界にも他のラッパーにも唾を吐き、手に入れた影響力と成功でラップ界の頂点に立つことを自信満々に主張していますが、この曲では、故郷であるコンプトンにより植え付けられたトラウマがまだ彼の精神に潜んでいることを表現してます。(詳しくは下記記事をご覧ください)

What money got to do with it
When I don't know the full definition of a rap image?
ラップが描く世界の完全な定義がわからないのに、お金と何の関係があるんだ?

このgood kid, m.A.A.d cityの最重要曲である「Real」で何度も登場した以下のラインと似たようなリリックでつづることで、RealでのテーマであったRealization、すなわち自分が何のためにラップしているのかの気づきを忘れないように肝に銘じています。

But what love got to do with it when you don't love yourself?
でも、自分を愛していないのに、愛がどう関係があるんだ?


ただ一方で、お金がないころ、すなわちラッパーとしてデビューする前のコンプトンのような生活には戻りたくないと強く思っているわけです。

I'm trapped inside the ghetto and I ain't proud to admit it
俺はゲットーに縛り付けられてた。すごく惨めだったよ
Institutionalized, I keep runnin' back for a visit, hol' up
がんじがらめなのさ あの頃にもう一度戻ろうとしてしまっている

ここでのゲットーとは、コンプトンはもちろん、そこから逃れられない彼の魂、そして進行形で囚われている富・名声という罠のことかもしれません。

If I was the president I'd pay my mama's rent
もし俺が大統領だったら母親の家賃も払うし
Free my homies and them
地元の仲間も開放して
Bulletproof my Chevy doors
俺のシボレーのドアも防弾仕様にするだろう

コンプトン育ちの彼は、たとえ大統領であっても、発想がゲットーにいる黒人が妄想するような域から出ないのです。
すなわち未だにコンプトンにInstitutionalized、捉われているのです。


捉われているのはケンドリックだけではありません。

K Dizzle will do it for you, my niggas think I'm a god
俺様がお前に施してやる、あいつら俺のことを神かなんかと思っているだろ
Truthfully all of 'em spoiled, usually, you're never charged
正直言ってあいつらは騙されている、金なんか払われないぜ
But somethin' came over you
だけどお前には何かが見えたんだよな
once I took you to them fuckin' BET Awards
お前をBETアワードに連れて行ったときさ
You lookin' at artistses like they're harvestses
お前はまるで農作物か何かみたいな目で出てくるアーティストを見てたよな
So many Rollies around you and you want all of 'em
会場のそこら中にロールスロイスが止まってたけど全部欲しくなったんだろ
Somebody told me you thinkin' 'bout snatchin' jewelry
んで稼ぐために宝石を盗もうって思ったらしいな

ここでは彼がBETアワードに連れて行った、ゲットー出身で、貧しい黒人に囲まれて育った男を用いてそれが表現されています。
BETアワードに出席しているような裕福で成功した黒人アーティストを目の当たりにした男の中で何かが目覚め、富を手に入れ、それを見せびらかすことへの憧れを抱き、盗みを働いてでも成し遂げようと思ってしまうのです。

このような富への憧れが黒人の中にInstitutionalizedされているのです。

また、途中ラッパーを農作物に例えていますが、これは意図的です。
ラッパーを農作物、レコード・レーベルを彼らを選ぶ農夫として暗示しています。
1曲目2曲目で見てきたように、レコード会社は彼らが短期的に利益を上げさえすれば、彼らの継続的な成功には必ずしもこだわりません。もし彼らの腕前が持続的に作品を生み出すほどでは無ければ彼らは解雇され、再び別の収穫のサイクルが始まります。このような流れはレコード業界にてInstitutionalized、制度化されているものです。

I should've listened when my grandmama said to me:
ばあさんが俺に言ってたことをちゃんと聞いてりゃよかったんだ
"Shit don't change until you get up and wash yo' ass, nigga
「クソはクソのままだ。決心してケツを拭こうとするまでずっと。」

実はこのような行為は、ケンドリックの祖母に忠告されていたことに暗示されていました。
つまり、自分の行いを清めない限り、人生において良い方向に変化することはないということです。他人からどのような施しを受けようと、誰かが何かのために実際に努力するまでは、それが何であれ、得たものに対する真の評価は得られないということです。


5曲目:These Walls

曲の開始時、読詩がさらに進みます。

I remember you was conflicted, misusing your influence
Sometimes, I did the same

さて、この曲は非常に難解です。
この曲はWallに3つの意味を込めています。

一つ目は「女性器の膣壁」、二つ目は「人種の壁」、三つ目は「刑務所の壁」です。

一つずつ見ていきます。
まず曲の前半では、ケンドリックがある女性と肉体関係を持つ様がかなり直接的に描かれています。

If these walls could talk
もし君のアソコが言葉を話すとしたら
I can feel your reign when it cries, gold lives inside of you
アソコがグチャグチャになっている時 君に支配されている気分になる
黄金を君の中に感じるんだ
If these walls could talk
もし君のアソコが話せるとしたら
I love it when I'm in it, I love it when I'm in it
挿れてる時が最高なんだ

しかしどうやらこの女性には複雑な事情があるようです。

If these walls could talk, they'd tell me to swim good
もしアソコが言葉を話すとしたら俺に上手く泳げって言うだろうな
No boat, I float better than he would
ボートもなしにな まあ俺はアイツなんかより上手いが
No life jacket, I'm not the God of Nazareth
ライフジャケットなんていらないさ、俺はキリストみたいに海の上を歩けはしないけど
But your flood can be misunderstood
でもそんなに濡れてちゃ誤解されてもしゃあないな
Walls telling me they full of pain, resentment
お前のアソコが、死ぬほど辛い思いをしていてイライラしてるって言ってる
Need someone to live in them just to relieve tension
ただその気持ちを埋めるためにヤりたいんだろ

ケンドリックに抱かれている女性には何かつらいことがあって、その寂しさを埋めているのだとか。
そのつらいことは何か?それこそがこの曲の肝です。

さて、曲中では話が変わり、別のWallについてのリリックになります。
二つ目の壁の意味、「人種の壁」です。

If these walls could talk, they'd tell me to go deep
もし壁が喋るなら、もっと奥にって言うだろうな

この時点では、ただの性的な意味に聞こえます。
実際ダブルミーニングではあるんですが、ここから人種の壁の話に移っていくのです。

Yelling at me continuously, I can see
ずっと俺にそう叫んでくる、俺にはわかる
Your defense mechanism is my decision
君たちの防衛本能を決定するのは俺だ
Knock these walls down, that's my religion
その壁を破壊しなくちゃ それが俺の信条
Walls feeling like they ready to close in
壁が今にも襲いかかってくる
I suffocate, then catch my second wind
ずっと息苦しい思いをしてきてそれに慣れてしまった
I resonate in these walls
俺がどんだけ叫んでも壁の中で反響するだけ
I don't know how long I can wait in these walls
この壁の中でどれだけ待てばいいんだ

公民権運動からこの時点で50年。
いくら奴隷が開放されようと、いくら法的に平等と記されても、人種の壁は存在し続け、それは黒人を捉え続けてきた、というのは彼がこれまでの曲でも訴えてきたことです。

さて、次のバースではいよいよ全ての謎が明らかになります。
曲の雰囲気もネオソウルらしいセクシーなものから一気にシリアスなものに変化します。

If your walls could talk, they'd tell you it's too late
もしその壁が言葉を話せるとしたら もう手遅れだってお前に言うだろうな
Your destiny accepted your fate
そういうもんなんだ 受け入れろ それがお前の運命

三つ目のWallの意味は、「刑務所の壁」でした。
どうやら刑務所の中にいる男を糾弾しているようです。

Burn accessories and stash them on the yard
仲間を売って牢屋にぶち込んだんだろ
※accessoryは密告された人の事
Take the recipe, the Bible and God
“The Recipe”と聖書と神をしっかり信じろ
Wall telling you that commissary is low
壁はお前にこう言うだろうな、配給所がしょぼいって
Race wars happening, no calling CO
人種関連でもめても看守に言えねえよな
No calling your mother to save you
マッマに助けを求められねえよな
Homies to say you're irrepetible, not acceptable
お前の仲間だったやつらも完全に見捨ててるよ
Your behavior is Sammy the Bull like
サルヴァトーレ・グラヴァーノみたいなやつだな
※サルヴァトーレ・グラヴァーノ (Sammy “The Bull” Gravano)は所属するマフィアを裏切り、ボスを差し出した、裏切り者の代名詞

どうやら男は刑務所にいるようですが、自身の刑期を軽くするために仲間を裏切った卑怯者のようです。
しかし、この犯罪組織にいるわけでもないケンドリックが彼を恨む理由があるのでしょうか?

Walls telling you to listen to "Sing About Me"
壁はお前にこう言うだろう、”Sing About Me”を聴けって
Retaliation is strong, you even dream 'bout me
復讐ってのはしぶといもんだ お前の夢にも出てやる
Killed my homeboy and God spared your life
お前は俺のダチを殺したけど 神はお前の命を奪わなかった
Dumb criminal got indicted same night
その日の夜には起訴されたみたいだが

Sing About Meとは、前作「good kid, m.A.A.d city」に収録された「Sing About Me, I’m Dying of Thirst」という曲の事です。
この曲では、Kendrick Lamarの友人であるDaveとその兄がギャングに殺されたことが綴られています。
その殺した男こそ、刑務所の中にいるこいつのことだったのです。

そして次のバースではいよいよ最初にセックスしていた女の意味が分かります。

So when you play this song, rewind the first verse
もう一回この曲を最初から聞いてみろ
About me abusing my power so you can hurt
お前を傷つけるために権力を濫用した俺が見れるから
About me and her in the shower whenever she horny
発情したお前の女が俺と一緒にシャワーを浴びている様子が見れるから
About me and her in the after hours of the morning
俺とお前の女の事後が見れるから
About her baby daddy currently serving life
終身刑で服役中のお前
And how she think about you until we meet up at night
そんなお前について、彼女がどれだけ考えてるかが分かるから
About the only girl that cared about you when you asked her
お前がシャバに出てきた時お前のことを気にかけてくれるのはあの女だけ
And how she fuckin' on a famous rapper
そんな女は"有名ラッパー"に取られたんだけどな

つまり、最初にやっていた女は、刑務所に入った男の夫だったわけです。
ケンドリックは殺された友人への復讐行為として、ラッパーである自分の名声と権力を使ってこの女を寝取ることに成功したのです。

ただしケンドリックはこの行為で良心の呵責も感じており、この曲は殺人、欲望、誘惑、復讐、罪悪感のサイクルから逃れられていないことを表現しているのです。
それは、この曲でも読まれる詩によってわかります(和訳は後述)。

I remember you was conflicted
Misusing your influence
Sometimes I did the same
Abusing my power, full of resentment
Resentment that turned into a deep depression
Found myself screaming in a hotel room


6曲目:u

このアルバムで最も暗い曲です。“These Walls”で復讐の鬼と化したケンドリックですが、同時に罪の意識も持っていました。そしてそこからケンドリックの怒りにも嘆きにも聞こえる強烈なラインから始まります。

Loving you is complicated, loving you is complicated
お前を愛することは難しい

曲の内容は、uに対する痛烈で陰鬱な批判が続きます。

I place blame on you still, place shame on you still
お前はゴミで恥さらしだ
Feel like you ain't shit, feel like you don't feel
お前はクソッタレだ、何も感じないんだろ
Confidence in yourself, breakin' on marble floors
お前の自信を大理石の床の上にぶちまけてやる
Watchin' anonymous strangers, tellin' me that I'm yours
何も知らない連中がお前をほめたたえるだろう
But you ain't shit, I'm convinced your tolerance nothin' special
でもお前はクソだしお前が耐えたことなんて大したことない
What can I blame you for? Nigga, I can name several
理由をいくつか教えてやる
Situations, I'll start with your little sister bakin'
お前の妹は妊娠してたな
A baby inside, just a teenager, where your patience?
10代だけど身籠っていたわけだがお前は何をしてたんだ?
Where was your antennas?
お前はどこを見てたんだ?
Where was the influence you speak of?
お前の言葉に重みを感じないが?
You preached in front of one-hunnid-thousand but never reached her
何万人もの前で声を上げてたけど妹にすら届いてねえじゃねえか
I fuckin' tell you fuckin' failure—you ain't no leader!
お前はクソみたいな失敗者でリーダーじゃない
I never liked you, forever despise you—I don't need ya!
お前を好きになることは一生ないし軽蔑する、お前なんかいらない

こっぴどくdisられていますが、ここでの批判の対象は誰でしょう?Uncle Sam?黒人社会?音楽業界?刑務所の男?

違います。ここでの批判の対象は、ケンドリック・ラマー自身です。

彼はgood kid, m.A.A.d cityで華々しくデビューしました。あらゆる賞を取り、商業的にも批評的にも大成功をおさめます。
一方で、自身のルーツであるコンプトンや、愛すべき家族や仲間を省みることを忘れてしまうのです。

彼の妹は10代なのに妊娠してしまい、仲間は殺される。
そんな身近なことさえ解決できないケンドリックが、ヒップホップの新たな顔役としてラップする資格があるのか、という矛盾に辿り着いてしまいます。

実際この時期のケンドリックは上述の矛盾に対する公開に苦しみ、鬱病を患っていました。


しかし彼はそんな内向きの気持ちでは終わりません。
全てを乗り越えて、次のメッセージを吐いていくのです。


7曲目:Alright

この曲なくしてKendrick Lamarは絶対に語ることができないと断言できるほど彼の代表曲であり、アンセムであり、非常に大きな影響力を持った楽曲です。

Alls my life, I has to fight, nigga
俺は人生をかけて戦わなくちゃいけない
Alls my life, I—
人生すべてをかけて
Hard times like, "Yah!"
辛いかもしれない
Bad trips like, "Yah!"
悪い夢かもしれない
Nazareth
神よ
I'm fucked up, homie, you fucked up
俺はキレてる、おいお前らもそうだろ
But if God got us, then we gon' be alright
だけど神は俺たちのそばにいる。俺たちは大丈夫さ
Nigga, we goin’ be alright
俺たちは大丈夫さ
Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright
聞こえるか?感じるか?俺たちは大丈夫さ!

