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ジャーマンボリュームトレーニング(GVT)とは~セット数の科学からGVTの効果を考察する~

ジャーマンボリュームトレーニング(以下GVT)は、1970年代にかけて、ドイツのパワーリフターの間で開発されたトレーニング法である。GVTは「10セット法」とも呼ばれ、名前の通り、1セット10回のトレーニングを10セット行う方法である。今回の記事ではGVTトレーニングの概要を説明する。次に筋力トレーニングのセット数についての研究を紹介し、研究を基にGVTを考察する。


GVTの目的、やり方

GVTは、「60%1RM程度の重量で、1セット10回のトレーニングを60秒程度のインターバルで10セット行う」トレーニングである。

GVTはパワーリフターが筋肉量を増やすことを目的に採用されていたトレーニングであり、GVTは筋肥大に有効であるといわれる。[i]60%1RM以下の低重量トレーニングと60%1RM以上の高重量トレーニングの間で、筋肥大の有意差はなかったが、筋力は後者で顕著に向上した研究がある。[ii]このような研究は複数確認されており、GVTは筋力向上には適しておらず筋肥大には有効であるという主張の信憑性は高い。


GVTの科学~適切なセット数とは~

GVTにてなぜトレーニングを10セット行うかに対しての科学的な理由はない。[iii]GVTのセット数について調査を行った研究がある。この研究では、同一のトレーニングを5セット行う群と10セット行う群で筋肥大と筋力を比較した。結果として、筋肥大と筋力に有意差は生じなかった。この研究では、1回のトレーニングにおける特定の部位の刺激は4~6セット程度であり、それ以上のセット数をこなしても筋肥大効率はプラトーを迎えると結論付けられている。この研究に関して、トレーニング期間が6週間で、被験者のトレーニング歴が明記されていなかった点は注意する点だろう。しかしこの研究から考えるとGVTは筋肥大には有効ではないとも考えられる。

5セット群と10セット群で除脂肪体重の変化に有意差がないことが分かる。

[iv]1セットと3セット、5セットでの筋肥大の違いについて調査したRCTによると、5セット群が1セット群、3セット群よりも筋肥大したと報告されている。ただしこの研究の被験者18人は筋力トレーニング未経験者であったことは注意するべきだ。

[v]大腿四頭筋において、トレーニング経験者では10セットのトレーニングが他のセット数(3~9セット)と比較して最も筋肥大効果が高かった結果がある。[vi]また、トレーニング未経験者にとっては1回3セットのトレーニングで十分な筋肥大が見込めるが、トレーニング上級者では8~12程度のセット数が効果的と示唆されている。

GVTは1回のトレーニングで10レップ10セット行うため、圧倒的トレーニングボリューム、TUTを確保することができる。トレーニング上級者になるほど1回のトレーニング当たりで筋合成が促されるために必要なトレーニングボリュームが多くなる。GVTに筋肥大の有意差がなかったとする研究の被験者のトレーニング歴が明確でないこと、パワーリフターやボディビルダーの上級者であってもGVTを通じて筋肉量が増加しているという事実が報告されていることから、GVTは特にトレーニング中級者から上級者にとって筋肥大という面で十分効果的である可能性は高い。トレーニング歴3年以上の被験者や、パワーリフティング競技者等を対象にしたGVTに関する追加のRCTが行われることが期待される。


GVTトレーニング例

[vii]こちらのサイトで、GVTの具体例が挙げられている。全体的な特徴として、GVTの際対象筋を鍛える頻度は中5日以上が望ましいとされている。このトレーニングは圧倒的なトレーニングボリュームを確保するため、筋肉痛や疲労度が高く中3日程度で周回することは困難だ。またGVTは基本的には複合関節種目で行うことが望ましい。具体的には、脚ではスクワットやレッグプレス等プレス種目、胸と肩もベンチプレスやショルダープレス等プレス種目、背中はローイング種目かプル種目が採用される。

※以下はGVTを行った個人的感想

私は脚のトレーニングでGVTを採用したことがある。脚のGVTを行って、スクワットやハックスクワットなどの、活動する筋肉が心臓より下に位置する運動は筋肥大を目的とするGVTには向いていないと感じた。なぜなら、心臓が血流を循環させる負担が大きくなり、骨格筋が疲労する前に心肺機能の疲労が蓄積してしまい、対象筋を追い込むことが困難になるからだ。心肺機能を向上することは大切だが、主たる目的は対象筋の疲労なので、筋肥大を目的とするGVTでは活動する筋肉が心臓より下に位置しないレッグプレスの方が適していると感じた。スクワットは5~6RM程度の高重量、レッグプレスは8~15回程度の中回数が適しているように思える。


まとめ

GVTは1970年代のパワーリフターが筋肥大を目的に開発したトレーニングである。5セット群と10セット群で筋肥大効果に有意差がなかったという研究が報告されているが、この研究はトレーニング被験者の性質が明確でないため、この研究だけを理由にGVTは効果がないと結論付けるのは尚早だ。トレーニング上級者になるほど1回のトレーニングで筋合成を促すのに必要なセット数が増えること、GVTは圧倒的トレーニングボリュームを確保できることから、GVTはトレーニング中級者から上級者に適したトレーニングであると示唆される。

トレーニングに停滞やマンネリ化を感じている際には、往年のパワーリフターが愛した古き良きトレーニングを採用してみてはどうだろうか。きっと新鮮な刺激を得られるはずだ。


参考資料

[i] https://tinyurl.com/2eqdffed

[ii] https://tinyurl.com/2kg97bd2

[iii] https://tinyurl.com/2jta6fq5

[iv] https://tinyurl.com/ycprmf9x

[v] https://tinyurl.com/2k53b7am

[vi] https://tinyurl.com/2z2s49hw

[vii] https://tinyurl.com/2g5xrmv9



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