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エネルギー系の生理学~基本的知識、筋力トレーニングとの関係~



はじめに



この文書が対象とする者は、筋肥大を目的とした筋力トレーニー初心者である。この文書の目的は、筋力トレーニング初心者への基本的かつ適切な知識の付与である。


ヒトは生まれてから死ぬまで、常に運動し続けている。ヒトが運動するためにはエネルギーを消費する必要があり、ヒトがエネルギーを産出する方法には大きく分けて3種類ある。


今回の記事ではエネルギー系の生理学と筋力トレーニングとの関係について記述する。最初にヒトのエネルギー源を創るために必要な栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂質の概要を説明し、ヒトの力発揮のメカニズムについて簡単に説明する。次に、3種類のエネルギー産出方法とエネルギーが生成される過程について詳述する。最後に、ヒトのエネルギー産出方法、過程について理解したうえで、エネルギー産出方法と筋力トレーニングの関係、筋力トレーニングへの応用について述べる。


エネルギー代謝に必要なマクロ栄養素


炭水化物


炭水化物は糖質、食物繊維、でんぷんから構成される物質である。炭水化物は主に身体のエネルギー源となる。どのような炭水化物であっても、最終的には、糖質として最も単純な形であるグルコースに分解される。このことから、炭水化物に「質」の違いはないといえる。例えばハンバーガーに含まれる炭水化物と、バナナ、あんこ等に含まれる炭水化物は、グルコースに分解される速度に違いはあるが、最終的にグルコースに分解される点で違いはない。グルコースは、ヒトの細胞の主たるエネルギー源である。


ヒトは安静時には、消費するエネルギーが少ないため、消化された炭水化物は、筋肉と肝臓で、複数の糖(グルコース)が結合した形であるグリコーゲンとして貯蔵される。グリコーゲンは、筋肉内の細胞がそれをATPに変換するまで貯蔵される。


肝臓と筋肉はグリコーゲンを貯蔵することはできるが、貯蔵量には限界があり、長時間の高強度の運動で消費された際や、食事で十分量炭水化物を摂取できていなかった際には、枯渇する。


さらに、炭水化物は筋肉の主たるエネルギー源であるだけでなく、脳が使用できる主要なエネルギー源でもある。そのため、炭水化物が過度に枯渇すると、一時的に認知機能が低下する可能性が高い。


脂質


脂質は、強度の強くない、継続的な運動の際の主たるエネルギー源となる。脂質の、身体に貯蔵できる量は、炭水化物のそれと比較して圧倒的に多い。


出典:Physiology of Sport and Exercise 5th edition p52


上は、体脂肪率12%、体重65㎏の人間を対象に、体内の炭水化物と脂肪の貯蔵量を比較して得られた数値である。炭水化物は主に肝臓と筋肉に、特に筋肉に貯蔵されること、脂肪は主に皮下と内臓に貯蔵されることが分かる。また身体に貯蔵される量も、脂肪の方が圧倒的に多いことが分かる。


脂質は、細胞の代謝に利用されにくい。というのも、脂質の構造は炭水化物と比較して複雑であり、エネルギー源として利用される形に分解するまでに炭水化物よりも多くの時間を有するからだ。脂質は細胞の代謝のためにトリグリセリドから、グリセロールと遊離脂肪酸(Fat-Free-Acids, FFAs)という要素に分解される必要がある。ATPの生成には遊離脂肪酸のみが使用される。


タンパク質


身体を一つの家としてとらえると、炭水化物と脂質は、家をつくる大工さんと考えることができる。タンパク質は、家を構成する木、金具、瓦などと考えられる。つまりタンパク質は身体の臓器、筋肉、爪等すべてを構成する材料である。


炭水化物と脂質は、身体の主たるエネルギー源であるが、タンパク質も少しばかりエネルギー源として利用される場合がある。タンパク質がエネルギーとして利用されるためにはタンパク質を分解した形であるアミノ酸がグルコースに変換される必要がある。タンパク質は窒素により構成されるものであるが、グルコースは炭素によって構成されるものであるため、タンパク質をグルコースに変換するためには、糖新生という過程を通じてグルコースに変換される必要がある。しかしこの過程は複雑でエネルギー供給として他のエネルギー供給と比較して効率が悪い。そもそも身体の構成する目的を持つタンパク質をエネルギー源として利用するため、タンパク質は、エネルギーが深刻に枯渇している状況においてのみ、エネルギー源として使用される。


以上のことから、エネルギー供給を目的としてわざわざ糖新生を発生させる意義は見いだせない。タンパク質は身体を構築する材料として摂取し、炭水化物と脂質をエネルギー源として摂取することが望ましい。


エネルギーの貯蔵~ATP~

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