「We goin’ be alright」
非常にシンプルなフレーズですが、シンプルだからこそ心をうつ。

何に対して大丈夫なのか?
今まで批判してきたUncle Sam?黒人社会?音楽業界?刑務所の男?
それともKendrick Lamar自身?

それを紐解くため、リリックを見ていきましょう。

Uh, and when I wake up
目を覚ますと
I recognize you're looking at me for the pay cut
お前らが俺の給料を見ているのが分かった

これまでも繰り返し語られてきたように、音楽業界は黒人アーティストそのものをケアしているわけではなく、経済的な目的のためだけに求めています。
これは一般市民にも似た構造があり、企業は常に黒人の消費者をターゲットにして、高価で不必要なものを買わせようとしているわけです。

But homicide be looking at you from the face down
でも殺人が威圧的にお前の方を向く
What MAC-11 even boom with the bass down?
なんでサイレンサーがあるのにMAC-11から銃声が鳴るんだろうな?

ここでのhomicide、殺人は警察による黒人の殺害です。
George Floydの件でご存知の方も多いと思いますが、アメリカでは警官による黒人の殺害がずっと社会現象になっています。

MAC-11とは銃の名前ですが、この銃には銃声のノイズを最小化するサイレンサーが付いています。それを暗喩として用い、煽動がないのになぜ銃が発砲されるのか、と主張しているのです。

Schemin', and let me tell you 'bout my life
俺の人生について語らせてくれ
Painkillers only put me in the twilight
Where pretty pussy and Benjamin is the highlight
鎮痛剤、女、金は一時的な快楽しかもたらなさない

繰り返し書いてきたように、ケンドリックは音楽業界から様々な一時的な誘惑にさらされています。

Painkillerというのはオピオイドという鎮痛剤のことで、今アメリカでは甚大な社会問題となっている薬です(日本では麻薬扱いで違法。Princeはこれで命を落とした)。
Benjaminはベンジャミン・フランクリンのことで、100ドル札の肖像画に描かれていることからお金の象徴として使われています(日本で"諭吉"がお金を指すようなもの)

それらをtwilight、すなわち黄昏時に置くことで、彼自身がオピオイド・女・金へ依存することで、より暗い場所へと突き進んでいることを表現しています。


Now tell my momma I love her, but this what I like, Lord knows
俺は母親に愛してると伝えたし、本心だ
Twenty of 'em in my Chevy, tell 'em all to come and get me
シボレーに仲間を20人乗せてバカなこともしたが
Reaping everything I sow, so my karma coming heavy
自分で蒔いた種は自分に返ってくるから俺のカルマも重くのしかかるだろう
No preliminary hearings on my record
予備審問は受けたことないけども
※予備審問(preliminary hearing)は、アメリカで刑事裁判の前に起訴するに足るかを判断する手続きの事。ここでは、前科はないという意味
I'm a motherfucking gangster in silence for the record, uh
俺は黙々と音楽を作るクソギャングスタ
Tell the world I know it's too late
世界中に教えてやる、もう手遅れだってわかってるってこと
Boys and girls, I think I've gone cray
俺に憧れる少年少女たちよ、俺は狂ってんだよ
Drown inside my vices all day
自分自身の悪に囚われて苦しんでいる
Won't you please believe when I say
でもいいか、俺の言うことを信じてくれ

ケンドリックは自分の罪や悪事に屈することで、自分だけでなく母親を傷つけてしまうかもしれないなど、全てを恐れています。
ただ、それら人生における問題を認識しながらも、それを無視することを選んだのです。

自分のカルマを変えるにはもう遅すぎることを悟り、矛盾を抱えながらも、自分の運命をただ受け入れ、ラッパーとして言葉を届けるしかないと誓ったのです。

Wouldn’t you know
We been hurt, been down before, nigga
俺たちがずっと虐げられてるのを知ってんだろ?
When our pride was low
Lookin’ at the world like, “Where do we go, nigga ?”
俺たちが自信を無くしてた頃、どうなっちまうんだ?って思ってたよな
And we hate po-po
Wanna kill us dead in the street for sure, nigga
俺たちを殺したくてうずうずしている警察が本当に嫌いだ
I’m the preacher’s door
My knee gettin’ week and my gun might blow
俺は牧師の前でずっと跪いていたから膝にキテる、銃をぶっ放すかもしれないが
But we goin’ be alright
俺たちは大丈夫さ

"Wouldn't you know"は、自分の状況に驚きや失望を表現するための慣用句です。あえてこの表現を使うことで、矛盾性を抱えながらも黒人たちにメッセージを伝えようとしています。

黒人はマイノリティであり、社会的に抑圧される立場ですが、誇りを失わないことは重要であるし、声を上げ続けることも大切であると説いているのです。

特に象徴的に取り上げられているのが、警察の黒人に対する暴力・殺人です。
先ほども取り上げられましたが、ここではwe hate po-poとさらに直接的な表現を用いています。

ちなみにこのラインは、アメリカの大手保守系メディア、Fox Newsによって名指しで批判されました。

いや~な感じで取り上げられているのが分かると思いますが、次回作DAMN.収録のDNA.という曲でケンドリックはこれをボコボコにDisります。


さて、話を元に戻しましょう。

What you want you, a house⁠? You, a car?
何が欲しい?家か?車か?
Forty acres and a mule? A piano, a guitar?
40エーカーの土地にラバか?ピアノか?ギターか?
Anything, see my name is Lucy, I'm your dog
なんでも買えよ。俺の名前はルーシー。俺はお前の下僕さ。
Motherfucker, you can live at the mall
お前はショッピングモールにいるようなもんさ

1曲目Wesley’s Theoryとほぼ同じラインです。
違いは、Uncle SamがLucyになっていること。

このルーシーが何か?は次のラインで明らかになります。

I can see the evil, I can tell it I know when it’s illegal
俺はお前が悪魔だってわかってるし、違法だってのもわかる

Lucyとは何か?それは悪魔ルシファーのことだったわけですね。
ゲーテの戯曲「ファウスト」では、悪魔は主人公を欺くために犬の形になりますが、それと同じように人間に化けてケンドリックに近づこうとしているわけです。

つまり、ケンドリック、ひいては黒人コミュティにとって、Uncle Samはルシファーの悪魔のささやきのような、破滅の道へ続く誘惑をぶら下げているということです。

とにかく、Uncle Samぐらい悪者であろうルーシーに向けてしっかりNoをつきつけます

I can see the evil, I can tell it I know when it’s illegal
俺はお前が悪魔だってわかってるし、違法だってのもわかる
I don’t think about it, I deposit every other zero
お前の誘惑なんて見向きもしない、0がいくらあったって貯金する
Thinkin’ of my partner put the candy, paint it on the regal
ビュイック・リーガル(車)がキャンディペイントの隣人のことを考え
※短期的な誘惑の最たるものは、隣の芝が青く見えること。ここでは隣人の車をみてうらやましいと思うような衝動を押さえつけるという意味
Diggin’ in my pocket ain’t a profit, big enough to feed you
俺のポケットをあさったってなんもないぜ
Everyday my logic, get another dollar just to keep you
毎日頭を使ってルシファーを閉じ込めるために働くんだ

これはある種の開き直りみたいなものです。
この時点で決意しようと、一度その快楽を享受したことには変わらないからです。

しかし、人間というのは必ず弱い部分があるもの。黒人を励ますような良いことや、自身のスキルを誇示するようなポジティブなメッセージだけでなく、弱い部分、悪い部分も等しくラップをする、誠実なラッパーであることを宣誓するのです。

I rap, I black on track so rest assured
僕はトラックの上で気を失うまでラップするから安息も保証されているんだ
My rights, my wrongs; I write 'til I'm right with God
俺の正しい部分、俺の間違っている部分全てをラップするんだ、死ぬまでな

実は、前のアルバム、good kid, m.A.A.d city収録のPoetic Justiceでも、悪事もきちんと書き記すことで救われるということを言ってたりします。

I could never right my wrongs ‘less I write it down for real
真実を書き記さない限り、自分の過ちを正すことはできない

さっきの「u」という曲からも分かるように、彼は自信が抱える矛盾に悩まされ、鬱病に悩まされます。
この曲は、自分への批判からは逃れられないながらも、鬱病と戦うことを約束し、先ほどの宣誓を胸に戦うことを決意するのです。

I keep my head up high
上を向いて生きていこう
I cross my heart and hope to die
心に誓うが死にたいときもある
Lovin’ me is complicated
自分を愛することは難しい
Too afraid of a lot of changes
多くの変化が俺にとっては恐ろしい
I’m alright, and you’re my favorite
俺は大丈夫だ、君は俺の仲間だ
Dark nights in my prayers
暗闇の中で祈りを捧げよう

ケンドリックは自分のことを高く評価はしていないものの、彼のことを尊敬する人々・ファンが沢山います。そういう人たちこそ、彼が前進するための光であり、困難を乗り越えて上を向き続ける活力となるのです。

この曲は、黒人たちに俺たちは大丈夫だと鼓舞する曲であると同時に、自分自身は大丈夫だと無理矢理開き直っている曲でもあるのです。

この曲がなぜKendrick Lamarを語る上で欠かせない超重要曲なのか?
それは別記事にて詳述予定です。

そして読詩はさらに続きます。

I remember you was conflicted
Misusing your influence, sometimes I did the same
Abusing my power full of resentment
Resentment that turned into a deep depression
Found myself screamin' in the hotel room
I didn't wanna self destruct
The evils of Lucy was all around me
So I went runnin' for answers

8曲目:For Sale? (Interlude)

Alrightで出てきたルシファーの人物像について、より深い洞察を与えてくれる曲です。

タイトルから明らかなように、この曲は2曲目のFor Free? (Interlude)と対になっています。
For Free? (Interlude)を思い出すと、男をATM扱いする女をアメリカと黒人の関係になぞらえていた曲でした。

この曲では、その女の正体が明らかになります。

You said Sherane ain’t got nothing on Lucy
ルーシー、お前はシェレーンとは何も関係がないというけど
I said you crazy
それはおかしいよ

シェレーンというのは、前作good Kid, m.A.A.d Cityに出てきた、ケンドリックの恋人で、ギャングの娘だった女性ですね。

ルーシーは悪魔。ルーシーは君の恋人と俺には何の関係もないと言うわけですが、For Free? (Interlude)で金の亡者になっていたように、ケンドリックから見るとシェリーンは悪魔に取りつかれているようにしか見えません。
だからこそ、ケンドリックはcrazyと反論します。

ルーシーが以下にケンドリックを誘惑するか、次のバースで克明に描かれていきます。

I remember what you said too, you said
ルーシー、俺はお前にこう言ったんだ
"My name is Lucy, Kendrick, you introduced me, Kendrick
「ケンドリック、俺はルーシーさ、呼んでくれてありがとな。
Usually I don’t do this but I see you and me, Kendrick
あんまこういうことはしねえんだけど会えてよかったぜ
Lucy give you no worries, Lucy got million stories
俺といれば安心だしいろんなことを教えてやれるぜ
About these rappers that I came after when they was boring
俺の元にすがってきたつまんねえラッパーどもの話とか
Lucy gon' fill your pockets
お前のポケットを金でいっぱいにしてやるよ
Lucy gon' move your mama out of Compton
お前の母親をコンプトンから解放させてやることもできるさ
Inside the gi-gantic mansion like I promised
前言ったようなバカでかい豪邸に移してやることもできる
Lucy just want your trust and loyalty, avoiding me?
俺が求めるのはお前の信頼と忠誠、退けるなんて言わないよな?
It's not so easy, I'm at these functions accordingly
それはよくねえな、色々やり方ってのはあるもんだぜ
Kendrick, Lucy don't slack a minute, Lucy work harder
俺は時間がねえんだよ、ハードワーカーと言えどもな
Lucy gon' call you even when Lucy know you love your Father
たとえお前が主を愛していると知っていてもな
I'm Lucy, I loosely heard prayers on your first album, truly
お前が前のアルバムで祈ってるのを何となく聞いたけど
Lucy don't mind, 'cause at the end of the day you'll pursue me
俺はあんま気にしねえでおく、最終的には俺のもとに来るって知ってるからな
Lucy go get it, Lucy not timid, Lucy up front
俺はやるぜ、ひるまねえし正々堂々と
Lucy got paperwork on top of paperwork
死ぬほど書類仕事があるが(悪魔との契約のため)
I want you to know that Lucy got you
お前はもう俺のものだって気づけ
All your life I watched you
お前のことを子供の頃からずっと見てたぜ
And now you all grown up to sign this contract, if that’s possible"
十分大人になっただろ、さあこの契約書にサインしたまえ」

ルーシーは様々な誘惑をちらつかせ、ケンドリックと悪魔の契約を結ぶように迫ってきます。

For Free?(Interlude)では、ミュージシャンや有名人がフレックスしないといけない、ないしは派手でなければならないという信念を育む文化を批判していました。
この曲ではそのアナロジーという形で、ブリング・カルチャーや、契約にサインして前金を受け取れば遊び放題になるというありがちな構造に重ねて批判しているわけです。

※フレックス(flex)とはラッパーが金持ちアピールすること、ブリング・カルチャー(bling culture)はギンギラのチェーンやアクセサリーを付けまくること


そして読詩はさらに続きます。

I remember you was conflicted
Misusing your influence, sometimes I did the same
Abusing my power full of resentment
Resentment that turned into a deep depression
Found myself screamin' in the hotel room
I didn't wanna self destruct
The evils of Lucy was all around me
So I went runnin' for answers
Until I came home


9曲目:Momma

Alrightで、ケンドリックは以下のように宣言しました。

I rap, I black on track so rest assured
僕はトラックの上で気を失うまでラップするから安息も保証されているんだ
My rights, my wrongs; I write 'til I'm right with God
俺の正しい部分、俺の間違っている部分全てをラップするんだ、死ぬまでな

ケンドリックは、良いことも悪いこともすべて含めて、ラップをし続けることを宣言したわけです。
そうやって自分の音楽にのめりこむことで、アドレナリンが出て、よりやる気が引き起こされたようです。

This feelin' is unmatched
他にはない最高の気分さ
This feelin' is brought to you by adrenaline and good rap
アドレナリンとラップのおかげだ

For Free? (Interlude)で分かるように、ケンドリックはルーシーの誘惑を受けてきたわけですが、For Sale? (Interlude) で分かるようにそれに耐え、今はラップをし続けることで正しい道を歩もうとしています。

Thank God for rap
この世にラップがあってくれて感謝しかない
I would say it got me a plaque, but what's better than that?
勲章を取ったこともあるが、これ以上にいいことがあるかって?
The fact it brought me back home
それは俺を正しい道へ帰してくれたことだ

そしてこの曲ではケンドリックが色んなものを知っているんだとラップしていきます。
それはきっと、トップラッパーとしてフィーチャーされ、色んな誘惑に耐えながらも、哲学的に考え続け、曲を書き続けて知っていったことです。

I know everything, know myself
俺はなんでも知ってるぜ、自分のことも
I know morality, spirituality, good and bad health
道徳も、精神性も、健康の良し悪しも
I know fatality might haunt you
お前を襲う運命さえも

まるでケンドリックが傲慢かのように見えますが、これは決して違います。
ケンドリックが辿り着いたのは、無知の知です。

I know what I know, and I know it well not to ever forget
何に詳しいかってことも自分で分かってるし忘れない
Until I realized I didn’t know shit, the day I came home
クソみたいなことはまるで知らないってことに気づく時まで、それこそが俺が真の場所に帰り立つ時

その無知を自覚するまで、自分が何を知っているのかは決して忘れることがない。これこそまさに無知の知、というわけですね。
ケンドリックは名声の中で自分を見失いかけていたわけですが、無知の知をしり、正しい場所に帰還することで地に足をつけ、より謙虚になり、視野を広げることができた、というわけです。

このアルバムで散々出てきたUncle Samやルーシーはこれとは対照的な存在です。彼らは何でも知っていて、なんでも与えられると言います。それは無知の知とは真逆の姿勢であり、それを思うと彼らの愚かさも際立ちます。

リリックの中でhomeというのが言及されていますが、ケンドリックは自分のhomeをより深く探るため、黒人、すなわちアフリカン・アメリカンの真なるルーツであるアフリカに旅をします。

I met a little boy that resembled my features
俺によく似た少年に会ったんだ
Nappy afro, gap in his smile, hand-me-down sneakers
縮れ毛で笑うと出っ歯が出て、おさがりのスニーカーを履いた
Bounced through the crowd
人込みをかき分けて
Run a number on man and woman that crossed him
自分に逆らう奴には誰であれ楯突くような

その中でケンドリックは南アフリカで様々な出会いをします。
この少年は、ケンドリックが子供の頃と同じような外見と行動をしており、彼と同じような特徴を持っているのがわかります。
この少年はケンドリックの子供時代の人生と、大人になった現在の彼の姿を映し出しており、子供であるにもかかわらず、ケンドリックに色々なアドバイスを与えます。

そしてそのアドバイスはこのように締められるのです。

But if you pick destiny over rest-in-peace
だが、安らぎよりも運命を選ぶなら
Then be an advocate, tell your homies, especially
提唱者にならないのなら、仲間にこう伝えてほしい
To come back home"
故郷に戻って来い、と

この子供は、コンプトンで育った自分を映し出しているわけですが、その子供はケンドリックに「アーティストとしての運命を追い求め、過去を捨て去ろうとするのであれば、ケンドリックがそうしたように、"家に帰ろう"、つまりアフリカのルーツに戻るようにと、まだこの街に留まっている友人たちに言うべきだ」と言ったわけです。
そうすることで、彼らが人生の新たな目的と意味を見出し、自分自身と互いに平和を作り出せるというわけです。

コンプトンでは、人々はいまだに不利な制度に抑圧され、紛争が絶えません。ケンドリックは、貧困や暴力から逃げ、目をそらすのではなく、変化をもたらすための提唱者となることで、アフリカ系アメリカ人コミュニティに恩返しをし、成長を促し、南アフリカのような美しい場所に変えたいと決意したのです。


10曲目:Hood Politics

この曲では、主に自分のラッパーとしての政治との向き合い方、アメリカの政治、ヒップホップそのものへの意見をラップしています。

まず冒頭、ものすごいパンチラインから始まります。

I don't give a fuck about no politics in rap, my nigga
政治に触れないようなラップなんて価値がない

日本では特にこの傾向が強いですが、音楽に政治を絡めることを良しとしない勢力が一定数います。
売上だけ考えれば、政治的信条が異なる人々をファンとして獲得できない危険性もあるので、避けるアーティストも多いです。

一方でヒップホップというのは、出自が黒人のリアルを届けるラップであり、その立場上政治に触れない時点で偽物だときっぱり言い切るのです。
実際、このアルバムでも多数の政治問題に触れていますよね。

そしてセカンドバースでは、Hood Politics、すなわち地元の政治についてラップしていきます。
地元はご存知コンプトン。治安は最悪で、政治なんてないようなものです。常にギャングが権力争いをしていて、Bloods(赤のギャング)なのかCrips(青のギャング)なのが大事、どの道に住んでいるのかが大事、反対する者は銃殺…
ケンドリックはその全てを馬鹿馬鹿しいと切り捨てます

Streets don’t fail me now, they tell me it’s a new gang in town
ストリートは嘘をつかない、コンプトンの新しいギャングだって教えてくれたよ
From Compton to Congress, set trippin’ all around
コンプトンから国会まで自分の縄張りを確認してるんだな
Ain’t nothin’ new, but a flu of new Demo-Crips and Re-Blood-licans
よくあることだな、裏金や縄張り争いしてんだろ
Red state versus a blue state, which one you governin’ ?
ブラッズかクリップスか。お前はどっちなんだ?

I been A-1 since day one, you niggas boo boo
そんなのくだらねえな、俺は一流さ
Your home boy, your block that you’re from, boo boo
お前の家にいる子供、お前の地元、ぜんぶくだらねえ

次の矛先はヒップホップ全体です。

Everybody want to talk about who this and who that
みんなあいつが何したどうだったなんて話をしたがってる
Who the realest and who wack, or who white or who black
誰がリアルで誰がワックか、誰が白人で誰が黒人か
Critics want to mention that they miss when hip-hop was rappin'
批評家どもはヒップホップがただの言葉遊びになっているなんて言うが
Motherfucker, if you did, then Killer Mike'd be platinum
くそ野郎が、じゃあKiller Mikeがプラチナじゃなきゃおかしいだろうが

ヒップホップが政治的メッセージを代弁するようになって久しいですが、その役割が薄れてきていて、言葉遊びばっかしている、というのが音楽評論家のありがちな批判です。
それに対してケンドリックは硬派でコンシャスなリリックで有名なKiller Mike (Run the Juwelsのメンバー)を引き合いに、批評家を批判します。

批評家の言うことが心の底からの落胆であれば、Killer Mikeはもっと支持されるべきだし、そのレコードは批評家の後押しで売れて、プラチナ・アルバムぐらい獲得しているべきだろう、ということです。

そしてヒップホップ最大の悲劇である東西抗争についても言及します。

I'm the only nigga next to Snoop that can push the button
Had the Coast on standby
俺は次のスヌープ・ドッグになれる唯一の男だ
東海岸に向けたミサイルのボタンだって押せちまう

東西抗争については東西抗争についてはこちらの記事で解説しています。

詳しくは解説しませんが、ケンドリックがラッパーとしてあまりにも影響を持ちすぎて、スヌープ・ドックレベルの影響を持っており、自分の言葉次第でまた東西抗争のようなことが起こりかねないと言っているわけです。

ただ、もちろんケンドリックが争いを好むわけがありません。
このアルバムでも、前のアルバムでも、ケンドリックの姿勢は徹底していて、争いは好まず、平和的な解決を望んでいます。

しかし一方で、King Kuntaの解説でも触れたように、ケンドリックはBig Seanに客演したControlという曲でいろんなラッパーを名指しでDisりまくります。

And that goes for Jermaine Cole, Big K.R.I.T., Wale
お前ら、J. コール、Big K.R.I.T.、ワーレイ
Pusha T, Meek Millz, A$AP Rocky, Drake
プシャ・T、ミーク・ミルズ、エイサップ・ロッキー、ドレイク
Big Sean, Jay Electron', Tyler, Mac Miller
ビッグ・ショーン、ジェイ・エレクトロニカ、タイラー・ザ・クリエイター、マック・ミラー
I got love for you all but I’m tryna murder you niggas
おまえらのことは嫌いじゃないが、皆殺しだ

しかしこれが完全にDisなのかというとかなり微妙で、むしろ名前があげられている人たちはケンドリックに意識されているとも言え、当時言及されなかったラッパーが大量にSNSなどで反応したのです。

そしてもちろん名前を出されたラッパーのファンも対応しました。
その反応の大きさから、自身の影響力の大きさと、下手したら東西抗争が再来しかねない危険性に気づいたのです。

"K. Dot, what up? I heard they opened up Pandora's box"
ケンドリック、調子はどうだ?あいつらパンドラの箱を開けちまったらしい
I box 'em all in, by a landslide
だからあいつらまとめて箱の中に放り込んだ
Nah, homie, we too sensitive, it spill out to the streets
なあ、みんな過敏すぎるんだよ、ストリートにまで影響が出ちゃってさ

東西抗争を仲介したのは東海岸のJay-Zと西海岸のDr.Dreです。
ケンドリックは、あえてJay-Zのラインを引用し、ヒップホップ業界が過敏で、それゆえの危険性を孕んでいることに警鐘を鳴らしています。

I make the call and get the Coast involved, then history repeats
また東と西で争うのか、歴史は繰り返す
But I resolved inside that private hall while sitting down with Jay
だけどそんなのはごめんだから、もしそんなことがあってもJay-Zのように仲介する
He said, "It's funny how one verse could fuck up the game"
Jay-Zは言ってた、「ひとつのバースでゲームがめちゃくちゃになるなんて面白いね」と

そして曲の終わりには詩がぐっと進みます

I remember you was conflicted
Misusing your influence
Sometimes I did the same
Abusing my power full of resentment
Resentment that turned into a deep depression
Found myself screaming in a hotel room
I didn't want to self-destruct
The evils of Lucy was all around me
So I went running for answers
Until I came home
But that didn't stop survivors guilt
Going back and forth
Trying to convince myself the stripes I earned
Or maybe how A-1 my foundation was
But while my loved ones was fighting a continuous war
Back in the city
I was entering a new one


11曲目:How Much a Dollar Cost

再三解説してきましたが、このアルバムではケンドリックがラッパーとして成功したことで、Uncle SamやLucyといった悪者に誘惑され、そこから逃れようとしています。
そして自身が真に戻るべくHomeを探すため、ルーツである南アフリカを旅していたというのを9曲目のMommaで解説しました。

この曲は、その南アフリカのガソリンスタンドで出会ったホームレスについて描かれているものです。

Walked out the gas station
ガソリンスタンドを出ると
A homeless man with a silly tan complexion
日に焼けたホームレスがいた
Asked me for ten Rand, stressin' about dry land
そいつが俺に、10ランド(ほぼ1ドル)恵んでくれ、土地が痩せてどうしようもないとせがむ
Deep water, powder blue skies that crack open
深い水、割れるようなパウダーブルーの空 ※ヘロインのこと
A piece of crack that he wanted, I knew he was smokin’
そいつが欲しいのはクラックだ、見りゃわかる
※クラックはコカインの一種。80~90年代にアメリカの黒人でも爆発的に流通し社会問題となった危険な麻薬。
He begged and pleaded
そいつはしつこかった
Asked me to feed him twice, I didn’t believe it
ならご飯を恵んでくれってせがんできた、そんなの信じられねえ
Told him, “Beat it”
だから失せろって言ったんだ
Contributin’ money just for his pipe, I couldn’t see it
麻薬をやるための金を恵むなんてありえない

しかし、会話が終わった後もずっと男はケンドリックのことを見てきます。
ケンドリックに如何に金があるとは言えども、奇妙なほどに。
ケンドリックは逆に興味が湧いて、その理由を探ろうとします。

A reason why he was mad at a stranger like I was supposed to save him
どうして俺みたいなよそ者にお前が俺を助けてくれるはずじゃないのかって怒ってるのか
Like I’m the reason he’s homeless and askin’ me for a favor
お前のせいで俺はホームレスになってるんだって言われてるみたいだ

すると彼がさらに喋り始めます。その内容は、聖書についてでした。
※ケンドリックは敬虔なキリスト教徒です

Have you ever opened to Exodus 14 ?
出エジプト記の14章を読んだことはあるか?
A humble man is all that we ever need
ああいう謙虚な人間こそ必要なんだ
Tell me how much a dollar cost
1ドルの価値ってのはどれくらいなのか教えてくれよ

出エジプト記の14章とは、超有名なモーセが海を割る話です。

モーセは、恐怖で混乱したイスラエルの民を安全な場所へと導くわけですが、彼は非常に謙虚な人物だったとされています。
実際、民数記12章3節には以下の一節があります。

Now the man Moses was very humble, more than any man who was on the face of the earth.
モーセという人は、地上のだれにもまさって非常に謙遜であった

民数記12章3節

ケンドリックは、モーセのように模範を示して導くような人になってほしい。
ホームレスの男はそのようなことを言い始めたのです。

He looked at me and said, “Your potential is bittersweet”
そのホームレスは俺を見ながら「お前の可能性は苦いな」って言った
I looked at him and said, “Every nickel is mines to keep”
俺は「5セントすら全部俺のもんだ」って返したんだ
He looked at me and said, “Know the truth, it’ll set you free
そうしたらあいつは「真実に目を向けろ、そうすれば楽になる
You’re lookin’ at the Messiah, the son of Jehova, the higher power
お前の目の前にいるのはメシア、ヤハウェの子、偉大なる存在
The choir that spoke the word, the Holy spirit, the nerve of Nazareth,
俺の言葉には、聖なる魂とキリストの意志が宿っているんだ
and I’ll tell you just how much a dollar cost
そしてお前に1ドルの価値を教えてやる
The price of having a spot of Heaven, embrace your loss,
それはお前が天国に行けるかどうかの分水嶺だ。過ちを悔い改めなさい。
I am God”
俺は神だ」

ケンドリックにとって1ドルなんてどうでもいい存在です。しかし、このホームレスにとって1ドルは死活問題。
ただ、ケンドリックはこの時点で欲に囚われているため、こんな状況でもホームレスに1ドルを与えません。

そしてホームレスの男は、ケンドリックがいかに欲に囚われているかを自覚させるため、自分の正体をだと明かしたのです。
そしてその1ドルを苦しむ者へ分け与えるかどうかが、天国へ行けるかどうかを決定づけるのだと言ったのです。

実際、聖書では裕福な人が天国に行くのはほとんど不可能だとされています。

富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい

マタイによる福音書19

実はこのガソリンスタンドの寓話自体、聖書に出てくる話と似たような教訓なのです。

人の子は、栄光に輝いて天使たちを皆従えて来るとき、その栄光の座に着く。
そして、すべての国の民がその前に集められると、羊飼いが羊と山羊を分けるように、彼らをより分け、羊を右に、山羊を左に置く。
そこで、王は右側にいる人たちに言う。『さあ、わたしの父に祝福された人たち、天地創造の時からお前たちのために用意されている国を受け継ぎなさい。お前たちは、わたしが飢えていたときに食べさせ、のどが渇いていたときに飲ませ、旅をしていたときに宿を貸し、裸のときに着せ、病気のときに見舞い、牢にいたときに訪ねてくれたからだ。』
すると、正しい人たちが王に答える。『主よ、いつわたしたちは、飢えておられるのを見て食べ物を差し上げ、のどが渇いておられるのを見て飲み物を差し上げたでしょうか。いつ、旅をしておられるのを見てお宿を貸し、裸でおられるのを見てお着せしたでしょうか。いつ、病気をなさったり、牢におられたりするのを見て、お訪ねしたでしょうか。』
そこで、王は答える。『はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである。』
それから、王は左側にいる人たちにも言う。『呪われた者ども、わたしから離れ去り、悪魔とその手下のために用意してある永遠の火に入れ。お前たちは、わたしが飢えていたときに食べさせず、のどが渇いたときに飲ませず、旅をしていたときに宿を貸さず、裸のときに着せず、病気のとき、牢にいたときに、訪ねてくれなかったからだ。』
すると、彼らも答える。『主よ、いつわたしたちは、あなたが飢えたり、渇いたり、旅をしたり、裸であったり、病気であったり、牢におられたりするのを見て、お世話をしなかったでしょうか。』
そこで、王は答える。『はっきり言っておく。この最も小さい者の一人にしなかったのは、わたしにしてくれなかったことなのである。』
こうして、この者どもは永遠の罰を受け、正しい人たちは永遠の命にあずかるのである。

マタイによる福音書25章31~46節:「羊と山羊」

そしてケンドリックは深く反省し、自分の罪を赦してもらうよう、神に縋りついて祈るのです。


12曲目:Complexion (A Zulu Love)

この曲は真正面から人種差別について取り扱った曲です。

まずタイトルのZuluですが、これは南アフリカに居住するズールー族のことです。

そしてcomplexionというのは見た目。
ここでは、肌の色のことを指します。

Uh, dark as the midnight hour or bright as the mornin' sun
夜中のように真っ黒か、朝日のように明るいか
Give a fuck about your complexion, I know what the Germans done
そんな肌の色なんてどうでもよくて、ドイツ人やったことだってわかってる

ドイツ人がやったことというのはホロコーストのことです。
ユダヤ人ほどではなかったものの、黒人も対象でした。

あるいは、ドイツの植民地だったルワンダで起きた大虐殺のことかもしれません。
大虐殺当時、既に植民地ではなかったものの、植民地支配をする際に起きた民族の分断が大虐殺に繋がったのは事実です。


ルワンダでは1994年に民族対立に端を発した大量虐殺が発生。国民の20%が殺された

そして奴隷制をほうふつとさせる表現も数多くあります。

Sneak me through the back window, I’m a good field nigga
後ろの窓からこっそりきた、俺は農業に長けてんだ
I made a flower for you outta cotton just to chill with you
お前と遊ぶために綿花を作ってるんだ
You know I’d go the distance, you know I’m ten toes down
足の指は切り落とされたけど頑張るぜ
Even if massa listenin’, cover your ears, he ‘bout to mention
もし主人になんか言われても耳をふさげ、あいつらはすぐ俺らの肌の色の違いについて洗脳しようとしてくるから

綿花は三角貿易下で黒人が栽培していた典型的な農作物。
また、奴隷制では逃亡を防ぐため足の指を切り落とすということがよくありました。

そしてここでのお前というのは奴隷仲間でしょう。
実は、奴隷同士で肌の色などを意識させ、互いに対抗させることで奴隷を支配しやすくなることが知られており、これをWilliam Lynch theoryと言います。

そんな理論には絶対にNoを突きつけなければなりません。
Hood Politicsや、前アルバムgood kid, m.A.A.d cityで繰り返し訴えてきたように、黒人間で揉めても何も良いことはないのです。

Let the Willie Lynch theory reverse a million times with...
ウィリー・リンチの唱えた理論に何万回でも逆らおう

つまり、黒人同士が敵対せずに団結し、差別に立ち向かおうと訴え。
そして、差別に立ち向かいつつ、黒人であることを誇れとも訴えます。

Loving thy color of your skin, color of your eyes
自分の肌の色、自分の瞳の色を愛せよ

If you don’t see your beautiful in your complexion
It ain’t complex to put it in context
もし自分の肌の色を美しいと思えないなら
そこに意味を見出すのはそんなに難しいことではない

If you like it, I love it, all your earth tones been blessed
もしあなたが自分の肌の色を好きになれるのなら、私は好き、大地が恵む褐色に祝福を
Ain’t no stress, jiggaboos wanna be
気にすることじゃないわ、黒ん坊と呼ばせておけばいい
※jiggabooは黒人という意味の侮蔑語

黒人であることは誇ることであり、もし黒人への差別用語であるjiggabooと言われたところで気にする必要はないとまで言っています。

公民権運動の時にはファンクの王様であるJames Brownが黒人であることを声高に誇れと訴えましたが、時代を超えて現代でも同じことを訴えています。
そしてそのためにはまず仲間うちでいがみ合うのをやめるべき、それがそもそも被差別者を弱めるための仕組みだと言っているわけですね。



13曲目:The Blacker the Berry

このアルバムの代表曲の一つです。

タイトルは、ケンドリックが崇拝するラッパーである2Pacの曲であるKeep Ya Head Upのラインから引用されています。

Some say the blacker the berry, the sweeter the juice
黒人は肌が黒いほど人間性に富んでいるなんて言うが
I say the darker the flesh then the deeper the roots
肌の色が濃いほどそのルーツは深いと思うんだよな

2Pac - Keep Ya Head Up

さて、本題に戻りましょう。
まずこの曲の最初は不思議なイントロから開始します。

Everything black, want all things black
何もかも黒であればいい
I don’t need black, want everything black
黒なんていらねえ、何もかも黒であればいい
Don’t need black, our eyes ain’t black
黒なんていらねえ、俺の目は黒くないぜ

1曲前で散々黒人であることを誇れというメッセージを伝えてきたケンドリックが、黒を拒絶する理由はどこにもないはずです。
しかしこの曲では、誇りに思いたい黒人というアイデンティティには、受け入れがたい問題もあるというのを提示しています。

その問題とはなにか?
それはBlack-on-Black crime、すなわち黒人から黒人への暴力です。

It's such a shame, they may call me crazy
キチガイ呼ばわりされるのは恥ずべきことだ
They may say I suffer from schizophrenia or somethin'
奴らは俺が精神異常かなんかだと言うんだろうな
But homie, you made me (You, you, you, you, you)
でも同胞たちよ、お前らがこうしたんだ
Black don't crack, my nigga
黒人は瓦解しない

前アルバムgood kid, m.A.A.d cityで克明に描写されたように、ケンドリックの故郷は黒人だらけの街で、暴力や殺害が絶えず行われていました。
それはつまり、Black-on-Black crimeが日常だったことを指します。

そしていよいよこの曲は、衝撃的なパンチラインから始まります。

I'm the biggest hypocrite of 2015
俺は2015年最大の偽善者だ
※2015年はこのアルバムの発売年
Once I finish this, witnesses will convey just what I mean
この曲が終わったら私の言いたいことが伝わるだろう

偽善者?ケンドリックが?となるわけですが、その真意は曲の最後にわかるんだと。どういうことなのでしょうか?

I’m guardin’ my feelings, I know that you feel it
俺は自分の感覚を大事にしている、わかるだろ
You sabotage my community, makin’ a killin’
お前らは俺らのコミュニティを妨害して、それが殺人を生んでいる
You made me a killer, emancipation of a real nigga
お前らが俺を成功者にした、そしてそれが真の黒人の解放だ

黒人コミュニティ、その中でも貧困層では犯罪に走る人が絶えません。
それはなぜか?当然生活が苦しいからというわけですが、始まりがそれであっても助長させるブースターは白人層のたくらみであることがあります。

代表的なのが、80年代のクラックブームです。
クラックとは、コカインの一種です。

このクラック、80年代にアメリカで(特に貧困層に)非常に流通します。
そしてこのクラックの密売が、白人主体のCIAによって組織されたニカラグアの反政府右翼武装組織コントラの資金源だったということが分かったのです。
彼らは何千、何万もの殺人につながる薬物を導入することで利益を得た、ということです。

そんな白人層や社会の制度によってもたらされた抑圧された環境。
もちろんそれを作った奴らが悪いのは言うまでもありません。
そしてケンドリックはこのアルバムでもそのことについて様々な形で言及してきました。

この曲でも引き続きそういったことを批判し続けています。

Curse me 'til I'm dead, church me with your fake prophesizing
俺がくたばるまで呪い続けるといい、偽物の預言でごまかせばいいさ
That I'ma be just another slave in my head
その預言ってのはこうだ 俺の頭の中身なんて奴隷と大差ない
Institutionalized manipulation and lies
制度化された支配と嘘
Reciprocation of freedom only live in your eyes
自由になったことの代価はお前らにしか見えてないのに

ここでの呪いというのは、アメリカの白人奴隷所有者が奴隷制を正当化するために用いた「ハムの呪い」のことです。

あるとき、ノアはぶどう酒を飲んで酔い、天幕の中で裸になっていた。カナンの父ハムは、自分の父の裸を見て、外にいた二人の兄弟に告げた。セムとヤフェトは着物を取って自分たちの肩に掛け、後ろ向きに歩いて行き、父の裸を覆った。二人は顔を背けたままで、父の裸を見なかった。 ノアは酔いからさめると、末の息子がしたことを知り、こう言った。「カナンは呪われよ/奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ。」また言った。「セムの神、主をたたえよ。カナンはセムの奴隷となれ。神がヤフェトの土地を広げ(ヤフェト)/セムの天幕に住まわせ/カナンはその奴隷となれ。」

新共同訳創世記9章21-27節 この記述が黒人奴隷の正当化に用いられた

これは、人種差別のない社会に生きていると信じている人々や、制度的な人種差別は存在しないとする人々に対するメッセージです。

しかし一方で、主役である黒人はどうなんだ、と。
環境のせいにしてはいて、それは事実ではあるんですが、実際に行動を起こすのは黒人です。

Complexionで見てきたように、黒人であることは誇るべきこと。
しかし、本当に誇れるような行動をとれているのでしょうか

The blacker the berry, the sweeter the juice
黒人は肌が黒いほど人間性に富んでいる
The blacker the berry, the bigger I shoot
でも黒いほど、派手にブッ放す

Hookのこのラインは、黒人の犯罪に対するケンドリックの怒りと嘆きを端的に表したものです。
黒いことは誇りです。何なら黒ければ黒いほど良いという言葉まであります。それなのに、実際の黒人は犯罪に手を出しているのです。
こんな状況で、胸を張って黒人であることを誇れるのでしょうか?

黒人の犯罪率は、群を抜いて高いです。
学位を持たない黒人は、就職率より収監率の方が高いぐらいです。


It's funny how Zulu and Xhosa might go to war
ズールー族とコサ族が戦争になりそうだなんてちゃんちゃらおかしい
Two tribal armies that wanna build and destroy
自分たちの繁栄と相手の破滅を願ってやまない民族たち
Remind me of these Compton Crip gangs that live next door
コンプトンのクリップスを思い出す
Beefin' with Pirus, only death settle the score
あいつらもブラッズをいかに殲滅できるかを争ってたから

ズールー族は前曲Complexionでも取り上げられていた南アフリカの黒人民族です。実は南アフリカにはズールー族以外にも多数の黒人民族を抱えており、その中でもコサ族が第二勢力として控えています。

彼らは民族間で対立しているのですが(そしてこれも白人が仕掛けたアパルトヘイトの影響が大きかったりするのですが)、そういうのって本質的におかしいよねと。
good kid, m.A.A.d cityで散々見てきたように、コンプトンでもクリップスとブラッズがずっと対立していますが、こういった黒人同士で殺り合うのはおかしい話だと訴えていきます。

So don't matter how much I say I like to preach with the Panthers
どれだけ俺がパンサーと共に窮状を訴えても無駄なんだよ
Or tell Georgia State "Marcus Garvey got all the answers"
どれだけ俺がジョージア州に対して「マーカス・ガーベイは正しかった」と言ったとしても

マーカス・ガーベイは1900年代にジャマイカで黒人解放運動を率いたジャマイカの国民的英雄で、20ジャマイカドル硬貨の肖像にもなっている人です。
マーカスはパン・アフリカ主義を説き、アメリカ大陸とカリブ海地域の社会的不平等を克服するためにインフラを再構築しました。

ケンドリックは2013年に、パンサーがマスコットであるジョージア州立大学でパフォーマンスをしています。

そしてジョージア州立大学では、英語の授業でgood kid, m.A.A.d cityが取り扱われていたりします。

ケンドリックは、そんな風に自分が説いているようなことや、英雄が実現しようとしている未来と、黒人社会で実際に起こっていることに大きなギャップを感じざるを得ません。

So why did I weep when Trayvon Martin was in the street ?
なのになぜ俺はトレイボン・マーティンが死んだ時に泣いたんだ?
When gang banging make me kill a nigga blacker than me ?
ギャングの抗争が俺より肌の黒い仲間を殺した時はどうだったんだ?
Hypocrite !
この偽善者が!

トレイボン・マーティンとは、2012年に警察のジョージ・ジマーマンに射殺された黒人男子高校生です。
この事件は全米中で問題となり、最初期のBLM運動のきっかけになりました。

左:トレイボン・マーティン、右:ジョージ・ジマーマン

ケンドリックも当然この事件に対して深い悲しみを抱き、涙します。
しかし彼は同時に一つの疑問に至るのです。

黒人が非黒人に撃ち殺された事件に対しては悲しみが湧き上がるのに、黒人が黒人を殺しているコンプトンや黒人貧困街の現実で同じことを思っているのか?と。

どちらも黒人が殺されていることには変わりません。しかし、片方は非黒人→黒人の殺害であるため社会問題となり、他方はただのギャングのいざこざとして見て見ぬふりをする。
それこそが冒頭で語られた偽善である、ということです。

これをBLMのアンセムであるAlrightと同じアルバムに入れていることに、ケンドリックの強い矜持を感じざるを得ません。


14曲目:You Ain’t Gotta Lie (Momma Said)

タイトルはこれもまたケンドリックが崇拝するラッパー、2Pacの曲から拝借しています。
Lie to Kick It」という曲です(You ain't got to lie to kick itというラインがある)


さて、The Blacker the Berryで自分の偽善性に気づいてしまったケンドリック。彼は黒人の若者たちが陥りがちな暴力に巻き込まれないように提言しているものの、前作good kid, m.A.A.d cityで表現されているように自分もその一員だった日が確かにありました。
黒人同士の暴力さえ止められない、それどころか見て見ぬふりをしていた。そんな自分が声高に人種差別などを訴えるラップをしてもよいのか。

しかし、そんな不安も、母親にはお見通しだったそうです。

Hey, hey, babe, check it out, I'ma tell you what my mama had said, she like:
おい、母親が言ってたことを教えてやる
I could see your insecurities written all on your face
「お前の不安は顔を見れば全部書いてある
So predictable your words, I know what you gonna say
だから何が言いたいかも全部わかるよ。」

しかしこの不安に対する母親なりの答えというのは、実は前作good kid, m.A.A.d city収録の「Real」で既に出されていました。

"If I don't hear from you by tomorrow, I hope you come back and learn from your mistakes.
母「明日までに連絡がなかったら、戻ってきて失敗から学んでほしい。
Come back a man, tell your story to these black and brown kids in Compton.
戻ってきてコンプトンの黒人と茶色の子供たちに自分の話をして
Let 'em know you was just like them, but you still rose from that dark place of violence, becoming a positive person.
お前も彼らと同じように暴力の暗い場所から立ち上がって肯定的な人間になったと伝えなさい。
But when you do make it, give back with your words of encouragement, and that's the best way to give back. To your city...
だが成功したら、励ましの言葉で恩返しをしなさい。それが街に恩返しをする最善の方法だよ
And I love you Kendrick, if I don't hear you knocking on the door you know where I usually leave the key. Alright? Talk to you later, bye.
そしてケンドリック、愛してる。ドアをノックする音が聞こえなかったら... いつもどこに鍵を置いているか知ってるでしょ?また後でね、バイバイ。」

ケンドリックの母は、若い子供たちに正しい生き方を伝えるように伝えているわけです。
それこそがリアルであり、他の誰かのために演技をする必要はないと。

Circus acts only attract those that entertain
口先だけのサーカスは気まぐれにすぎない
Small talk, we know that it's all talk
ただの世間話と変わらない

エンターテイナーとして演技してラップするだけなら口先だけのサーカス団に過ぎないと。それでは真のリーダーとしての器と言っているわけですね。
つまりここでのメッセージは一つ。自分の性格や行動を偽って周りに合わせる必要はない、ということです。

You ain't gotta lie to kick it, my nigga
イキるために噓をつく必要はないんだよ

そもそもAlrightでの決意を思い出してください。

My rights, my wrongs; I write 'til I'm right with God
俺の正しい部分、俺の間違っている部分全てをラップするんだ、死ぬまでな

ケンドリックは、自分がどんな悩みを抱えていようと、どんな矛盾を抱えていようと、それが偽善であろうとも、彼は真実をラップするべきなのです。
なぜなら、正しいことも間違っていることも全てラップするというのが彼の仕事だから。

Askin’ “where the hoes at ?” to impress me
「地元はどこだ?」ってのは自分をデカくみせるために聞いてるんだ
Askin’ “where the moneybags ?” to impress me
「金の入ったカバンは?」ってのも
Say you got the burner stashed to impress me
「あのバカを隠した」なんてのもな
It’s all in your head, homie
全部お前の思い込み

The loudest one in the room, nigga, that’s a complex
一番煩い奴ってのはやっかいだ
Let me put it back in proper context
筋の通った話をするべきだ

一番煩い奴、つまり自分の置かれた状況を盛ったりして騒いでいる奴というのは、自身の不安をごまかそうとしているだけで、それを真に解決する気概はない。
これは、American Gangsterという映画にも似たようなセリフがあります。

The loudest in the room is the weakest in the room.
部屋で一番煩い奴が一番弱い奴なんだ

ケンドリックは多くの話を誇張するラッパーをけん制しつつ、自分にも言い聞かせています。

What do you got to offer ?
お前に何ができるんだ?
Tell me before we off ya, put you deep in the coffin
何もできないんならお前は暴力と攻撃性を助長するだけだな

good kid, m.A.A.d cityでRealを伝えることをRealizationしたように、回りまわってケンドリックは同じ決意をするのです。
もしリアルを伝えず、嘘をついて、ポジティブな影響を持てなかったら…
それは今までと何も変わらず、人種差別とそのシステムも存在したままで、Black on black crimeも継続し、偽善も解決しないでしょう。

だからこそ彼は全てリアルに、たとえ間違っていようとも心の底をラップするのです。


15曲目:i


いよいよアルバムはクライマックスに突入していきます。
そしてこのアルバムの最重要曲の一つです(捨て曲なさすぎるけどね!)

最初にアイズレー・ブラザーズのメンバーであるRonald Isleyのセリフで幕を開けます。

Is this mic on? (Hey, move this way, this way)
マイク入ってるか?
Hey, Hey! Hey! Turn the mic up, c'mon, c'mon
音量を上げてくれ
Is the mic on or not? I want the mic
マイク入ってるよな?
We're bringing up nobody, nobody
今日ここにいるのは他でもない
Nobody but the number one rapper in the world
世界一のラッパーだ
He done traveled all over the world
世界中を旅してきた
He came back just to give you some game
俺らに伝えることがあるって今日ここに来たみてえだ
All of the little boys and girls, come up here
少年少女よ、みんなこっちにこい
Come right here, this is for you, come on up
こっちにこい、お前らのためのラップだ
Kendrick Lamar!
ケンドリック・ラマーの登場だ!

そしてケンドリックの迫真のラップが始まります。

I done been through a whole lot
俺はいろんなことを経験してきた
Trial, tribulation, but I know God
試練、苦難、だけど神は俺の味方をしているはずだ
The Devil wanna put me in a bow tie
悪魔は俺を殺したがるが
※bow tie=蝶ネクタイは葬式の象徴。Devilは言うまでもなくLucyのこと。
Pray that the holy water don't go dry
聖水が渇かないことを祈るのみ
As I look around me
周りを見渡せば
So many motherfuckers wanna down me
いろんなやつが俺を引きずり降ろそうとしているが
But enemigo never drown me
だが俺は決してくらわない
In front of a dirty double-mirror they found me
汚れたマジックミラーの前で俺の真の姿がわかっただろうな

アルバムの中盤でLucyに悩まされたケンドリックでしたが、それも信仰と経験で跳ね除ける。
マジックミラーごしに人々はケンドリックの姿を見ているが、マジックミラーなのでケンドリックから人々のことを完璧に見れているわけではない。
そしてそのマジックミラーは汚れていて、決してケンドリックは清廉潔白な人間ではないかもしれない。

振り返ると、6曲目の「u」で彼は深刻な自己嫌悪に陥り、鬱病を罹患しました。
次世代のヒップホップの王者としてあまりにも華々しく成功したことで、富や名声につられ、家族や仲間、故郷をないがしろにし、そのことを悔やんで深刻な鬱状態になっていましたね。

タイトルでも明らかなように、この曲は「u」の対立、「i」。
ケンドリックが最終的にたどり着いた結論、それは自分自身を愛することでした。

And I love myself
だけど、俺は自分自身を愛するんだ

このアルバムでは色んなテーマを扱ってきました。
黒人の大量消費への誘導と搾取、音楽業界の似たような構図、警察の残虐行為、宗教、Black on black crimeと偽善など。
しかし、最終的なメッセージはシンプル。この世界には色々な暗部があるが、まず自分自身を愛すれば、それ以外のものを愛せるようになる

ケンドリックは大手音楽誌の『ローリング・ストーン』誌にこう語っています

If you sit around moping, feeling sad and stagnant, it’s gonna eat you alive.
悲しい気持ちや閉塞感でモヤモヤしていたら、生きているうちに蝕まれてしまう。
I had to make that record. It’s a reminder. It makes me feel good.
だからあの曲を作ったんだ。いつでも思い出させてくれる。いい気分にさせてくれるんだ。

The Trials of Kendrick Lamar

そして、前作good kid, m.A.A.d city収録の「Real」でも愛について言及していました。

But what love got to do with it when you don't love yourself?
でも、自分を愛していないのに、愛がどう関係があるんだ?

自分自身への愛がなければ、誰も愛することはできないんです。

Huh, when you lookin' at me, tell me what do you see? (I love myself)
俺のことを見てたんだろ、何が見えたか教えてくれよ?(俺は自分自身を愛するんだ)
Ahh, I put a bullet in the back of the back of the head of the police (I love myself)
警察の頭に銃弾を撃ち込んでやる (俺は自分自身を愛するんだ)
Uh, illuminated by the hand of God, boy, don't seem shy (I love myself)
神の手で照らされているんだから恥じることはない (俺は自分自身を愛するんだ)
One day at a time, huh
一日を大切に
They wanna say it's a war outside, bomb in the street
みんな、外は戦争状態、ストリートは爆弾だらけ
Gun in the hood, mob of police
地元は銃で汚され、警察が暴れている
Rock on the corner with a line for the fiend
悪魔を求めてクラックを買うために行列するとか
And a bottle full of lean and a model on the scheme, uh
リーンで満たされた瓶や犯罪計画のモデルとかであふれてる、って言いたがるけれども

ギャングの抗争、暴力、警察とその腐敗、クラック、リーンの使用など。
様々なネガティブなことを今までラップしてきました

もちろんこういった現実を伝えるのは非常に重要ですが、憎しみをさらに広げる可能性を孕みます。
そのため、こう言った曲と同時にポジティブなメッセージ、自己愛についてラップすることに挑戦しているのです。

Dreams of reality's peace (Oh, yeah)
現実での平和を夢見て
Blow steam in the face of the beast
ルーシーのような野獣には煙を吐き捨て
Sky could fall down, wind could cry now
空が落ちてきて 風が泣き叫ぶ
Look at me motherfucker I smile-
And (I love myself)
くそ野郎ども見ておけ、俺は笑って自分を愛する

そして同様に、過剰にネガティブなことを発信する人、そういったメッセージを自分に求める人、自分を傷つけてくる人たち。
皆に対して、自己愛を宣言するのです。

Peace to fashion police, I wear my heart
クレーマーにピースを、俺は心の内を明かすぜ
On my sleeve, let the runway start
ランウェイを始めよう
You know the miserable do love company
「人は悲惨な状況になると仲間が欲しくなる」ってことわざあるだろ
What do you want from me and my scars?
俺と俺の傷から何を得たいんだ?
※聴衆がケンドリックに同じように傷ついてもらい、慰めてほしがってもらっているということ
Everybody lack confidence, everybody lack confidence
みんな自信がないみたいだが
How many times my potential was anonymous?
何度俺はポテンシャルが隠れかけたんだ?
※ケンドリックはデビューまで時間がかかった
How many times the city making me promises?
何度この街は俺に約束した?
So I promise this, nigga
だから俺は約束する
And (I love myself)
自分を愛するってな

そして本当の戦いとは、武器を使って戦うものではなく、自分の内側にあるもの、つまり自分自身を愛するための内なる闘いである、と宣言します。


そしてラップし終わると、黒人たちはざわつき始めます。
黒人社会は統率が取れておらず、ケンドリックから自己愛を説かれても吞み込めていないのです。
せっかく南アフリカを含む世界中の旅から戻ってきたのに、些細なことで黒人同士で言い争っており、そのメッセージは届いていないのです。

ケンドリックはそんな聴衆をいさめます。

Not on my time, kill the music, not on my time
今は俺の時間だ、音楽を消せ、俺の時間にそういうことをするな
We could save that shit for the streets
俺たちはストリートを平和に出来るんだ
We could save that shit, this for the kids, bro
俺たちは未来を救えるんだ、子供たちのためなんだよ
2015, niggas tired of playin' victim, dog
2015年、もう黒人が被害者扱いされるのはうんざりだろ!

そして聴衆たちに問いかけるのです。

How many— Yan-Yan, how many we done lost?
何人の仲間が死んだ?
No for real, answer the que—, how many niggas we done lost bro?
そんな正確じゃなくていいから、何人死んだんだ?
This—, this year alone
今年だけで

しかし、聴衆たちは「そんなことに答えてる暇はない」と冷たくあしらいます。なぜなら、仲間が死ぬというのは彼らにとって日常であり、大した問題ではないからです。
ケンドリックはそれを理解しつつも、これは大事なことなんだ、お前らが暇じゃないのは分かっているが重要だから時間を取ってでも伝えると返すのです。

The judge make time, you know that, the judge make time, right ?
刑期を決めるのは裁判官だ。知ってるだろ?
The judge make time so it ain’t shit
だから重要なんだ
It shouldn’t be shit for us to come out here and appreciate the little bit of life we got left, dog
俺らが現状を打破して残された時間を楽しむのは絶対に重要だ
On the dead homies, Charlie P, you know that, bro
死んでいった仲間のことだけど、チャーリーPを知ってるだろ?
※チャーリーPはチャーリー・パーカーのことで、偉大なジャズ音楽家だったが薬物で破滅した人物
It’s__ it’s mando, right, it’s mando
薬物などにおぼれず前向きに進む、これはやらなくちゃいけないんだ
And I s__I__And I__And I say this because I love you niggas, man
俺が…俺がこんなことを言ってるのはお前らを愛してるからなんだよ
I love all niggas, bro
全員を愛してるんだ

そしてある程度聴衆を鎮めることに成功したケンドリックは、ここから怒涛のフリースタイルをします。
このアルバムの一つのハイライトです。

それが、Nワードについての話。
このアルバムの最初を振り返ると、最初、"Nigger"という言葉の認識を変え、黒人のプライドを鼓舞するきっかけになった曲である「Every Nigger is a Star」のサンプリングから幕を開けました。


一方で、ケンドリックは射殺された友人であるDave (前作good kid, m.A.A.d cityの「Swimming Pools (Drank)」のアウトロで殺されている) から以下のようなお願いをされていました。

I promised Dave I'd never use the phrase "fuck nigga"
俺はデイヴと約束したんだ 二度と”fuck nigga”なんて言葉は使わないって
He said, "Think about what you saying: "Fuck niggas"
あいつはこういった。「お前は“fuck niggas”って言うけど、
No better than Samuel on the Django
映画『ジャンゴ 繋がれざる者』のサミュエル・ジャクソンと同じだぞ
No better than a white man with slave boats”
奴隷船を持ってる白人と変わんないぜ」と。
Sound like I needed some soul searching
それで俺は自分の魂を省みないといけないって思ったんだ

映画『ジャンゴ 繋がれざる者』のサミュエル・ジャクソンは、白人主人に非常に忠実で、仲間である黒人奴隷を救う行動はせず、害のある行為は積極的に行うという悪役でした。
”fuck nigga”なんて言葉を使うことは、この黒人奴隷と同じだと言っている訳です。

So I’ma dedicate this one verse to Oprah
だからこのバースはOprah Winfreyに捧げる
On how the infamous, sensitive N-word control us
Nワードがどれだけ不名誉で、センシティヴかの話だから

Oprah Winfreyというのはアメリカでは知らない人がいないくらいの超有名人です。
日本で言うとマツコ・デラックスさんのような存在で、様々な番組で司会をし、トークショーをし、人気を博してきました。
そしてLGBTQ+や黒人など、マイノリティに裾野を広げる行為も積極的にしてきた方です。

彼女は「Nワード」の否定派でもあり、ラッパーなど数々の黒人の有名人とNワードに関する議論を交わしています。

ただケンドリックは彼女を尊重しつつも、彼なりのNワードとの向き合い方を見つけます。

Well, this is my explanation straight from Ethiopia
エチオピアから拝借したNワードの説明だけど
N-E-G-U-S definition: royalty; king royalty - wait listen
N-E-G-U-S、という言葉に由来しているんだ。その意味は、王族。
N-E-G-U-S description: black emperor, king, ruler, now let me finish
N-E-G-U-S、黒人の皇帝、王様、統治者って説明されているんだ。もうお会わらせよう
The history books overlook the word and hide it
歴史書はその言葉を見落として隠している

”nigga”という単語は、エチオピアで「王族」を意味する“negus”に由来する。高潔で、偉大な言葉であり、差別的な意味はないはずである、と。

America tried to make it to a house divided
アメリカは内部分裂させようとしてただけだ
The homies don't recognize we been using it wrong
俺たちがそれを誤用してきたことを気付いていないだけだ
So I'ma break it down and put my game in a song
だから俺が咀嚼して曲に落とし込んだ
N-E-G-U-S, say it with me, or say it no more
N-E-G-U-S、一緒に叫べ

奴隷同士で肌の色などを意識させ、互いに対抗させることで奴隷を支配しやすくなるというWilliam Lynch theory。
黒人同士のいざこざで破滅を呼びまくっていたのは今までも見てきたとおりです。Nワードについてもそれは同じだったわけですね。

Nワードの誤用は自己嫌悪を増強させる。ある種制度化(Institutionalized)された自己嫌悪だったわけです。
I love myselfというメッセージは、そういった自己嫌悪に対する解毒剤であり、自己を肯定するために必要なものだったのです。

Black stars can come and get me
ブラックスターラインが俺を迎えにくるかもな
Take it from Oprah Winfrey, tell her she right on time
それをオプラ・ウィンフリーから奪い取って、あんたの言う通りだって言うんだ

Oprah Winfreyはケンドリックにインタビューしたことはありませんが、彼はオプラを支持します。ブラックスターラインは、マーカス・ガーベイの主導したアフリカ帰還運動の象徴です。

余談ですが、イギリスを代表するロックの巨人であるDavid Bowieは2016年に遺作を発表し、発表の二日後に死去します。
このアルバムのタイトルは「★ (Blackstar)」であり、To Pimp A Butterflyが直接のインスピレーションだったことは非常に有名です。
そのアルバムでのBlackstarでは様々な意味が込められていますが、iのこのラインもその一つであることは間違いないでしょう。


さて、ケンドリックは最後にこのように締めくくります。

Kendrick Lamar, by far, realest Negus alive
ケンドリック・ラマーこそ今世界でダントツ一番リアルなNEGUSなのさ

ケンドリック・ラマーこそ今世界でダントツ一番リアルなNEGUSなのさ、と。
かっこよすぎる、かっこよすぎますね…


この曲はアルバムの先行シングルでもあり、シングルでは少しアレンジが異なります。そちらもぜひご覧ください。


16曲目:Mortal Man

遂に最後の曲です。

11曲目のHow Much a Dollar Costや、前曲のiでもわかるように、ケンドリックは世界中を旅し、その中でも南アフリカを中心に様々な気付きを得ました。
ところで、南アフリカが黒人にとってどの様な国かご存知でしょうか?

南アフリカはアフリカ経済の牽引国で、黒人にとって希望の星であると同時に、最近まで人種差別が公然と行われていた負の歴史を持つ国でもあります。
そう、アパルトヘイトです。

アパルトヘイトのような人種隔離をsegregationというのですが、これは公民権運動前のアメリカでも公然と行われていたことであり、人類にとっては二度と行ってはいけない恥ずべきもの、そして黒人にとってはぬぐい切れない怒りの対象でもあります。
アメリカのsegregationを撤廃すべく動いたリーダーは、知らぬ人はいないキング牧師ですが、南アフリカのアパルトヘイトを撤廃すべく動いたリーダーと言えばネルソン・マンデラです。


ネルソン・マンデラ。反アパルトヘイト運動を率いるが終身刑に。
アパルトヘイト廃止後釈放され、初の人種に依らない選挙によって大統領に就任。

この曲は、ケンドリックがネルソン・マンデラのように黒人を反体制のリーダーとして引っ張っていくという決意で始まります。

The ghost of Mandela, hope my flows stay propellin'
ネルソン・マンデラの霊が俺のフロウを鼓動させる
Let these words be your Earth and moon, you consume every message
この言葉たちがみんなの地球や月のように当たり前に消費されるんだ

ネルソン・マンデラが率いたように、自分がリーダーとなる。
ネルソン・マンデラがそうなったように、自分の言葉を当たり前にする。

そういう決意を一つ固めたうえで、ケンドリックは強い問いかけをします。

As I lead this army, make room for mistakes and depression
俺はこの隊を率いるが、時々過ちや落胆をもたらすことはあるかもしれない
And with that being said, my nigga, let me ask this question:
だけど俺は一つだけ、聞きたいことがあるんだ
When shit hit the fan, is you still a fan?
クソなことがあっても、俺のファンで居続けることができるか?

When shit hit the fan, is you still a fan?
クソなことがあっても、俺のファンで居続けることができるか?
 と。

ケンドリックは自分が完ぺきでないことを認識しています。それはこのアルバムの前半で欲望にまみれて自分が仲間や家族、地元の問題といった本来大事にすべきものから目を背けていたことや、How Much a Dollar Costたった1ドルを本当に必要な人に与えず自分のために堅持しようとしたことから明らかです。
なので、ケンドリックはリーダーとして言葉を吐き続けますが、彼が間違いを犯し、常にベストを尽くせるわけではないことを受け入れる必要があるのです。

これはケンドリックがこのアルバムの後も強く持ち続ける意見であり、例えば次のDAMN.というアルバムに収録されたLOYALTY.という曲ではタイトルがそのまま「忠誠心」ですし、更にその次のアルバムの Mr. Morale & The Big Steppers収録のN95という曲ではキャンセル・カルチャーに明確にNoを突きつけています。

What the fuck is cancel culture, dawg?
キャンセル・カルチャー*ってクソったれたものは何なんだよ?

N95より

キャンセル・カルチャーとは、社会的に好ましくない発言や行動をしたとして個人や組織をSNSなどで糾弾し、不買運動を起こしたり、ボイコットしたりすることで、社会から排除しようとする動きのことです。
日本でも近年非常に強いですよね。問題は、間違いに気づき本人が謝ったとしても再び受け入れようとしないことも多々あるということです。つまり、分かりやすく言うと、のび太くんのこの精神でいれるかってことです。

Do you believe in me? Are you deceiving me?
俺を信じるのか?それとも俺を騙すのか?
Could I let you down easily, is your heart where it need to be?
俺はお前を簡単に失望させるような奴か?お前の心は正しい所にあるか?
Is your smile on permanent? Is your vow on lifetime?
お前の笑顔は永遠化?生涯をかけて誓えるか?
Would you know where the sermon is if I died in this next line?
もし俺が次のラインで死んでしまっても俺の教えがどこにあるのか理解できるか?
If I'm tried in a court of law, if the industry cut me off
もし俺が法廷で疲れ果てて、音楽業界が搾取をしようとしてきたら
If the government want me dead, plant cocaine in my car
俺の車からコカインが出てきて政府が俺を殺そうとしたら
Would you judge me a drug-head or see me as K. Lamar?
俺をただの薬中と見るか、それともケンドリック・ラマーとしてみるか?
Or question my character and degrade me on every blog?
それとも俺の人格に疑問を呈していろんなブログで悪口を書くか?

ケンドリックほどの有名人で、しかも黒人となれば、濡れ衣を着させられる可能性もかなり高まります。
そういったことがあっても自分がラップで吐いた言葉を信じて自分の側にいてくれるかどうかを問いかけているわけです。

そしてケンドリックは、様々な人を引き合いに出してその問いを深めていきます。
まずは引き続きネルソン・マンデラです。

Do you believe in me? How much you believe in her?
お前は俺を信じるか?俺の婚約者を信じるか?
You think she gon' stick around if them 25 years occur?
彼女が25年待てると信じるか?
※ネルソン・マンデラの妻が彼の出所を27年間待ったように、ケンドリックは婚約者が彼の帰りを25年(殺人の最低刑期)待つだろうか、という意味

You wanna love like Nelson, you wanna be like Nelson
ケンドリック、お前はネルソンのように愛される存在になりたいんだろ
You wanna walk in his shoes, but your peacemaking seldom
彼と同じようにやりたいんだろうがお前の仲裁は殆ど成功しないじゃないか
You wanna be remembered that delivered the message
That considered the blessing of everyone
お前は人々に幸せを与えるメッセージを伝えたものとして人々の記憶に刻まれたいんじゃないのか

そして様々な人物を挙げ、リーダーが欲しいと言いつつも見殺しにしてきたじゃないかと吐き捨てます。

How many leaders you said you needed then left 'em for dead?
お前らはどれだけのリーダーを必要だと言っておきながら見殺しにしてきたんだ?
Is it Moses? Is it Huey Newton or Detroit Red?
モーセ、ヒューイ・P・ニュートン、マルコム・X
Is it Martin Luther? JFK? Shooter—you assassin
キング牧師、ケネディ、お前が撃ったんだろうが…
Is it Jackie? Is it Jesse? Oh, I know it's Michael Jackson—oh
ジャッキー・ロビンソン、ジェシー・ロビンソン、ああそうか、マイケル・ジャクソンだろ

ここで上がっている面々は、リーダーとして非常に高い影響力を持ち、かつ新しいメッセージを伝える変革者として声を上げてきた一方で、全員が裏切られてきたという歴史があります。

  • Mose (モーセ):ユダヤ人をエジプトの圧政から自由へと導いたが、神から十戒を授かる一方で、助けたはずの民は偽りの神を崇拝した

  • Huey Newton (ヒューイ・P・ニュートン):黒人解放団体のブラックパンサー党の設立者の一人。ギャングであるブラック・ゲリラ・ファミリーによって暗殺された

  • Detroit Red (マルコム・X):公民権運動のリーダーの一人。かつて率いていた「ネーション・オブ・イスラム」のメンバーによって暗殺された

  • Martin Luther (キング牧師):公民権運動のリーダーの一人。白人至上主義者のジェームズ・アール・レイよって暗殺された。

  • JFK (ジョン・F・ケネディ):アメリカ元大統領。キューバ危機の鎮静や人種差別撤廃の取り組みの萌芽を生んだが、遊説パレード中に暗殺された

  • Jackie (ジャッキー・ロビンソン):メジャーリーグでプレーした最初の黒人で、彼の背番号42は全球団で永久欠番。

  • Jesse (ジェシー・ジャクソン):公民権運動家。90年代、何度も民主党の大統領候補になるも、ついぞ叶わず、黒人大統領はオバマまで誕生を待つことになる。

  • Michael Jackson (マイケル・ジャクソン):ご存知キング・オブ・ポップ。幼児虐待や整形依存の疑惑を貼られる(冤罪が確定)。主治医の過失致死により死亡。

最後に取り上げられたマイケル・ジャクソンといえば、人類史上最もキャンセル・カルチャーの被害に遭った人物と言って過言でないのではないでしょうか。

80年代、Thrillerを始めとして巨大な成功を収め、実質的に黒人初のポップスターになったと言って過言ではないキング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソン。
それまでは黒人の音楽は黒人が、白人の音楽は白人が聴くものとしてはっきりと分かれていましたが、マイケル・ジャクソンは全ての人類に黒人の音楽を届けました

しかし2000年代初頭、マイケル・ジャクソンはあるスキャンダルに悩まされます。
それがギャヴィン・アルヴィーゾへの小児性的虐待疑惑で、なんと逮捕されてしまうのです。

実はマイケルは1993年にも、ジョーダン・チャンドラーという子供を性的虐待したとして訴訟を起こされます。
実はジョーダンは父親に虐待されており、彼の借金を清算するため証言を強要されていたのですが(マイケルの死後に判明)、裁判が長引くことの懸念、およびマイケルの精神不安を理由に、音楽活動への多大な影響を懸念してマイケル側は和解金を支払うことを選択したんですね。
つまり、無実だったのにも関わらず和解を結んでしまったことで、世間からはギャヴィン・アルヴィーゾへの性的虐待は確定的なものとして扱われてしまい、マイケル・ジャクソンについて語ること自体がタブーと言っていいほど社会から排除されてしまいます。

その後ギャヴィン・アルヴィーゾへの性的虐待も無罪だったことが確定するんですが、そこまでのマイケルの排除っぷりは尋常じゃありませんでした。
それを引き合いに出し、ケンドリックは再度、自分のことを信じ切れるのか問いかけます。

When shit hit the fan, is you still a fan?
クソなことがあっても、俺のファンで居続けることができるか?
That nigga gave us "Billie Jean," you say he touched those kids?
マイケルはBillie Jeanをもたらしてくれたけど、お前らはあいつがが子供に手を出したと思ってただろ?

Billie Jeanは言うまでもなくマイケル・ジャクソンの代表曲です。

こうして、今までキャンセル・カルチャーの被害者にあった人々を列挙しながら、ファンに忠誠心を問い続けることでこの曲は幕を閉じます。












ここで終わらないのがこのアルバムのすごい所。


いくつかの曲で、読詩があったのを覚えていますでしょうか。
I remember you was conflicted、から始まるあの詩です。

実は、曲を聞くごとに行が足されていっていました。
具体的には3曲目King Kunta5曲目These Walls7曲目Alright8曲目For Sale ? (Interlude)10曲目のHood Politicsです。

この記事でも、あえて今まではその詩を訳してきませんでした。
実はこの詩、この曲で完結するのです。

和訳付きで、全編ご覧ください。

"I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ
Sometimes I did the same
俺も時に同じことをしちまったんだ
Abusing my power, full of resentment
怒りにまみれて自分の力を間違った方向に使ってしまって
Resentment that turned into a deep depression
その怒りってのは深い憂鬱へと変わってったんだ
Found myself screaming in the hotel room
気づいたらホテルの一室で叫んでた
I didn't wanna self destruct
俺は自滅したい訳じゃなかったんだんだけど
The evils of Lucy was all around me
ルーシーという悪魔に取りつかれてしまっていた
So I went running for answers
だから答えを求めて走り出したんだ
Until I came home
"ホーム"に辿り着くまで
But that didn't stop survivor's guilt
だがサバイバーズ・ギルトは抑えられなかった
Going back and forth trying to convince myself the stripes I earned
俺が勝ち取った勲章だって自分を納得させるため四苦八苦したよ
Or maybe how A-1 my foundation was
それかもともと俺は優秀だったんだって
But while my loved ones was fighting the continuous war back in the city
だけど、俺の愛する仲間たちがコンプトンで終わることのない戦いを繰り広げていた間
I was entering a new one
俺は新しい戦いに身を投じていた
A war that was based on apartheid and discrimination
その戦いというのは、アパルトヘイトや人種差別に端を成すもの
Made me wanna go back to the city and tell the homies what I learned
地元に戻って、学んだことを仲間たちに伝えたくなった
The word was respect
その言葉とは、「リスペクト」だ
Just because you wore a different gang color than mine's
ただお前が俺と違うギャングの色を身に着けているからって
Doesn't mean I can't respect you as a black man
俺がお前らを同じ黒人としてリスペクトできない訳じゃない
Forgetting all the pain and hurt we caused each other in these streets
ストリートで繰り広げられた痛みや傷はお互い全て忘れよう
If I respect you, we unify and stop the enemy from killing us
俺がお前らをリスペクトすれば、俺たちは1つになって殺そうとしてくるような敵を止めることができる
But I don't know, I'm no mortal man
でもわからない、俺の音楽は不滅だから、死の運命にある男じゃない
Maybe I'm just another nigga”
たぶん俺は特別な使命を持つ男なんだ

この詩が都度都度読まれたのにはもちろん意味があります。
アルバムで語られるストーリーとリンクしているのです。

King Kuntaで語られたのは以下の部分。

I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ

King Kuntaは、「good kid, m.A.A.d city」で成功した彼がいかに間違った方向のラップ・キングへと成長したかの曲です。

続いてThese Walls。この曲では、曲の始まりと終わりで二回読まれますが、それぞれで読まれる部分が違います。

まずは冒頭。

"I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ
Sometimes I did the same
俺も時に同じことをしちまったんだ

These Wallsは、友人が殺された復讐のため、ラップ・スターであることを利用し、殺した男の妻を寝取る曲でした。
まさに自分の影響を濫用した例ですよね。

そして曲の終わりに詩は以下の部分まで読まれます。

"I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ
Sometimes I did the same
俺も時に同じことをしちまったんだ
Abusing my power, full of resentment
怒りにまみれて自分の力を間違った方向に使ってしまって
Resentment that turned into a deep depression
その怒りってのは深い憂鬱へと変わってったんだ
Found myself screaming in the hotel room
気づいたらホテルの一室で叫んでた

そして続く曲がuでした。
uはまさに、自分の権力を濫用したことでケンドリックが思い悩み、自殺を考えるほどの鬱病に陥る曲でした。
そしてuは叫び声から始まる曲でもあり、それはホテルの一室での叫びだったというわけですね。

そして次に読まれたのはAlrightの最後です。

"I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ
Sometimes I did the same
俺も時に同じことをしちまったんだ
Abusing my power, full of resentment
怒りにまみれて自分の力を間違った方向に使ってしまって
Resentment that turned into a deep depression
その怒りってのは深い憂鬱へと変わってったんだ
Found myself screaming in the hotel room
気づいたらホテルの一室で叫んでた
I didn't wanna self destruct
俺は自滅したい訳じゃなかったんだんだけど
The evils of Lucy was all around me
ルーシーという悪魔に取りつかれてしまっていた
So I went running for answers
だから答えを求めて走り出したんだ

Alrightの次の曲はFor Sale ? (Interlude)。どういう曲だったかというと、Alrightで出てきた、ケンドリックに取りつくルーシー(ルシファー)の誘惑がどういうもので、どういった人物なのかというのを描いた曲です。

そしてFor Sale? (Intelude)の終わりで詩は以下の部分まで続きます。

"I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ
Sometimes I did the same
俺も時に同じことをしちまったんだ
Abusing my power, full of resentment
怒りにまみれて自分の力を間違った方向に使ってしまって
Resentment that turned into a deep depression
その怒りってのは深い憂鬱へと変わってったんだ
Found myself screaming in the hotel room
気づいたらホテルの一室で叫んでた
I didn't wanna self destruct
俺は自滅したい訳じゃなかったんだんだけど
The evils of Lucy was all around me
ルーシーという悪魔に取りつかれてしまっていた
So I went running for answers
だから答えを求めて走り出したんだ
Until I came home
"ホーム"に辿り着くまで

次の曲はMomma。Mommaがどういう曲だったかというと、以下のラインとともにHomeに向かう曲でした。

Until I realized I didn’t know shit, the day I came home
クソみたいなことはまるで知らないってことに気づく時まで、それこそが俺が真の場所に帰り立つ時

Homeとは何か?それをより深く探るため、ルーシーを追い払い、黒人、真なるルーツであるアフリカに旅をしたんでしたね。
そこで得た決意は、貧困や暴力から逃げ、目をそらすのではなく、変化をもたらすための提唱者となることで、アフリカ系アメリカ人コミュニティに恩返しをし、成長を促し、美しい場所に変えることでした。

そして次に読まれたのはHood Politicsの終わりです。

"I remember you was conflicted, misusing your influence
自分の影響を濫用してしまったことに葛藤してたのを覚えているよ
Sometimes I did the same
俺も時に同じことをしちまったんだ
Abusing my power, full of resentment
怒りにまみれて自分の力を間違った方向に使ってしまって
Resentment that turned into a deep depression
その怒りってのは深い憂鬱へと変わってったんだ
Found myself screaming in the hotel room
気づいたらホテルの一室で叫んでた
I didn't wanna self destruct
俺は自滅したい訳じゃなかったんだんだけど
The evils of Lucy was all around me
ルーシーという悪魔に取りつかれてしまっていた
So I went running for answers
だから答えを求めて走り出したんだ
Until I came home
"ホーム"に辿り着くまで
But that didn't stop survivor's guilt
だがサバイバーズ・ギルトは抑えられなかった
Going back and forth trying to convince myself the stripes I earned
俺が勝ち取った勲章だって自分を納得させるため四苦八苦したよ
Or maybe how A-1 my foundation was
それかもともと俺は優秀だったんだって
But while my loved ones was fighting the continuous war back in the city
だけど、俺の愛する仲間たちがコンプトンで終わることのない戦いを繰り広げていた間
I was entering a new one
俺は新しい戦いに身を投じていた

サバイバーズ・ギルトというのは、戦争などに遭いながら奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して感じる罪悪感のことです。
ここでは当然、コンプトンでの抗争のことを指します。

Hood Politicsでは、地元のギャング間の争いをくだらないものだと言い、俺は優秀だから別の戦いに目を向けると宣言した曲でした。

Streets don’t fail me now, they tell me it’s a new gang in town
ストリートは嘘をつかない、コンプトンの新しいギャングだって教えてくれたよ
From Compton to Congress, set trippin’ all around
コンプトンから国会まで自分の縄張りを確認してるんだな
Ain’t nothin’ new, but a flu of new Demo-Crips and Re-Blood-licans
よくあることだな、裏金や縄張り争いしてんだろ
Red state versus a blue state, which one you governin’ ?
ブラッズかクリップスか。お前はどっちなんだ?

I been A-1 since day one, you niggas boo boo
そんなのくだらねえな、俺は一流さ
Your home boy, your block that you’re from, boo boo
お前の家にいる子供、お前の地元、ぜんぶくだらねえ

その戦いとは、11曲目から15曲目までで語られたものであり、ケンドリックが辿り着いた結論こそが、詩の残りの部分です。

A war that was based on apartheid and discrimination
その戦いというのは、アパルトヘイトや人種差別に端を成すもの
Made me wanna go back to the city and tell the homies what I learned
地元に戻って、学んだことを仲間たちに伝えたくなった
The word was respect
その言葉とは、「リスペクト」だ
Just because you wore a different gang color than mine's
ただお前が俺と違うギャングの色を身に着けているからって
Doesn't mean I can't respect you as a black man
俺がお前らを同じ黒人としてリスペクトできない訳じゃない
Forgetting all the pain and hurt we caused each other in these streets
ストリートで繰り広げられた痛みや傷はお互い全て忘れよう
If I respect you, we unify and stop the enemy from killing us
俺がお前らをリスペクトすれば、俺たちは1つになって殺そうとしてくるような敵を止めることができる
But I don't know, I'm no mortal man
でもわからない、俺の音楽は不滅だから、死の運命にある男じゃない
Maybe I'm just another nigga”
たぶん俺は特別な使命を持つ男なんだ

彼は地元に戻り、南アフリカの旅を経て学んだことを伝えると宣言するのです。
その学びは何なのか?それこそが「リスペクト」

リスペクトをもって、ギャングの対立を捨て去り、お互いの暴力や傷つけ合いを忘れ、一つになろう。それこそが、差別など真なる俺たちの敵である"新しい戦い"を止める方法だ


これこそが彼の主張であり、アルバムを通しての覚悟だったのです。










ここまでで既に鳥肌ものですが、この曲はここで終わりません


この詩は、独白ではないんです。この詩を読んだ相手が存在するのです。
それこそ、彼のあこがれであり、黒人のヒーローであり続ける伝説的ラッパー、2Pacです。

ケンドリックにとってなぜ2Pacがあこがれだったのか。
それは、子供の時に父親と2Pacの曲である「California Love」のMVの撮影を生で観たからです。

2Pacは、ケンドリックの出身地であるコンプトン出身のDr.Dreによってプロデュースされているラッパーです。(上のCalifornia LoveはDr.Dreも共演しています)
そのため、2Pacとケンドリックがアルバムでコラボしてもおかしくない…ことはないのです


なぜか。答えは非常にシンプルで、2Pacはとっくの昔に殺されているからです。



以下の記事で解説したように、90年代のヒップホップは東西抗争で揺れていました。


東西抗争は、東西の代表的なラッパーが暗殺されるという最悪の形で幕を閉じます。
東で殺されたのがNotorious B.I.G.、そして西で殺されたのが2Pacだったのです。

しかしこの曲では、ケンドリックが2Pacに向けて読詩した後、なんとケンドリックと2Pacがその詩について会話するのです。

詩を読んだ後、ケンドリックは2Pacに話しかけます。

Shit and that's all I wrote
これが俺の詩の全てさ
I was gonna call it "Another Nigga" but, it ain't really a poem
“Another Nigga”ってタイトルにしようと思ったけどそれじゃちゃんとした詩にならなくて、Mortal Manって名付けたんだ
I just felt like it's something you probably could relate to
2Pac、あなたならわかってくれる気がしたんだ
Other than that, now that I finally got a chance to holla at you
そして俺は遂にあなたと話す機会を得たもんだからさ
I always wanted to ask you about a certain situa-
ずっと聞きたかったことがあるんだよ
About a metaphor actually, uh, you spoke on the ground
ある比喩についてさ、地面について話してたことがあったよね
What you mean by that, what the ground represent?
あれはどういう意味だったんだろう?地面は何を象徴していたんだろう?

これに対し2Pacが返答し、二人の会話が始まります。
一気に全編見てみましょう。

[2Pac] The ground is gonna open up and swallow the evil.
2Pac:地面ってのは大きく口を開けて悪を飲み込むんだ
※箴言16章 32節に似たような記述がある
[Kendrick] Right.
ケンドリック:そうだね
[2Pac] That’s how I see it, my word is bond. I see__and the ground is the symbol for the poor people. The poor people is gonna open up this whole world and swallow up the rich people, 'cause the rich people gonna be so fat. They gonna be so appetising, you know what I’m saying, wealthy, appetising. 
2Pac:それが俺の見方だ。マジで。たぶんだけど…地面は庶民の象徴だと思うんだ。何も持たざる庶民がこの世界全体を開いて、金持ちを飲み込む。だって金持ちは太ってるから、美味しそうに見える。分かる?リッチで、魅力的だから。
[Kendrick] Right.
ケンドリック:確かにね
[2Pac] The poor gonna be so poor and hungry, you know what I’m saying, it’s gonna be like…… there might be some cannibalism out this mutha, they might eat the rich.
2Pac:庶民は貧しくて、お腹ペコペコだから、まるで…共食いみたいなもんだ、金持ちを食っちまうかもしれねえんだ
[Kendrick] Aight so let me ask you this then, do you see yourself as somebody that’s rich or somebody that made the best of their own opportunities?
ケンドリック:じゃあ、次の質問、自分をリッチだと思う?それともチャンスを最大限に生かした人間だと思ってる?
[2Pac] I see myself as a natural born hustler, A true hustler in every scene of the word. 
I took nothin’, I took the opportunities, I worked at the most menial and degrading job and built myself up so I could get it to where I owned it. I went from having somebody manage me to me hiring the person that works my management company. I changed everything I realized my destiny in a matter of five years. You know what I’m saying, I made myself a millionaire. I made millions for a lot of people now it’s time to make millions for myself, you know what I’m saying, I made millions for the record companies, I made millions for these movie companies, now I make millions for us.
2Pac:俺は生まれながらのハスラーだと思ってるよ、変な意味じゃなくてね(※ハスラーは勤勉家という意味だが、ドラッグの密売人というスラングでもある)。
俺は何も持ってなかった。チャンスを掴んで、最も低い仕事からスタートして、自分のものにするまで成り上がった。マネージャーに管理されてたのが、今は自分の資産管理会社で逆に人を雇っている。5年で運命を変えた。わかるだろ? 俺は億万長者になった。周りの人のために何百万ドルと稼いだが、今度は自分のために金を稼ぐ番だ。レコード会社のために何百万ドル、映画会社のために何百万ドル。今度は俺たちのために稼ぐ番だ
[Kendrick] And through your different avenues of success, how would you say you managed to keep a level of sanity?
さまざまな成功を経て、どうやって心の平穏を保ってきた?
[2Pac] By my faith in God, by my faith in the game and by my faith in “all good things come to those that stay true”. You know what I’m saying, I was noticing, shitI was punching the right buttons and it was happening. So it’s no problem, you know I mean it’s a problem but I’m not finna let them know. I’m finna go straight through. 
神への信仰、この世への信仰。そして「真実を追求する者には全ての良いことが来る」という言葉への信仰。分かる?正しいボタンを押して、それが実現することに気付いた。だから問題ない、問題があっても、それを周りに伝えて悲観的になるんじゃなくて、ひたすら前に進むつもりだ。
[Kendrick] Would you consider yourself a fighter at heart or somebody that only reacts when they back is against the wall?
心の中で自分を戦闘士だと思ってる?それとも背中を壁に押し付けられた時だけ反応するタイプ?
[2Pac] Shit, I like to think that at every opportunity I’ve ever been threatened with resistance, it’s been met with resistance. And not only me but it goes down my family tree, you know what I’m saying, it’s in my veins to fight back.
そうだな、俺は毎回抵抗されたら、それに抵抗したと思いたい。俺だけじゃなくて、家族の歴史までさ。抵抗するのは俺の血に刻まれてるんだ。
[Kendrick] Aight well, how long you think it take before niggas be like, we fighting a war, I’m fighting a war I can’t win and I wanna lay it all down.
ありがとう。どれくらいの時間が経てば、みんなが「俺たちは戦争を戦ってる、勝てない戦争を、それでも戦わなくてはいけない」と感じると思う?
[2Pac] In this country a black man only have like 5 years we can exhibit maximum stength, and that’s right now while you a teenager, while you still strong or while you still wanna lift weights, while you still wanna shoot back. 'Cause once you turn 30 it’s like they take the heart and soul out of a man, out of a black man in this country and you don’t wanna fight no more. And if you don’t believe me you can look around, you don’t see no loud mouth 30-year old muthafuckas.
この国では、黒人は最大の力を発揮できるのは5年だけだ。それは10代の時。 まだ強い時、まだ筋トレしたい時、まだ撃ち返したい時だ。
30歳になると、この国の黒人の心と魂を奪われて、もう戦いたくなくなる。信じられないなら、周りを見てみ。大口をたたく30歳のやつはいねぇだろ。
[Kendrick] That’s crazy, because me being one of your offspring of the legacy, you left behind, I can truly tell you that there’s nothing but turmoil goin’ on, so I wanted to ask you what you think is the future for me and my generation today?
それってどうかしてるな。俺はお前の残した遺産の一部として、今、何もかもが混乱してるって言えるよ。だから聞かせてほしいんだけど、俺の世代の未来はどうなると思う?
[2Pac] I think that niggas is tired of grabbin’ shit out the stores and next time. It’s a riot there’s gonna be, like, uh, bloodshed for real. I don’t think America know that. I think American think we was just playing and it’s gonna be some more playing but it ain’t gonna be no playing.
It’s gonna be murder, you know what I’m saying, it’s gonna be like Nat Turner, 1831, up in this muthafuckaYou know what I’m saying, it gonna happen. 
俺は、みんながもう店から物を盗むのに疲れて、次回の暴動では本当に流血が起こると思う。アメリカはそれを知らない。アメリカは、俺たちがただ遊んでるだけだと思ってるけど、遊びじゃない。殺し合いになる、分かる?Nat Turnerのように、1831年のように、この場所で起こる。
※Nat Turnerは奴隷反乱の指導者。かなり惨い方法で死刑となった。
[Kendrick] That’s crazy, man. In my opinion, only hope that we kinda have left is music and vibrations, lotta people don’t understand how important it is.
Sometimes I be like, get behind a mic and I don’t know what type of energy I’mma push out,or where it comes fromTrip me out sometimes.
それは狂ってるね。俺の意見では、最後の希望は音楽と共鳴だけだと思う。その重要性を理解していない人が多い。時々マイクの前に立つと、どんなエネルギーが出てくるのか、それがどこから来るのか分からない。どうしていいかわからなくなるんだ。
[2Pac] Because the spirits, we ain’t even really rappin’, we just letting our dead homies tell stories for us.
だってそれが魂ってもんだ。俺たちは本当にラップしてるわけじゃない。死んだ仲間たちに話をしてもらってるだけだ。
[Kendrick] Damn. I wanted to read one last thing to you. It’s actually something a good friend had wrote describing my world, it says:
ああ。最後に1つあなたに読み上げさせてほしいんだ。実は俺の親友がこの世界について表現したものなんだけど、読むね。
“The caterpillar is a prisoner to the streets that conceived. Its only job is to eat or consume everything around it, in order to protect itself from this mad city while consuming its environment the caterpillar begins to notice ways to survive. One thing it noticed is how much the world shuns him, but praises the butterfly. The butterfly represents talent, the thoughtfulness, and the beauty within the caterpillarbut having harsh outlook on life. The caterpillar sees the butterfly as weak and figure out a wayto pimp it to his own benefits.
Already surrounded by this mad city the caterpillar goes to work on the cocoon which institutionalizes him. He can no longer see past his own thoughts. He’s trapped when trapped inside these walls certain ideas take roots, such as going home,and bringing back new concepts to this mad city.
The result? Wings begin to emerge, breaking the cycle of feeling stagnant. Finally free, the butterfly sheds light on situations that the caterpillar never considered, ending the internal struggle. Although the butterfly and caterpillar are completely different, they are one and the same”
「芋虫は、それを生んだ街の囚人だ。その唯一の仕事は、周りのものを食べること、そしてこの狂った街から自分を守るためにすべてを消費することだ。芋虫が生き残る方法を見つける中で、世界がどれだけ彼を嫌っているか、でも蝶を賞賛しているかに気付く。蝶は才能、思いやり、芋虫の内なる美しさを象徴している。でも、その一生は厳しい。芋虫は蝶が弱いと見て、それを利用する方法を見つける。すでにこの狂った街に囲まれて、毛虫は繭を纏って仕事を始める。その繭は己を縛り付け、制度化してしまう。もはや芋虫にはかつての自身の思想を知ることができない。彼は閉じ込められている。この壁の中に閉じ込められて、いくつかのアイディアが根付くようになる。家に帰るとか、この狂った街に新しいコンセプトを持ち込むとか。
その結果は?芋虫には翅が生え、停滞していた負の感情の連鎖を破壊した。ついに自由になり、蝶は芋虫だった時に考えたことがない状況に光を当てる。内輪の争いに終止符を打つ。蝶とはまったく違うが、彼らは一つであり続ける。」
[Kendrick] What’s your perspective on that? ……Pac? Pac?
Pac !?
……これについてどう思う?パック? パック?
……パック!?

このアルバムで様々なことを見てきましたが、ケンドリックはいろんなことを考える中で、折角の2Pacとの会話で様々な疑問をぶつけます。
何がすごいって、この会話はとても自然ですよね。ケンドリックがぶつける疑問も、それに対する2Pacの答えも
2Pacはとっくに死んでいるので、彼のセリフはインタビュー音源などから拝借しているそうですが、裏を返せばケンドリックが抱える苦悩、特にラッパーとしての矜持社会問題も、それに対する答えも、2Pacが生きていたころから変わらないということです。

2Pacの代表曲にChangesというものがあります。

そこで彼は以下のラインを残しています。

And still I see no changes, can’t a brother get a little peace?
いまだ何も変わらない。俺たちにささやかな平和は訪れないのか?

この時点で何も変わらないと嘆かれていたんですが、死後20年たってもまだ何も変わっていなかったのです。

ストーリーを踏まえてこの会話を見ると本当に示唆に富むものですが、一つ言及しておきたいのが以下の部分。

[2Pac] I think that niggas is tired of grabbin’ shit out the stores and next time. It’s a riot there’s gonna be, like, uh, bloodshed for real. I don’t think America know that. I think American think we was just playing and it’s gonna be some more playing but it ain’t gonna be no playing.
It’s gonna be murder, you know what I’m saying, it’s gonna be like Nat Turner, 1831, up in this muthafuckaYou know what I’m saying, it gonna happen. 
俺は、みんながもう店から物を盗むのに疲れて、次回の暴動では本当に流血が起こると思う。アメリカはそれを知らない。アメリカは、俺たちがただ遊んでるだけだと思ってるけど、遊びじゃない。殺し合いになる、分かる?Nat Turnerのように、1831年のように、この場所で起こる。

実際、このアルバム発表の5年後、コロナ禍でより大規模なBLM運動が起き、多数の暴動・流血が起こりました。
2Pacのこの返答は、実に予言的だったのです。

2020年、George Floydを逮捕したことでミネアポリス市警察の庁舎は燃やされた

最後、ケンドリックは友人が書いたという文章を読み上げます。

caterpillar、芋虫は、マッドシティ・コンプトンに住む人間であり、周囲のすべてを食べることで自分を守っている。もちろんこれは、コンプトンに住む黒人の事です。
そして芋虫は、自分を軽蔑する世界と、蝶を賞賛する世界の違いに気づきます。
蝶が何か?というのは、才能思いやり芋虫の内なる美しさであると。


さて、1曲目のWesley’s Theoryの歌い出しを覚えているでしょうか。
そう、最初ケンドリックをサナギから羽化する蝶と見立ててアルバムが開幕していましたね。

When the four corners of this cocoon collide
この繭の四隅がぶつかるとき
You’ll slip through the cracks hopin’ that you’ll survive
お前は何が何でも生き延びてやるって希望を胸に這い出てくるだろう
Gather your weight, take a deep look inside
知恵をかき集め、深く内部を覗き込むんだ
Are you really who they idolized ?
本当に君は彼らが偶像化するほど優れた人間なのか?
To Pimp A Butterfly
“To Pimp A Butterfly”


友人の手記に戻ると、芋虫は負のスパイラルに打ち克ち、最後には見事に蝶として羽ばたき、芋虫のままではなし得ないことを達成する。
そして、蝶と芋虫は異なる存在だが、本質的には同じものである、と。

つまり、コンプトンを始めとした貧困街に住む全ての黒人は、ケンドリック・ラマーと同じ存在なんだと。
ここでのケンドリック・ラマーは、アルバムを通して才能思いやり芋虫の内なる美しさに気づいているわけです。
ここで、全ての黒人、N-E-G-U-Sに対して、負のスパイラルを止め、より高次の存在に進み、自分の美しさを表現せよと伝えているわけです。



最後に

いかがでしたでしょうか。

To Pimp A Butterflyのテーマは本当に多岐にわたりました。
人種差別、アメリカ、業界構造、搾取、自己矛盾、警察の腐敗、慈悲、自己愛…
このアルバムのメインのターゲットである黒人はもちろん、多くの人々に勇気を与える作品だと思います。もちろん私も、勇気を与えられた一人です。

実はこのアルバムの元々のタイトルは、To Pimp A Caterpillarでした。
これの頭文字を取ると、To-P-A-Cになります。最後に2Pacとの会話で締めくくられるので、ふさわしいタイトルにも思えます。

しかし、あえてButterflyに変えられたのは絶対に意味があるんです。
アルバムの最後のメッセージをもう一回かみしめると、我々はたとえ今Caterpillar、芋虫だとしても、目指すべきは絶対に、才能、思いやり、芋虫の内なる美しさを持つ蝶なのです。

そして、洋楽好きな人の中にも、To Pimp A Butterflyが傑作だというのは聴いたことがあっても、なぜ傑作なのかというところまでは詳しくご存じなかった方もいらっしゃると思います。
なぜなら、音楽性はともかく、詳細な日本語解説がないから。

前作のgood kid, m.A.A.d cityの記事を書いた際、詳細な日本語解説がなかった中で妥協なく書いたことで様々なポジティブな反応を頂き、2ndアルバムである今作もいつかは解説記事を書こうと思っていたんですが、とんでもない量になってしまった…
しかしそれくらいこのアルバムは複雑であり、美しくあり、人類史に残る大大大傑作だと思います。

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反応次第で残りの作品の解説記事も書きたいと思っていますので、お願いいたします!

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